home

ミステリの祭典

login
倒錯の舞踏
マット・スカダー

作家 ローレンス・ブロック
出版日1992年10月
平均点8.00点
書評数6人

No.6 6点 take5
(2018/06/08 20:16登録)
ぐいぐい読ませます。
登場人物の描写は分かりやすいですし、展開も早いです。
猟奇的な事件も、悪趣味に走らないので、社会の歪みとして真っ当に捉えられますし、
主人公のアルコール依存から脱却しようとする姿も話と平行して納得の描写です。
人物がかけている分、ラストのアクションが少し乱暴な展開かと…そこだけが惜しいかなあ。
しかし、読破後に「自分の人生恵まれているなあ」とか考えラれる位にはよい作品でした。

No.5 6点 蟷螂の斧
(2015/01/28 11:24登録)
苦手ですが、高評価のハードボイルドに挑戦(笑)。ハードボイルドについて調べてみると「ハードボイルド・ミステリの底流には、英国が生んだパズラー的なミステリへの反発があった。ホームズに代表される超人的な探偵や複雑で現実離れしたトリックは、特権階級的であるとしてアメリカ人の心性に馴染まなかった」とあります。なるほどとうなずいてしまいました。苦手な原因はやはり、パズルやトリックが好きということですね。ハードボイルド系にはそれが薄いということで、心情的には英国派となりますか・・・。解説に「社会が定める法という秩序では正せない犯罪を手掛ける」(日本の必殺シリーズと同じ?(笑))とありますが、警察小説や法廷ミステリーでそこを崩していく作品の方が興味を感じます。本評価については、サイコパスの登場は好みで良かったのですが、犯人特定にかかる過程(○○○の○○)がちょっと拍子抜けの感じを受けましたのでこの評価です。

No.4 10点 Tetchy
(2015/01/16 23:07登録)
『倒錯三部作』の第2作。前作ではマットとエレインがかつて刑務所に送り込んでいた殺人鬼との決闘を描いたが、本書ではスナッフ・フィルム、即ち殺人の一部始終を映したポルノフィルムが扱われている。その内容も過激で思わず怖気を震ってしまった。

とにかくこのスナッフ・フィルムの犯人バーゲン・ステットナーとその妻オルガの造形が凄まじい。世の中にこれほどまで人格が捻曲がった夫婦がいるのかと思えるほど、理解し難い人物だ。
こんな世界をブロックはマット・スカダーの叙情的で淡々とした筆致で描いてなお、読者の心の奥底に冷たい恐怖を植え付けていくのだから畏れ入る。

ここで今までのシリーズを振り返ってみると、『聖なる酒場の挽歌』までのマットは依頼者の災いの種を頼まれるがままに探り、問題を解決してきた。時には己の正義に従って鉄槌を下すこともあったが、それはあくまで彼が関わってきた他者のためだ。またそれらは依頼者の過去に向き合い、忘れ去られようとしている事実を掘り起こして白日の下に曝す行為であった。それはまた物語に謎解きの妙味を与え、意外な犯人、意外な真相と云ったミステリ趣向も加味されていた。
そして前作『墓場への切符』では一転して彼の過去の亡霊が現代に甦って自身とエレインに立ち塞がり、それを打破するために立ち向かう物語だった。つまり彼自身の事件であり、彼を取り巻く世界に現れた脅威との戦いの物語だった。従ってそれまでとは違い、敵は明確であり、物語はどのようにマットが決着を着けるのかが焦点となった。
そして本書はそれまでのシリーズの持ち味を合わせた内容となっている。過去に見たスナッフ・フィルムが今マットが依頼された事件と交錯し、意外な像を描く。そして彼の眼の前に明確な敵が現れ、マットはそれと対峙していく。
しかしこの敵はマット個人とはなんら関係がない。むしろ関わりを持たずに暮らすことも全く可能だった。しかしマットはたまたまAAの集会のメンバーから渡されたビデオテープで見てはならない社会の醜悪な病理を知ってしまい、その根源と出遭ってしまったことで、無視できなくなってしまった。そう、本書でマットが向き合った相手は複雑化する社会が生み出したサイコパスだった。

自分の正義に従ってきたマットが本書で行き着いたのは社会で裁かれない悪を悪で以て征することだった。そしてマットは決して傍観者に留まらず、自らもその渦中に飛び込み、そして自身も手を血に染める。

このようにマット・スカダーシリーズは作を追うごとに新たなる試みと進化と深化を遂げていく。『八百万の死にざま』でアル中探偵マットが酒を止めるという大きな変化に到達し、その後マットの古き良き時代の物語『聖なる酒場の挽歌』を経て、シリアル・キラーとの対決と云う新たなる進化を遂げた『墓場への切符』をさらに本書で越えてみせたブロック。1作ごとに新たなる高みに向かうこのシリーズが次にどこに向かうのか、その答えが本書の最後の1行にある。これこそ作者自身にも解らないほどの物語を紡いでしまった感慨の表れだろう。しかし幸いなことに我々はこの後もなおシリーズが進化していくのを知っている。

No.3 8点 あびびび
(2014/10/30 18:38登録)
元警官、マット・スカダーは魅力的な探偵だった。大都会ニューヨークの陰に潜み、社会では処理できない邪悪に敢然と立ち向かっていく。自らギャングとの付き合いがあり、清廉潔白な身とは言えないが、快楽殺人は絶対許さない!そんな強い思いが最終章の爽快アクションにつながって行く。

久々にスカッとした結末だった。

No.2 9点 E-BANKER
(2014/02/02 16:18登録)
1991年発表。原題“A Dance at the Slaughterhouse”。
マット・スカダーシリーズの最高傑作のひとつに挙げられることも多い作品。
本書のほか、「墓場への切符」「獣たちの墓」と合わせて『倒錯三部作』とも呼ばれる・・・

~スカダーの知人がレンタルしたビデオには、意外にも現実の猟奇殺人の一部始終が収録されていた。だが、その残虐な映像からは、犯人の正体はもとより、被害者の身元も判明しなかった。それからしばらくして、スカダーは偶然その犯人らしき男を目撃するが・・・。現代のニューヨークを鮮烈に描くハードボイルド大作。MWA最優秀長編受賞作~

これはスゴイ。読み終わってしばらく放心するほどの衝撃だった。
実はマット・スカダーシリーズは本作が初読み。
本作以外にも「八百万の死にざま」やもちろんシリーズ一作目など、「初読み」として適当な作品はあったのだが、なぜか本作を選択してしまった。
でもまぁ、それはそれで良かった。いきなりこんな強烈な作品に出会えたのだから・・・

作品としての出来については、スキのない実によく練られた作品ということに尽きる。
導入部分から謎の人物を複数登場させ、時間軸を微妙にイジリながら、読者を引きつけていく。
妻のレイプ&殺人事件とビデオに収録された猟奇殺人という二つの謎が、スカダーの執拗な捜査の前で遂にクロスする瞬間・・・
ある男の告白シーンに戦慄が走る!
とにかく、こんな強烈な真犯人キャラクターは久しぶりだ。
(男の方ももちろん怖いが、女の方がもっと怖い!)
最終章、スカダーと真犯人との対決シーンには手に汗握ること請け合い。

ということで、なんだか興奮したまま書評している次第です。
スカダーの協力者など、魅力的な人物も数多く登場し、スカダーとの軽妙かつ含蓄のある会話も十分に楽しめる。
評価としてはこのくらい当然でしょう。
(さて、つぎはどのシリーズ作品を読むべきか・・・迷うなあ)

No.1 9点 kanamori
(2010/04/13 22:07登録)
無免許の私立探偵・マット・スカダー、<倒錯3部作>の第2作。
スカダーの長いシリーズは3つのステージに分けられると思います。
第1ステージは、アルコール依存症に苦しむ内省的ハードボイルド編で、代表作は「八百万の死にざま」。
第2ステージが、倒錯3部作を含む暴力的ハードボイルド編で、多くは狂人的殺人者と対峙する。
現在は最終ステージで、「おいぼれ熊さん」と揶揄されるように枯れてしまったスカダー(いつまで読めるか心配)。
この作品は第2ステージの代表作のひとつで、前作を超える異常な敵がお目見えする。サイコ・サスペンス小説が溢れていた時代に触発されたごとくで、究極のエンタテイメントに仕上がっていると思います。

6レコード表示中です 書評