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ミステリの祭典

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樹のごときもの歩く
高木彬光の補作・別題『復員殺人事件』/巨勢博士

作家 坂口安吾
出版日1958年01月
平均点6.40点
書評数5人

No.5 8点 斎藤警部
(2024/09/09 23:41登録)
「普通の事件なら、一人殺されるたびに、容疑者が、だんだん減って行くところだけれど、この事件では、人一人殺されるごとに、容疑者が、だんだん増えて行くじゃないか」

重度の障碍を負って還って来た復員兵は、彼の出征直前に謎の親子死亡案件が起きている「資本家一家」の一人と目された。 そこから始まる、事の順番からして意外性に満ちた連続殺人&殺人未遂事件の顛末。 坂口安吾の連載小説は雑誌の廃刊により中絶され、残りの1/3は数年後、高木彬光の手に委ねられた。 事前に引継ぎ連絡のようなものは無く、安吾未亡人より間接的に安吾の結末構想を聞くのみだった彬光は、その構想からは外れた展開で本作を締めたと言われる。

「探偵小説というものは、こういうカンジンな損得の勘定を忘れているから現実的に又特に心理的にゼロなんです」

下世話なユーモアと分厚いアイロニーが跋扈する中、本一冊書けそうな鬼ロジックがシラッと提示されたのには参った。 しかしどこかしら気安い論理遊びのような気配もあり、いい意味で?探偵小説に対してほんの少し上から目線なおふざけのようでもある。 そこだけでなく、全体を覆う、心理のロジックと、牙をむく驚きのメタ逆説。 安吾本人はどんな結末に持って行くつもりだったのが、真剣に気になりもする。 にしても先生の著書「姦通論」には笑ったな。

「アッハッハ、フグの日は、マコで一パイやるのがタノシミでね。存分に珍味をくらい、存分のみ、適度にしびれて、たちまち、ねむる」

しかしながら、やはりこの後半2/3でバトンタッチの妙! 彬光っつぁんの頑張り意気込みが匂います。 文体とかほんとうに良く寄せている。 ある人物が急遽パンチャー本能?増し増しで浮き足だった感もあるが、その微妙な感覚さえミステリ興味を加速。 言ったらタラちゃんの声優さんが変わった程度のわずかな違和感はありましたが、波平さんの時ほどではなかった。 カタカナヅカイと「私」の存在感が微増したおかげでチョイとキンタマが痒くなりはしたカナ。 彬光っつぁん特権による後付け要素には、苦笑もさせられたが、唸らせる所もあったネ。 遅いタイミングでの意外な展開もあった。 シビレたね。

“それからは雑談の花がさいて、我々は時を忘れた。”

締めの三行台詞は熱い。 まるでこれから話が動き出すようじゃないか。

さて最後に、とりあえず「カブト虫」「グリーン家」「不連続」この三つの殺人事件は、先に読んでおきましょうや。 中でも最も致命的なネタバレを喰らう(実は実に意味のあるネタバレなんだが)S.S. ヴァン・ダイン「カブト虫殺人事件」がね、本作を読む人がその時点で未読の可能性がいちばん高いですからね。

No.4 6点 nukkam
(2023/01/19 23:25登録)
(ネタバレなしです) 「不連続殺人事件」(1948年)に続く巨勢博士シリーズ第2作として着手され、1949年から1950年にかけて雑誌連載されながら雑誌社の倒産で19章までで中断され、未完のままで坂口安吾(1906-1955)が死去してしまいましたが、高木彬光(1920-1995)によって1958年に完成されたという数奇な運命を辿った本格派推理小説です。坂口による全19章が2/3、高木補筆部分が1/3の分量です。初出版では作者名は坂口と高木の連名で、タイトルは「樹のごときもの歩く」が採用されましたがその後は坂口の単独名義、タイトルも雑誌連載時の「復員殺人事件」で再販されることもあったようです。坂口編ではヴァン・ダインの「カブト虫殺人事件」(1930年)の犯人やトリックが堂々とネタバレされてしまってますが高木編でも「不連続殺人事件」とヴァン・ダインの「グリーン家殺人事件」(1928年)の真相の核心部が暴露されていて、もう苦笑するしかありませんね(まだ未読の方は注意下さい)。高木の補筆部は坂口の原案とは異なっていて高木の創作であると坂口未亡人の指摘があったそうですが(とはいえ原案の具体的な証拠は残ってないようです)、そうだとしても個人的には上手く完成されていると思います。戦争で容貌が変わるほどの傷を負った復員兵が登場するところは横溝正史の「犬神家の一族」(1950年)と共通していて、読み比べてみるのも一興でしょう。ドラマチックな横溝作品に比べると全体的に地味ですが、犯人が最後に犯した失敗のインパクトはある種の凄みを感じさせます。

No.3 7点 まさむね
(2021/08/01 23:44登録)
 坂口安吾氏の未完の長編推理小説を高木彬光氏が引き継いで完結させたもの。引き継いだといっても、坂口氏の急逝を受け、江戸川乱歩氏が高木氏をご指名?したようで、全容が判る詳細メモがあったものでもないようなので、高木氏の苦労は相当なものであったと思われます。
 高木氏の結論は、なるほど高木氏らしいし、ラストもビシッとしています。しかし、坂口氏が生前に奥様に打ち明けていた内容(犯人も含む)とは異なる結末にせざるを得なかったとのこと。奥様に打ち明けた内容が、本人が構想していた真相と完全に一致していたのか、今となっては誰にも分からず、それこそミステリー。その点を考えながら読み返してみるのも一興かと。

No.2 6点 メルカトル
(2010/06/08 23:53登録)
未完であった「復員殺人事件」を高木彬光氏が解決編を執筆し完成させた訳だが、実はこの結末、安吾が予定していた犯人とは別人物だったようだ。
高木氏は坂口安吾の奥様に犯人とトリックを伝えられたが、どうしてもそれが真相とは信じられず、死の間際まで婦人にすら真実を教えなかったと解釈し、高木氏オリジナルの解決編を「樹のごときもの歩く」と改題して完結させた。
リレー形式の難しさを一捻り加える事によって、上手く昇華させていると思う。高木氏ならではの「いい仕事」だろう。

No.1 5点 江守森江
(2009/05/24 02:36登録)
高木彬光が引き継いで完成させた。
解決編は高木色が出ている。
引き継いで書く難しさの分、初期の高木の名作には及ばない。
しかし、読者挑戦物好きにならお薦めできる。
不連続より読みやすいのが嬉しい。

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