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ミステリの祭典

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やぶにらみの時計

作家 都筑道夫
出版日1961年01月
平均点5.00点
書評数7人

No.7 5点 斎藤警部
(2025/11/29 23:29登録)
だからと言って、松尾和子の価値は一コペイカとも減衰しやしねえ。 フランク永井のナイスアシスト夜の虹は眩しいぜ。

「かまわないさ。 口説くことはまた出来るが、こんな事件にゃ、めったにぶつかれないからな。」

ちょっとひとっ走り行って来らあ! ってな感じで行って来る勢いのドタバタサスペンス長篇。
挑戦的ニュアンスが薫り立つ二人称の主人公 「きみ」。
「きみ」 は見知らぬ部屋で目覚める。
傍らには 「きみ」 の妻だと言い張る見知らぬ女がいる。
自分の家に帰ってみると、妻も隣人夫婦も 「きみ」 を知らないという。

「浜崎誠治です。」
「なんだって!」

この二人称主人公、少し無理があるな。 読んでる自分の自分事として没入できず、 「きみ」 というより 「おれ」 な感覚で行ってしまう。 
主語省略文化の日本語だと殊更に難しいのかも知れない。(あまり言うとネタバレに繋がるが)物語構成やトリック上の必然性も無い。
おっと 「きみたちは」 と来たか! なんとなく驚いちゃったヨ。

しかしまあ、もったいぶった、格好つけの文章。
最初の十数ページ、どこか先頭打者が無責任にノープランで書き始めたリレーミステリのようにも見える。
気付けばシュールなのか無茶苦茶なのか、よく分からない展開になって来た。

「おかげで処女を失わないですんだわ。」
「まだだったんですか、あなたがた?」

締まりのないファンタジーかと思えば、話半ばに至る前に、意表を突いたサスペンス・ミステリ流儀の豪腕ツイストが来た!!
中盤より、ユーモアが分厚く旨くなる一方で、どっこい、しっかりしたロジック展開のやり取りが!!

「電話で予告(ウォーニング)があったんだ。 思いのこしのないように、やりたいことはやっておけって。」
「いかす暗殺業者ね。」

“スィテュエーション” って何かと思ったら、あ~~、 ”スェッテュゥエィッシェォーンヌッ” のことでしたか。
“ブーメラング” てのも、 たぶん “ブぅームゥろァアン” のことかな。

それと、オリジナル?擬態語擬音語の突き深さが良いですね。 具体例は忘れましたが、「心臓がバウバウと高鳴り出した」 「さっきからきみはゼキゼキと背中を掻いている」 みたいな? ちょっと違うか?

んで、ドタバタバッタンドタスタツクスタの挙句、なんなん、この呆気なさすぎの●●による真相暴露!!(そのシーンの間抜けさは面白かったけど)
意外性など何処にも無い!! ケ、ッケ、ッッケッタイな話やでエぇ~~ 決してつまらなくはないのだがねぇ~。 kanamoriさん仰るように
> あくまでも軽妙なプロットを楽しむタイプのミステリ
ってことなんですかね。

あと、人並由真さんもご指摘ですが、無駄で無意味で無責任なネタバレ連射などヨシナサイよホンマ、って呆れます。 同じく猫のキチガイ虐待もただのクソ。
ラストシーンにだけは、詩情があった。

「がんばってね。 死んじゃだめよ。」
“蝶になる前の蛹(さなぎ)の不安は、こんなかも知れない。”

今日はヤクルトを飲んで寝よう。

No.6 3点 ボナンザ
(2023/04/15 21:27登録)
都築らしい独創性だが、読みにくく話もあまり面白くはない。

No.5 3点 人並由真
(2020/06/10 19:17登録)
(ネタバレなし)
 大昔に購入したままだった中公文庫版で読了。

 少年時代に最初に手にした際は、冒頭からの二人称記述で鼻白み「なんじゃこりゃ、こんな気味の悪い小説、カナワンヨ」と放り出したような、そんなような記憶がある。
 そしたら日本語版EQMMのバックナンバーを集めていくうちに、レイ・ブラッドベリの短編にこれと似たような二人称記述の作品があり、ああ、当時の編集長だったツヅキはこれにインスパイアされたのだなとひとり勝手に納得していた。
(といいつつ、中公文庫巻末の海渡英祐による解説では、本作を執筆時の都筑は別のフランス作品に影響されたのだと記述してある。ただまあ、くだんのブラッドベリの短編も、頭の片隅ぐらいには残っていたものと思うけれど?)

 刊行から半世紀以上を経ても普遍的にショッキングなシチュエーションだが、真相に関しては結局は無理筋だよね。単純に一言で言えば、ここまでうまくことが進む訳がない。ただしその難しい部分を、物語の向こうの事情を曖昧にすることでなんとなく読み手に納得させてしまった手際はうまいとは思うけれど。

 フランスミステリ風の小粋な作品ではあるし、作中のミステリマニアたちのお喋りも基本的には楽しいが、まだ未読だったクリストファー・ブッシュの『完全殺人事件』の大ネタをさほどの必然もなくバラされたのには立腹した。

 それ以上に腹が立ったのはキチガイ男による子猫の虐待、惨殺描写で、物語の筋立ての上で特に意味があるものとも思えない。作者の陰惨な実体験を読者に追体験させようとかその手の下らない叙述か?
 
 上の二項で大幅に減点してこの評点。感情的には1点でもいいかとも思ったが、そこまで振り切れない自分にちょっと自己嫌悪。

No.4 6点 虫暮部
(2018/09/14 12:51登録)
 ネタバレしつつ書いてしまうが――。
 9割までは面白かった。
 しかし種明かしでがっかり。どの道だまして最終目的を伏せたまま死地へ赴かせるなら、複数人のエキストラで芝居をするより、本人に直接 “詳しい事情は言えないがしばらく誰それのふりをしてこのように行動してくれ” と頼む方が簡単かつ確実ではないのか。首謀者が妙に凝った手を使う心理的な裏打ちに欠けると思う。

No.3 6点 nukkam
(2015/11/03 23:59登録)
(ネタバレなしです) 本格派推理小説、ホラー、SF、ハードボイルド、時代小説と様々なジャンルの作品を書き、海外ミステリーの翻訳や評論まで手がけた都筑道夫(1929-2003)は器用さだけでなくモダンなセンスを持っていたと評価されています。1940年代後半から数多くの短編を書いていたそうですが長編作品は1961年発表の本書が第1作となります。国内ミステリーで初めて2人称形式を採用した実験性で知られています。前半は主人公(きみ)の記憶喪失(正確には主人公の記憶が人々から次々に否定される)を扱ったスリラー小説風なプロットですが、中盤での海外ミステリーを引用しながらの推理場面は本格派推理小説らしさを感じさせます。起こった犯罪の謎解きではなく犯罪を阻止できるかに物語の興味は移り、最後はハードボイルド的な虚しさを漂わせる結末を迎えるなど多面的な要素を持った独創性が光ります。作者の才覚を十分に示しています。

No.2 6点 kanamori
(2010/07/03 20:38登録)
著者が初めて書いた長編ミステリ。
泥酔して目覚めると周りから別人扱いされる主人公の自分探し、という設定自体はありふれていますが、全篇にわたって主人公の行動を二人称の「きみ」で押し通す語り口が洒落ている。
結末にサプライズを用意している訳でもなく、あくまでも軽妙なプロットを楽しむタイプのミステリ。

No.1 6点 こう
(2009/02/07 23:44登録)
 おそらく国内初の二人称小説でしょう。都筑道夫の実験精神あふれる作品の一つです。後年法月氏の「二の悲劇」を読んだときは全く意識せず気がつきませんでしたがこの作品を意識して作ったのだと思います。
 いわゆる「別人テーマ」の作品で朝起きたら隣に見も知らぬ女が寝ていて他人の名前を呼び自分が妻だという。自分の家に戻ると内縁の妻や隣人は彼のことを覚えていない、という発端から「自分探し」のストーリーが始まります。
 魅力的な書き出しからすると真相はかなりしりすぼみですしラストはとってつけたような感じですが趣向は現代でも通用すると思います。
 都筑氏の作品はミステリとして現代で通用するかはともかく面白い実験精神あふれる作品が目白押しなので一読をお勧めします。

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