home

ミステリの祭典

login
メグレ罠を張る
メグレ警視

作家 ジョルジュ・シムノン
出版日1958年05月
平均点7.33点
書評数6人

No.6 6点 斎藤警部
(2018/05/03 11:37登録)
冒頭、メグレが洒落たことをする。 謎解きの展開もある種洒落ており、、途中で早くも大味な真犯人決め打ちで終了フラグかと思いきや、応用編フーダニット(●●殺人●●●●●●真犯人●●●●●●●●●誰か?)の二段階ヒューマンドラマ興味が読者に追い付いて来た。。。 だが最終局面、追い詰める畳み掛け、あからさま過ぎること詰め将棋の如しで味わいの深さを少しだけ損なったな。。 もっとモヤっとしてもいいのに。。 なんてね、そりゃ多作家の自由だよな。

‘マゼ’って名前の奴がどうにも’MOD’S HAIR’を思わせてクスリしました。「半ライスおかわり」みたいなシーンにはちょっと笑った。途中から”あの人物”が、オリラジ藤森が演じてるイメージにはまって仕方無かったな。。

No.5 8点 クリスティ再読
(2017/10/22 21:30登録)
本作メグレ物の中でも有名作の一つにふさわしく、ジェットコースター的な展開で、とにもかくにも「読ませる」名作である。シムノン全盛期の剛腕を存分に楽しむことができる。まあ皆さんもよく書評していて、いい面をしっかり伝えているので、評者なぞが屋上屋を架すのも野暮だ。
...で、なんだけど、本作ってたぶん「熱海殺人事件」の元ネタな気がするのだ。メグレ流の捜査術というのは、犯罪を犯人の自己表現として捉えることに真髄がある。その自己表現を理解する批評家のような立場にメグレは立つわけだ。本作はこういう「メグレ流」をわりとあからさまに描写しているので、シムノン入門編に最適じゃないかしら。けども、この犯人の自己表現をパロディ的な方向にゆがめたとしたら、それこそつかこうへいの世界に直に通じてしまうのだ。くわえ煙草の伝兵衛とパイプのメグレの距離は、意外なほど近い。それゆえ、本作の「犯罪」もメグレの理解を俟って初めて完結する、犯人とメグレのいわば共作のようなものなのかもしれないな。

No.4 7点 あびびび
(2016/06/02 00:45登録)
初めてのシムノンである。メグレ警部は当然知っていた。それなのに、なぜ手が出なかったと言うと、フランス・ミステリの偏見である。すぐに、ル・パンを想像してしまうのだ。別にル・パンが嫌いなわけではない。自分のなかでは漫画(ル・パン三世)と?ミステリを区別したいわけである。考えてみると、これは偏見である。両者はほとんど別物なんだから。

初めに解説を読んでこの作者がいかに偉大であるかを知ったが、読んでみると、実に味わいのあるストーリーであった。メグレ警部は人情家である。ほろりと来る。謎とき要素は少ないが、こんなジャンルもいいのではないかと、次の作品をこのサイトで探している自分がいた。

No.3 8点 tider-tiger
(2015/12/09 18:09登録)
女ばかりを狙った連続殺人鬼のせいでパリは恐怖に包まれていた。すでに五人の女が犠牲になっている。メグレは己の進退を賭けて大量の人員を動員、大掛かりな罠を張った。

ハヤカワで文庫化されていたこともあって比較的入手し易かった(現在は?)作品。メグレものの名作の一つだと思います。
ただ、序盤が読みづらいんですよね。
出来ごとを時系列に並べると、連続殺人事件の発生、メグレが犯人像を推測して罠を張ることを漠然と考える、とある精神科医との会話によりメグレが罠を張ることを決意する、罠を張るための下準備をする、となりますが、物語は時系列を崩して罠を張るための下準備の場面から始まります。事件概要の説明からではなく、人物を動かしながら物語に入りたかったのでしょうが、なにが起こっているのかわかりづらいのですよ。
しかも、読者が状況を飲み込んで、さあ、どうなるのかなと思いはじめた矢先に容疑者確保。
臣さんが仰るとおり、もっと内容を厚くして本格的な推理物にすることも可能だったであろう作品ですが、やはりシムノン、読者が期待するような方向には舵を取りません。通常のミステリなら罠を張って犯人を捕らえるまでの過程に重点を置くでしょうに、そこは駆け足で済ませてしまい、メグレが罠を張ろうと決意する切っ掛けやその下準備、犯人を捕らえた後のメグレの独走というか独創というか、などに多く筆を割きます。
精神科医と犯人像について推測し合う場面は興味深く、逮捕した人物と相対して根拠もろくになさそうな推察をぶつけていく場面は非常にスリリング。
作戦が大掛かりなだけに片腕のリュカ、可愛がっているジャンヴィエ、息子のようなラポワント、直属の部下ではないものの目をかけていると同時に扱いにひどく気を遣っているロニョンと、メグレと各々の関係が鮮明に見えるのも面白い。
最後に関係者が集められて火花を散らしますが、犯人が自分の犯行だったと宣言(自白とはニュアンスが異なる)した瞬間、寒気がしました。名場面だと思います。
※この名場面、グラナダ版ではメグレが発言を促すかのようにその人物を見て、それに呼応してその人物は問題のセリフを吐きました。ところが、原作(日本語訳)では『そのとき沈黙を破って●●の声がした』となっています(原文がどうなっているのか気になりますが)。
つまり、メグレは言葉を発した人間を見ていなかったし、この発言を予期してもいなかったのではないでしょうか。細かいことですが、セリフの意味、ニュアンスが若干変わってしまいます。自分は断然原作を支持します。

一つ気になった点を。
メグレは容疑者に「おまえは法で裁かれることはない。精神病院で残る人生を送ることになる」と断言していますが、この犯人は狭義の精神病(統合失調症や躁鬱病)ではなさそう。だとすると日本だったら心神喪失(無罪)は認められず、せいぜい心神耗弱(有罪)、減刑となるのみではないかと思われます。フランスではどうなんでしょうか。

No.2 7点
(2013/06/09 19:50登録)
女性5人の連続惨殺事件の捜査が手詰まりになり、メグレは罠を張る作戦を採った。

連続殺人モノですが、謎解き中心の推理小説でもなく、もちろんサイコ・サスペンスでもありません。それに、メグレの採った作戦が面白いかというとそうでもありません。まあ、そこに至るまでの行動はたしかに楽しめるのですが・・・。
この小説の注目すべきところは、罠にもとづいてある人物を捕らえてから始まるメグレの超人的な推理でしょう。とくに最後の事件にもとづくメグレの行動や推理、そして暴かれる動機、背景、真相は強烈です。
連続惨殺モノで、しかもこんな真相が隠されているのなら、もっと中身を厚く濃くして本格派推理にしてしまえばよかったのに、と思ってしまいますが、それを200ページほどの中編にまとめてしまうところが、きっとシムノンらしさなのでしょう。

No.1 8点
(2009/09/29 21:24登録)
『殺人鬼に罠をかけろ』のタイトルでジャン・ギャバンがメグレを演じた映画が話題になったこともある作品です。切り裂きジャックをも思わせる連続殺人の犯人に対して大がかりな罠をしかけるということで、直属部下の刑事たちだけではなく、いつもは単独行動が多い所轄の違う「無愛想な刑事」ことロニョンも、珍しくメグレの指示の下はりきっています。
罠が功を奏し、容疑者が逮捕されますが(この段階ですぐ連行しちゃうのかなとも思えますが)、さらにその後一波乱待っています。
最終章でメグレが犯人に語って聞かせる内容は、通常のミステリでは推理と呼べるようなものではありませんが、それでもこれこそがメグレ式推理であるとしか言いようがない説得力で迫ってきます。事件解決後のラスト1段落もいいですねえ。

6レコード表示中です 書評