名探偵は嘘をつかない |
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作家 | 阿津川辰海 |
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出版日 | 2017年06月 |
平均点 | 6.40点 |
書評数 | 5人 |
No.5 | 5点 | makomako | |
(2021/07/16 21:01登録) 作者の才能を感じる作品ではあります。初出作品だけあって気負いとやりたいこと全部やったるといった意気込みはかえるのですが、とんでもない設定の上あまりにもごちゃごちゃとやりすぎで、私にとってはトーストにバターをべたべたに塗って、はちみつをたっぷり載せて生クリームをのせて砂糖をたっぷりかけたような感じがしましたね。 はじめは阿津川のあまりの性格の悪さにうんざりし、途中から人間が死ぬのを持て遊ぶ(本格推理は多かれ少なかれこういった傾向にはあるのですが)のは悪趣味以外ない感じもしました。 しかも長くて読むのが苦痛のところもあったのですが、途中から興味がわいてきて読み通すことができました。変な設定になれたとも言えますが、きっと作者の物語を紡ぐ才能があるからなのでしょう。 |
No.4 | 7点 | メルカトル | |
(2021/06/21 23:08登録) 第一章で足跡のない密室でのバラバラ死体事件の概要を読んだ時は正直ときめきました。しかし、第二章でああ、そういうパターンねという事にやや危惧を抱きました。最近多い設定と言えば勘の良い方にはピンと来るものがあるかも知れませんね。その特異設定が一つの筋道を付けているのは確かですが、純粋な本格ミステリをご所望の人にはお薦め出来ません。 600頁に及ぶ長編だからと言ってどこかに無駄があるかと問われれば否と答えるしかありません。それでもやはり最後まで早苗殺害事件で引っ張るのは、やや無理があると思いますね。 中盤の弾劾裁判でいよいよここから本番か、と思われましたが何やら不穏な雰囲気になり、せっかくの名探偵の出番もあまりなく少なからずストレスが溜まります。そこも含めて何だかんだと色々詰め込み過ぎて全体が飽和状態に陥っている気がしてなりません。ただ、ロジックはそれなりに確りしているし、本格ミステリとして破綻しているとは思いません。個人的にはあまり文中で触れられなかった陽炎村童謡殺人が気になりました、まあ付け足しみたいなものだからアレなんですけど。 真相は意表を突かれはしましたが、意外と呆気なかったですね。 読後はこれが噂の阿津川辰海のデビュー作かと、何となく感慨に耽りました。これからの活躍が期待できる大型新人の登場という事で、率直に喜びたいと思います。既に何作か書いているのでそちらもいずれ読む事になるでしょう。 |
No.3 | 6点 | 虫暮部 | |
(2021/03/17 12:48登録) 色々面白い要素はあるが、ごちゃごちゃした作りが仇になった。特に、早苗ちゃん殺しについては、終盤になると多重推理で状況が限定されて来ちゃうでしょ、更に“どこかの時点で思いがけない形で彼女は死んだ筈(でないと面白くない)”と言うメタ的な予断の支配下で読むと、結構この真相は気付き易くない? おかげで最終章は消化試合みたいだった。 あと、ところどころに変な言い回しが見受けられる。文法上間違いとは言い切れない、でも普通はこんな言い方しないよねぇ、かと言って意識的に敢えて使っているにしては効果が感じられない、ってな感じのアレは作者の意図なんだろうか? |
No.2 | 7点 | 名探偵ジャパン | |
(2020/08/06 11:24登録) 序盤から「死んだ人間が別の死体に魂を入れて『転生』する」とか出てきて、叙述的なトリック的な何かかと思ったら、マジものの転生でびびりました。特殊設定ミステリって、もう完全に市民権を得ましたね。本作なんて、それを匂わせるタイトルとか売りにする惹句とか一切ないまま、仕掛けのある館や、絶海の孤島みたいに、その世界に存在するのが当たり前のように普通に出てきましたからね。「この館は建築基準法に違反している」とかいう突っ込みを入れて楽しんでいたのも今は昔。読む側も頭を柔軟にしていかなければ、これからのミステリ業界で取り残されてしまいます。 そんなぶっとんだ本作ですが、殺人事件に対してのロジックなんかは驚くほど精緻に作られていて、本格ミステリとしての強度は十分に持っているといえるでしょう。「名探偵」が資格となってそれを育成する機関が存在するとか、中二な設定もありますが、楽しめることは確かです。 ※以下、もしかしたらネタバレかもしれません※ ひとつだけ気になったのは、序盤の事件で阿久津が主人公を見殺しにする必要は、結局なかったような? 阿久津は犯人の動きを完全に把握して逆トリックを仕掛けていたわけなので、犯人がそれに乗っかるのを隠れて見ているか、監視カメラでモニターしておいて、いざとなったら乗り込んで現行犯逮捕しても問題なかったのでは? まあ、ここで主人公を殺さないと、彼が転生できなくなって以降の話が進まなくなるという事情があったのかもしれませんが。 |
No.1 | 7点 | 人並由真 | |
(2017/10/29 01:45登録) (ネタバレなし) 死後の世界に在する神様や魂の転生といったスーパーナチュラル要素をミステリのパーツに組み込みながら、作品全体としてはハイレベルなロジックの整合で攻めてくる、かなり剛速球のパズラー。なんというかグロ趣味を抑えながら、トリックよりもロジックにさらに重点を置いた白井智之みたいな作風である。 <どんなに異常なことであっても、それしか不条理の解法が見つからないもの>として≪作中の現実≫を登場人物たちがやむなく受け入れ、そこから対応策が始まるあたりは、あの『デス・ノート』を想起させる面もあった。 本作が処女作という作者はまだ二十代前半のミステリマニアだそうで、一部に生硬な部分はあるものの、文章は全体的に達者で構成も練り込まれている(中盤、中規模の山場が続き過ぎる感じもあるので、読むこっちは相応に疲れたが)。 まちがいなく今年の国産作品の上位に来る力作だとは思うが、一方でネタの盛り込み過ぎが胃にもたれる感触もあり、この作品の大設定である「探偵の弾劾裁判」もあえて無くても良かったんじゃないかなあ。まあそうなると、本作の絢爛的な持ち味は薄れるかもしれないけれど。 あと過去の殺人事件の人を喰ったような真相は、どこかで見たっぽい感じではあるが、本作の締めには実によく似合っていた。そういう意味ではミステリ作家としての確かなセンスは実感する。 次作は、良い意味で、もうちょっと軽く短めにお願いします。 |