煽動者 キャサリン・ダンスシリーズ |
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作家 | ジェフリー・ディーヴァー |
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出版日 | 2016年10月 |
平均点 | 6.00点 |
書評数 | 6人 |
No.6 | 7点 | E-BANKER | |
(2025/05/03 16:48登録) ついこの前、石持浅海の同名タイトル作を読んだので、その連想から本作を手に取ってしまった。 キネティックの天才「キャサリン・ダンス」シリーズの四作目。 2015年の発表。今回も単行本で500ページの長尺。 ~”人間嘘発見器”キャサリン・ダンス捜査官が「無実」と太鼓判を押した男が、実は麻薬組織の殺し屋だとする情報が入った。殺し屋を取り逃がしたということで、ダンスは麻薬組織合同捜査班から外され、民間のトラブルを担当する民事部へ異動させられる。その彼女に割り当てられたのは、満員のライブ会場で観客がパニックを起こして将棋倒しとなり、多数の死傷者が出た事件だった。だが、現場には不可解なことが多すぎた。この惨事は仕組まれたものではないか?独自の捜査を開始したダンスだったが、犯人はまたもや死の煽動工作を実行した・・・~ 本作は、複数の事件が交錯しながら展開していく。 その分、読みごたえは大きくなるが、やや分かりにくくはなってしまう。そんな感覚だった。 タイトルのとおり、メインは「煽動者」の事件。作中では本シリーズらしく「未詳」と犯人を呼びならわす。この「未詳」は作者の数多の魅力的な「敵キャラ」と同様、なかなかの個性を発揮してくる。 そして、「未詳」が狙いをつけたのが、よもやの「キャサリン・ダンス」その人。ダンスそのものをターゲットとして、自宅前にまでやってくるほどの執拗さを示す。 このあたりは、映像化すれば最もサスペンスフルなシーンだろうな。 それでもダンスらの奮闘により、「未詳」の捕獲に成功するわけなのだが、「いや、待て! まだページ数が余っているではないか??」という疑問を抱いているところにやってくるのが、次の衝撃波。 なるほど。だから最初から複数の筋立てにしてたのね・・・ まさか冒頭から読者に罠を仕掛けていたとは・・・さすがのディーヴァーである。 今回は、今まで以上に「裏の裏」を使っていたのではないか。敵を欺く前に味方から、というわけではないのだろうけど、読者に見せていた角度が急に変わり、違う角度から見せる手際の良さはさすがというしかない。 今回、いつにもましてダンスの「家族」の問題にも焦点が当てられる。小さい子を持つ母親としての悩み、不安、喜びetc。そして、ふたりの男の間で迷うダンスの姿も・・・ とにかくサイドストーリーもふんだんに詰め込まれた本作。読みごたえは十分と言える。 ただし、もちろん辛口評価をすべきところもある。ひとつは先ほども書いた「分かりにくさ」。脇筋が多い分、登場人物も増え、頭がついていけなくなるところもあった。後は、犯人側のサプライズ感が今一つだったこと。「まさかアイツが・・・」という感覚がどうしても欲しいのだ、ファンは。 それでも高いレベルにはあったと思うし、次作にももちろん期待! |
No.5 | 4点 | レッドキング | |
(2021/05/24 18:12登録) ダンスシリーズ第四弾。言葉とトリックで群衆パニックを引起こし、凄惨な事故に至らせる美形男。犯人の内面サイコ描写からして、お馴染みのメンヘラ殺人鬼キャラのダミー設定で、さて、今回はどんなツイスト?て思っていたら・・あらら、特に捻りという捻りもなく終わってしまい・・まあ、それが肩透かしツイストだったりして。むしろ、ダンス自身の、捜査官として母として女としてのツイスト展開・・ちと、ご都合よろしすぎるが・・の物語が魅力かと。 原題の「Solitude Creek」=「孤独の小川」、主筋の流れから離れた、日系移民の強制収容所エピソードに関する言葉で、何でこれがタイトルに?て思った。 ディーヴァー、日本マーケットでも意識してんのかな? |
No.4 | 8点 | Tetchy | |
(2021/02/27 00:06登録) キャサリン・ダンスシリーズ第4作の本書はいきなりダンスのミスで容疑者を盗り逃すシーンから始まり、その責任を負って民事部へと左遷させられるというショッキングな幕開けで始まる。 このダンス左遷の原因となった<グズマン・コネクション>の捜査と悪戯に騒ぎを起こして死傷者が発生する煽動者の事件、そしてダンスの息子と娘たちのエピソードの3つが並行して語られる。 本書の脅威は暴動、いやパニックと化した集団だ。 正気を失い、パニックとなった人々はそれが恰も大きな1つの生き物のように動き出す。しかしそれは決して秩序だったものではなく、我先にと自分の命を、安全を確保するためならば他人の命をも、文字通り踏みにじってまで助かろうとする執着心が、理性を奪い、人間から獣へと変えさせる。DNAに刻み込まれた生存本能が人を変えるのだ。 そして更に人は自分の命を脅かした存在を知るとそれを排除しようとして、いや寧ろそんな危険に目に遭わせた仕返しをしようとして、再び理性を失い、攻撃性が高まる。やらずには済ませない、子供の頃に芽生えた感情が復活し、本性がむき出しになる。 しかもそれはたった数分のことに過ぎない。人間が理性を失うのが危険を察知し、スイッチが入るのもすぐならば、そのスイッチが切れるのも、例えばパトカーの回転灯が見えた、そんなことで人は理性を取り戻し、人間性を取り戻す。この僅か数分、人間が暴徒と化すだけで多くの犠牲者が生まれる。 そして今回ダンスが対峙する敵は人間の群集心理を利用してパニックを引き起こして不特定多数の人間を死に至らしめる、一生背負う疵を負わせることに喜びを見出している者だ。本書のタイトル「煽動者」はそこから来ている。 それらは全てイベントという非日常で起きた悲劇だ。その日を、その雰囲気を楽しみに来ていたいわばハレの場が惨状に変わるパニックの恐ろしさを思い知らされる。 またキャサリン・ダンスといえばボディ・ランゲージから相手の嘘を見抜くキネシクスが専売特許だが、本書でもそれに関する色々な知識が開陳される。 ただリンカーン・ライムシリーズでは快刀乱麻を断つが如くダンスのキネシクスが大いに活躍するが、なぜかダンス本人が主人公のシリーズになるとほとんどこれが機能しなくなる。これがとても違和感を覚えてしまうのだ。 今回最もキネシクスのダンスが盲目になるのは自分の子供たちに対して隠し事を全く見抜けないことだ。 娘のマギーが学校の発表会で『アナと雪の女王』の主題歌“レット・イット・ゴー”を歌う大役を下りたくなった心境もそうだし―本書ではこの主題歌のタイトルがキャサリンの心を切り替えるための合言葉としてやたらと出てくる。 キャサリン・ダンスシリーズはリンカーン・ライムシリーズよりも家族や恋愛面に筆が割かれているのが特徴的だ。それはダンスが優秀な捜査官でありながら二児の母親であり、更に夫を亡くした寡婦であることが大きな理由だが、それが私にしてみれば物語のいいアクセントになっていると感じている。 連続的に犯行を起こす犯人を追いつつもその捜査の中で家族のイベントや男女関係に揺れる心情が挟まっており、理のみならず情の部分についても触れられ、それが読み物として私にとって読み応えを感じている。 またダンスがかつてミュージシャンを志した過去が明らかになる。プロの道を目指してかなりの努力をしたが、アマチュアとプロの壁を越えることができなかったため、キネシクスを学び、今に至ったとのこと。これはまさにディーヴァ―そのものではないか。彼もまたかつてはフォークミュージシャンを目指したが、大成せず、ミステリ作家になってベストセラー作家になった。 さて今回のようにハッピーエンドを迎えるとシリーズも大団円を迎えたように感じるが、私は再び彼女の活躍が見たいのである。彼女のキネシクスを存分に活かしたシリーズの集大成とも云える作品にはまだ逢っていないと思っているのだから、これで終わりにはしないでほしい。 しかしそれも“レット・ヒム・ゴー”。ディーヴァーに任せるしかないのだが。 |
No.3 | 5点 | あびびび | |
(2020/01/27 03:42登録) 人が集まっている音楽コンサートや、スポーツ観戦の体育館など、あらかじめ有力な出口を塞いでおいて、場内に煙など発生させ、「火事だ!」とかで先導し、人々のパニックを誘発させる。出口はある程度封鎖状態にしているので、狭い一か所に人々は集中し、頭をぶつけたり、人に踏まれたりして何人かが死ぬ。それを楽しんでいる人物がいるが、依頼者の闇はもっと深く…。 キャサリンダンスはいつもより読みが甘いし、切れ味が鈍い。これは身内のスパイをあぶりだすためだったと思われるが、それはお見事だった。しかし、最後の恋愛劇には同意しかねるなあ。現在進行形なのに(おそらく体の関係も)、男も女もパッと切り替えられるものだろうか? |
No.2 | 6点 | take5 | |
(2018/11/29 20:18登録) 毎度ながら、どんどん読み進められるキネシクスのダンスシリーズ。 初期よりもキネシクスを前面に出さなくなった気がします。 その代わり、ダンス一家の人間関係(特に子供たちとの)が、密に描かれています。 ラストはベタだなぁと思い、あのラストが別なら7点かなあと。 |
No.1 | 6点 | HORNET | |
(2017/04/23 21:40登録) キネシクスを駆使して嘘を見破る尋問のスペシャリスト、キャサリン・ダンスを主人公としたシリーズの最新作。 物語は、ある殺人事件の関係者(容疑者)の尋問にあたったダンスが「彼は無実」とその人物を解放したが、直後にそれが当の殺人犯だったことが判明し、捜査から外されるところから始まる。 その結果回された担当は、コンサート会場の小火騒ぎから起きたパニックにより死者が出たという事件。しかしこれが、不運な事故ではなく実は故意に仕組まれたものだったことがわかり、捜査はにわかに深刻さを増す。続けて映画館でも「仕組まれたパニック」が起き、同一犯の悪質な事件であることが明らかになっていく。 物語のメインはこちらの事件の捜査なのだが、冒頭の取り逃がした犯人の事件捜査も同時に進行し、さらには同僚マイケル・オニールが手掛けている農場主の失踪事件も間に入って来て・・・と複線の多い話で、いろんなところに話しが飛ぶのでちょっと読みづらい感じはあった。(この複線が「伏線」になるのかは・・・読んでみて) ミステリとしての破壊力は同シリーズの(ライムシリーズ含む)高評価のものに比べるとあまり。ただ個人的に、ダンスのシリーズはライムシリーズよりも「人間味」「人間臭さ」があって、謎や仕掛けの部分以外もなかなか面白い。未亡人として二人の子を育てる母としての悩み、恋愛事情など、どこか俗っぽい感じが読み易さを後押ししている。 余談だが、このシリーズの作品を読む間隔が空くと、はじめいつもキャサリン・ダンスとアメリア・サックスがごっちゃになる(笑) |