裁く眼 |
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作家 | 我孫子武丸 |
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出版日 | 2016年08月 |
平均点 | 5.00点 |
書評数 | 6人 |
No.6 | 5点 | HORNET | |
(2019/06/08 14:40登録) 漫画家をめざしながらも、一度だけ雑誌に読み切りが連載されたきり30を過ぎても定職にありつけない袴田鉄雄は、路上で似顔絵かきなどで細々と糊口をしのぐ日々。そんなある日、報道用に裁判の様子を描く「法廷画家」の仕事が舞い込んできた。担当することになった事件は、練炭自殺に見せかけた殺人と疑われている男性の死。被告人は男性と交際していた女性で、そのあまりの美貌から世間の注目を集めていた事件だった。 最初の仕事となった第一回公判で鉄雄が描いた、美人被告人・佐藤美里亜の絵は上々の評判。さっそくお昼の番組で使用されたのだが、その日、鉄雄は自宅に帰った際に何者かに襲われる。いったい誰が鉄雄を襲ったのか?そしてなぜ?鉄雄は姪の蘭花とともに、犯人を探ろうとするが― 法廷画家という職業を取り上げての話は珍しく、興味深く読むことができた。裁判が進んでいくのと合わせて、鉄雄を襲った人間の謎も追っていくのだが、お互いがどうつながるのか全く分からなくて、最後まで引っ張られてしまった。 真相は、現実的かどうかは別として、私は非常に面白い仕掛けだと感じた。 |
No.5 | 5点 | 蟷螂の斧 | |
(2017/12/13 12:03登録) 「落ち(特性)」だけであれば、短編でも良かったような。犯人の「特性」より「動機、結構気に入っています。(笑)」の方をメインに描いて欲しかった。「殺戮にいたる病」の異常性のように。そうすれば、蘭花ちゃんのキャラクターと犯人の異常性が対比され、結構傑作になったかも?。 |
No.4 | 7点 | 虫暮部 | |
(2016/11/30 19:24登録) 問題の絵の“特性”は、個人的には(リアリティの有無は別として)許容範囲内。審議される案件があからさまに現実の事件を下敷きにしているのは不満だが、本作の本筋は裁判の中身ではないわけで、もしや作者は話のポイントが分散しないよう意図的にオリジナリティの無い事件を選んだのだろうか? 因みに“腐った斧”とは“爛柯”。厳密には囲碁そのものではなく、“囲碁にふけって時を忘れる”の意。どのみちこの漢字は(現在は)名前には使えない。 |
No.3 | 4点 | まさむね | |
(2016/10/08 12:05登録) 「法廷画家」を主人公に据えた点が、まずは新鮮。そして、連続殺人疑惑がかかる美人被告等の法廷内のストーリー、さらに自分も含めた法廷画家への殺傷事件等々の法廷外のストーリーが組み合わさった上で次々と展開され、終盤前まで期待感が相当に高まったわけです。姪っ子の蘭花ちゃんをはじめとした、主人公の周辺人物のキャラも魅力的ですし、読み心地も良いです。裁判員裁判の勉強にもなります。 しかしながら、結論としてはいかがなものかと。結構な肩透かし感でしたねぇ。何か、凄く勿体ないような気がしましたねぇ。 |
No.2 | 4点 | 人並由真 | |
(2016/10/07 03:37登録) (ネタバレなし) 法廷画家という主人公の設定など目のつけどころの面白い、法廷もの&××××××のパズラーかと思ったら、……なんだろう、この結末(汗)。 いや、違う部分でミステリとしての興味を満足させようとしているのは分かるが、これではあんまり。まさか、某・欧米の大家の<あの作品>ごとき大ファール技をあえて狙ったわけでもないか、とは思うが。 もちろん、単に、送り手の狙いとこちらの予期したものに齟齬があったから評価が低い、というのは受け手の態度として全くよろしくないんだけどね。 しかし、中盤の展開は、個人的にどうしても納得できないわ。あんまり書けないけど<そういう部分>で読み手の感情に摩擦感まで引き起こすのが作者の計算の内だったとするなら、これはどうも好きになれないタイプの作品である。 |
No.1 | 5点 | kanamori | |
(2016/09/21 18:54登録) 漫画家を目指すも芽が出ず、露天の似顔絵描きをしていた袴田鉄雄の元に、突如テレビ局から、ある裁判の法廷画を描くという仕事が舞い込む。その裁判は、男性2人を謀殺した容疑で逮捕された女の事件だったが、被告女性を描いた法廷画がテレビで流れた直後、袴田は何者かに襲われる。さらに--------。 法廷画家という主人公の設定がユニークな謎解きミステリです。 テレビのワイドショーで扱う事件の法廷場面をスケッチするために、袴田は毎日裁判所に通うわけですが、物語の半分を過ぎても、美貌の女性被告・佐藤美里亜が起こしたとされる事件の詳細や、傍聴席に座る袴田の前で進行する裁判の様子も、ほとんど触れられません。連続謀殺事件を巡る”法廷ミステリ”だと思っていたので、これはちょっと意外でした。(終盤近くになって、ようやく証拠のねつ造を巡る弁護士と検察の法廷バトルがあって、一応法廷ミステリぽくはなるのですが)。 少しネタバレをすると、本作の中核の謎は、法廷画家を連続して標的にした法廷外の事件の”ホワイ”にあるわけですが、本格ミステリを読み慣れた人には、ある伏線が浮いているため、真相の方向性だけは分かりやすいかなと思います。ただ、浮世離れした社会不適合者のような主人公を支える姪で女子中学生の蘭花ちゃんをはじめ、近所の交番詰めの巡査など、脇を固めるサブキャラクターがなかなかイイ味を出していて、物語の読み心地はそう悪くはありません。続編もありそう。 |