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ミステリの祭典

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黒野葉月は鳥籠で眠らない
木村&高塚弁護士シリーズ/文庫改題『少女は鳥籠で眠らない』

作家 織守きょうや
出版日2015年03月
平均点6.17点
書評数6人

No.6 6点 E-BANKER
(2025/06/14 14:23登録)
作者の初読み。1980年ロンドン生れ。弁護士として働く傍ら、小説執筆・・・
本作は若手弁護士・木村龍一を主人公とする連作短編集。
単行本は2015年の発表。

①「黒野葉月は鳥籠で眠らない」=家庭教師の教え子に「不純異性行為」をしたとして父親に訴えられた男の弁護を依頼された木村。被害者との和解を目指したのだが、関係者から事情を聞いていくなかで意外な事実が浮かんでくる。で、「被害者」=黒野葉月が最後にとったある行動がうーん。こんなことまでしちゃうの!っていうもの。いずれ後悔するんじゃないかなあー
②「石田克志は暁に怯えない」=今度の依頼者は弁護士を目指していた頃の木村の友人。弁護士の道を諦め、結婚し、一男を設けた彼だったのだが、息子は重い障害を抱えてしまう。彼には資産家の父親がいるのだが絶縁状態。そんな彼もまた、衝撃的な行動に出る。子に対して親はここまでできるのか・・・
③「三橋春人は花束を捨てない」=一子を設けたにもかかわらず親友との浮気に走った妻。彼の願いは親権を渡さずに妻と離婚すること。浮気の証拠は続々と揃い、無事協議離婚が成立。ただ、その後に裏のカラクリに木村は気付いてしまう・・・。
④「小田切惣太は永遠を誓わない」=超有名現代画家の彼。先輩弁護士の高塚に付き添い、彼の自宅へ訪問した木村は、若く美しい妻の姿を見て・・・。しかし、彼女は「妻」ではなく「娘」だと高塚は言う・・・。「相続」が裏のカギとなるのだが、そうか、養子ってそういう規定があるのか・・・

以上4編。
正直なところ、ミステリとしてはかなり薄味で、弁護士としての「お仕事小説」的な読み物の部分が大きい。
ただ、全編ともラストにそれまでの構図を反転させる「仕掛け」があることが分かり、「ほォー」や「へエー」という感想を抱かせるようになっている。
そういう意味では実に「旨い」作品には仕上がっている。

全体的なプロットは老練なのに、文章としてはまだまだ「若書き」というのが、なんだかアンバランスな印象は受けるけれど、弁護士という自分の属性を作品世界に取り込み、うまい具合にまとめていることは素直に称賛。
ただ、熱量としてはそれほどではないので、「熱い」ミステリが読みたい方にはお勧めはしないかな。
(①~④とも同じ程度の面白さ、クオリティはある。中では④が好み)

No.5 5点 猫サーカス
(2021/11/05 18:49登録)
登場人物が巻き込まれる非日常的な問題を法律によって解決しようとするリーガルミステリ。リーガルミステリというと、法廷を舞台に、弁護士や検察官が丁々発止のやり取りを繰り広げる光景を想像するかもしれない。本作の主人公も弁護士だが、舞台は法廷ではない。それでも、起訴を取り下げさせようと奔走する姿などに接すると、紛れもないリーガルミステリだと感じる。本作は、物語のために法律が存在しているし、その中心には魅力的な登場人物がいる。法律の抜け道を探す悪党は登場せず、幸せになってほしいと応援したくなる人物ばかり。法律の面白さを再認識させてくれる作品。

No.4 6点 ぷちレコード
(2020/06/17 19:09登録)
どこにでもありそうな平凡な事件が、強烈な意思を湛えた依頼人が介在することで、意外性たっぷりのストーリーへと変貌を遂げている。

No.3 7点 makomako
(2019/10/05 23:19登録)
作者は現職の弁護士さんとのこと。
なるほど弁護士ならではのお話でした。
4つの連作ですが、初めはふつうそう見えても一筋縄ではいかないなかなか突飛な展開となっています。
主人公の弁護士さんはなかなか良い人で、実に親切に弁護人の世話をしていくのですが、弁護人のほうが上手で(または先輩弁護士が入れ知恵をしていて)辛口の最後となることもあります。弁護士さんも大変ですねえ。
 解説のところを見ると作者は女性のようです。かなり男性の心を知っている手怖い女性ですね、きっと。

No.2 6点 まさむね
(2016/04/02 18:55登録)
 新米弁護士を主人公とする連作短編集。法律をポイントとした転換がなされ、なかなか面白い読み味です。現役弁護士の作者さんならではといったところでしょうか。(だからこそ、法律を学んだ方であれば、途中でネタに気付くであろう短編もありそうです。)
 ベストは「三橋春人は花束を捨てない」で、終盤の転換がお見事。語弊を恐れずに言うならば、「絶妙な後味」でしたね。他の三篇もそれぞれに違った面白味があって、良かったですよ。

No.1 7点 HORNET
(2016/03/07 20:49登録)
新米弁護士の木村が担当するのは、女子高生への淫行、肉親の殺傷事件、離婚案件、相続問題など、まぁ取り立てて奇抜な案件ではない法律問題。だが、実はその一つ一つに、依頼人や関係者の巧妙な仕掛けが施されており、予想外の結末にあっと言わされる。
 結末にブラックさを感じる人もいるかもしれないが、個人的には「三橋春人は花束を捨てない」がよかった。最後の「小田切惣太は永遠を誓わない」は一転、ハッピーエンドな感じでこちらもよかった。
 一つの設定で貫く連作短編集でありながら、ワンパターンにならずにそれぞれにクオリティが高いと感じる。今後も作品にも期待が持てるのでは。

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