皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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31841. | RE:RE:RE:おっさん様、『のろわれた潜水服』原作について 弾十六 2021/12/13 04:54 [雑談/足跡] |
空さま、おっさんさま おばんでした 呼ばれるとついついしゃしゃり出てきてしまいます。 まずは おっさんさま おひさしぶりでございます。私も人のことは言えない半分幽霊寄稿者ですが、ゆるりゆるりと続けていきますので、どうぞよろしく。若い人は古いネタに興味があまりなさそうですが、おっさんさまが精力的に古いのを取り上げてくださるので、いつも非常に参考にさせて戴いております。 続きまして 空さま 今回の涙香ねたには唸りました。子供の頃、夢中で『幽霊塔』を読んで(あれは小学館?の少年少女文学全集だったかなぁ、思えば両親が買ってくれたのです… 感謝感謝)、後年、元ネタが見つかったよ、という報に接して、でもそういう調査はすっかり済んでいるものと思い込んでいました… さてお褒めいただき調子に乗った私も、追跡調査を一つやってみました。 話題の”Une affaire mystérieuse”(出版1878)の新聞連載を、フランス国立図書館(BnF)で探そう!という企画です。なんせBnFは異国の人間にも完全無料で古い新聞をWeb公開してますからね。 Webで検索すると、Le roman est publié d'abord dans le Petit Moniteur Universel du Soir, du 10 juin au 14 août 1869という記述がみつかり、ところがこのページではタイトルがL'homme sans nom (une affaire mystérieuse)となっているのです。ああ、英訳タイトルThe Nameless Manに引っ張られて今フランスでもそういうタイトルで呼ばれてんのかな?と思いました。でもPetit Moniteur紙1869-6-10を見てビックリ。連載タイトルはL’HOMME SANS NOMで第一章(6/10及び6/11)のサブタイトルだけがUne affaire mystérieuseとなっているのでした… 仏WikiにもL’homme sans nomのことは一切書いてなくて、まあ確かに書籍化したときの初版(1878 Dentu)のタイトルはUNE AFFAIRE MYSTÉRIEUSEで間違いないのですが… (これもBnFで無料公開されています… 恐るべし!) Webでboisgobey homme sans nomと調べると、現行のフランス語書籍はこれで流通してるものがありました。 なお調査の途中で、国蕊さんによる清国翻訳の研究「陳冷血による翻訳小説の底本に関する考察」というのが見つかって、江蘇松江(現在の上海市)の出身の陳冷血(本名 陳景韓 1878-1965)は1899-1902に日本で留学、帰国後、新聞界へ、ジャーナリストとして活躍するかたわら、小説の創作と日本語からの西洋小説の重訳にも取り組み、77部の翻訳小説(共訳を含む)を発表した、とのこと。 この論文では作品21として 中国語訳タイトル「怪人」:’時報’1910.8.23-1911.2.14. 日本語訳本:「海底の重罪」(‘都新聞’, 黒岩涙香訳, 1889.1.3-3.10). 原 作:Une Affaire mystérieuse (英訳:The Nameless Man), 1878, Fortuné du Boisgobey. と挙げられています。冷血は結構涙香からの重訳が多かったようです。(15篇) 涙香をアジアの中において考えたことがなかったので、意表を付かれるとともに、深く考えさせられました… いずれにせよ、空さま、きっかけを与えてくださり、大変感謝しております! おっさんさまも復帰されるようで、とても楽しみにしています! |
31840. | RE:RE:おっさん様、『のろわれた潜水服』原作について 空 2021/12/12 23:57 [雑談/足跡] |
おっさん様 追記、おそれいります。 普通は原典まで追求しないですものね。(弾十六さんは別でしょうか) 自分も、伊藤秀雄氏の『黒岩涙香の研究と書誌』を借りてきて読んでいたところ、あれ? "The Nameless Man"の原作は、英語版Wikiでは確か別の…、と気づいたのです。 そこで気になって、他のボアゴベ作品も原作データ・アーカイブにあるものの冒頭部分を読んで伊藤秀雄氏の解説・粗筋と比較してみたところ、うわぁ… Mariage d'inclination(恋愛結婚)1888 その夜、パリのオペラ・コミックに3人の人物がいた。母と娘、そして叔父である。叔父の名前はポール・ノワゼ。彼の亡き兄シャルルは銀行家で、娘の名前はシモーヌである。彼らはシモーヌの見合いの相手を待っていた。 これ、涙香の『美少年』(従来の説では『ゼノビーは何処に』が原作)の書き出し部分じゃないですか。 涙香では、家族の名字は「野瀬」、娘の名は「紫紋」です。 じゃ、『ゼノビーは何処に』はどんな話かというと、 Où est Zénobie? (英語版 Where's Zenobia? でチェック) 1880 現在は賑やかなモンマルトルも、当時は閑散としたものだった。1815年7月2日の夜、二人の男が佇んでいた。一人は背の高い若者、もう一人はずんぐりした年配者である。 脚をケガしていなければ、戦いに行けるのに、なぜ我々はこんなところにいるのかとぼやく若者に、年配者は、「じゃあ、君は何も詳しいことは聞いていないのかい?」 間違いなく、涙香の『活地獄』(従来の説では "Le bac"(渡し船))です。 "Le bac" については、冒頭部分だけでは、該当作があるかどうかわかりませんでした。 簡単にチェックしただけで(仏語Wikiのデータ・アーカイブへのリンクが少ないおかげもありますが)、芋づる式に出て来てしまったことには、正直驚いたのですが、涙香の原作研究については、現在どうなっているのでしょうね。 |
31837. | RE:おっさん様、『のろわれた潜水服』原作について おっさん 2021/12/12 12:13 [雑談/足跡] |
空さんへ いろいろあって、すっかり幽霊投稿者と化してしまいましたが…… 生きてます。このサイトも、折りにふれ目を通してきました。お気にかけていただき、有難うございます。 おまけにフォルチュネ・デュ・ボアゴベに関する、貴重な情報をご提供いただき、感謝、感謝であります。 >『海底之重罪』は従来、ボアゴベの1889年作 "Le plongeur"、英語訳名 "The Nameless Man" の翻案だとされていましたが、そうではありません。ボアゴベの英語版Wikiには、"The Nameless Man" の原作は、"Une affaire mystérieuse"(1878) となっているのです。英語版データ・アーカイブへのリンクもあるので、冒頭をちょっと読んでみたところ(……) >この冒頭、間違いなく涙香の『海底之重罪』と、またおっさん様が書かれている『のろわれた潜水服』あらすじとそっくりです。つまり、『のろわれた潜水服』の原作は "Une affaire mystérieuse" であって、"Le plongeur" ではないことになります。"Le plongeur" は、フランス語版Wikiにデータ・アーカイブへのリンクがあったので確認してみたところ、少なくとも冒頭部分はシャンティイー(パリの北約70kmぐらい)の森の美しさが書かれていて、まるっきり別物でした。 いやあ、現物に当たることの重要さは承知していましたが、フランス語は守備範囲外とばかり、孫引きのデータで済ませていたのが恥ずかしい。 今回の空さんの発見は、広くミステリ・ファン(特にフランス作品や涙香に関心のある層)のあいだで共有されるべきですね。 どこかでボアゴベを出すことがあれば、その「解説」に盛り込んで欲しいなあ。小生自身には、まったく何の力もありませんが、個人的に興味をもってくれそうな編集者は、約一名、知っていますから、次にメールする機会にでも、空さんのお名前と一緒に、こんな発見がありましたよ、と伝えておくことにします。 ひとまず本サイトの、『のろわれた潜水服』のレヴューには、「追記」として、空さん情報を記載させていただきました。ご確認ください。 またムズムズと投稿熱が高まってきました。 小手調べに、ちょっと軽いものを一本、早めにアップします。 来年には、もうちょっと積極的に参加できるよう、頑張りますので―― あらためて、他の投稿者の皆さまも、どうかよろしくお願いいたします。 おっさん拝 |
31833. | おっさん様、『のろわれた潜水服』原作について 空 2021/12/11 15:09 [雑談/足跡] |
おっさん様へ 最近しばらく本サイトでお見かけしませんが、いかがお過ごしでしょうか。 おっさん様が評を書かれていたボアゴベ『のろわれた潜水服』(涙香の『海底之重罪』)の原作について、判明したことがありましたので、お知らせいたします。 最近、黒岩涙香をいくつか読み、またフランス古典ミステリにも興味を持ってボアゴベも調べていたところ、とんでもないことがわかりました。 『海底之重罪』は従来、ボアゴベの1889年作 "Le plongeur"、英語訳名 "The Nameless Man" の翻案だとされていましたが、そうではありません。ボアゴベの英語版Wikiには、"The Nameless Man" の原作は、"Une affaire mystérieuse"(1878) となっているのです。英語版データ・アーカイブへのリンクもあるので、冒頭をちょっと読んでみたところ、以下のような内容でした。 1846年9月、サントロペの海岸を二人の税務官が警備していた。 穏やかな日だった。海の青さの中、水扁線上にポツンと黒い点が見えた。1時間も経つと、その黒い点は大きくなり、ボートであることが明らかになった。ボートには一人の男が乗っていて、海岸に近づいてきていた。男は税務官たちに気づかず、岸にボートを着けた。 この冒頭、間違いなく涙香の『海底之重罪』と、またおっさん様が書かれている『のろわれた潜水服』あらすじとそっくりです。つまり、『のろわれた潜水服』の原作は "Une affaire mystérieuse" であって、"Le plongeur" ではないことになります。"Le plongeur" は、フランス語版Wikiにデータ・アーカイブへのリンクがあったので確認してみたところ、少なくとも冒頭部分はシャンティイー(パリの北約70kmぐらい)の森の美しさが書かれていて、まるっきり別物でした。ちなみに "Le plongeur" には "scènes de la vie sportive"(スポーツ生活の数場面)というサブタイトルがついていて、過去の復讐譚にはふさわしくありません。 データ・アーカイブ等が充実してきたので、かなり簡単に涙香の原作も確認できるようになっていると思いますが、原作探し、まだまだ確認修正の余地がありそうです。 |