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Tetchyさん
平均点: 6.73点 書評数: 1590件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.2 7点 呪われた町- スティーヴン・キング 2016/09/12 23:08
キング2作目にして週刊文春の20世紀ベストミステリランキングで第10位に選ばれた名作が本書。そんな傑作として評価される第2作目に選んだテーマはホラーの王道とも云える吸血鬼譚だ。

本書の主役はこの町であり、その住民たちである。従ってキングは“その時”が訪れるまで町民たちの生活を丹念に描く。彼ら彼女らはどこの町にもいるごく当たり前の人々もいればちょっと変わった人物もいる。登場人物表に記載されていない人々の生活を細かくキングは記していく。
これらの点描を重ねて物語はやがて不穏な空気を孕みつつ、“その時”を迎える。
このじわりじわりと何か不吉な影が町を覆っていく感じが実に怖い。正体不明の骨董家具経営者がマーステン館に越してきてから起きる怪事件の数々。キングは吸血鬼の存在を仄めかしながらもなかなか本質に触れない。ようやく明らさまに吸血鬼の存在が知らされるのは上巻300ページを過ぎたあたりだ。それまでは上に書いたように町の人々の点描が紡がれ、そこに骨董家具経営者の謎めいた動きが断片的に語られるのみ。それらが来るべき凶事を予感させ、読者に不安を募らせる。

キングの名を知らしめた本書は今ならば典型的なヴァンパイア小説だろう。物語はハリウッド映画で数多作られた吸血鬼と人間の闘いを描いた実にオーソドックスなものだ。しかし単純な吸血鬼との戦いに人口1,300人の小さな町セイラムズ・ロットが徐々に侵略され、吸血鬼だらけになっていく過程の恐ろしさを町民一人一人の日常生活を丹念に描き、さらにそこに実在するメーカーや人物の固有名詞を活用して読者の現実世界と紙一重の世界をもたらしたところが画期的であり、今なお読み継がれる作品足らしめているのだろう(今ではもうほとんどアメリカの書店には著作が並んでいないエラリー・クイーンの名前が出てくるのにはびっくりした。当時はまだダネイが存命しており、クイーン作品にキング自身も触れていたのだろう)。

吸血鬼カート・バーローがどんどん町の人々を吸血鬼化していき、ヴァンパイア・タウンにしていくところに侵略される恐怖と絶望感をもたらしている、ここが新しかったのではないか。従って私は吸血鬼の小説でありながらどんどん増殖していくゾンビの小説を読んでいるような既視感を覚えた。

また本書の恐ろしいところは町が吸血鬼に侵略されていることをなかなか気づかされないことだ。彼らは夜活動する。従って昼間は休息しているため白昼の町は実に平穏だ。いや不気味なまでに静まり返っている。人々はおかしいと思いつつも明らさまな凶事が起きていないため、異変に気付かない。しかし夜になるとそれは訪れる。近しい人々が訪れ、赤く光る眼で魅了し、仲間に引き入れる。この実に静かなる侵略が恐怖を募らせる。これは当時複雑だった国際情勢を民衆が知ることの恐ろしさ、知らないことの怖さをキングが暗喩しているようにも思えるのだが、勘ぐりすぎだろうか?

古くからある吸血鬼譚に現代の風俗を取り入れてモダン・ホラーの代表作と評される本書も1975年に発表された作品であり、既に古典と呼ぶに相応しい風格を帯びている。それを証拠に本書を原典にして今なお閉鎖された町を侵略する吸血鬼の物語が描かれ、中には小野不由美の『屍鬼』のような傑作も生まれている。

No.1 7点 キャリー- スティーヴン・キング 2016/06/12 12:46
本書がこれほど好評を持って受け入れられたのは普遍的なテーマを扱っていることだろう。いわゆるスクールカーストにおける最下層に位置する女生徒が虐められる日々の中でふとしたことからプロムに誘われるという光栄に浴する。しかし彼女はそこでも屈辱的な扱いを受ける。ただ彼女には念動能力という秘密があった。
この単純至極なシンデレラ・ストーリーに念動能力を持つ女子高生の復讐というカタルシスとカタストロフィを混在させた物語を、事件を後追いするかのような文献や手記、関係者のインタビューなどの記録を交えて語る手法が当時は斬新で広く受けたのではないだろうか。

さてとにもかくにも主人公キャリーの生き様の哀しさに尽きる。
初めて彼女が母親の反対を押し切り、自分の意志で選択した行動。それが大惨事の引き金になるという皮肉。報われなかった女性にキングは壮絶な復讐と凄絶な死にざまを与える。

さらに本書が特異なのは女性色が非常に濃いことだ。それは主人公キャリーが女性であることから来ているのだろうが、キャリーを虐めているのは男子生徒ではなく女子生徒ばかりでキャリーの生活の障壁となっているのも前述のように狂信的な母親だ。
さらに生理という女性特有の生理現象がキャリーの念動能力の発動を助長させ、またキャリーの死を看取ったスージー・スネルがその直後生理になっているのも新たなる物語という生命の誕生を連想させ興味深い。

既に物語の舞台であるメイン州チェンバレンで大量虐殺が行われたことは物語の早い段階で断片的に語られる。従って読者は物語の進行に伴い、訪れるべきカタストロフィに向かってじわりじわりと近づいていくのだ。しかしながら1974年に書かれた本書で描写されるキャリーの虐殺シーンはいささかおとなしい印象を受ける。
いわば歩く無差別テロの様相を呈しているのだが、今日のこのあたりの描写はもっと強烈だろう。血の匂い立つような細かくねちっこい描写や痛みを感じさせるほどの迫真性に満ちた生々しさが本書には足りない。

今では実にありふれた物語であろう。が、しかし物語にちりばめられたギミックや小道具はやはりキングのオリジナリティが見いだせる。“to rip off a Carrie”などという俗語まで案出しているアイデアには思わずニヤリとした。

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