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Tetchyさん
平均点: 6.73点 書評数: 1567件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.13 8点 エラリー・クイーンの冒険- エラリイ・クイーン 2009/03/24 20:15
エラリー・クイーンが活躍する短編集。しかし短編ながらもその謎とロジックは全くレベルを下げていない。いやむしろ短編だからこそ一切の無駄を排しており、さらにロジックに磨きが掛かったような印象を受ける。

また短編の中にはそれまでの長編の雛形ともいうべき作品が見られる。
例えば冒頭の「アフリカ旅商人の冒険」では複数の推理合戦というトライアル&エラーの趣向が盛り込んであり、これは国名シリーズでは『ギリシア棺の謎』と同じ趣向である。「一ペニイ黒切手の冒険」では稀覯本の紛失と高額な古切手を巡る切手収集家の事件という設定は『ドルリイ・レーン最後の事件』と『チャイナ・オレンジの謎』を思い浮かべるし、「ひげのある女の冒険」の1つの屋敷の中で展開する遺産相続の軋轢でぎくしゃくする金持ちの子供らの息詰まるような関係、そして突然訪れる火事などは、名作『Yの悲劇』を思わせる。
「見えない恋人の冒険」で出てくる墓掘りシーンは『ギリシア棺の謎』を思い出した。また『フランス白粉の謎』でクイーンが試みた、最後の一行で犯人の名が明かされるという趣向は本作では「チークのたばこ入れの冒険」と「七匹の黒猫の冒険」と2作で使われている。しかし『フランス白粉~』ではこの趣向に無理を感じたが、この2作では短編であるゆえにスピード感があり、引き締まって演出効果が良く出ている。

特に「三人のびっこの男の冒険」、「見えない恋人の冒険」、「チークのたばこ入れの冒険」、「ガラスの丸天井付き時計の冒険」、「七匹の黒猫の冒険」の諸作でみられる不可解な謎、各所に散りばめられた証拠・証言の提示ならびにそれらから解明されるロジックの美しさは実に素晴らしく、これらが収められている後半では出来が尻上がりに良くなっている感じがした。

『シャーロック・ホームズの冒険』はオールタイムベストに必ず選出されるのに、なぜ本作は上がらないのか、実に不思議だ。もっと評価されていい短編集だと声高に云いたい。

No.12 4点 チャイナ蜜柑の秘密- エラリイ・クイーン 2009/03/06 22:18
これははっきり云ってバカミスだろう。こんな真相、日本人が解るわけがないし、かなり無理がある。
なんせたった1時間で一室の家具―本棚やタンスなどに加え、壁時計などの調度類をも逆さまにするということが現実味に乏しい。
この真相はかなり乱暴だと云えよう。
クイーンの信望者である作家法月綸太郎のデビュー作『密閉教室』に、担任の教師が本作を非難するシーンがある。確か、有名な作品ということで読んでみたが、一体あれは何なんだ、バカバカしいといった感じの非難だった。読書中、幾度となくそのシーンが想い出されたが、それがそのまま私の言葉になってしまった。

No.11 4点 シャム双子の秘密- エラリイ・クイーン 2009/01/25 19:18
カナダからの休暇旅行の帰りに山火事に出くわし、アロー・マウンテン山頂に聳え立つ館へ避難を余儀なくされるクイーン親子。
そこで殺人事件が起き、警察が来られない事で捜査を一任されるというクローズト・サークル物。
クイーンの国名シリーズでも異彩を放つ本書は、なんと定番の“読者への挑戦状”が挿入されていない。
それでも私は推理に挑戦したが、確かにこれは挑戦状を挟めないなぁ。

クイーン親子が館に辿り着く前半は、怪しげな館の住人たち、道中ですれ違った車の存在を誰も知らないこと、クイーン警視が見た蟹の化け物、などなどクイーンらしからぬ怪奇趣味が横溢してあり、新機軸かと思われたが、それらの謎はいとも簡単に明かされ、その後はオーソドックスなミステリに終始している。
もっと魔物の仕業としか思えない殺され方とか、曰くありげな館に纏わる因習など、カーなら絶対に盛り込むであろうオカルト趣味が持続すればよかったのだが、あまりに平凡すぎるし、エラリーは何度も推理を間違うし、最後の決定打は理論的にも押しが弱いしと、物語が進むに連れてスケールが尻すぼみしていった作品だ。

No.10 4点 アメリカ銃の秘密- エラリイ・クイーン 2009/01/04 19:07
まず驚いたのは登場人物表に載せられた人数の少なさ。挑戦状が入っているのにも関わらず、この少なさに戸惑いを感じた。

今回は何か掴みようのないままに物語が進行していく。なんだか作者クイーン自身が暗中模索しながら書いている、そんな印象を受けた。事実、最後の真相解明を読んでも、ところどころ歯切れが悪い。

特に真犯人の真相はありえんだろうと思う。クイーンのミステリは指紋の検証、歯型の採取など通常行う警察の捜査を行わない、ロジックに特化したミステリと認識しているので、そこらへん云々については云わないまでも、あれだけ知っている人が間近に見ていてあの真相はないだろう。

また殺人方法も頭で考えただけで採用したという、至極現実味のない方法である。どう考えても神業としか思えない。

しかし指紋や歯型を利用した科学捜査を行わないながらも、映像による犯行の検証や弾道学を応用した謎解きをやるのだから、混乱して仕方がなかった。
もう作者の都合のいい捜査技術のみを使用している、実に恣意的なミステリだな、こりゃ。

唯一見つからない拳銃の隠し場所に関しては、「おおっ、なるほど」と思ったが、それまで。
やはり国名シリーズ全てが名作ではないということか。

No.9 8点 レーン最後の事件- エラリイ・クイーン 2008/11/27 18:11
今までの悲劇3作品と違い、本作はシェイクスピアの稀覯本探しと失踪人捜しといった、殺人事件の謎を解く本格ミステリというよりもロスマクなどの私立探偵小説に似たテイストで物語が繰り広げられる。
謎が1つ解けると、また新たな謎が出てきて、さらに捜索を進めると新たなる人物が次々に出てくるので、クイーンの諸作のような趣向で読むと何が謎なのか、焦点がぼやけてしまう。

しかしそれでもやはりクイーン!カタルシスを最後にもたらせてくれた。
特に冒頭の人物の正体を解き明かすロジックは、またこの手かと思ったが、実に論理的で淀みがない。こういう一見推理とは無関係だと思われる情報が実は有効な手掛かりだったというテクニックがクイーンは心憎いほど巧い。

しかしオイラも負けてはいないぞ!本作でサム元警視に預けられた封筒に書かれたあの暗号、見事解き明かしましたぞ!

で、最後の事件に相応しい結末を迎えるのだが、その動機となる隠された謎がちょっと弱いのが難点か。これは家名を重んじる国民だからということで理解するしかないのだろうけど。

たった2年で書かれた4作しかないこのシリーズだが、その探偵の名と作品は今後も残り続けるに違いない。この結末で逆にレーンという人物の謎が深まった、そんな思いをした。

No.8 7点 Zの悲劇- エラリイ・クイーン 2008/10/26 14:07
前2作から打って変わって物語はサム警視の娘ペイシェンスの一人称叙述で語られることから悲劇四部作において、変奏曲ともいうべき作品になるだろう。

巷間の評価が本作についてかなり低いのは、やはりこのペイシェンスというキャラクターが妙に浮いている感じを受けるのと、前2作に比べ、タイトルに掲げた「Z」の意味がインパクトに欠けるからだろう。

私はといえば、前2作に比べるといささか迫力に欠けるのは巷間の評価とは一致するものの、結末まで読んだ今では、最後怒濤の如くレーンが開陳する弁証法による消去法で瞬く間に容疑者が絞られ、1人の犯人が告発されるあたりはロジックの冴えと霧が晴れていくカタルシスが得られ、個人的には凡百のミステリよりも優れており、楽しめた。

No.7 10点 Yの悲劇- エラリイ・クイーン 2008/09/20 19:58
21世紀の世になり、この齢までかなりの小説を消化してきた中で、ようやく着手。
それでもなお、面白く読めた。
もう純粋にロジックの畳み掛けに酔わせていただいた。この作品のロジックにはクイーン特有の美しさというよりも、論理を超えた論理という凄味を感じる。

確かに平成の世、21世紀の世において、この犯人像はもはや目新しい物でもなく、驚くべきものでもないだろう。
しかし、本作は単なる誰が殺ったのか?を当てる犯人当てだけに終わらない、そこに至るまでの様々な事件についての論証が物凄い。
未だに「推理小説で凶器といって何を思い浮かべるか」という質問があったときに、「マンドリン」と答える人が複数いるという。それは暗にこの小説で扱われた凶器がその人たちの記憶に鮮明に残っているからなのだが、これは確かにものすごく強烈に記憶に残る。いやむしろ叩き込まれるといった方が正鵠を射ているだろう。小学校で習う掛け算の九九や三角形の面積の出し方、円周率が3.14であることと同じくらい、死ぬまで残る記憶になるのではないか。それほど、このロジックは凄い。

そして私はこれは未完の傑作だと考える。なぜなら冒頭のヨーク・ハッター氏の真相が明かされていないからだ。
ヨーク・ハッター氏は果たして自殺だったのか、それとも?
なぜヨークは失踪したのか?
まだ『Yの悲劇』は終わらない。

No.6 8点 Xの悲劇- エラリイ・クイーン 2008/08/27 18:55
正直、犯人の名前を読んだ時は、最初拒絶反応を起こした。
ちょっとありえないだろう、と。
しかし、後の推理で明かされるロジックの素晴らしい事!
3つの殺人が描かれているが、謎解きのロジックは2番目の殺人が好きだ。
この作品への点数はそれが大半を占める。
あとタイトルの『Xの悲劇』もきちんと意味があって付けられているのが最後の最後で解る。
特段、すごいものではないが、記憶に残るエピソードである。

No.5 7点 エジプト十字架の秘密- エラリイ・クイーン 2008/08/22 15:20
アメリカの東半分をエラリーが犯人を追って駆け回る云わば「動のクイーン」が本書のウリとなるだろうか。
T型の十字架に磔にされた首のないT型の死体という今までにないショッキングな見立て殺人が、本作の、シリーズから一歩抜け出ようとする作者の強い意志を感じるのはよいとしても、首なし死体の首のない理由がごく単純だったのが、ちょっと残念。

しかし今回も挑戦は敗北。あの太字の一行に「参った!」と唸らされた。それでもやはり不満はある。

なぜトマス・ブラッドは犯人とチェッカーをやるために、家族のみならず、執事ら使用人らも含めて人払いしたのか?

またスティヴン・メガラの殺害について、桟橋にあったボートを盗んで犯行に及んだ事までは解っているが、どうやってその桟橋まで犯人は侵入できたのか?まだ警察はブラッドウッド界隈を見張っており、メガラが犯人をおびき寄せるべく、警察に警護を解くようにいった事実は、この犯人は知りようがないではないか。つまりこの犯人はそれまでブラッドウッドのどこに潜んでいたのかが全然解らない。

この辺が曖昧なままで終わってしまった。それだけが残念!

No.4 8点 ギリシャ棺の秘密- エラリイ・クイーン 2008/08/21 17:40
今のところ、クイーンの国名シリーズではこれがベスト。
トライアル&エラーがテーマでシリーズ中最長だが、それが作者の自信を窺わせるし、確かに面白かった。

あと、エラリーが大学卒まもないせいか、妙にチャラい(笑)。

今回も内容的に色々な不満があるが、今回は鮮やかに騙されたので良しとしよう。

No.3 7点 オランダ靴の秘密- エラリイ・クイーン 2008/08/20 13:44
本作においては最後犯人を2人まで絞り込む事ができたが、最後の最後で間違えてしまった!
ババ抜きで2枚残ったカードを眼の前に提示され、最後にババを引いてしまった、そんな感じだ。
しかし今回は納得行きます。天晴、クイーン!

しかし、犯行に使った白衣、ズボンならびに靴、そして決定的なのはマスクまで残しているのだから、そこから唾液や髪の毛を採取し、鑑定すれば犯人はロジックを駆使せずとも絞り込めると思うのに、今回もそういった動きは皆無。
つまりクイーンって、本当にロジックで解き明かすミステリなのだなぁ。
もうそういう物なんだと思って、次回から読もう。

No.2 6点 フランス白粉の秘密- エラリイ・クイーン 2008/08/16 20:53
読者への挑戦状以降、怒濤の如く繰り広げられるエラリーの論証を読んだばかりで、しかも想定していた犯人と違っていたこともあり、正直戸惑っている。
以下、グチにも似た感想(思いっきりネタバレ)。









正直、私は犯人はゾルンだと思った。
被害者であるフレンチ夫人は口紅を塗りかけた途中で殺されていたからだ。しかも死亡推定時刻は深夜0時。そんな就寝するような時間に口紅を塗るならば、それは恋人、もしくは浮気相手に会う、もしくはお客に会うぐらいしかないからだ。
そして深夜に会うとなればやはり恋仲だろう。そしてゾルンはフレンチ夫人と密通しているという事実がある。
そしてゾルンは重役の1人だからアパートに出入りしていても何のおかしくもない。明朝の会議に出席するのに、百貨店の中から出社すればいいだけのことである。
とまあ、こんな感じに推理を組み立てた。

しかし、今回の真相は違った。
フレンチ夫人は娘の麻薬常習を直すため、あえて麻薬組織の男と会って娘に一切関わるなと忠告して、殺されたというものだ。

そしてこれを立証するのに、麻薬組織が取引場所の連絡として利用した本の件がある。
これはフレンチ百貨店内の書店の主任が麻薬密売組織の手先の1人であり、その連絡方法として曜日の頭の2文字と同じ綴りを持つ著者の書物の背に鉛筆で取引場所を書いて、他の手先がそれを探し出して、その本を買って情報を手に入れるというシステム(このシステムにも疑問が残る。後で述べる)というもので、それをフレンチの秘書のウィーバーが見つけ、副本をこっそりと持ち去り、フレンチのデスクに置いていたという物だ。そしてそれは5週間に渡る連絡先であり、いつもこの部屋に出入りする人物ならば、それが次回の麻薬取引について致命的であることに気付くだろうから、いつも出入りしている重役連中、秘書は容疑者から除外されるというもの。

これが全然納得行かない。

フレンチが置いていた本は、夫人が殺されて血痕が付いたために処分されたのではなかったのか?
そのために代わりの本としてちぐはぐな本が置かれ、それが件の麻薬取引に使われた本だったのではないか?
そして今回私が推理した点でどうしても噛み合わなかったのがこの点。
犯人が血痕の付いた本を処分しているのに敢えて麻薬取引連絡用の本を代用して置いたのかが全くわからなかった。どこか私は読み違えているのだろうか?
血痕のためにフェルトを交換したブックエンドに支えられていた本とこれは別物なのか?

つまり今回の犯人追及は消去法によって単純にそれら色んな状況を考慮して容疑者の対象から外れた者で残った者は誰か?というだけに過ぎない。
そしてそれを決定付けるのが題名にもなっている「白粉」すなわち指紋検出用の白い粉である。
これなんかそれこそ百貨店でも手に入るのではないだろうか?
そんなに特別な物なのだろうか?

かてて加えて、捜査方法についても2,3つ疑問がある。

まず、現場に残された煙草の吸殻を見て、エラリーがその特徴的な銘柄から、所有者であるバーニスが現場にいたと示唆する点。
これは現在ならば、早計という物だろう。DNA鑑定はなかったにしろ、唾液から血液鑑定をして人物を特定するのがセオリーだ。

次に鑑識による指紋の調査において、現場にクイーン警視の指紋が残されていたと云うシーンだ。
これは明らかにおかしいのでは?
指紋による人物の特定方法が確立されていたのならば、捜査官は自分の指紋を現場につけないよう手袋をするが常識である。これは犯罪を題材に扱いながら、クイーンが、実際の警察の捜査状況を全く知らなかったのではないだろうか?それともこれが当時は常識だった?

3番目は殺害場所の特定方法について。
今回の被害者は致命傷である部位が、損傷したら多量の出血を伴うのに、現場には血痕がさほど残っていなかった事で、他の場所で殺されて、発見現場に遺棄されたことになっている。殺害現場として目星をつけたアパートに行くのだが、全くルミノール反応を使った捜査が行われないのだ。

この辺の事情に関してはクイーンの作品を読むのにこだわらない方がいいのか?
読んでいると単純に事実から真実を導く論理的解決のみが行われており、通常捜査のセオリーが全く出てこないのだが。

そして腑に落ちないのは、本を麻薬取引の連絡として利用した点。上にも述べたがあのシステムはちょっと無理があると思う。
情報交換として利用された本はジャンルも版型も違う。百貨店の広大な本屋の中でただ曜日の頭文字と同じという手掛かりだけで1冊の本を探し出すというのはかなり骨だし、相手が見つける前に誰かがそれを買ってしまう恐れがあるだろう。
作者は連絡を取る前日の夜に情報記入をしており、他の誰かが買って持っていかれるのにも慎重を期していると書いていたが、素直に頷けない。1930年当時は現代ほど本はなかっただろうが、それを差し引いても、これは帰納法に基づく推理の典型的なミスではないか?
主人公同様、蒐書家の作者が本を使ってこんな犯罪を考えましたと、披露したかったようにしか思えなかった。


とまあ、ぐだぐだと長く書いたが結局は悔しさのあまりのグチにしか過ぎないのだろうな。
次作にてリベンジ!

No.1 8点 ローマ帽子の秘密- エラリイ・クイーン 2008/08/15 13:27
このような古典海外本格ミステリをこの年になって読むことに躊躇いがあったが、いやいや面白かった。
国名シリーズ第1作なので、恐らく事件・話自体はかなりシンプルな物であるだろう。
しかし純然たる読者との知的ゲームとしては十分に堪能できた。
おまけに犯人、その他の謎について当てることが出来たのも点数に加味されている。

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