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みりんさん
平均点: 6.67点 書評数: 424件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.22 7点 夢野久作全集 3- 夢野久作 2024/12/13 23:43
夢野久作全集3でようやく夢野久作名義の作品が並ぶ。血生臭い『猟奇歌』から始まり、有名所ではやはり『押絵の奇蹟』『鉄鎚』が素晴らしい。他の傑作選には載っていないマイナー作品ながら『卵』『霊感!』も天賦の才を爆発させており、特に後者は私的夢野久作ベスト10に入りそう。ということで、夢野久作の作家としての本領を味わいたい方には、全集1,2を飛ばしてぜひ本作からお読み下さい。

『あやかしの鼓』 7点
改めて再読すると、お得意の独白体形式ではあるものの、この時点ではまだ独特のカタカナ遣いやリズムがなくて逆に新鮮です。「あやかしの鼓」に込められた執念と憎悪が100年間持続し、聞いた者の心を狂わせていくというドラマはまるで『ドグラ・マグラ』に登場する絵巻物みたいですね。持続時間は絵巻物の10分の1ですが。
あとは江戸川乱歩が酷評したことも有名だそうです。SMの話とか如何にも好きそうなのに意外。

『押絵の奇蹟』 8点
これ大好きです。病を患った女性の半生を書簡体形式で流れるように丁寧に描写することで出生にまつわる"奇蹟"が1%でも起こり得そうと納得してしまう。男性視点の独白体だと一種の名人芸のように諧謔的になることが多いけど、女性視点の本作はその清純さに心を打たれる。女性視点の独白体はこれと『少女地獄』以外にあったかな?

『童貞』 5点
恋愛に疎い男性は話しかけられるだけで、相手に好意があると勘違いしやすく、相手のことを盲目的に好きになるけれども、一度拒絶されると魔法が解けるというよくあるお話か。う…はるか昔…身に覚えが…

『鉄鎚』 7点
これも地味ながら面白い。再読して印象に残ったのが、究極のニヒリズムというか傍観主義とでも呼ぶべきなのか、戦局をひたすら眺めて楽しむだけの主人公です。何気にこいつ探偵小説の愛読者なんですよね(笑) 早すぎた虚無への供物。

『怪夢』 5点
「工場」や「病院」はそこそこ好きなんですが、どういう状況なのかはよく分かりませんね。

『ビルディング』『縊死体』『月蝕』『微笑』 採点不能
どれも5ページに満たない短編。『怪夢』と同じく怪奇小説が好きな人は気にいるでしょう。月に女性が宿る『月蝕』が好き。

『人の顔』 6点
怪奇小説と見せかけたユーモア小説。これを読むたびに壁の模様や物音にビビっていた幼き自分を思い出します。

『卵』7点
卵が孵ると幻が現実になる。三太郎は現実を見届けることを放棄し、露子との甘美な幻想世界に閉じこもろうとした。ということらしい。隠れた良作と思う。

『夫人探索』 6点 
夢野久作ってこういう変なことばっかり考えてんだろうな…笑

『奥様探偵術』 5点
男の浮気性はいつの時代も変わりません。実に素晴らしい作戦です。

『霊感!』 8点
他の傑作選などには収録されているのを見たことがないけれど、私的夢野久作ベストテンに入るくらい面白い。まさに顎が外れるほどのオチを堪能あれ!

『悪魔祈祷書』6点
『押絵の奇蹟』で言っていた名人芸のような男視点の独白体はまさかの『悪魔祈祷書』が初出だったようです(笑) 夢野久作といえばコレですね。これを機に『死後の恋』や『人間腸詰』 が生まれたんだなとしみじみ… 悪魔の聖書、真偽はともかく、アイデアの使い捨てはもったいない。

『白菊』 6点
脱獄囚がメルヘンの世界に迷い込むお話。やはりまだこの作品の魅力を完全に理解するには至らないというのが正直な感想。

『髪切虫』 6点
『月蝕』と少し共通点を感じないでもない。

『煙を吐かぬ煙突』 6点
記者がスキャンダルをネタに強請りを続けていると想像を絶する巨悪に遭遇してしまうという記者ならではのお話。たしか『少女地獄』にも収録されていましたね。

『涙のアリバイ』 5点
手だけで表現した映画を文字に書き起こすというよくわからない手法でありながら、内容自体は至って普通の探偵小説。

『黒白ストーリー』 4点
「なまけものの恋」はまあまあ 他は明日には忘れてそう。

No.21 5点 夢野久作全集 2- 夢野久作 2024/10/15 00:36
夢野久作が記者時代に記した関東大震災の1年後の東京のルポルタージュ。前半には江戸っ子の人口減少問題について論じられます。そこには「一般に或る人種が文化の絶頂に達すると人口が減少する」と書かれています。これには驚きました。この言説が1924年で既に議論の的になっていることにです。現代において、少子化の原因は様々ですが、先進国の大半が抱える問題であることを考慮すると、やはり文化の絶頂であることかなあと。文化の発展によって人間がゆとりを持ち、子孫の繁栄以外の方法で幸福を追求できるようになったことが1番なのではないでしょうか。と、こんな黴の生えた議論が丁度100年前から既に交わされていたのだと考えると感慨深いです。そして結婚相談所(当時は結婚媒介所)が存在していたことにも衝撃です。入会料5円、会見料5円、結婚成立料30円。現代基準ではどのくらいなのでしょう。本書を読まなければ、私は100年前の東京の姿など知る由もなかったでしょう。100年で科学技術は恐ろしく進化を遂げましたが、人間の性質というものはたいして変わりません。今とは何もかも違う、大昔だと思っていた100年前の日本にも現代とさほど変わりのない生活や慣習があったのだと大変勉強になりました。
いつもの怪奇小説をお求めの方はスルー推奨の巻です。

No.20 6点 夢野久作全集 1- 夢野久作 2024/08/10 21:00
夢野久作が『あやかしの鼓』で中央文壇にデビューする前、童話作家杉山萠圓名義で執筆した童話が19作収録されています。この全集から夢野久作を読んでみよう!って方に待ち受けるのが『白髪小僧』かと思うとなかなか不親切な全集だと思います(笑) 『ルルとミミ』『瓶詰地獄』『死後の恋』あたりから無難に入ることをおすすめします。

『白髪小僧』はお話し好きの美留女姫が自身の未来について予言された本と出会い、次第に現実と虚構が溶け合っていく様はもはや<いつもの>です。夢という主題だけでなく、『犬神博士』のチイような性別の曖昧さというのも既に隠れテーマとして存在しており、この頃からある程度書きたいものが決まっていることが窺い知れます。プロットが複雑で、多くの謎が解明されないまま尻切れトンボのような終わり方は未完と行っても差し支えなく、失敗作でしょう。アンソロジーに収録されない理由もわかります。ちなみに挿し絵は夢野久作の自作らしい。やたらうまい…
個人的に未読の中では『オシャベリ姫』が良かった。オシャベリで貰い手がいない姫がオシャベリで痛い目に遭い、オシャベリで生涯の人を見つけるという喜劇的シンデレラストーリー。中編『豚吉とヒョロ子』は片端者同士の逃避行。トンデモ医者が出てきて掻き回すコメディ寄りの作風で、夢Qにしては綺麗にまとまっている中編の良作。しかし、再読を含めるとやはり1番は『ルルとミミ』です。乙女の本棚シリーズで出会ってから読み返すたびに評価を上げています。

No.19 7点 犬神博士- 夢野久作 2024/06/05 02:35
1931〜1932年に福岡日々新聞(現:西日本新聞)に連載されていた夢野久作の数少ない長編(多分これとドグラ・マグラだけ)の1つとのことです。てっきり未完なのは連載中に亡くなったからだと思っていましたが、夢野久作の享年は1936年なので、単に執筆が滞ってただけなのかな?夢Qの中では今までで1番読みやすく、エンタメ性も抜群!349ページ4h35min読了。

巻末解説では推理小説でもなければ怪奇小説でもなく、ましてや純文学でもない。何ものでもないことによって、何ものでもある、とかっこよく評されています。
私がどう読んだかというと究極のキャラ萌え小説として読みました。チイ(=犬神博士)がねぇ、ただひたすら愛しくて可愛い。角川のアニメ調の表紙は賛否両論あるだろうけど、私は好きです。この格好で男の子ですよ。夢Qは女装男子萌えコンテンツの特許申請していいと思う。
ちなみにチラっとですがギャンブル漫画のような展開もあります。『賭博破戒録カイジ』の班長戦のようなことを1930年代で既に先取りしていることに感動しました(笑) こちらも特許申請していいと思う。
チイの冒険活劇として始まり、最終的には筑豊炭田の利権争いに関する一件で物語は終わります。未完にしては結構キリが良いのですが、殺人事件の真相やキチガイ博士と呼ばれるようになった経緯など、他にも謎は多く残っているので、続きを誰か書いてください(泣)

No.18 8点 夢野久作 あらたなる夢- 夢野久作 2024/05/29 00:59
これはとてもとても楽しい。手元に置いておきたい一冊。
メモに残っていた『猟奇歌』の未発表作品、『ドグラ・マグラ』の草稿、夢野久作の単行本未収録エッセイなど、全集にもないような代物が載っています。『ドグラ・マグラ』の草稿はきちんと読み取れませんが、完成版と結末部分が大きく違うようです。
その他エッセイなどをパラ読みしましたが、やはり目玉は江戸川乱歩の夢野久作評でしょう。夢野久作の一周忌に同氏を偲ぶ会にて、乱歩の講演した内容が記されています。

江戸川乱歩が貶した夢野作品と評
『あやかしの鼓』→ちょっとばかり達者な緞帳芝居のよう
『ドグラ・マグラ』→わけのわからぬ小説

江戸川乱歩が褒めた夢野作品と評
『押絵の奇蹟』→全時代に対するあこがれが満ち溢れて見える。
『氷の涯』→謎の扱い方が独特でチェスタートンを彷彿させる。幕切れも見事な傑作。
乱歩は『押絵の奇蹟』と『氷の涯』が2つ並んで夢Qの最高傑作であると断言していますが、他にも『死後の恋』『瓶詰地獄』『人の顔』『白菊』などにも感心したと言っています。その他、夢野久作の探偵小説観についても軽く触れていました。

ちなみに夢野久作の江戸川乱歩評も読めますよ(青空文庫で)
それによると『心理試験』『D坂の殺人』『二銭銅貨』などは構想や行文の苦心が一つ残らず、西洋人の模倣にしか見えない。今後乱歩は二度と読まないと決心したとクソミソに貶しています(笑)
その後、『白昼夢』を読んでから乱歩の偉大さを認識し、『陰獣』『人間椅子』『赤い部屋』『屋根裏の散歩者』などで評価を上げたかと思うと、『パノラマ島奇譚』『蟲』には失望するなど、夢Q独特のこだわりがあるようでした。江戸川乱歩と夢野久作って「ポオ信者」という共通の信仰対象があるだけで、ふたりっきりになると気まずい関係だったんだろうな(笑)

あとエッセイの中では医学者・養老孟司の『ドグラ・マグラの科学』が大変魅力的でした。作中で提唱される「胎児の夢」「脳髄論」が当時としては正鵠をいており、現代の生物医学の予言までも含んでいることを説明しています。それだけでなく、養老孟司は『ドグラ・マグラ』の主題は時間であり、時間について論理的かつ具体的に思考し、苦しんだ結果生み出されたのが傑作『ドグラ・マグラ』であると言います。確かにあの物語は時計で始まり、時計で終わる。『ドグラ・マグラ』という小説の新たな読み方が垣間見えた気がして、また読み返したくなった。
言いたいこと全部書くとキリがないのでこのへんで…

No.17 5点 ユメノユモレスク- 夢野久作 2024/05/21 00:44
夢野久作の恋の奇想曲(ユモレスク)がテーマで『死後の恋』『押絵の奇蹟』『ココナットの実』『瓶詰地獄』の4つの恋愛小説が収録。4人の銅版画家が幻想世界へと誘うカラー扉をそれぞれ担当しています。この作品集のこだわりである旧字体や歴史的仮名遣い(夢野久作の文章の完全再現!)をじっくり堪能しながら、300ページ4h17min読了。

しかしながら、これはあまりおすすめしませんね。作品のチョイスはまあいいとして、挿画が『死後の恋』以外イマイチです。まあ私は芸術を正当に評価できるような審美眼は待ち合わせていませんが…4000円でこれを買うなら、他の傑作選で良いし、絵を楽しみたいのなら乙女の本棚シリーズの方を強くお勧めします。
褒めるべきところはフォントサイズ!非常に読みやすい!創元推理文庫は見習ってほしい!(私怨)

にしても短編の未読作が減ってきたな。そろそろ夢野久作全集とやらでマイナー作品拾っていくべきか。

No.16 7点 夢野久作 ちくま日本文学- 夢野久作 2024/05/14 20:12
私はあまり再読をしません。未知の衝撃を求めて、未読の作品に手を出してしまいます。しかし夢野久作は例外です。昨日読んだとしても、今日また読むと新たな印象を受けたり、新たな解釈が生まれたりします。読めば読むほど味が出るスルメ作家ですね。一読では私の理解が及ばないだけという説もあります(苦笑)

夢野久作の実の父親にして、政界の黒幕・杉山茂丸について語る実話が面白かった。まさにこの親にしてこの子ありですね。父親は「息子の小説は最初の一二行読むうちに、何のことやらわからなくなる」と評していたそうです笑 
著者は能や歌舞伎に精通しているので、謡曲のすゝめエッセイ『謡曲黒白談』もついていますが、しっかり夢Qらしいオチがあります(実話かは不明)。
『猟奇歌』とは雑誌『猟奇』の編集者が立ち上げた短歌のジャンルで、色々な作家が投稿していたそうですが、いずれもレベルは低く、夢野久作の独壇場となっていたそうです(笑) 童話や怪奇小説だけでなく、詩や短歌まで軽くこなす多才さに驚きます。

おそらく本書は、自由闊達に趣味を楽しんできた夢野久作だからこそ書けたような個性あふれる作品をあえてチョイスしていると思われます。『いなか、の、じけん』『瓶詰地獄』『押絵の奇蹟』『氷の涯』『人間腸詰』『猟奇歌』『謡曲黒白談』『杉山茂丸』の8編。
前半6作はメジャー作品が並びますが、『死後の恋』はさすがに入れて欲しかったかなあ…

No.15 5点 夢Q夢魔物語-夢野久作怪異小品集- 夢野久作 2024/05/13 23:01
「真の幻想家的資質をそなえた作家」たる夢野久作の知られざる本領を提示すべく選ばれたアンソロジーとのことです。「怪異小品集」という名の通り、怪奇系短編や童話、連作短歌、エッセイ、ルポルタージュに至るまで合計60作品収録された短編集。他の傑作選などには載らないような小品ばかりで、60作品中既読だったのは『髪切虫』『瓶詰地獄』『縊死体』『青ネクタイ』『崑崙茶』のわずか5作品と、痒いところにまで手が届くセレクトでした。
気に入ったのを4つ挙げると『正夢』『虫の生命』『病院』『ツクツク法師』 何度読んでも意味がわからないお話もあれば、逆になんの捻りもないフツーのお話もあり、玉石混交でしたね。

1つ1つは5分足らずで読める短いものばかりなので、トイレに置いておくと丁度いいな。ペラペラめくって目に止まったのを読めば、毎朝の快便の助けになること間違いなし!

No.14 6点 冥土行進曲- 夢野久作 2024/05/08 19:49
夢野久作が1932〜1934年に発表した短編が8編収録。未読の6編の感想を。

狂人は笑う 5点
「青いネクタイ」と「崑崙茶」の2つ 
相変わらず狂人の解像度が高いですね。

縊死体 5点

焦点を合わせる 6点
スパイ小説。正直騙し合いが複雑すぎてよく分からなかったので、再読してようやく掴めた。痛快なラストに至るまでの前フリも結構面白い。

斜坑 6点
スカッとしますね。にしても、三津田信三『黒面の狐』もそうだが、炭坑って薄暗いのに小説だとやけに映えるね。もっとこの舞台を採用した方が良いのでは?

爆弾太平記 7点
舞台は韓国併合時の釜山周辺の島。
爆弾漁業とはその名の通り爆弾を水中で破裂させ、水面に浮かび上がった魚を狩る方法。この方法は生態系の破壊を招き、結果的に不作に陥るという不正漁業。実際にこういう漁業が横行していたとは知らなかったので、勉強になりました(日本史で習うのかな?) 轟雷雄は50万の漁民の思いを背負い、不正漁業を取り締まるべく行動を起こします。結果的には9名の死者を出す大事件へと発展するのですが、不正漁業の裏で密かに行われていた権力者達の悪辣極まる趣味が暴かれるのでした。轟雷雄視点の独白体形式で冒険譚のような形で語られますが、こういうのを書かせたらやはり抜群に面白い。

冥土行進曲 6点
ベタな復讐物語かと思いきやドタバタ・ギャング・サスペンスが始まり、そしていつもの幻想風味が香ってきたところでめでたしめでたしオチ。タイトルに反して軽いお話

No.13 7点 瓶詰地獄(乙女の本棚)- 夢野久作 2024/05/08 19:42
この作品を読んでる時、毎回脳内でとある曲が流れる。
「そして僕ら今ここで♪ 生まれ変わるよ♪ 誰もさわれない♪ 2人だけの国♪」ああ…この作品にピッタリな曲ですね。アダムとイブです。ここまで2人を狂わせたのは近親であるからというだけでなく、兄弟である可能性も否定できないと思います。絵的には兄妹の方が映えるのでいいんですけどね。
『瓶詰地獄』は毎度読み終わってから考察系ブログを読み漁ってしまうまでがセット。議論の尽きない作品ですね。
お気に入りアートは圧倒的に53ページ。

『ルルとミミ』『死後の恋』と同じ乙女の本棚シリーズ。チョイスもドストライクだしいいなあこの企画。『キチガイ地獄』も同じように絵本に合いそう(タイトルでBANされるか?) 『木魂』『押絵の奇蹟』とかもぜひやってほしいなあ

No.12 7点 人間腸詰(角川文庫版)- 夢野久作 2024/04/29 13:58
1936年に47歳という若さでこの世を去ってしまった夢野久作。この短編集は1934〜1936年という晩年に発表された短編を八編収録。蟷螂の斧さんが書評されている『人間腸詰-夢野久作怪奇幻想傑作選』とは収録作品が違うので、新たに登録し、こちらに書評させていただきます。

人間腸詰 7点
『空を飛ぶパラソル』では太陽、『死後の恋』では宝石、『笑う啞女』では月光。夢Qの作品では光の演出によって印象的な(ショッキングな)シーンを魅せることが多い気がします。今作は水銀燈がその役割を担っていましたね。

木魂 7点
再読だがほとんど忘れてた。景色が公理や方程式に見えるほど偏執狂の男が数学的解釈より家族愛を選び取る。短編なのにうるっとくる。当時の数学教育への憤りとかもあったりしたのかな?
初読時より1点加点して7点。

無系統虎列刺 6点
吐酒石は正式名:酒石酸カリウムアンチモニウム(初耳!) で17世紀頃から催吐薬として使われはじめましたが、副作用が強いため、現代ではほとんど使われていないそうです。酒石酸と重曹の組み合わせは中和反応により炭酸ガスが発生するため、発泡剤として用いられています。

近眼芸妓と迷宮事件 5点
連城イズムですね、時系列が逆ですが笑
アンチ共産主義もひとつまみ

S岬西洋婦人絞殺事件 5点
特筆すべき点のない普通の探偵小説。少し唐突な犯人。

髪切虫 6点
宇宙線からメッセージを受け取った髪切虫の不思議なお話。噛み切り虫だと思ってたけど、ほんとに髪切れるんだねこの虫。

悪魔祈祷書 6点
再読。森羅万象は原子からなり、人間の複雑に見える思考というのも所詮は化学反応に過ぎない。と神の存在を否定しつつ、反対に悪が人類を発展させてきたという説。興味深くのめりこんで読んでいるとひっくり返される笑 これも面白い。
ちなみに悪魔の聖書というのは実在するそうですね。

戦場 8点
舞台は第一次世界大戦の独逸の戦場。
軍医として最初に学ぶことは自傷の鑑別方法(これほんと?) 戦争の影で蠢く、私利私欲に塗れた陰謀を解き明かすミステリー。反戦をテーマにお得意のナンセンス(轟音のくだりとか)を織り交ぜて、苛烈な戦場の虚無感を描いた夢Q後期の傑作短編だと思われる。第二次世界大戦前に発表されているのがいいね。晩年といっても切れ味は変わらず…もう少し長生きしてほしかったな(泣)

No.11 6点 死後の恋(乙女の本棚)- 夢野久作 2024/04/29 13:47
『ルルとミミ』と同じ乙女の本棚シリーズの絵本です。『死後の恋』のあのシーンを絵で見たいという思いで読みましたが、描かれていませんでした。さすがに乙女には刺激が強すぎると判断したのでしょう。74pの絵が個人的にはベストショットかな。
お子様のいるレビュアーの方はぜひ読み聞かせをしてあげてくださいね(『ルルとミミ』の方がウケ良いかもですが…)

『死後の恋』はこれで5回目くらいだが、何度読んでも飽きない。普段再読なんてあまりしないけど、夢Qって再読性の高い作家だなぁ…

No.10 6点 空を飛ぶパラソル- 夢野久作 2024/04/14 19:19
収録作は『空を飛ぶパラソル』『いなか、の、じけん』『復讐』『ココナットの実』『怪夢』『キチガイ地獄』『老巡査』『白菊』からなる8編。怪作『白菊』は読むたびに評価が上がる。未読の5編を書評。

空を飛ぶパラソル 6点
米澤穂信『王とサーカス』の先取りで、ジャーナリズムへの警鐘。2編を通して主人公がまるで成長していないというナンセンスユーモア(?)も夢Qっぽくてイイ。
『死後の恋』に通ずるような猟奇描写もあり
"その途中の処々に鶏の肺臓みたようなものが、ギラギラと太陽の光を反射しているのは脳味噌であろうか" 角川文庫p10より

復讐 7点
予想がつくベタなオチだがそこに至るまでの過程がかなり面白い。この時代の精神病の扱いについて再認識できる。

ココナットの実 4点
エラ子がかわいい。萌える。

キチガイ地獄 8点
お得意の独白体。とある男のドラマティックな半世だけでも楽しめるし、狂気を感じさせつつ少し笑ってしまうようなオチも秀逸。途中で「誰もさわれない〜♪ 2人だけの国〜♪」という歌詞が頭の中で流れた。これが1番!

老巡査 4点
夢Qにしては超平凡なお話。うだつの上がらない老巡査のサクセスストーリーです。

No.9 7点 押絵の奇蹟- 夢野久作 2024/04/07 22:03
『瓶詰の地獄』『ルルとミミ』に続く兄妹サーガ。
ピアニスト・トシ子の出生について、3つの解釈が提示されるリドルストーリーとなっており、謎解きが好きなら超おすすめですよ!! 夫婦児というのがすべて丸く収まる解釈ですが、私は頭メルヘン読者なので、3つの解釈の中で最もぶっ飛んでいる"押絵の奇蹟"とやらを信じたいところです。『ドグラ・マグラ』では人間は細胞単位でモノを考え、心理が遺伝するという「脳髄論」が大変衝撃的な内容でありましたが、こちらの『押絵の奇蹟』でもソチラに通ずるような新説があり(わざわざ論文調の書物まで載せて笑)、非常に楽しめました。「脳髄論」「胎児の夢」よりは説得力に欠ける内容でしたが、短編なので仕方がないでしょう。
テーマは「プラトニック・ラブは遺伝学を乗り越えられるのか」であり、夢野久作はその答えを読者に委ねている… ということにしておこう

『氷の涯』と『あやかしの鼓』は他の書評で書いたので割愛
とにかく、『押絵の奇蹟』を表題にした角川文庫グッジョブです!

No.8 5点 人間レコード 夢野久作怪奇暗黒傑作選- 夢野久作 2024/03/24 04:30
近代日本の暗黒部分に焦点を当てた5編がセレクトされた短編集。
全て未読だったのが嬉しい


【直接的なネタバレはないが、未読の方は読まない方が良い】


笑う唖女 7点
月光が照らし出す大粒の涙にそれを見て笑う唖女。場面が容易に想像できて、恐ろしい。キキキキキキ………

人間レコード 5点
タイトル通り、記録媒体に人間を用いるというSFです。あまり話の起伏がなく、夢野久作の反共産主義思想がメイン(解説によると、ただそれだけではないらしい)。さすが右翼の大物と評されるだけあります。
「ホントの共産主義は要するに『他人のものは我が物。わが物は他人のもの』」
「ところが支那人のは違うんだ。『他人のものは我が物。我が物は我が物』と言うんだから」

これ『ドラえもん』に全く同じこと言う奴いましたね。あの台詞も実は偽共産主義への皮肉だったんでしょうか。そんなわけないか。

衝突心理 3点
これは何がテーマなのかよくわからない。ただの勘違いユーモアネタか?

巡査辞職 5点
珍しく王道探偵小説という感じで、舞台や動機は横溝風味です。

超人髭野博士 4点
珍しく100p超えの中編だが、ミステリとしてレベルは低い。
しかし、ワルである主人公(吾輩)の言動がやたら面白く、見ものである

"貴婦人と普通の女の違いは、債権に当たった奴と当たらない奴だけの違いじゃないか"


解説は朝宮運河という怪奇幻想ライターの方。
同じ作品を読んだはずなのに、読み取れる情報量にここまで差が出るものなのかと自分が不甲斐なくなるくらい良い解説。このサイトで他の方の書評を読んでも同じことを感じていますが笑

No.7 8点 ルルとミミ(乙女の本棚)- 夢野久作 2023/10/09 02:47
図書館で予約して受け取りに行くとまさかまさかの児童文学。少し恥ずかしい思いをした。こんなに救いのない物語を児童に読ませるのは果たしてどうなのか…トラウマになるんじゃないか(笑)

この著者はそこそこ読んできたが、今までに見たことのない童話のような語り口です。
『瓶詰の地獄』といい夢Qは「兄妹」に何かフェティシズムでもあるんでしょうかね。いや〜子供には刺激が強すぎるぞこれ。ラストはサプライズと言えばサプライズであり、メリーバッドエンドと言えるかもしれない。最後の見開きは絵の効果も相まって儚く美しい。

ねこ助という方の絵が素敵でこの幻想的な作風に大変マッチしています(+1点)

No.6 7点 あやかしの鼓―夢野久作怪奇幻想傑作選 - 夢野久作 2023/10/04 02:11
夢野久作の傑作選にはとりあえず『死後の恋』『瓶詰の地獄』は入れておけという風潮があるほどには両者とも傑作だと思います。『死後の恋 夢野久作傑作選』とだいぶ選出がカブっているのもあって、今回未読作だったのは『難船小僧』『幽霊と推進器』『あやかしの鼓』の3つのみ。いや〜でも『死後の恋』は見かけるとつい読んでしまいます(^^)

『難船小僧』 6点
伊那一郎が乗り込んだ舟は必ず沈没してしまう。科学的にはそんな事はありえないという理由で実験的にその少年を同伴させた船長とその事に阿鼻叫喚の船員達が描かれる。
たぶん「難船小僧のナンセンス」っていう親父ギャグが言いたかっただけだと思うけど、登場人物の冷淡さもなかなか強烈。

『幽霊と推進機』 5点
これまた『難船小僧』と同じ怪奇海洋奇譚。船という閉鎖空間にやな奴ばかり出てくるのも似通っている。だがこのオチはだめだろうw

『あやかしの鼓』 7点
音を聞くと呪われるという「あやかしの鼓」 夢野久作処女作の短編という事で1番楽しみにしていましたが、期待を裏切りませんでした。
特に100年越しの『あやかしの鼓』演奏描写。愛する人に裏切られた時の憎悪。生きながらにして死んでいた男が鼓に込めた情念。鼓が奏でた音の怨みの響き。小説という媒体ではやむを得ず音を文字に変換する必要があるが、ここまで鼓が奏でる音の呪いに説得力を持たせる作者の筆には鳥肌が立ちます。

あと初読時は普通だと感じた『白菊』の持つ妖しい魅力に気づき、再評価路線。

No.5 6点 死後の恋- 夢野久作 2023/09/30 15:10
アレを読んでから毎日1度は夢野久作のあの荘厳な尊顔を思い浮かべる時がくる。これが『死後の恋』か…
という冗談はさておき収録作は『死後の恋』『瓶詰の地獄』『悪魔祈祷書』『人の顔』『支那米の袋』『白菊』『いなか、の、じけん』『怪夢』『木魂』『あやかしの鼓』
私が読んだのは新潮文庫の「夢野久作傑作選」なのでどうやら前の方が読んだ作品集とは違うようですがここに書評します。

【ネタバレあります】



『死後の恋』9点 『瓶詰の地獄』9点
この二つはどの作品集にも収録されていますね。『死後の恋』の猟奇と耽美の融合、臓器と宝石の対比がホントに好きで、まだそれほど読んでないのに夢Q中短編の最高作だろうと勝手に思ってます。

『悪魔祈祷書』 6点
タイトルを見るからに著者らしい作品かと思いきや予想外の方向へ。こういうのも書くんだね。

『人の顔』6点 『支那米の袋』7点
既に読んでいましたね。『瓶詰の地獄』で感想書いたのでソチラで

『白菊』5点
幻想的な雰囲気に誘い出される犯罪者と世にも美しい少女。んんん…つまりどういうこと?

『いなか、の、じけん』3点
いなかで起こる少し奇妙な事件が無数に載っているショートショート。吝嗇家なおばさんが窒息する話以外はあまり記憶に残らず

『怪夢』4点
これまた怪しい夢に関するショートショート。『病院』では精神病患者=主人公が発狂すると同時に研究が完成するという研究者が登場するが、これまさにドグマグの原形ですね。ずっと前から構想を練っていたのが伺えます。

『木魂』6点
妻と子を無くし、どこからともなく声が聞こえるという狂人。異常な現象を数学で解釈する部分はユニークです。終始陰鬱、暗澹たる雰囲気が続く中、ラストは一筋の光明が差した…のかどうか 

『あやかしの鼓』はどうせならこれがタイトルになってる作品集で読もうと決意。デビュー作の中編、楽しみですな

未読作で刺さったのが少なくてこの評価に。相変わらず「狂人」「夢」「ロシア」が好きなんですね

No.4 9点 日本探偵小説全集(4)夢野久作集- 夢野久作 2023/09/22 17:48
収録作は『瓶詰の地獄』『氷の涯』『ドグラ・マグラ』
いやあ、『氷の涯』以外は再読なのに読破に5日かかった。
ふつう再読って忘れた頃にするもんだろうけど、『ドグラ・マグラ』に関してはある程度本筋を整理している状態の方が楽しめるのではと思い再読。例によって細部は忘れていて「こんな文章、前読んだ時あったか?」と疑う始末です。

【ネタバレあります】



『瓶詰の地獄』 9点
4読目くらいですね。やはり妹とは一言も書かれていないため、兄弟ではないかという思いを強くしたところです。聖書に同性愛って禁止されてたり…? 3通の手紙の順番が実は3→2→1だというのが通説ですが、3通目は2人だけのユートピアに行ってしまったと牽強付会な解釈をしておこう。

『氷の涯』 7点
著者の数少ない100p超えの作品かな?ロシア好きなんですねぇ夢野久作。やはりこの作品でも、夢久は探偵小説というのを上空から冷静に俯瞰しているような印象を受けます。考えすぎですか?
なんやかんやあってラストのロマネスクな逃避行。そのなんやかんやは色々ワケアリでしたが、こういうの好きですよウン。

『ドグラ・マグラ』 10点
"胎児よ 胎児よ なぜ躍る 母親の心がわかって おそろしいのか"

ドグラ・マグラ単体の書評欄で「混沌の渦の中に実にウェットな人間ドラマが描かれている」みたいな書評があったのですが、それを見てから読むと確かにウェットな気がしてきたぞ。
「正木教授が生涯をかけて2つの学説を証明する物語」だと1読目の時は解釈したが、「2人の教授間での学術研究を超えた闘争」に上書き。呉一郎が2人の教授を両方とも「お父さん」と認識し、若林教授が激怒するシーン。初読時はすっかり忘れていたが腑に落ちた。
まあ相変わらず分からんところは分からんし、奇書に酔ってるだけな気もする。しかし、精神医療なんてないに等しく、狂人になると隔離される上にその家族までも村八分にされてしまうようなこの時代に一介の探偵小説家である夢野久作がこんな先見性のある物語を作ったというのはやはり脱帽せざるを得ない。

※冒頭のブウウウーンと夢遊病者の書いた作中作「ドグラマグラ」のブウウウーンではウの数が違うっての初めて知りました。気づいた人よう気づいたなと。

No.3 8点 瓶詰の地獄- 夢野久作 2023/09/16 14:56
『ドグラ・マグラ』を読んでから頭が夢Qで埋め尽くされ、いつのまにか購入していました。角川の可愛いカバーで読了。収録作は『瓶詰の地獄』『人の顔』『死後の恋』『支那米の袋』『鉄鎚』『一足お先に』『冗談に殺す』の7作ですが、そのうち『瓶詰の地獄』と『死後の恋』は他の短編集で既に読んでいましたねぇ… もしかして夢野久作って作品数少ない?(泣) ちなみに解説はあの中井英夫です。滅多に見ないので驚いてしまいました。

【ネタバレがあります】


瓶詰の地獄 9点
再読です。代表作ですね。現代にも通用する趣向が見事。これは兄妹ではなく兄弟という可能性もあるのか?だとしたら聖書燃やしたくなるのも当然よね。

人の顔 6点
作中唯一のコメディタッチですね(嘘)

死後の恋 9点
再読となったがやはりこれが1番素晴らしい。臓器と宝石、猟奇と耽美の融合がなんとも美しく、初読時でもあのシーンでゾワッと鳥肌が立ったのを覚えています。なるほど『死後の恋』か

支那米の袋 7点
この作者の独白体好きですねぇ。しかしアレ、当時の日本で本当に流行っていたのでしょうか

鉄槌 7点
稀代の悪女の色気や艶かしさには読者も幻惑されてしまいます。しかし主人公、そこまで悪魔か?

一足お先に 8点
これはドグラ・マグラを構想するきっかけとなったオリジナルではないかと思われます。片足を無くしたモノに発症する特有の夢遊病、まさに短編版ドグラ・マグラという感じです。答えは闇の中ですねぇ… いつか整合性を分析して、論理的に犯人を導き出したいです。

冗談に殺す 6点
完全犯罪を完遂させた男による自供の謎。
ようわからん。自分が認識している時点で完全犯罪はあり得ない。必ず鏡にソレが滲み出る、鏡の恐ろしさといったテーマか。

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みりんさん
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採点傾向
平均点: 6.67点   採点数: 424件
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