皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
ぴぃちさん |
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平均点: 6.96点 | 書評数: 26件 |
No.26 | 7点 | 東の果て、夜へ- ビル・ビバリー | 2025/05/16 20:38 |
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ロードノベルと犯罪小説と教養小説の要素を併せ持ちながら痛切な小説に仕上げている。
ストーリー展開や語り口に趣向が凝らされており、読みやすくはあるのだが、一筋縄ではいかない展開や表現が随所で待ち受けている。 4人の少年たちを乗せたワゴン車は、不可避の未来に向けて進んでいく。定型を提示しておいて裏をかく、という技巧に作者らしさを感じる。 |
No.25 | 8点 | 異常【アノマリー】- エルベ・ル=テリエ | 2025/05/16 20:26 |
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老いらくの恋に悶える建築家に、末期ガンの宣告を受けた家庭人、果ては複数のIDを持つ殺し屋まで。登場する人物は素性も境遇もバラバラで、彼らの身に何が起きているか初めは分からない仕掛けになっている。
謎が解けるのは中盤以降で、くだんの問いを容赦なく突きつける。哲学的な問いを、ふんだんなユーモアと想像力で極上のエンターテイメント小説に昇華させている。 |
No.24 | 7点 | 密室黄金時代の殺人 雪の館と六つのトリック- 鴨崎暖炉 | 2025/04/25 19:25 |
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ある事件において、犯行現場が密室になっている場合、それがいかに構成されたか解かなければ犯人は必ず無罪になる、という判決が下される。これによって日本で密室殺人事件が大流行し、それ専門の探偵が出現した、というのが話の前提。
そういうような設定を思いついただけでなく、六つの密室トリックが詰め込まれている。このアイデア量には驚かされる。 |
No.23 | 7点 | われら闇より天を見る- クリス・ウィタカー | 2025/04/04 19:48 |
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三十年前に幼子をひき殺して刑務所に収監された男キングの懺悔の人生の記録であり、その幼なじみで今は警察署長になっているウォークとの友情小説であり、さらにこの二人が付き合っていた二人の女性、スターとマーサとの回想の青春が、眩しく語られていく小説でもある。
飲んだくれの母親と、幼い弟を守る過酷な運命と戦う十三歳の少女ダッチェスを始め、群を抜く人物の造形と、秀逸な構成が素晴らしい。 |
No.22 | 6点 | 密室殺人ゲーム王手飛車取り- 歌野晶午 | 2025/03/15 19:02 |
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ネット上で殺人推理ゲームを繰り広げる五人。
彼らが実際に行った犯行をそのまま出題するという特異な設定に惹き付けられた。倫理感のないこの設定で、評価を落としているようだが、個人的にはそこは評価している。逆にトリック自体に、これといった面白さが感じられなかったところが、少し評価を下げた。 |
No.21 | 7点 | 告白- 湊かなえ | 2025/02/22 20:45 |
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復讐がテーマのミステリだが、各章ごとに違う人物が自分の言葉で話すスタイルが特徴的。
被害者の親、加害者やその友人ら、それぞれの告白が続き、最後に一つの形にはまる。読後は感動さえ覚えた。 |
No.20 | 5点 | 首無の如き祟るもの- 三津田信三 | 2025/02/01 17:48 |
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トリックの部分だけを抜き出してみれば、世評が高いというのも頷ける。
なぜ被害者の首が切られたのかというのがメインの謎になるが、その理由やある一つの状況さえ分かれば多くの謎の説明がつくという意味でもトリックの鮮やかさはお見事。 しかし、小説としては退屈で冗長に感じられて面白さに欠ける。やはり文章が巧くないと折角の素晴らしいトリックも台無しになってしまうという典型的な作品。 |
No.19 | 7点 | 録音された誘拐- 阿津川辰海 | 2025/01/12 18:31 |
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過去と現在の二つの誘拐が絡み、現在進行形の誘拐は、録音された音から謎が解かれていくという新しさを感じる。
この誘拐犯が極めて狡知に長けていて、探偵と犯人の頭脳戦が繰り広げられるからたまらない。家族の秘密に繋がる句会の挿話も秀逸。脇筋が本筋を支えて劇的な展開を生み、どんでん返しに繋がるのも見事。 |
No.18 | 10点 | 双頭の悪魔- 有栖川有栖 | 2024/12/21 19:24 |
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芸術家たちの作る共同集落と、そこと下界を結ぶ村の二ヶ所が舞台となり、人里離れた閉鎖された場所での謎解きという、シリーズを通して一貫したスタイルが継続している。
一般人とはまた違った人物たちの中で起こる殺人事件が、どこか非現実的な雰囲気を醸し出している。読者への挑戦状も三回盛り込まれているし、推理の楽しみ以外も学生サークルを中心とした人物関係により、瑞々しい青春小説の味わいがある。読後感も爽やかだ。 |
No.17 | 7点 | 死のある風景- 鮎川哲也 | 2024/11/10 19:43 |
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阿蘇で起こった女性の投身自殺と、金沢で発生した看護婦の射殺事件を中心に、熊本、石川、東京、千葉、宮城と、日本全土を股にかけたスケールの大きな犯罪計画が展開される。
各地の風情ある光景が物語に彩りを添える一方、鬼貫警部が繰り出す推理は実にスマートで、ロジカルな謎解きの面白さがある。 |
No.16 | 5点 | 火蛾- 古泉迦十 | 2024/10/21 19:57 |
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イスラム神秘主義という珍しい題材を、ミステリの謎解きに丁寧に組み込んでみせたユニークな作品。
生きて姿を見せる登場人物は、最小限に絞り込まれていて、これで犯人捜しの謎解きが成立するのかと心配になるが、しっかりと成立する離れ業を堪能させてくれる。 |
No.15 | 10点 | 容疑者Xの献身- 東野圭吾 | 2024/09/30 20:43 |
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高校の数学教師の石神は、アパートの隣に住む女性の靖子に恋心を抱いている。ある時、靖子と娘の美里が、訪ねてきた元夫を殺してしまう。それを知った石神は、隠蔽するべく奔走する。
石神が仕掛けたトリックを暴いていくのは、学生時代の友人だったガリレオこと湯川。靖子は石神の真意をまるで知らず、彼から与えられる意味不明の指示に従い続ける。一方で石神と湯川の静かな応酬が、繰り広げられる。 石神の意図が全て分かった時、ここに描かれる恋愛の形態にも、友情の在り方にも胸をつかれる。 |
No.14 | 6点 | アイルランドの薔薇- 石持浅海 | 2024/09/09 21:31 |
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閉鎖された山荘という、いわゆる「密室」で演じられる本格ミステリながら、吹雪や嵐ではなく、北アイルランドにまつわる緊迫した政治状況を使い、閉鎖空間を作り上げている点が秀逸。
山荘内で変死体が見つかるが、和平交渉成立のために表沙汰にも警察沙汰にも出来ず、当事者のみで事件を解決しようという必然性が生まれるという設定が素晴らしい。 |
No.13 | 10点 | 白夜行- 東野圭吾 | 2024/08/20 20:56 |
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幼い頃にある事件の渦中にいた雪穂と亮司の、その後の20年が断章のように綴られる。しかし彼らを直接描くのではなく、他の人物の事件や物語の背後に彼らの存在を匂わせるだ。
彼らの周囲を綿密に描くことによって、彼らの輪郭が浮かび上がる。人物も事件の顛末も、直接書かないことで逆に大きなインパクトがある。 |
No.12 | 7点 | 冷たい校舎の時は止まる- 辻村深月 | 2024/07/29 21:10 |
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降りしきる雪のある日、有数の進学校である高校の校舎に閉じ込められた8人。時間の止まった時計、一人足りない写真、思い出せない学園祭の日に自殺した同級生の顔と名前。
定番とも言えるクローズドサークルであり、先行作品への敬愛が随所に感じられる設定にもかかわらず、斬新で鮮烈。屈託を抱えた高校生たちの心情描写も見事で、張り巡らされた伏線を、細かいところまで回収しているのが好印象。 |
No.11 | 9点 | 推定無罪- スコット・トゥロー | 2024/07/03 18:56 |
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アメリカ中部の都市で、地方検事選挙の最中に女性検事補が殺される。主人公は首席検事補だが、実は被害者と愛人関係にあった。捜査の結果、容疑が次第に彼の方に向けられてくる。まずそのプロットが秀逸だが、裁判での弁護士同士の応酬なども緊迫感が高いし、心理的なサスペンスがある。ハリソンフォード主演で映画化もされている。 |
No.10 | 5点 | 逃亡山脈 南アルプス山岳救助隊K-9- 樋口明雄 | 2024/06/12 20:02 |
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阿佐ヶ谷署の大柴刑事は、若手刑事を相棒に南アルプス署から一人の窃盗犯を車で移送する命を請けた。だが、移送を始めてほどなく、大柴たちの車は大型トラックに襲われる。
連続する危機を乗り越える知恵と気力。そこに神埼静奈と愛犬バロンが絡んでくる。痛快なノンストップアクション小説として楽しみつつ、時々顔を出す薄汚い現実が生々しく苦い余韻を残す。 |
No.9 | 6点 | 女副署長 祭礼- 松嶋智左 | 2024/06/12 19:29 |
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複数の事件が同時に進行するモジュラー型の警察小説。
地道な捜査活動を手堅く描く、地に足のついた警察小説だが、その一方で、意外な真相と些細な手掛かりから読み解いてみせる、精緻な謎解きと鮮やかな演出も楽しめる。複数の事件をきれいに収束させて、味わい深いラストシーンへと着地する構築の手際も見事。 |
No.8 | 6点 | 家裁調査官 庵原かのん- 乃南アサ | 2024/04/30 19:59 |
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自転車を盗んだ少年の心理の危険水域、売春やその斡旋に手を染めていた少女の家庭問題など、かのんが担当する案件の背後には、罪を犯した少年少女が抱えた様々な事情が隠れている。
匂いに敏感という彼女の体質が、事件の手掛かりに辿り着く手助けになる場合もあるし、北九州が舞台ならではのローカル色が盛り込まれていたり、コロナ禍の世相が背景となるなど、読みどころが多い連作集。 |
No.7 | 5点 | ペッパーズゴースト- 伊坂幸太郎 | 2024/04/14 20:18 |
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飛沫感染することで他人の未来を観ることが出来る国語教師が、教え子から自作の小説を渡される。
メタ的な仕掛けも絡むトリッキーな作品だが、テンポの良い掛け合いと適度なユーモアで心地よく読める。 |