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ぷちレコードさん
平均点: 6.32点 書評数: 242件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.11 6点 マイクロスパイ・アンサンブル- 伊坂幸太郎 2024/01/21 22:15
ストーリーはごく平凡な会社員の生活と、一般世界とは全くかけ離れたスパイたちの活動の、二つの軸で紡がれ繰り広げられている。およそ結びつくはずのない異質な関係が、いつしかあざなえる蠅のごとく、ぴったりと寄り添うように共鳴する。
理知的でありながら、人間的な情感がたっぷりと凝縮されている。忙しい毎日で置き忘れてしまった大切な気持ちを取り戻させてくれる魅力がある。

No.10 5点 重力ピエロ- 伊坂幸太郎 2023/12/25 22:03
物語の主軸は、仙台内で起こった連続放火事件。そして放火現場の付近に残される落書きの謎を、主人公の泉水とその父親、種違いの弟・春の三人で事件解決を目指す。自らの死期を悟る父親は、さながら安楽椅子探偵の役どころ。ペンダミックだが軽妙な推理で泉水と春を然るべき方向へ導く。
比較的ミステリ色の薄い物語ではある。しかし、悲壮な設定を感じさせない飄々とした空気感が、作者の本領をいかんなく発揮していることは間違いない。

No.9 6点 オーデュボンの祈り- 伊坂幸太郎 2023/11/29 22:50
コンビニ強盗をしてその逃走中に気を失った伊藤は、外界の交流を絶った孤島・荻島で意識を取り戻す。島には予知能力を持った喋るカカシ・優午が住んでおり、人々はその言葉を守って生活していたが、ある朝、優午は無残な姿になって発見された。未来を予知できるはずのカカシがなぜ殺されたのか。
孤島という外界から隔絶された空間の中で、殺人ならぬ「殺カカシ事件」が発生するという異色のファンタジーミステリ。荻島はゆっくりと時間が流れる優しい世界であると同時に、人間の悪意がむき出しのかたちで現れる場所でもある。カカシ殺しの真相を追う主人公は、思わぬ形で人間の罪を指摘されるというわけだ。
異世界もののミステリ性とテーマ性を高いレベルで融合させた作品。

No.8 6点 ガソリン生活- 伊坂幸太郎 2023/06/15 23:08
緑色の車デミオが語り手になっている。世界中で走り回っている車同士は、普段から会話をしており、ただそのことを人間のほうは気付いていない、という架空の設定が奇抜で微笑ましい。
ストーリーはデミオの持ち主である望月家の長男・良夫と小学生の次男・亨が偶然、元女優を同乗させるところから始まる。スキャンダルを追うマスコミに辟易している彼女を安全な場所へ運ぶ。ところが翌日、彼女は別の車で事故死する。本当に事故だったのか疑念を抱いた亨は、独自の調査を開始する。
明らかにライトミステリの体裁を取っているけれど、こめられた思想は深い。なぜ人はツイッターに夢中になるのか、マスコミを悪者扱いする考えは正しいのか、といった問題をさりげなく掘り下げる。つまり現在の様々なコミュニケーションを取り上げて、最も理想的な絆のありかたを探る小説なのだ。深い内容を易しく楽しく語るのである。

No.7 6点 ホワイトラビット- 伊坂幸太郎 2023/04/28 23:05
仙台駅近くの釣り堀にいることが多い泥棒で、伊坂作品ではお馴染みの「黒澤」が登場する長編。
仙台市の住宅街で発生した人質立てこもり事件に、依頼された空き巣の仕事中だった黒澤が巻き込まれてしまう。警察と犯人の駆け引き、窮地に追い込まれても機転が利く黒澤の策略、二転三転する物語から目が離せなくなる。
黒澤だけでなく、犯人、捜査員、人質家族とそれぞれの人物像が立ち上がってくる様を読んでいると、登場人物をストーリーに供するコマだけにしない著者の愛情が伝わってくる。端役まで人柄を実感させる技があり、それが小説に深みを与えている。

No.6 7点 アヒルと鴨のコインロッカー- 伊坂幸太郎 2022/03/09 22:39
物語は二つの時間軸で進行する。一つは「僕」とある男が書店を襲う現在の話であり、もう一つは「わたし」とブータンの青年が残酷なペット殺しの犯人を追及する二年前の話。この現在と過去の話が交互に語られ、途中で大きく交差して全体像を劇的に見せる。
その物語を反転させる鮮やかなトリックと細部の組織化が見事。様々なピースが少しずつ組み合わされ、些細な事柄や古い言葉が新鮮な意味を帯びている。
クールで知的な語り口、気の利いた会話、人物たちの温かな存在感も魅力的。

No.5 6点 逆ソクラテス- 伊坂幸太郎 2021/11/05 22:23
人物たちの企みと齟齬、事実の開示の意図的な遅らせ、予想外の展開、意外な真相など語りとプロットに捻りをきかせて予測させない。日常の何でもない一場面ですらサスペンスを高めて語る。
いじめ、スポーツにおける頭ごなしの叱責、家庭内虐待、不審者による理由なき暴力などが主題になっているが、見事なのは小学生の話なのに広がりと豊かさを兼ね備えていることだろう。人間のコミュニケーションにおいて重要なものは何かという視点が貫かれているからで、大人まで考えに耽る要素を十分に持つ。

No.4 6点 魔王- 伊坂幸太郎 2021/04/22 22:19
表題作の「魔王」では、奇妙な超能力に与えられた兄弟の物語。背景には、軍事力をめぐる改憲と漠として広がるファシズム的空気がある。他人に思い通りのことを喋らせる念力が突然、兄に備わり彼がその力により日本中を覆う不穏な流れに逆らおうとする。兄の超能力には、一瞬ながら敵と一体化するほどの極度のシンパシーが存在するということで、それがこの小説の一番の不気味さになっている。
「呼吸」では、不思議な確率に魅入られた弟が描かれる。シューベルトの「魔王」が引用されているが、人の心は時として思わぬところへ赴く。しかし、あの歌曲の幼子のように無理矢理さらわれていくのではない。本書は政治よりも、人間の意思のそうした「得体の知れなさ」を描き出しているようだ。

No.3 8点 ゴールデンスランバー- 伊坂幸太郎 2021/03/27 13:38
無実の罪を着せられた主人公の手助けをしてくれるさまざまな人が、自分の人生を生きていて、何かが欠けていたり、狂っていたり、息苦しさを感じたりするけれど、真っ直ぐに生きている。だから主人公に手を貸していく。その姿が魅力的。
特に気に入ったのは、直接的に主人公を助けたわけではないが、主人公の父親の言葉は素敵だと感じた。世間から批判の目を向けられても、一蹴して彼らの意見など見向きもせずに主人公を信じるそのさまは、心に込み上げてくるものがあった。登場人物の姿、生き様が魅力的な一冊。

No.2 6点 オー!ファーザー- 伊坂幸太郎 2021/03/13 22:08
主人公の由紀夫には父親が4人いる。誰が遺伝子上の父親かは分からないまま、4人とも可愛がってくれている。父親の個性はバラバラ。それぞれの人生哲学を教えこまれた結果、由紀夫は喧嘩の攻撃の仕方や、女性へのアプローチの仕方など、さまざまな教訓を頭に刻み込んでいく。
にぎやかに楽しく話は進み、やがて由紀夫は絶体絶命のピンチに。そこから鮮やかに伏線を回収しながらトラブル打開に向かっていくさまは実に爽快。

No.1 6点 アイネクライネナハトムジーク- 伊坂幸太郎 2020/10/16 20:06
大きな事件が起きるでもなく、衝撃的な展開もない。普通の人々が紡ぐ日常の記録、なのにキラキラと輝いてみえる。
登場人物たちの軽妙でセンス溢れるやりとりがとても心地よい。現実的なちょっとした奇跡がほっこりさせてくれる。

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ぷちレコードさん
ひとこと
中学生の頃、ミステリにはまった。でも続いたのは3年間ぐらい。今また、ミステリにはまりつつある。やっぱりミステリは最高だ。
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採点傾向
平均点: 6.32点   採点数: 242件
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