皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
ぷちレコードさん |
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平均点: 6.31点 | 書評数: 252件 |
No.112 | 5点 | 馬疫- 茜灯里 | 2022/06/13 23:57 |
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舞台は2024年の東京。欧州で再び新型コロナウイルス感染が拡大してパリでの開催が断念され、夏季五輪は再び東京で開催されることに。しかし五輪提供馬の審査会で、複数の候補馬が馬インフルエンザの症状を示す。しかも馬が凶暴化する「狂騒型」の新型馬インフルエンザだった。馬術連盟の獣医師一ノ瀬駿美が新たなパンデミックの調査に乗り出す。
まさにコロナ禍にある現代にぴったりの作品だろう。鳥や豚のインフルエンザは知っていたが、馬にもあるのが新鮮で、その脅威の実情をさまざまな観点から捉える。感染拡大の原因に人為的なものを見出して犯人を追求していく謎解きもいい。やや題材が特殊で専門的な解説が必要となり、会話でかみ砕いてくれるのはいいが、全体的に2時間サスペンス的な安逸感が漂って緊張感をそいでいる印象は否めない。 |
No.111 | 7点 | 悪の芽- 貫井徳郎 | 2022/06/13 23:48 |
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無差別大量殺人の動機をめぐる物語。銀行員の安達はニュースを見て驚く。大規模イベント「アニメコンベンション」の会場で大量殺人事件が起きた。犯人は多数の客に火炎瓶を投げ、ナイフで警備員を殺し、最後は自ら油まみれになり火をつけて死んだ。犯人の斎木は小学校の同級生だった。小さな恥と見栄がきっかけとなり、同級生のいじめが加速して不登校になった。一体斎木はどんな人生を歩み、大量殺人犯になったのか。安達は斎木の人生と動機を探ろうとする。
殺人犯斎木の動機を、かつての同級生や事件を撮影した大学生、事件の被害者の家族らが追求していき、少しずつ靄を晴らして核心へと向かう。悪の芽はどこで生じたのかを調べていくのだが、最終的には善の芽にも言及して、この生きがたい時代に生きる読者への優しく熱いエールにしている。 |
No.110 | 7点 | 新世界より- 貴志祐介 | 2022/06/13 23:39 |
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未来の日本が舞台で、伝奇SFもしくは新世界冒険ファンタジーとでもいえる。
物語はヒロイン早季が子供時代を回想する手記形式で描かれている。いまから4年後の子供たちは呪力を手に入れることで大人になっていく。一方で、外界と町を隔てる「八丁標」から外に出てはならないなど、徹底的に社会に管理されていた。また、マケネズミやフクロウシなど奇妙な生き物が共存している世界だった。 いったいどうしてそれまでの文明が滅び、千年後にこのような世界が出現したのか。子供たちが消えるのはなぜか。恐るべき悪魔とはなにか。いくつもの謎をはらみつつ、早季たちは異形の怪物たちと戦い、隠された真実を暴こうとする。 奇抜な発想による世界観の妙とスリリングで波乱に満ちた冒険行の興奮。作者はあらゆる小説ジャンルの要素を混ぜ合わせ、新たな神話を生み出した。 なにより戦争を繰り返し、他人を攻撃してやまない人類の根源に迫るテーマを内包している。 |
No.109 | 7点 | 双蛇密室- 早坂吝 | 2022/05/22 23:01 |
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かつて藍川の母・誉と内縁関係だったSM作家が密室で殺された。作家にも同じ部屋で倒れていたが、一命をとりとめた誉にも蛇に噛まれたような傷があるも、雨でぬかるんだ建物の周囲には、犯人の足跡も蛇が逃げた跡もなかった。
本書の驚天動地のトリックには、絶賛も批判もあると思うが、空前絶後なのは間違いない。たとえ否定派でも、罪とは、真実とは、探偵の役割とは何かを問うミステリ論の部分には感銘を受けるだろう。 |
No.108 | 6点 | 処刑までの十章- 連城三紀彦 | 2022/05/22 22:56 |
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まさに連城節前回の序章から、物語は直行と義理の姉との禁断の恋をはらみながら、思考が追い付かないほどの反転劇を繰り広げてゆく。
連城小説のキーワードのひとつである「疑心暗鬼」が極限まで突き詰められた作品。 |
No.107 | 6点 | 九月が永遠に続けば- 沼田まほかる | 2022/05/08 23:25 |
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物語は、かすかな不安とともに始まる。佐知子の一人息子の文彦が、ゴミ捨てに行ったまま帰ってこないのだ。翌日、若い恋人の犀田がホームから転落し、電車にひかれて死亡する。文彦が事件に関係しているのか。
失踪という日常生活に穿たれた不安から物語は始まり、過去の亡霊が押し寄せるおぞましいサスペンスへと変貌していく。人の心の奥底に眠る忌ぬべきものを、ひとつひとつ丁寧に顕在化していくその過程が何とも生々しい。 しかも鋭く研ぎ澄まされた悪意と、ふてぶてしいグロテスクな狂気が融合し、恐怖を増幅する。気色悪い物語。 |
No.106 | 6点 | 剣と薔薇の夏- 戸松淳矩 | 2022/05/08 23:19 |
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万延元年の遣米使節団歓迎にわくニューヨークを舞台にした歴史ミステリ。奇妙な殺人事件が次々に起きて、アメリカ人の新聞記者と挿絵画家、そして元漂流民で在米の日本人の三人がその謎を解いていく。
なぜサムライ使節団が、それほどまでに歓迎されたのかという事情や、南北の対立という緊張をはらんだ一八六〇年のアメリカがディテール豊かに活写されていて、歴史小説としてもミステリ小説としても興趣に満ちている。 |
No.105 | 8点 | 蒼海館の殺人- 阿津川辰海 | 2022/04/22 23:18 |
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学校に来なくなった葛城に会うため、田所と三谷が彼の実家の蒼海館を訪ねる。折からの暴風雨で館に留まらざるを得なくなったところに、さらに殺人事件が。葛城は、自分の家族に関わる事件の謎に挑む。
災害と事件が押し寄せる前半から中盤、そして二重三重の複雑な企みを解き明かす後半と、密度の高い展開で読ませる。 真相の解明と、失意の探偵が復活する過程が重なり合い、最後まで飽きさせない。 |
No.104 | 6点 | プラチナデータ- 東野圭吾 | 2022/04/22 23:12 |
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犯罪捜査における情報を問題にしている。作品の舞台である近未来の日本では、DNAデータの提供が国民の義務になろうとしている。このデータが登録されれば、犯罪者はその網から逃れる術がなく、凶悪犯罪もすべて検挙可能になるという理屈からである。DNAデータを集めるとことそのものは難しくない。だが、問題はその膨大な情報を検索可能にするシステムの構築だ。
そのシステムにもし不備が生じたら、あるいはこのシステムを恣意的に統御しようとする者が現れたらどうなるか。作者は、お得意の超絶技巧ミステリの体裁を借りて、情報の恐怖という現代の喫緊のテーマに挑んでいる。 |
No.103 | 7点 | 堕天使拷問刑- 飛鳥部勝則 | 2022/04/08 22:30 |
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牧歌的な田舎町を舞台に典型的な「ボーイ・ミーツ・ガール」風の人物配置をしておきながら、この作者ならではのグロテスクな異形の物語が展開する。
一見、平和な田舎道に隠されていたおぞましい秘密もさることながら、最後に明かされる真犯人の造形はまさに衝撃の一言。 |
No.102 | 6点 | 仮面幻双曲- 大山誠一郎 | 2022/04/08 22:27 |
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横溝正史風のレトロな色調を前面に押し出しているが、その雰囲気に乗ってしまうと、作者の術中にはまってしまう。特に「双生児」という、本格ミステリではおなじみの設定に対する読者の無自覚な思い込みに仕掛けられた心理トリックには脱帽。 |
No.101 | 5点 | 建築屍材- 門前典之 | 2022/03/24 23:09 |
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建築途中のビルという舞台をいかしたトリックがなかなか面白い。
ビルの建築過程を説明した前半部分が煩わしいと思う人もいるでしょうが、個人的には興味深く読めた。 謎解きはハウダニットとしては良く出来ているが、フーダニットは今ひとつスッキリしない。 |
No.100 | 5点 | 誘拐の果実- 真保裕一 | 2022/03/24 23:06 |
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東京と神奈川で連続して起こった二つの誘拐事件の顛末を正攻法で描いている。
被害者の家族が、大掛かりな芝居を打つ第一章のサスペンスは出色の出来映え。第二章の有価証券を利用した身代金受け渡しの着想も面白いが、物語は「誘拐ミステリ」の定石を踏まえながら、二転三転するコンゲーム小説の様相も帯びてくる。 惜しむらくは、二人の人質が戻ってきた後の展開が、なんとなく読めてしまうことでしょう。 |
No.99 | 7点 | 星詠師の記憶- 阿津川辰海 | 2022/03/09 22:44 |
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予知夢を記録する紫水晶というファンタジー風の設定を導入した特殊ルール本格ミステリ。
といっても、その幻想的な設定を、あくまで現実と地続きの世界に接続するため、作者は類例が珍しいほどに細心の注意を払っている。予知映像に、はっきり犯行の瞬間が映っている容疑者の無実をいかにして証明するかというメインの興味は「逆転裁判」風。 綿密に考え抜かれた犯人の計画と、一見些細な手掛かりからそれを暴いてゆく獅堂の推理は圧巻。 |
No.98 | 7点 | アヒルと鴨のコインロッカー- 伊坂幸太郎 | 2022/03/09 22:39 |
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物語は二つの時間軸で進行する。一つは「僕」とある男が書店を襲う現在の話であり、もう一つは「わたし」とブータンの青年が残酷なペット殺しの犯人を追及する二年前の話。この現在と過去の話が交互に語られ、途中で大きく交差して全体像を劇的に見せる。
その物語を反転させる鮮やかなトリックと細部の組織化が見事。様々なピースが少しずつ組み合わされ、些細な事柄や古い言葉が新鮮な意味を帯びている。 クールで知的な語り口、気の利いた会話、人物たちの温かな存在感も魅力的。 |
No.97 | 7点 | 硝子のハンマー- 貴志祐介 | 2022/02/23 22:39 |
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ビルの12階、内廊下には監視カメラ、窓には嵌め殺しの防犯合わせガラス。密室であるはずの社長室で社長が殺された。
仮説を立てては壊し、立てては壊す純子と榎本の推理の顛末を描く第一部と、一転して犯人の視点から、殺人の動機や計画の詳細、犯行後の不安と孤独を描いた第二部。 論理的に構築された謎が論理的に解かれていく過程が楽しい。 |
No.96 | 5点 | 春期限定いちごタルト事件- 米澤穂信 | 2022/02/23 22:35 |
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学園ものの連作ミステリ。一見、命の生々しさとは無縁のように思える。だが、読み出してすぐに印象は変化する。平穏を至上の価値として「小市民」を目指す高校一年生の男女が巻き込まれる小事件の数々。
この徹底的な爽やかさとひ弱さが、我々の命がナマモノであることを強く感じさせる。 |
No.95 | 7点 | プラ・バロック- 結城充考 | 2022/02/08 22:54 |
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警察の群像劇は類型の域を出ていないが、悪魔的な犯罪の全容が浮かび上がってくる展開は読み応え十分。
雨、工業地帯、猟奇的犯行、仮想空間。「ブレードランナー」「セブン」のようなダークな映像作品を容易に想起させる材料を用いながらも陳腐にならず、先鋭的に仕立てた手腕は買う。 |
No.94 | 6点 | 麒麟の翼- 東野圭吾 | 2022/02/08 22:49 |
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被害者の足取り調査と、その界隈を歩いた理由に迫っていく、地味ながらも二段構えの構造の謎解きが読みどころ。
中途半端な解決は、被害者家族の救済にならないという加賀の言葉には胸を打たれる。 |
No.93 | 4点 | ジェシカが駆け抜けた七年間について- 歌野晶午 | 2022/01/22 23:02 |
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ヒロインのジェシカはエチオピア出身のマラソン選手で、日本人監督・金沢勉のもとで練習に励んでいる。ジェシカはある夜、同僚の女子選手・原田歩が丑の刻参りで金沢を呪っているところを目撃するが、まもなく原田歩は自殺してしまう。
不可能犯罪の面白さ、女子スポーツの友情、努力、感動の物語は保証できる。しかし、このトリックは「葉桜の・・・」のような普遍性に欠ける。ラストは唖然呆然、こんなのありかと脱力。 |