皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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ぷちレコードさん |
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平均点: 6.29点 | 書評数: 265件 |
No.125 | 6点 | 大江戸科学捜査 八丁堀のおゆう ステイホームは江戸で- 山本巧次 | 2022/09/28 22:27 |
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自宅の納戸の扉の向こうには200年前の江戸が広がっていて、元OLの関口優佳が、江戸では十手持ち女親分おゆうとして活躍するシリーズ第8作。
設定だけ聞くと馬鹿馬鹿しいと思うかもしれないが、丹念な事件捜査を経て最後に関係者を一同に集めて謎解きをするあたり、本格ミステリの王道だろう。怪しまれないようにDNA採取を行いながらも、その結果を江戸で説明するわけにもいかないジレンマと解決も面白い。 コロナ禍からの避難先が江戸という発想もタイムリーだし、避難が実は危険をはらむことを最後に出してきて、どきりとさせるのも悪くない。おゆうの相棒の同心も相変わらず謎めいていて存在感がある。 |
No.124 | 6点 | 偽装同盟- 佐々木譲 | 2022/09/28 22:19 |
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日露戦争から12年たった1917年、警視庁の新堂は連続強盗事件を追っていたが、逮捕する段階で容疑者をロシア内務省警察部にもっていかれ、やがて女性殺害事件が起きる。
ヒトラーに制圧された英国を舞台にしたレン・デイトンの警察小説「SS-GB」を想起させる歴史改変物の秀作。形の上では講和条約を結んだ同盟国でああるが、「強大な帝国と弱小属国」との「不平等な二国間関係」が至るところできしみをあげ、弾圧に屈せざるを得ない。 ロシア軍の将軍にちなんだクロパトキン通りのうち、小川町交差点から東京帝大前までの一帯がロシア人街であるとか、日比谷公園の一部が接収され松本楼はロシア軍将校倶楽部であるとか、東京がすべてロシア化されていて生々しい。犯人捜しも丁寧であり、ロシアでの二月革命の影響も背景に溶け込ませ、物語に緊張感を与えているのもいい。 |
No.123 | 6点 | ダブル・ジョーカー- 柳広司 | 2022/09/11 22:15 |
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本書は、「ジョーカーゲーム」の続編に当たる。確たる独立性を持つエピソードに仕上がっているので、本書から読んでも楽しめることは出来るが、「ジョーカーゲーム」では全体を貫く時代背景、ストーリー運びの中心を担う機密組織の実態が網羅的に描かれているので、刊行順に読むのが望ましい。
全五話、いずれも何らかの形でD機関と関わり、自身の能力に過信を抱く者が主人公。その己を絶対視する者が、その思い込みの隙を衝かれるエピソードばかり収められている。傲慢な精神が危機に直面する短編集。 |
No.122 | 6点 | 秋期限定栗きんとん事件- 米澤穂信 | 2022/09/11 22:08 |
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扱われるのは連続放火の犯罪とはいえ、死者は出ない事件である。新聞部内部の路線対立。学校の生活指導部と新聞部で生じた摩擦。また、小山内は恋人の瓜野、小鳩は友人の堂島部長を通じて新聞部に接近する。ここには高校生たちの駆け引きがあり、大げさな言い方をすれば政治的暗闘が展開されている。本書では小鳩の推理とともに、そんな駆け引きの面白さも読みどころになっている。 |
No.121 | 7点 | 騙し絵の檻- ジル・マゴーン | 2022/08/25 22:58 |
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殺人の罪で終身刑を言い渡された男が、仮出所の機会を得て、自分を陥れた人物を捜し出し復讐を遂げようとする。彼は女性新聞記者のアシストを受けながら、かつての妻や同僚たちを追求していく。
容疑者がいったん全員容疑圏外に置かれるというスリリングな展開が、鮮やかな逆転の発想を一発で劇的に様相を新たにする終盤はお見事。 |
No.120 | 7点 | 密室殺人ゲーム2.0- 歌野晶午 | 2022/08/25 22:54 |
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ネットを介して繋がっている密室殺人愛好家が、実際に自分で密室殺人事件を起こして、その真相を同好の士に推理させるというこの小説の初期設定がそもそも本格マニアの気持ちをそそる。
このどっぷりとゲーム感覚に淫した虚構世界にあっては、解答者をより驚かせたほうが勝利となる。したがって結果的にいかに奇天烈なトリックであっても、それが意外であれば許されるのである。「いくらなんでも無理筋でしょ」と一笑に付すようなトリックこそ、この設定では至宝の輝きを放つ。 この虚構すぎる世界が、実は極めて現代的な問題をついているという意味でも考えさせられる作品。 |
No.119 | 6点 | 彼女が最後に見たものは- まさきとしか | 2022/08/10 23:07 |
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クリスマスイブの夜、空きビルの一階で、ホームレスらしき女性の遺体が発見される。50代と思われたが、身元は不明。しかし女性の指紋が、前年の8月に千葉で起きた男性刺殺事件の遺留指紋と一致した。二つの事件にどんな繋がりがあるのか。
ホームレスを殺してしまう犯人の追い詰められ方は説得力十分だし、被害者は被害者で大切な存在をかばい、罪をかぶろうとする切実な思いが胸を打つ。母親を殺された過去を持つ三ツ矢の、事件関係者に寄り添うやさしさが、とりわけ印象深い。 |
No.118 | 6点 | シリウスの反証- 大門剛明 | 2022/08/10 22:59 |
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冤罪被害者の救済活動に取り組む「チーム・ゼロ」が、1996年に岐阜県で起きた一家4人殺害事件を再調査する物語。弁護士や学者らスペシャリストが集まるチーム・ゼロの中でも、特に理想に燃える若手弁護士藤嶋たちがさまざまな観点から冤罪の可能性を探っていく。
重視されるのは指紋鑑定。犯罪現場に残された指紋の多くが一部欠けている片りん指紋で、指紋鑑定においては特徴が12点一致するかどうかが分かれ目となる 。科学捜査の危うさ、鑑定における心理的バイアアス、検察側による裁判資料の隠蔽問題などが追求されていて面白い。正義感がやや鼻につく部分もあるが、刺激的な仕掛けがある。 |
No.117 | 10点 | 硝子の塔の殺人- 知念実希人 | 2022/07/27 22:56 |
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孤立した奇妙な館、連続密室殺人事件、ダイイングメッセージ、エキセントリックな名探偵、暗号、読者への挑戦状。本書には、本格ミステリならではのネタが、これでもかと詰め込まれている。先達の作品の言及も多く、本格ミステリファンならば、楽しく読めるのではないか。なかでも一九八〇年代後半からの新本格ムーブメントの原点になった「十角館の殺人」の扱いには驚いた。
しかもストーリーが凝っている。物語は、第一の殺人の犯人の視点である遊馬の視点で進む。彼は月夜の助手になり、第二第三の殺人の犯人に、自身の殺人もなすりつけようと考えている。これにより異様なサスペンスが生まれている。 事件の真相はびっくり仰天。本格ミステリを愛する作者が、ジャンルに捧げた大いなるオマージュといっていい。だから、本格ミステリについて、名探偵という存在について、深く考えずにはいられない。 |
No.116 | 5点 | ミッドナイト・ジャーナル- 本城雅人 | 2022/07/27 22:43 |
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主人公の関口豪太郎は、事実に誠実であり続ける新聞記者。七年前に起こった誘拐殺人事件には共犯がいたのではないかと関心を持ち続けていた。
報道に携わる者としての使命感を多くの者が失いつつある中で奮闘する豪太郎は、一筋の希望でもある。 報道の現場の熱気と矛盾を、マスコミの矜持と堕落を垣間見ることが出来る一冊。 |
No.115 | 6点 | 残虐記- 桐野夏生 | 2022/07/14 22:51 |
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題材は、十歳の少女の誘拐・監禁事件。作家になった彼女の元に、出所した男から手紙が舞い込みb、これを機に彼女は事件を「残虐記」と題して小説化する。手紙、作中作となる手記、小説の草稿などが入れ子状に組み込まれ、「真相」を追えば追うほど、虚実の境が後退していく。少女がある事実を世間に隠し通したのはなぜか。本当に復讐したかった相手とは誰か。覗き見ることの罪。想像することの残虐さ。誰が被害者で加害者なのか。
語り手が実は犯人というミステリは時にあるが、本作には読み手にお前こそ加害者だと切っ先を突き付けるような恐ろしさがある。実在の事件をモデルにしてその真相を暴くかに見せながら、本書で暴かれるのは虚構の本性である。 |
No.114 | 8点 | 花束は毒- 織守きょうや | 2022/07/14 22:35 |
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大学生・木瀬芳樹と探偵・北見理花の二人の視点から語られるサスペンス。
木瀬のかつての家庭教師・真壁が「結婚をやめろ」という脅迫を受けていると知り、北見に調査を依頼する。北見が調べていくと真壁の過去のある秘密につきあたる物語で、隠された事実の一つ一つが明らかになる過程がスリルに満ちている。 物語に奥行きがあるのは、中学時代に木瀬がいとこへのいじめを止めてほしいと一年先輩の北見に頼んだ過去が生きているからだ。彼女が導いた「解決」は正しかったのかという問いがずっと残り、新たな事件の追求と解決でもまた大いに苦悩することになる。謎解きの面白さに、真実は人を傷つけるのかという主題が鋭くかみ合って終幕に至る。ラストシーンが胸に残る。 |
No.113 | 5点 | ステップ- 香納諒一 | 2022/06/27 23:14 |
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「死んだとたん、過去の時点の自分に戻り、またやり直す」というアイデアを生かした長編作。
バーを経営する斎木のもとに、突然、弟分の悟が転がり込んできた。やくざの幹部を刺してしまったという。斎木は殺し屋に追われる悟を助けようとしたが、反対に殺されてしまった。 しかし気が付くとなぜか斎木は「昨日の自分」に戻っていた。改めて同じ事件に立ち向かったものの、またしても命を落としてしまう。彼は生と死のループを繰り返しつつ、意外な真相へたどり着くまでのステップを踏んでいく。 すでに基本アイデア自体は珍しくない。だが、これを謎に富んだクライムアクションへ導入したというところがよい。主人公は、それまでの行動の反省や新たに判明した手掛かりをもとに、最終局面まで攻略していく。奇想サスペンスになじみがなくても、読み応えを感じるでしょう。 |
No.112 | 6点 | 断絶- 堂場瞬一 | 2022/06/27 23:07 |
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閉塞感に満ちた地方都市・汐灘に全てを捧げた老政治家と、正義感あふれる刑事が、互いの信念をかけて対峙する。
次期選挙に向けて後継者選定を迫られる剣持隆太郎。剣持家は三代続く代議士一家で、剣持は息子、一郎に跡を継がせたい。しかし一郎には覇気が足らず、地元の支持を十全に取り付けられていない。そこへ現職の知事が出馬を表明し、後継者争いが勃発する。 一方、銃で頭を撃ち抜かれた女性の遺体が、汐灘で発見された。事件を担当する県警の石神は、自殺と他殺の両面で捜査に当たるが、そこに上層部からの圧力がかかる。自殺で決着させられそうになり、納得できない石神は単独での捜査を継続する。 別々に進行する2つのエピソードが絡み合い、最後に二人をつなぐ因縁が明らかになるラストは圧巻。登場人物の内面は鳴沢シリーズに劣らず濃密に描かれ、「家族」というテーマに真摯に取り組んでおり、読み応えがある。 |
No.111 | 5点 | 馬疫- 茜灯里 | 2022/06/13 23:57 |
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舞台は2024年の東京。欧州で再び新型コロナウイルス感染が拡大してパリでの開催が断念され、夏季五輪は再び東京で開催されることに。しかし五輪提供馬の審査会で、複数の候補馬が馬インフルエンザの症状を示す。しかも馬が凶暴化する「狂騒型」の新型馬インフルエンザだった。馬術連盟の獣医師一ノ瀬駿美が新たなパンデミックの調査に乗り出す。
まさにコロナ禍にある現代にぴったりの作品だろう。鳥や豚のインフルエンザは知っていたが、馬にもあるのが新鮮で、その脅威の実情をさまざまな観点から捉える。感染拡大の原因に人為的なものを見出して犯人を追求していく謎解きもいい。やや題材が特殊で専門的な解説が必要となり、会話でかみ砕いてくれるのはいいが、全体的に2時間サスペンス的な安逸感が漂って緊張感をそいでいる印象は否めない。 |
No.110 | 7点 | 悪の芽- 貫井徳郎 | 2022/06/13 23:48 |
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無差別大量殺人の動機をめぐる物語。銀行員の安達はニュースを見て驚く。大規模イベント「アニメコンベンション」の会場で大量殺人事件が起きた。犯人は多数の客に火炎瓶を投げ、ナイフで警備員を殺し、最後は自ら油まみれになり火をつけて死んだ。犯人の斎木は小学校の同級生だった。小さな恥と見栄がきっかけとなり、同級生のいじめが加速して不登校になった。一体斎木はどんな人生を歩み、大量殺人犯になったのか。安達は斎木の人生と動機を探ろうとする。
殺人犯斎木の動機を、かつての同級生や事件を撮影した大学生、事件の被害者の家族らが追求していき、少しずつ靄を晴らして核心へと向かう。悪の芽はどこで生じたのかを調べていくのだが、最終的には善の芽にも言及して、この生きがたい時代に生きる読者への優しく熱いエールにしている。 |
No.109 | 7点 | 新世界より- 貴志祐介 | 2022/06/13 23:39 |
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未来の日本が舞台で、伝奇SFもしくは新世界冒険ファンタジーとでもいえる。
物語はヒロイン早季が子供時代を回想する手記形式で描かれている。いまから4年後の子供たちは呪力を手に入れることで大人になっていく。一方で、外界と町を隔てる「八丁標」から外に出てはならないなど、徹底的に社会に管理されていた。また、マケネズミやフクロウシなど奇妙な生き物が共存している世界だった。 いったいどうしてそれまでの文明が滅び、千年後にこのような世界が出現したのか。子供たちが消えるのはなぜか。恐るべき悪魔とはなにか。いくつもの謎をはらみつつ、早季たちは異形の怪物たちと戦い、隠された真実を暴こうとする。 奇抜な発想による世界観の妙とスリリングで波乱に満ちた冒険行の興奮。作者はあらゆる小説ジャンルの要素を混ぜ合わせ、新たな神話を生み出した。 なにより戦争を繰り返し、他人を攻撃してやまない人類の根源に迫るテーマを内包している。 |
No.108 | 7点 | 双蛇密室- 早坂吝 | 2022/05/22 23:01 |
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かつて藍川の母・誉と内縁関係だったSM作家が密室で殺された。作家にも同じ部屋で倒れていたが、一命をとりとめた誉にも蛇に噛まれたような傷があるも、雨でぬかるんだ建物の周囲には、犯人の足跡も蛇が逃げた跡もなかった。
本書の驚天動地のトリックには、絶賛も批判もあると思うが、空前絶後なのは間違いない。たとえ否定派でも、罪とは、真実とは、探偵の役割とは何かを問うミステリ論の部分には感銘を受けるだろう。 |
No.107 | 6点 | 処刑までの十章- 連城三紀彦 | 2022/05/22 22:56 |
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まさに連城節前回の序章から、物語は直行と義理の姉との禁断の恋をはらみながら、思考が追い付かないほどの反転劇を繰り広げてゆく。
連城小説のキーワードのひとつである「疑心暗鬼」が極限まで突き詰められた作品。 |
No.106 | 6点 | 九月が永遠に続けば- 沼田まほかる | 2022/05/08 23:25 |
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物語は、かすかな不安とともに始まる。佐知子の一人息子の文彦が、ゴミ捨てに行ったまま帰ってこないのだ。翌日、若い恋人の犀田がホームから転落し、電車にひかれて死亡する。文彦が事件に関係しているのか。
失踪という日常生活に穿たれた不安から物語は始まり、過去の亡霊が押し寄せるおぞましいサスペンスへと変貌していく。人の心の奥底に眠る忌ぬべきものを、ひとつひとつ丁寧に顕在化していくその過程が何とも生々しい。 しかも鋭く研ぎ澄まされた悪意と、ふてぶてしいグロテスクな狂気が融合し、恐怖を増幅する。気色悪い物語。 |