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zusoさん
平均点: 6.23点 書評数: 191件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.151 5点 ドレス- 藤野可織 2023/07/03 23:05
八編を収めた短編集。やがて甲冑のようになる謎のアクセサリーが、恋人たちを引き裂く表題作など、視覚的な不気味さを引き継ぎつつ、五感そして認識へと言い知れぬ不穏ぶりを広げている。
白眉は「息子」。息子が消える話だ。だが消されるのは認識であり、記憶なのだ。

No.150 6点 教場- 長岡弘樹 2023/06/19 23:02
採用試験に合格した者が教育を受ける場所、警察学校。そこは人材育成の場であると同時に、適性のない人間を脱落させるふるいの役割も果たす。過酷な訓練で極度の緊張にさらされる生徒たちは、時に邪な考えをを抱いて行動する。それを冷静に見抜き、さりげなく問題を処理していくのが教官、風間公親だ。
規則罰則の厳しさ、教官たちの鬼っぷりに驚かされる一方、職務質問や水難救助といった特殊な授業内容に興味が湧く。ミステリとしてもある種のサバイバルものとしても読める。風間教官の心に残る名ゼリフも多い。

No.149 7点 湖底のまつり- 泡坂妻夫 2023/06/19 22:51
ダム湖でなければ成立しない小説であり、ダム湖が抱く物語性に目覚めさせられる。恋の痛手を癒すため、一人で東北にやってきた若い女性。川原に佇んでいたところ、急な増水によって流されてしまう。助けられ運ばれた先は、ほどなくしてダムに沈む運命にある集落だった。
読むうちに、多くの謎が浮かんでは沈むこの小説。ダム湖と自然湖の見分けがつかないのと同じように、ただ眺めていただけでは見分けのつかないものが世の中にはたくさんあることを、読み終わると痛感する。

No.148 8点 寝ぼけ署長- 山本周五郎 2023/06/06 22:42
時代小説作家の印象が強い山本周五郎の、現代を舞台にした珍しい警察小説。
とある警察署に赴任してきた五道三省は、言動の呑気さから「寝ぼけ署長」なる渾名を奉られる。だが実は、大変な切れ者なのだ。「不正や悪は、それを為すことがすでにその人間にとって、劫罰だ」と断じる五道は、罪を犯した者でもできる限り救おうとする。
謎解きの答えだけでなく、彼の深い考えも深く知りたくなる短編集だ。

No.147 6点 不意撃ち- 辻原登 2023/06/06 22:37
無事に定年を迎えた男に、ある密やかな欲望が芽生えて都会の中で隠棲を企む「月も隈なきは」、失踪した風俗嬢を追う男が、日常の間隙に広がるエロスの異空間に遭遇する「渡鹿野」、東北大震災の津波の映像をテレビで見ていて、「出番が来たん違う?」と犯罪へと走る「仮面」、他、現代の文豪が綴る全五編の作品集。
人生とは、運命の悪意による不意打ちなのか。悪夢小説に唸り、たじろぎ、悶々とする。

No.146 7点 ダ・ヴィンチ・コード- ダン・ブラウン 2023/05/18 23:08
シオン修道会とダ・ヴィンチをめぐる神学ミステリ。
警察の追跡を逃れながらの、ルーヴル内での暗号解説がスリル満点。ひとつが解明されると、また別の暗号が立ちふさがる。
ソニエールが命を懸けて守ろうとした「秘密」はキリスト教を根幹から揺るがすようなものだった。あの「最後の晩餐」にまつわるあっと驚く謎解きも出てきて、ページをめくる手が止まらなかった。

No.145 5点 ロング・ドッグ・バイ- 霞流一 2023/05/18 23:04
近所の公園で多発する不可解な出来事に小さな町は騒然。「彼ら」の目にしか映らない謎を解き明かすのは「彼ら」にしかない技能と拘り。
若い柴犬の依頼で、雑種の探偵「俺」は、プロ集団の手を借りて調査に乗り出した。
犬種の歴史や習性など、蘊蓄もたっぷりの犬目線のハードボイルド推理。

No.144 6点 ビブリア古書堂の事件手帖7- 三上延 2023/05/05 23:08
古書をめぐるシリーズの完結編で、今回は初の洋書、それもシェークスピア。当時の演劇や出版状況など詳細に語りながら、同時に栞子の家族の秘密(母親との冷めた関係。母と祖父の確執。祖父がはありめぐらした罠。)も解き明かしていく。
人生と古書の縁を繊細にリリカルに捉えた連作。スピンオフでもいいから続けてほしいものだ。

No.143 7点 三鬼 三島屋変調百物語四之続- 宮部みゆき 2023/05/05 23:04
江戸・神田にある袋物屋の三島屋では、姪のおちかが市井の人々から不思議な話・怪異な話を聞き集めている、変わり百物語のシリーズ第四弾。
今回は亡者が集う家や寒村に出る鬼など四編を収録。宮部怪談の特徴は、哀しみや切なさが残ること。怪異を生んだ人の心の闇を描き、それを主人公と周囲の人々の優しさで包み込む。だから悲しいだけでなく、ぬくもりがある。

No.142 6点 陽気なギャングは三つ数えろ - 伊坂幸太郎 2023/04/20 22:31
銀行強盗の四人組は、ハイエナ記者に付きまとわれる。更に当たり屋、痴漢冤罪などの災厄が続き、ある組織と対峙することに。悪徳記者と組織を敵に回して、どう危機を乗り越えるのか。
まず窮地に立たされ、打破していく手続きが周到。もっとサスペンスと波乱があればと思わないでもないが、まずまずのスリルが味わえる。
響野の饒舌と賑々しくカラフルでユーモラスな人物の共演、悪党たちと渡り合うゲームの展開は、洗練された犯罪コメディといえる。

No.141 7点 小さな異邦人- 連城三紀彦 2023/04/20 22:26
初期の作風に近い甘美なエロスと死「白雨」、現実と夢の境界の綱渡り「冬薔薇」、目眩むようなどんでん返しの連続「蘭が枯れるまで」、深層意識がサスペンスを生む渾然たる「無人駅」、異様な設定とツイストのきいた巧妙な語り口の表題作「小さな異邦人」と作者らしい短編が並ぶ。
テーマは時効、交換殺人、誘拐、記憶などお馴染みだがプロットは先鋭的、それでいて作者らしい抒情をたたえ、どこまでも艶やかで、どこまでも狂おしく、どこまでもグルーヴに満ちていて陶然となる。このムード、悲しさ、切なさがたまらない。

No.140 6点 Aではない君と- 薬丸岳 2023/04/05 22:03
14歳の息子が同級生殺害の容疑で逮捕されるという衝撃的な事実を突き付けられる父親の葛藤を描いている。
加害者の家族に心理の中心が置かれることで深層の不安が刺激され、苦悶が共有される。頑なな少年の悲しみがあふれ出す後半は胸が熱くなった。

No.139 6点 躯体上の翼- 結城充考 2023/04/05 22:00
終末期の世界に、儚い逢瀬をのぞむ機械知性を捉えている。たそがれる世界の物憂い崩壊感とロマンティシズムが絡み合い、SFでしか描けない切なさが心に沁みる。

No.138 5点 星を撃ち落とす- 友桐夏 2023/03/21 22:23
少女たち語る事件という物語と少女たち自身の内面とが密接に結びつき、真実と偽りが区別されることもない。そのために、深い謎に陥っていくような倒錯的ともいえるような魅力にあふれている。読み進めるごとに、それまでの世界観が目まぐるしく変化するさまが美しい。

No.137 5点 叡智の図書館と十の謎- 多崎礼 2023/03/21 22:20
広大な砂漠の果てにそびえる、六角錐の真っ白な塔。そこには古今東西あらゆる知識が収められているという。その門を守るのもまた、白き石の乙女。封印された扉を開くために、男は乙女が出す10の謎に10の奇譚で答える。
お伽噺あり、現代物あり、SFあり、趣向を凝らした物語。知識を追う喜びを知ることが出来る。

No.136 6点 ブラッディ・ファミリー- 深町秋生 2023/03/04 22:29
警察内部の不正を追及する黒滝誠治ものの第二作。
警察庁長官を約束された男の息子である不良警官を徹底して追い詰める。ゆがんだ権力構造の中で正義を遂行できないが、地道な捜査活動とさまざまな政治闘争、ひるまぬ迎撃で局面打開をはかり、秩序回復の満足感を得る。
洗練された語り、個性あふれる人物像、凄絶な活劇、劇的な展開、徹底した権力との終わりなき対峙が胸を熱くする。

No.135 7点 ファズイーター- 深町秋生 2023/03/04 22:25
警視庁上野署の刑事・八神瑛子の活躍を描くシリーズ第五作。
暴力団の内紛が先鋭化して瑛子自身まで狙われ、絶体絶命の危機の中、過激な暴力が繰り広げられる。正義も悪もない混とんとした世界での非情な戦いを迫真的に描き、女刑事の怒りがすさまじいエネルギーとなって、圧倒的な臨場感とカタルシスを生む。

No.134 7点 女王- 連城三紀彦 2023/02/14 22:57
祖父の不審な死をきっかけに「私」は、癌を患った老齢の瓜木、祖父・祇介の弟子だった妻・加奈子とともに、記憶の迷宮、歴史の迷路へと入り込んでゆく。それはなんと魏志倭人伝に記された邪馬台国と、その女王・卑弥呼を巡る謎だった。
異形の歴史ロマンであり、男女の複雑極まる情愛のドラマであり、連城ミステリの要素がすべて注ぎ込まれた巨編である。

No.133 6点 悪魔のトリック- 青柳碧人 2023/02/14 22:53
地上に降臨した悪魔によって特殊能力を授けられた殺人者たちと異能の刑事・九条一彦の知恵比べを描いた連作短編集である。
漫画「ワンピース」を連想させる「悪魔の力」は、動物の死体の大きさを変える力など、役に立つかどうかわからないものばかり。それをどう使って殺人を犯すか、という点にミステリとしての興趣がある。やたらと尊大な九条のキャラクターもいい。

No.132 6点 誓約- 薬丸岳 2023/02/01 22:28
過去を消したつもりの男がもう一度、自分の過去の所業と向き合い、罪を見つめ償うことの重さをかみしめる小説。
殺人事件が起きて濡れ衣を着せられて、謎を解いていくと意外な真犯人がいるというミステリではあるけれど、その興趣以上に少年犯罪の告発と更生という問題を正面から捉えて、読者の善悪感をゆるがせにかかる。
ラストは、いつものように温かいけれど、必ずしもすっきりしたものではない。非情な現実と長く厳しい人生を見据えているからだが、それでも作者の小説らしく、人の幸福と良き魂を願う思いは今回も貫かれている。悪くない仕上がり。

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