皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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ことはさん |
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平均点: 6.28点 | 書評数: 254件 |
No.9 | 8点 | 謎のクィン氏- アガサ・クリスティー | 2022/04/21 01:37 |
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私だけではなく他の人も同じだと思うのだか、作品を好きだと感じるとき、「面白い/面白くない」とは微妙に違うベクトルで、「愛着がわく/わかない」というのがある。私は他のクリスティー作のコメントに「クリスティーのよい読者ではない」と書いたが、それは「愛着がわく」作品がすくないからだ。(そんなに面白くないけど「愛着がわく」作品というのが、クイーン、カーにはあったりする)
本作は、クリスティー作では例外的に強く「愛着がわく」作品。1作ずつ見ていきたいと思う。今回は創元推理文庫の新訳で読了。 1.「ミスター・クィン、登場」 1作目から定形ができている。「時間をおいてから事件を再度検討する」「クィンはキューを出す演出家」など。本作は、「現在の問題」「10年前の事件」「その1年前の事件」と3層の構造で、かなり複雑だ。そのせいでかなり駆け足な部分もあるが、情報を的確に配置して、話の落とし所に説得力をもたせているのは、さすがにクリスティー。情報の出し方の上手さは、精読の価値あり。 2.「ガラスに映る影」 これはクィン物としては例外だろう。クィンをポワロと入れ替えても成立するほど、クィンが探偵をしている。ミステリの定形通りという感じで、話としては面白くないが、後期クリスティーの作風の萌芽ともみれるので、そういう視点では興味深い。 3.「鈴と道化服亭にて」 作中に「時間がたってからのほうが物事がよく見える」との文もあるとおり、典型的クィン譚。真相はかなり大胆な仕掛けだが、情報は的確にだされているので、読者はうまく誘導される。1作目と枠組が似ているが、「現在」の人物が整理され、ふと立ち寄った場所という設定の導入で語りもスムーズになっている。1作目(1924年)から本作(1925年)で、うまくなったのだろう。 4.「空に描かれたしるし」 サタスウェイトが捜査をするところがアクセント。「なぜ彼女はアメリカに?」が謎のポイントで、日常の謎のような趣がある。真相の構図は平凡だが、謎のポイントが気が利いているのがよい。 5.「クルピエの真情」 ミステリではなく、ある人物のある事情を引き出す人情譚。1920年代の社交界(どこまで当時の事実に近いのかはわからないが)が、興味深いが、他にみるべきところはないかな。 6.「海から来た男」 あるタイミングである場所に居合わせたサタスウェイトがある行動を行う話。ミステリではないが、ヒューマン・ドラマとして味わい深い。(時をおいて書かれた1編を除くと)雑誌掲載で最終話というのも、ふさわしい。 7.「闇のなかの声」 これは見るべきところがない。真相は納得感が薄いし、手段は迂遠すぎるし、とくに見せ場も感じられない。1つ覚書。クィンとサタスウェイトが出会う場面で「コルシカ島以来」とあるが、このコルシカ島は「世界の果て」のことと思われる。創元推理文庫の解説で初出順があるが、「世界の果て」「闇のなかの声」と連続して雑誌掲載されているので、きっとそのときの名残。 8.「ヘレネの顔」 ある場にいあわせたサタスウェイトが、運命に導かれるように(運命にキューを出されるように)、事件に絡んでいく。その絡み方にクイン物としての特徴がでている。サタスウェイトが自分の過去を回想するシーンがあったりして、なにか懐古的な雰囲気があり、お気に入りの作。 9.「死せる道化師」 物語の構造はクィン物の定形。過去の事件を再考することや、クィンの現れ方など、特徴が明確にでている。ミステリの作りとしては、絵が書かれた背景が不透明だったり、当時の捜査が杜撰すぎるだろう、など、評価できない点があるが、一同に関係者が会するという演出で一気に押し切っている。演出が冴えた1作。 10.「翼の折れた鳥」 ヒロインのキャラクターは魅力的だが、それ以外は見るべきところがない。事件も魅力的でないし、解決も唐突。クィンの登場の仕方も今回は違和感のほうが大きい。 11.「世界の果て」 ミステリとしては、事件と解決があわせて説明されるようなもので、なにもないに等しいが、本編の主眼は人間ドラマ。”世界の果て”と呼ぶ魅力的な舞台設定で、ある人物の思いに焦点があたる。謎の提示が前半にあれば、すっかり「日常の謎」。「日常の謎」の先駆ととらえて読んでもよいかも。 12.「ハーリクィンの小径」 本作も「世界の果て」と同様、ミステリとしては、なにもないに等しい。主眼はある人物の思いであり、最終作にふさわしく、別れの空気感が濃く漂う。作品前半で、<恋人たちの小径>の”小径の果て”が描かれ、これが最後に象徴的に思い出される構成が冴える。本編も、「日常の謎」の先駆としても読める。 ベスト3を選ぶなら、「海から来た男」、「死せる道化師」、「ヘレネの顔」。 |
No.8 | 8点 | ABC殺人事件- アガサ・クリスティー | 2020/04/18 23:19 |
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私は「この人読もうっと」と決めると、発表順に読むのだけど(クイーン、ヴァンダイン、ヒル etc)、クリスティーはそうでなく、体系的に読んでいないため、自分の中でとらえ方が定まっていなかった。けれど、ここ2、3年、発表年度を気にして何作か読んで、少し捉え方がわかってきた。
クリスティーは、50年の作家生活で、作品世界の構築については驚くほど変わっていない。そのためか、作家生活を「第x期」という区分に分ける話を聞かないのだが、騙しの仕掛けとしては「前期」「後期」に分けられると思う。1つのアイディアを核にして物語を構築する「前期」と、物語の見せ方に騙しを仕掛ける「後期」だ。 そして「前期」代表作のひとつが本書になると思う。 メインのアイデアは、今では読む前に知っている人が多いと思うけど、それも模倣されてきたから。(クイーンの「九尾の猫」でも引用されていて、1949時点で既に定形とされているのがわかるが)これが嚆矢と思えば評価せざる得ない。 クリスティーの凄さはアイデアの活かし方がとてもうまいことで、本作でも謎の人物の語りを入れるなど、嚆矢でありながらこの完成度はすごい。 ついでに、クリスティー文庫の解説はただの感想が多い中、法月の解説は作品の新たな見方を提示していて流石だ。 |
No.7 | 6点 | カーテン ポアロ最後の事件- アガサ・クリスティー | 2020/02/22 17:57 |
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ん十年ぶりの再読。
これも「攻略作戦」にそそられての再読。「攻略作戦」で指摘されているノワールの味わいは「なるほど」とは思うけど、評価したいとは感じられませんでした。 思いついたのは、クイーンの「悪の起源」との類似。真似した/しないではなくて、たまたま同じテーマに対して物語をつくって、出来上がりがこうなるかという興味。とくに物語の収束のさせ方に、両巨匠の違いがあらわれていて面白いです。 |
No.6 | 3点 | 死の猟犬- アガサ・クリスティー | 2019/12/12 01:10 |
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これは駄目でした。
「検察側の証人」は、無駄なくよくできた好作だと思いますが、後半のホラーテイストの作品は全く駄目。「最後の降霊会」にいたっては、「どこを楽しめというのか?」と思ったほどです。超常現象をありという設定で、「はい、超常現象が起こりました!」といわれて、どうすればよいのか……。 「検察側の証人」がなければ2点にしていたところです。 「謎のクィン氏」は大好きなのですが、同一人物の作品とは思えない程です。翻訳によるところもあるのかなぁ。 |
No.5 | 6点 | 忘られぬ死- アガサ・クリスティー | 2019/11/04 00:48 |
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これも評価が難しい。
最後に明かされる真相の構図は、確かに予想外で驚かされた。でもそれが心地よい驚きか、肩透かしかは微妙なところ。否定的な人も出そう。私はやや肯定的。 各登場人物の心理の描きこみもされているが、私には少し冗長。(冗長に感じるところがクリスティー好きではないところですな) トリックについては「誰か気付くよ」と思うので、かなり否定的。 5点とまよった6点。 |
No.4 | 7点 | 死が最後にやってくる- アガサ・クリスティー | 2019/11/04 00:39 |
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これは評価が書きづらい。
まずこれを読もうと思ったのは、「クリスティー攻略作戦」で「ないないづくし」と否定されていて、どんなものでしょうと思ったからだった。 ところが、これが面白かった。「クリスティー攻略作戦」での否定的な部分に反論する形で感想を書いてみよう。 (クリスティー再読さんも「コスプレ」と書いているが)「クリスティー攻略作戦」では、そうとう否定的なニュアンスで「コスプレ」と書いている。うん、確かにそうだ。登場人物の考え方は現代人で、当時の人はこんな風には考えないに違いない。「コスプレ」だ。 でも、霜月さんには「それでいいでしょう!?」と言いたい。そんなことをいったら劇団四季なんかみれませんよ。「コスプレ」と思ってみればいいのだ。舞台設定は風味付けに過ぎない。それを求めるのはもっとリアルな作品群でしょう。(情報調略小説みたいな?) 霜月さんは「情景描写がない」というが、クリスティーにしては少しはある方だと感じる。これも舞台設定に応じた描写がないといっているのだと思うが、そこは「コスプレ」だからいいのだ。 プロットも人物もいつものクリスティーで、霜月さんは特別なものがないと否定しているが、私としては安定した内容と受け取れた。 安定以上に、人物描写については、他作品より鮮明に感じられたし、物語の最初と最後で人物の立ち位置が変わっていくさまは、なかなかスリリングに思えた。 最初の事件の「ある気づき」については、後年の有名作にも似た味わいがあるし、ミステリ的にも美点があると思う。 個人的に好みなのは(風味付けに過ぎないかもしれないが)舞台設定だ。大家族の確執が、より切実に感じられる気がするし、舞台設定を利用した、事件解決後のエピローグ的なラストがいい。主人公の決断が不思議な味わいがあって、この感覚なんといったらいいかと少し考えて「あぁ」と思ったのは「センス・オブ・ワンダー」だった。クリスティーで「センス・オブ・ワンダー」を感じるとは! ここ最近よんだクリスティー作では、一番よかった。典型的クリスティー作でなく、こういう異色が好きなところが、私はよいクリスティー読者ではないなぁと思う。 |
No.3 | 5点 | 無実はさいなむ- アガサ・クリスティー | 2019/11/04 00:09 |
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クリスティー好みの家族の人間関係を中心にした疑心暗鬼がサスペンスたっぷりと描かれる。
視点人物が固定されないのも、個々の人物をカットバック方式で描きたいからでしょう。 中盤までは楽しかったが、後半の事件は付け足し感が大きいし、解決は少し腰砕けに感じる。謎解きの枠組みがじゃまをしている気がするんだよなぁ。もっと心理サスペンスに振ったほうが面白かったと思う。 |
No.2 | 4点 | ねじれた家- アガサ・クリスティー | 2019/11/03 23:24 |
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これはだめでした。
中盤、クリスティー好み(?)の女優やらの尋問シーンなどがどうにも退屈。やはり私はクリスティーのキャラは性にあわないのだなぁ。 真相は意外かもしれないが、説得力はよわいし、視点が変わるから視点人物に感情移入する型でもないし……。 評価する人はキャラを楽しめる人なのかなぁ。 |
No.1 | 10点 | 春にして君を離れ- アガサ・クリスティー | 2019/08/29 01:25 |
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私はあまりいいクリスティー読者ではないです。(20作以上読んで、クリスティーとはお話の好みが違うところが多いと感じている)
それは学生時代からそうで、その頃にいくつかのクリスティー作品を読んで「いまひとつだな」と思っていました。 そして「クリスティーは(アイルズの「殺意」みたいな)心理サスペンスを書いたら面白そうなのに」とも思っていました。 そのときにこれを読んで、「クリスティー、やっぱりこういうの面白いじゃん!」と夢中になりました。 この作品、ここ数年でじわじわと評価が高まっているように思いますが、10年後には、クリスティーの「そして誰も……」と並ぶ最有名作になっていると思います。 伊達に「クリスティー攻略作戦」で「未読は俺が許さん!」とかかれていないな。 マイ・オールタイム・ベストの1作。 |