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YMYさん
平均点: 5.86点 書評数: 300件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.240 6点 ラスト・チャイルド- ジョン・ハート 2023/02/04 23:07
作者は、家族の軋轢や崩壊を、好んで取り上げるらしく、本書もそれを主要なテーマにしている。
主人公ジョニーは、十三歳の少年で行方不明になった双子の妹のアリッサを、友達のジャックの手を借りつつ捜索する。事件は子供の失踪が相次ぎ、さらに複数の遺体が発見されるに至って、異常犯罪者の犯行と分かる。ジョニーは、アリッサもその犠牲になったのではと必死に捜索を続ける。その執念が、物語をぐいぐいと引っ張る、大きな力として働く。
必ずしも、ハッピーエンドには終わらないが、崩壊した家族が別のかたちで再生しそうな予感を抱かせる締めは、この重い小説の救いになった。

No.239 5点 異時間の色彩- マイクル・シェイ 2023/02/04 23:01
宇宙から飛来した発光生命体によって未曽有の災厄に見舞われた谷間の村。その顛末を迫真の筆致で描いている。
一人称の回想記文体、大業な形容詞の頻出、老齢の知識人を主人公とする点など、作者は敬愛する先達のスタイルを律義に再現して見せるが、後半の怪生物による殺戮シーンでは、グロテスクな描写の本領を発揮して、独自色を打ち出している。

No.238 5点 女彫刻家- ミネット・ウォルターズ 2023/01/25 22:34
母と姉とを殺害、斧で死体をバラバラにしたオリーヴ・マーティンは、無期懲役の判決を受け、刑務所に収容されている。彼女の事件を本にするため、フリーライターのロズが取材を始めた。オリーヴ自身の話を聞いたり、弁護士に会ったりしているうちに、無実ではないかとの疑問を抱く。
捜査を担当した元刑事にロズが会い、この物語の役者がそろうと、関係者たちの過去が次々と暴かれる。さまざまな人間模様をストーリー展開の中に織り込みつつ、犯人追求が続く。
異常に太ったオリーヴ、その父、隣人、元刑事らユニークな登場人物が忘れられない。そしてショッキングな幕切れも。

No.237 7点 東の果て、夜へ- ビル・ビバリー 2023/01/25 22:25
犯罪小説、ロード・ノベル、少年の成長物語という三つの要素を兼ね備えているが、それらの要素がことごとく定型を裏返している。十五歳の主人公はボスである叔父の命令で、弟らと四人でLAから五大湖のほうへ、日本列島が横に二つ並ぶほどの距離を車で向かう。ロード・ノベルの旅は、当てもないか善意の目的が多いのに反して、本書は裏切り者を殺すため。普通ニューヨークあたりから西行きの話が多いのに、これも逆だ。
旅の一同は黒人。白人たちに怪しまれないようにドジャースのファンを装うが、むしろドジな連中で、ご難続きなのはロード・ノベルの常道とはいえ、道中の仲間が増えていかない点が斬新だ。

No.236 6点 優しすぎて、怖い- ジョイ・フィールディング 2023/01/11 23:12
社会的地位があり、世間の信望も厚い夫に記憶を失った妻が、次第に抱き始める疑惑。ジェーンの一人称でストーリーは展開され、記憶を失っている不安が次第に募ってくる夫への不信感として成長し、自分すらも信じられない状況に陥る主人公の心理描写が秀逸である。
主人公の女性が記憶を失わなければならなかった理由は、病んだ現代社会を反映したテーマであり、そこに作者の深い問題意識が読み取れる作品である。

No.235 6点 五番目の女- ヘニング・マンケル 2023/01/11 23:05
ヴァランダー刑事の粘り強い捜査によって繋がりのなさそうだった二つの事件は、次第に奇妙なシンクロを見せ始める。無残にも串刺しで殺された老人と、姿を消した花屋に共通するものは何か。事件が解決へと向かう精緻な展開と鋭い社会性はお見事。

No.234 6点 緋色の迷宮- トマス・H・クック 2022/12/27 23:25
写真店を経営しているエリックは、教職につく美しい妻とおとなしい息子との生活に満足していた。だがある日、八歳の少女エイミーが行方不明になり、ベビーシッターの息子キースに疑いがかかる。誘拐して性的暴行に及び殺したのではないかというのだ。
ここでは誰もが弱さを抱え、癒えぬ傷を持ち激しい不安の中で生きていて、ある者は倒れ、ある者は破滅へと突き進む。人々は対峙し交錯し事実を探り合い、奥深く埋め込まれた謎を解き明かしていく。
その巧妙な仕掛け、堅牢なプロットはさすがで、前三作には及ばないものの、それでも小説の醍醐味を十分に味あわせてくれる。読後感は苦く厳しいけれど、それでも随所で語られる諦観は人生の真実を照らしている。

No.233 4点 記憶を消した少女- グロリア・マーフィー 2022/12/27 23:18
母親の殺人現場を目撃して心に傷を負った少女という設定は珍しくないし、登場人物も限られているから、真犯人の見当もすぐにつく。
シンプルすぎる構成だが、じっくり書き込んであり飽きさせない。静かなサスペンスが持続していくが、途中でもう少し山場があった方がより効果的だっただろう。エミリーの心の深層に潜む謎と、彼女の奇矯な言動はかなり強い印象を与えるが、それだけに後半の彼女の変化はやや唐突。

No.232 6点 カルカッタの殺人- アビール・ムカジー 2022/12/14 23:11
一九一九年の大英帝国植民地下のインド、カルカッタを舞台にした歴史ミステリ。元スコットランド・ヤードの警部を主人公に混沌の地カルカッタでの殺人事件を悪戦苦闘を描いている。
本作で扱われるのはガンジーが不服従運動を開始した時代であり、民族運動の高まりによる緊張感が読みどころ。主人公と現地の人々、同僚のインド人新米刑事や混血の美女アニーとの交流の中で改めて浮き彫りになる当時の人種問題は、ポピュリズムから不寛容な時代となりつつある現代にも通じるものだ。

No.231 5点 七つの墓碑- イーゴル・デ・アミーチス 2022/12/14 23:06
二十年の服役を終えたばかりの元マフィアの男ミケーレが、ミケーレを含む七人の犯罪者たちに暗殺予告を出した謎の連続殺人犯・墓堀り男と対決するまでを描くロード・ムービー的な怪作。
実質的なデビュー作とあってストーリー・テリングに粗い部分もあるが、登場人物たちの殺伐とした数々の犯罪を描いているにもかかわらず、ミケーレの行動はなぜか謎の爽快感がある。言葉少なで古典小説を好む内省的な主人公像も面白い。

No.230 5点 カジノ- ニコラス・ピレッジ 2022/12/02 23:14
ともにシカゴ時代に暗黒街に身を置いた友人同士でありながら、フランクの妻ジェリをめぐって、仲たがいするフランクとスピトロ。
ギャングとその関係者の人間模様もさることながら、知られざるカジノの舞台裏が詳しく描かれている点でも興味深い。その代表的なものがスキミングと言われる、いわゆる賭博の売り上げのごまかし。
取り締まる側の賭博管理局や州のゲーム委員会も、、監視カメラの設置や抜き打ち検査など、あらゆる手段で対抗。その駆け引きは一流のスパイ小説以上。

No.229 5点 わたしの名は紅- オルハン・パムク 2022/12/02 23:07
十六世紀のコンスタンティノープルを舞台にした、トルコの歴史ミステリ。
フーダニットで、容疑者は二人に限定される。章ごとに語りの視点が変わり、殺人者の章もあれば、容疑者の章もある。容疑者三人は細密画師なのだが、彼らの細密画に対するスタンスの違いを理解することで、殺人者もわかるという作者からの挑戦が感じられる。

No.228 5点 二つの時計の謎 アジア本格リーグ2- チャッタワーラック 2022/11/18 23:26
マフィアの姿も見え隠れするハードボイルド仕立てながら、クロフツの有名作品をもとにした犯行が描かれる。
クロフツのトリックのような精緻なアリバイを犯人は試みたはずだったが、タイのゆるやかな空気の中、事件は当初の計画とは違う方向に転がってしまった点にとぼけた味がある。

No.227 6点 裏切りの紋章- ドナルド・ジェイムズ 2022/11/18 23:20
登場人物はいずれも曲者ぞろい。前半は見事なサクセス・ストーリーで、二人の兄弟が懸命にのし上がっていく様がスリリングに描かれ興味をそそる。後半になって、一族の生臭い闘争シーンに突入するや、殺伐というよりドロドロした人間模様が描き出されて、異様な雰囲気を漂わせている。通俗に陥りがちな設定にもかかわらず、風格を感じさせる。

No.226 6点 死んだレモン- フィン・ベル 2022/11/07 22:32
冒頭、主人公が危機に陥るところから始まるというサスペンスフルな展開で魅せる謎解きミステリ。
謎解きの後、主人公が犯人たちと対決する現在のパートと、その対決までに至る、下半身不随で車椅子生活となった主人公が、心機一転の引っ越し先である一軒家で過去に起きたという誘拐殺人事件の真相を探る、というパートが交互に語られる。
そんなサスペンス中心の物語の合間に読者に全く予想がつかない方向での伏線を紛れ込ませているところも面白い。

No.225 5点 汚れた雪- アントニオ・マンジーニ 2022/11/07 22:27
ある事件による懲罰人事でローマからアルプス山麓の町に飛ばされた副警察長ロッコがスキー場で重機に轢かれバラバラになった死体の謎を追う。
ミステリとしてトリックが優れているというタイプの作品ではないが、ロッコと彼を取り巻くキャラクターがとても魅力的。一匹狼で口が悪い、酒とマリファナを愛し、容疑者に高圧的な態度をとることも厭わず、金のためには犯罪に手をつけることもあるというロッコだが、刑事としての腕はピカイチの上、倫理観は一本筋が通っておりどこか憎めない。

No.224 5点 パシフィック・ビート- T・ジェファーソン・パーカー 2022/10/23 22:40
主人公ジム・ウィアーは、警察官として十年間務めたあと、メキシコ沖に沈んだ海賊船の宝を引き上げるため旅に出た。六カ月間の探索は実を結ばず、挙句の果てに麻薬に関連したという疑いでメキシコ警察に逮捕されてしまった。
環境保護と有毒廃棄物投棄、警察内部の個々の人物から被害者を巡るさまざまなキャラクターが、謎を秘めて登場し趣向は盛りだくさんだが、奥行きがやや浅い。

No.223 6点 ジェイコブを守るため- ウィリアム・ランデイ 2022/10/23 22:35
ひとり息子が殺人事件の容疑者とされ、苦悩する検事補の姿が描かれる。自身も父親との関係に悩む二重の家族の絆の物語でもあり、愛弟子だった後輩検事補の仕事ぶりを被告側から見つめる異色のリーガルスリラーにもなっている。
息子の無実を信じつつも、忍び寄る疑惑と闘う葛藤のドラマは迫力満点。

No.222 5点 バビロンの青き門- ポール・ピカリング 2022/10/07 22:48
若い外交官のトビーが西ベルリンに赴任し、運命に翻弄された三十年間、幼少時代に焼死した美貌の母との思い出、辛い学生時代、古代ペルシャ時代の王たちとの幻想上の対話、現実の自分などが時代を飛び越えて交差し、幻想、耽美、デカダンを織り交ぜた不思議な作品で現代のアラビア千夜一夜を思わせる作品である。

No.221 5点 パーフェクト・キル- A・J・クィネル 2022/10/07 22:42
クリーシィの爆破犯探索は、ローリングズの策謀もあって、ジブルの知るところとなり、まず上院議員が狙われる。それを防ごうとするクリーシィ一家の活躍。
復讐に燃えるクリーシィの果断な行動力、後継者を育てる厳しさと愛情、緻密な暗殺計画をめぐる敵味方の好守など、情のある冒険小説として独特の味を持っている。

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