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YMYさん
平均点: 5.94点 書評数: 402件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.382 7点 まるで天使のような- マーガレット・ミラー 2025/08/24 21:31
新興宗教の教団の尼僧からオゥゴーマンなる人物の身辺調査を頼まれた私立探偵のクインは、ある町で起きた過去の事件の掘り起こしにかかるが、それを望まない人間もいるようだった。
私立探偵小説とサスペンス、さらには本格ミステリが混然一体となった充実した内容である。新興宗教の内幕の不気味さと、そこに救いを求めざるを得ない人々の悲しさが胸に迫る。

No.381 7点 殺す風- マーガレット・ミラー 2025/08/24 21:27
ロン・ギャロウェイの失踪で幕を開け、しばらくは夫婦間の愛憎を中心とした人間関係のドラマが続く。
物語が中盤以降になると、ようやく死体が発見されるが、何が謎なのかよく分からないまま進むうちに、鮮やかな構図の転換があってミステリとして収束する。練り上げられ、計算尽くされたプロットが素晴らしい。

No.380 6点 警察官よ汝を守れ- ヘンリー・ウエイド 2025/08/13 21:37
警察本部内で執務中の本部長が射殺されるというセンセーショナルな事件を扱っているが、プール警部は試行錯誤を繰り返しながら地道に捜査を進めていく。その描写はリアルで手掛かりの提示もフェア。
警察小説的要素が濃厚で、組織内の人間関係やヤードと地方警察の関係、その中でのプールの立場と動き方などが興味深く描かれている。
動機と機会が一人の人物に重なった時点で犯人はほぼ特定されるため、謎解きの妙味はやや欠けるとことがあるが、よく練られたプロットと的確な人物造形に支えられた物語である。

No.379 5点 夜、僕らは輪になって歩く- ダニエル・アラルコン 2025/08/13 21:31
些細な嘘が誘因となって思いも寄らぬ展開を見せる物語が推進力となり、冒頭から臭わされる悲劇的な結末に対する興味と、語り手を務める「僕」が誰なのかという謎なのかといいう謎が牽引力となり一気にページをめくってしまう。
「劇の世界に入り込み、自分の人生から逃れる」ことを求めた者たちの織り成す、愛と死と謎が絡み合った物語。

No.378 8点 レアンダの英雄- アンドリュウ・ガーヴ 2025/08/01 21:40
英国の植民地スパイロス島のお独立運動の指導者アレグザンダー・カステラが英国政府に逮捕され、インド洋の孤島ユルーズに幽閉された。そのカステラをヨットで救出せよ。報酬金は現金二万ドルとヨット一艘。ヨットの魅力に抗しきれず、コンウェイは引き受け、レアンダを助手にセイリングを開始した。
セイリングの魅力が語られるが、読みどころは絶海にたった一艘浮かんだヨットという限定された状況下の人間模様の面白さ。航海中遭遇する様々な自然の猛威は、狭いヨットの中の人間関係に影響を及ぼす。その人間関係の緊張がサスペンスを生み、意外なドラマを展開している。

No.377 9点 ジェゼベルの死- クリスチアナ・ブランド 2025/08/01 21:32
ジョゼベルと呼ばれた悪女が何者かに殺された。舞台の表では何千という観衆の目があり、裏では鍵のおりた扉の前に張り番がいる。容疑者は騎士の扮装をした舞台にいた数人の男たちということになるが、物理的には不可能。
不可解な謎、巧妙な伏線、ミスディレクション、レッド・へリング操作など、あらゆる謎解きもののテクニックを駆使していて、複雑なパズルが構築されている。容疑者全員が自白するという狂気の大円団のあと、最後に暴かれる不可能犯罪のトリックは悪魔的な大胆さを持っている。こんな大胆なトリックでありながら、プロットから遊離しておらず、有機的に結びつきを見せている点にセンスの良さを感じる。

No.376 5点 悪魔はいつもそこに- ドナルド・レイ・ポロック 2025/07/23 22:31
一九六〇年代のオハイオ州南部の田舎町を舞台に、幼くして父母を亡くした青年が、狂気と暴力の世界にからめとられていく様を描く。
聖職者の振りをして女性を食い物にする牧師や死体写真を集める殺人鬼夫婦など、タブーの遥か向こう側へと渡ってしまった人間たちがひしめき、作品全体が禍々しい妖気を放っている。

No.375 6点 七つの裏切り- ポール・ケイン 2025/07/23 22:27
禁酒法時代の米国を舞台に、内面描写も状況説明も極限まで削ぎ落した文体で複雑な人間関係の変化を綴った7編が収録されている。
理髪店での爆弾騒ぎから列車上の殺人へと続く最終話に代表される硬派な犯罪小説が並ぶが、中には裏切りと嘘と暴力の果てにユーモアが滲む1編も混じる。

No.374 6点 転落- アルベール・カミュ 2025/07/12 21:27
アムステルダムのバーで初対面の男性に話しかけてくるフランス人の男性は、パリで弁護士をしていたという自らの生活を語っていく。殺人や性といった三面記事のような要素をふんだんに盛り込みつつ、気が付けばその男性が転落していく様を見たいと思うように読者に仕向けてくる。
露悪的な一人語りでラストまで突き進む。冗舌な語り口に搦めとられた先には、人の生を見つめざるを得ない冷ややかな瞬間が待っている。

No.373 7点 トゥルー・クライム・ストーリー- ジョセフ・ノックス 2025/07/12 21:22
マンチェスター大学の学生寮から女子学生が失踪した事件と、イヴリン・ミッチェルという作家が取材し執筆した犯罪ノンフィクションの形式で綴られている。
犯罪実録を模した小説自体は珍しいものではないが、本書では事件関係者の顔写真やフェイスブックの投稿などが挿入され、さらには著者自身が編者として登場するなど、現実と虚構の境界を崩すような仕掛けが随所に施されている。終始、読者を不安に追い込む筆致が見事。

No.372 8点 第八の探偵- アレックス・パヴェージ 2025/07/03 21:31
作中作となる七つの短編と、それらをつなぐ現在視点パートからなる。作中作は、グラントという男が四半世紀以上前に著した私家版の収録作であり、彼独自のミステリ理論の実例として書かれたもの。現在パートは、その私家版のリニューアル出版に向けた編集者の活動が中心だ。
短編での犯人推理、グラントの数学的視点でミステリ理論、さらに編集者の奮闘の三つを贅沢に愉しむことが出来る。この三位一体は後半で変化するが、それもまた本書の凄みである。

No.371 6点 オクトーバー・リスト- ジェフリー・ディーヴァー 2025/07/03 21:25
三日間の出来事を三十六の章で綴ったサスペンス。
最大の特徴は、その章が時間を遡る順位並んでいる点。巻頭に置かれた最終章で誘拐事件が進行中らしいことが読者に提示され、その後小刻みに過去に戻りつつ、警察など関係者の動きが示されていく。各章とも緊迫感があり、章の連鎖に仕込まれた意外性も絶妙。細部に仕込まれた作者の企みを満喫できる。

No.370 7点 スモールボーン氏は不在- マイケル・ギルバート 2025/06/24 21:32
物語は事務所の創立者であり所長であったエイブル・ホニーマンが、晩餐会の席で共同経営者たちに褒めたたえられるところから始まる。間もなくホーニマンの顧客の一人で、イカボット・ストークス信託共同管財人をしている男が、ホニーマンの事務所の書類保管箱の中で死んでいるのが発見される。
見事なキャラクターの配置、次々に出てくる容疑者、巧妙なプロット、そしてぞくぞくする結末。弁護士という職業に対する作者の皮肉な描写が光る作品。

No.369 7点 検察官の遺言- 紫金陳 2025/06/24 21:24
二〇一三年、地下鉄の駅で不審な男が拘束される。所持していたスーツケースを警官が開けると、中には全裸死体が。捕まった男は刑事弁護士で、遺体は検察官。お互い十年来の知り合いだったが、関係がこじれ殺害、死体遺棄を試みたという。ところが後日の法廷で犯人の刑事弁護士が証言を翻し、突然無罪を主張する。この不可解な行動の裏には、どのような意図が秘められているのか。
真相を追わずにいられないインパクト抜群の謎を起点に、悪しき階級、序列社会、腐敗した社会の闇が、正しき者たちを冒していく痛ましさには胸を痛めずにはいられない。だが本作は、非情な現実を暴き、読み手に突きつけるだけの作品ではない。悪に屈することなく、戦いを挑む者たちの人生を映した胸を熱くさせる物語なのだ。

No.368 5点 幽霊ホテルからの手紙- 蔡駿 2025/06/15 22:08
死んだ女優に謎の木匣を託された作家が向かった海辺の古ホテルはかつて陰惨な事件が繰り返され、幽霊客桟と呼ばれて地元住民からは忌避されていた。奇怪な使用人や、訳ありげな宿泊客たちに混じって逗留する作家の前に、やがて怪異が起こり始める。
墓が建ち並ぶ荒涼とした英国ゴシック的な海辺の風景と、中国の古典楽劇にまつわる因縁譚が骨がらみ、さらにはミステリ趣向やメタ的仕掛けまで盛り込んだモダンホラー。

No.367 5点 原野の館- ダフネ・デュ・モーリア 2025/06/15 22:04
十九世紀、イギリス南西部コーンウォールの人里離れた宿屋を舞台に、邪悪な陰謀と恐怖がヒロインに襲いかかる。
崇高な自然の猛威、悪漢たちの暗躍、危険なロマンスと、ゴシック文字のしびれる魅力がてんこ盛り。粗暴な男たちの脅しに負けないヒロインの威勢の良さも胸が空く。ぞくぞくするスリルを味わえる。

No.366 7点 壊れた世界の者たちよ- ドン・ウィンズロウ 2025/06/04 22:22
犯罪組織に弟を殺された警察官の復讐で描く表題作、保釈中に逃亡した男を私立探偵が追う「サンセット」などの各編は、過去の長編からのスピンオフ作品だが、予備知識なしに読める。
白眉は、「サンディエゴ動物園」。チンパンジーが拳銃を手にして脱走するという事件から始まる物語で、滑稽極まりない展開は作者ならではのもの。

No.365 7点 夜が来ると- フィオナ・マクファーレン 2025/06/04 22:17
オーストラリアの海辺で一人暮らす老女のルースのもとに突如現れた大柄な女性フリーダ。自治体から派遣されてきたヘルパーとしてルースの面倒を見始めた彼女に対して、ルースは戸惑いつつも、これまでの人生について語り始める。
宣教師の娘として暮らしたフィジーでの艶めいて光り輝いていた少女時代、父の診療所を手伝いに来た青年医に寄せた淡い思い、亡き夫との日々、そして遠地で暮らす二人の子供たちとの関係。
だが適度な緊張感を保ちつつもゆったりとした日々を過ごしていたルースが、記憶の曖昧さを自覚し始めたあたりから物語は様相を変え始める。それまで折に触れてルースが感じていた。何か切実なことが自分の身に起こりつつあるという逃げ場の無い切迫感が濃密になり、危うい展開から目が離せなくなる。哀しみと幸せ、諦念と執着、そして波乱と平穏がない交ぜとなって胸に迫るサスペンスの逸品。

No.364 5点 五月 その他の短編- アリス・スミス 2025/05/24 22:13
表題作「五月」は、よその家の木に突然恋をしてしまった奇妙で切ない恋物語。その他にも、客に変な渾名を付けまくる書店員、死神とすれ違ってから家に帰れなくなる女、バグパイプの楽隊に押しかけられる老女、セーターのフードに木の実を入れたまま美術館に入る人など、どこかずれているような、愛すべき人々が次々に登場する。
短編には一年の各月が割り当てられ、十二編で十二か月を巡る構成。途中で語り手が変わって驚いたりしたかと思えば、予想外のタイミングでほろりとされたりもする。

No.363 6点 アントンが飛ばした鳩 ホロコーストをめぐる30の物語- バーナード・ゴットフリード 2025/05/24 22:07
ポーランドに生まれ、強制収容所を生き抜いた作者が、少年時代から第二次大戦後までを回想する連作短編集で、戦後カメラマンとして活躍した作者の目は、周囲の人々や物の姿を生き生きと捉えている。
物語には、盗まれたテーブルを泥棒にあげてしまう祖母、ユダヤ人に食料を分けてくれるナチの隊員、他の囚人を取り締まる特権的な囚人、ユダヤ人の振りをして強制収容所に入れられた元ドイツ軍中尉など、実に多様で多面的な人間たちが出てくる。また、サーカスの象に奪われたリンゴ、数奇な運命を辿った万年筆、収容所で父が投げ寄越した印など、物に事寄せた章も印象深い。
自身の経験を鮮明に記憶し、冷静に見つめ直し、豊かな物語として語り継げたのは、作者の驚異的な才能の賜物というほかない。

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