皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
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YMYさん |
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| 平均点: 5.92点 | 書評数: 396件 |
| No.376 | 5点 | 悪魔はいつもそこに- ドナルド・レイ・ポロック | 2025/07/23 22:31 |
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| 一九六〇年代のオハイオ州南部の田舎町を舞台に、幼くして父母を亡くした青年が、狂気と暴力の世界にからめとられていく様を描く。
聖職者の振りをして女性を食い物にする牧師や死体写真を集める殺人鬼夫婦など、タブーの遥か向こう側へと渡ってしまった人間たちがひしめき、作品全体が禍々しい妖気を放っている。 |
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| No.375 | 6点 | 七つの裏切り- ポール・ケイン | 2025/07/23 22:27 |
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| 禁酒法時代の米国を舞台に、内面描写も状況説明も極限まで削ぎ落した文体で複雑な人間関係の変化を綴った7編が収録されている。
理髪店での爆弾騒ぎから列車上の殺人へと続く最終話に代表される硬派な犯罪小説が並ぶが、中には裏切りと嘘と暴力の果てにユーモアが滲む1編も混じる。 |
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| No.374 | 6点 | 転落- アルベール・カミュ | 2025/07/12 21:27 |
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| アムステルダムのバーで初対面の男性に話しかけてくるフランス人の男性は、パリで弁護士をしていたという自らの生活を語っていく。殺人や性といった三面記事のような要素をふんだんに盛り込みつつ、気が付けばその男性が転落していく様を見たいと思うように読者に仕向けてくる。
露悪的な一人語りでラストまで突き進む。冗舌な語り口に搦めとられた先には、人の生を見つめざるを得ない冷ややかな瞬間が待っている。 |
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| No.373 | 7点 | トゥルー・クライム・ストーリー- ジョセフ・ノックス | 2025/07/12 21:22 |
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| マンチェスター大学の学生寮から女子学生が失踪した事件と、イヴリン・ミッチェルという作家が取材し執筆した犯罪ノンフィクションの形式で綴られている。
犯罪実録を模した小説自体は珍しいものではないが、本書では事件関係者の顔写真やフェイスブックの投稿などが挿入され、さらには著者自身が編者として登場するなど、現実と虚構の境界を崩すような仕掛けが随所に施されている。終始、読者を不安に追い込む筆致が見事。 |
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| No.372 | 8点 | 第八の探偵- アレックス・パヴェージ | 2025/07/03 21:31 |
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| 作中作となる七つの短編と、それらをつなぐ現在視点パートからなる。作中作は、グラントという男が四半世紀以上前に著した私家版の収録作であり、彼独自のミステリ理論の実例として書かれたもの。現在パートは、その私家版のリニューアル出版に向けた編集者の活動が中心だ。
短編での犯人推理、グラントの数学的視点でミステリ理論、さらに編集者の奮闘の三つを贅沢に愉しむことが出来る。この三位一体は後半で変化するが、それもまた本書の凄みである。 |
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| No.371 | 6点 | オクトーバー・リスト- ジェフリー・ディーヴァー | 2025/07/03 21:25 |
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| 三日間の出来事を三十六の章で綴ったサスペンス。
最大の特徴は、その章が時間を遡る順位並んでいる点。巻頭に置かれた最終章で誘拐事件が進行中らしいことが読者に提示され、その後小刻みに過去に戻りつつ、警察など関係者の動きが示されていく。各章とも緊迫感があり、章の連鎖に仕込まれた意外性も絶妙。細部に仕込まれた作者の企みを満喫できる。 |
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| No.370 | 7点 | スモールボーン氏は不在- マイケル・ギルバート | 2025/06/24 21:32 |
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| 物語は事務所の創立者であり所長であったエイブル・ホニーマンが、晩餐会の席で共同経営者たちに褒めたたえられるところから始まる。間もなくホーニマンの顧客の一人で、イカボット・ストークス信託共同管財人をしている男が、ホニーマンの事務所の書類保管箱の中で死んでいるのが発見される。
見事なキャラクターの配置、次々に出てくる容疑者、巧妙なプロット、そしてぞくぞくする結末。弁護士という職業に対する作者の皮肉な描写が光る作品。 |
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| No.369 | 7点 | 検察官の遺言- 紫金陳 | 2025/06/24 21:24 |
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| 二〇一三年、地下鉄の駅で不審な男が拘束される。所持していたスーツケースを警官が開けると、中には全裸死体が。捕まった男は刑事弁護士で、遺体は検察官。お互い十年来の知り合いだったが、関係がこじれ殺害、死体遺棄を試みたという。ところが後日の法廷で犯人の刑事弁護士が証言を翻し、突然無罪を主張する。この不可解な行動の裏には、どのような意図が秘められているのか。
真相を追わずにいられないインパクト抜群の謎を起点に、悪しき階級、序列社会、腐敗した社会の闇が、正しき者たちを冒していく痛ましさには胸を痛めずにはいられない。だが本作は、非情な現実を暴き、読み手に突きつけるだけの作品ではない。悪に屈することなく、戦いを挑む者たちの人生を映した胸を熱くさせる物語なのだ。 |
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| No.368 | 5点 | 幽霊ホテルからの手紙- 蔡駿 | 2025/06/15 22:08 |
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| 死んだ女優に謎の木匣を託された作家が向かった海辺の古ホテルはかつて陰惨な事件が繰り返され、幽霊客桟と呼ばれて地元住民からは忌避されていた。奇怪な使用人や、訳ありげな宿泊客たちに混じって逗留する作家の前に、やがて怪異が起こり始める。
墓が建ち並ぶ荒涼とした英国ゴシック的な海辺の風景と、中国の古典楽劇にまつわる因縁譚が骨がらみ、さらにはミステリ趣向やメタ的仕掛けまで盛り込んだモダンホラー。 |
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| No.367 | 5点 | 原野の館- ダフネ・デュ・モーリア | 2025/06/15 22:04 |
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| 十九世紀、イギリス南西部コーンウォールの人里離れた宿屋を舞台に、邪悪な陰謀と恐怖がヒロインに襲いかかる。
崇高な自然の猛威、悪漢たちの暗躍、危険なロマンスと、ゴシック文字のしびれる魅力がてんこ盛り。粗暴な男たちの脅しに負けないヒロインの威勢の良さも胸が空く。ぞくぞくするスリルを味わえる。 |
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| No.366 | 7点 | 壊れた世界の者たちよ- ドン・ウィンズロウ | 2025/06/04 22:22 |
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| 犯罪組織に弟を殺された警察官の復讐で描く表題作、保釈中に逃亡した男を私立探偵が追う「サンセット」などの各編は、過去の長編からのスピンオフ作品だが、予備知識なしに読める。
白眉は、「サンディエゴ動物園」。チンパンジーが拳銃を手にして脱走するという事件から始まる物語で、滑稽極まりない展開は作者ならではのもの。 |
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| No.365 | 7点 | 夜が来ると- フィオナ・マクファーレン | 2025/06/04 22:17 |
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| オーストラリアの海辺で一人暮らす老女のルースのもとに突如現れた大柄な女性フリーダ。自治体から派遣されてきたヘルパーとしてルースの面倒を見始めた彼女に対して、ルースは戸惑いつつも、これまでの人生について語り始める。
宣教師の娘として暮らしたフィジーでの艶めいて光り輝いていた少女時代、父の診療所を手伝いに来た青年医に寄せた淡い思い、亡き夫との日々、そして遠地で暮らす二人の子供たちとの関係。 だが適度な緊張感を保ちつつもゆったりとした日々を過ごしていたルースが、記憶の曖昧さを自覚し始めたあたりから物語は様相を変え始める。それまで折に触れてルースが感じていた。何か切実なことが自分の身に起こりつつあるという逃げ場の無い切迫感が濃密になり、危うい展開から目が離せなくなる。哀しみと幸せ、諦念と執着、そして波乱と平穏がない交ぜとなって胸に迫るサスペンスの逸品。 |
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| No.364 | 5点 | 五月 その他の短編- アリス・スミス | 2025/05/24 22:13 |
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| 表題作「五月」は、よその家の木に突然恋をしてしまった奇妙で切ない恋物語。その他にも、客に変な渾名を付けまくる書店員、死神とすれ違ってから家に帰れなくなる女、バグパイプの楽隊に押しかけられる老女、セーターのフードに木の実を入れたまま美術館に入る人など、どこかずれているような、愛すべき人々が次々に登場する。
短編には一年の各月が割り当てられ、十二編で十二か月を巡る構成。途中で語り手が変わって驚いたりしたかと思えば、予想外のタイミングでほろりとされたりもする。 |
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| No.363 | 6点 | アントンが飛ばした鳩 ホロコーストをめぐる30の物語- バーナード・ゴットフリード | 2025/05/24 22:07 |
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| ポーランドに生まれ、強制収容所を生き抜いた作者が、少年時代から第二次大戦後までを回想する連作短編集で、戦後カメラマンとして活躍した作者の目は、周囲の人々や物の姿を生き生きと捉えている。
物語には、盗まれたテーブルを泥棒にあげてしまう祖母、ユダヤ人に食料を分けてくれるナチの隊員、他の囚人を取り締まる特権的な囚人、ユダヤ人の振りをして強制収容所に入れられた元ドイツ軍中尉など、実に多様で多面的な人間たちが出てくる。また、サーカスの象に奪われたリンゴ、数奇な運命を辿った万年筆、収容所で父が投げ寄越した印など、物に事寄せた章も印象深い。 自身の経験を鮮明に記憶し、冷静に見つめ直し、豊かな物語として語り継げたのは、作者の驚異的な才能の賜物というほかない。 |
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| No.362 | 6点 | 空軍輸送部隊の殺人- N・R・ドーズ | 2025/05/13 22:05 |
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| 英独間の空戦激化で男性パイロットだけでは頭数が足りなくなった一九四〇年。若い女性パイロットがケント州の空軍基地に集められ、輸送機操縦の任を与えられる。しかし操縦技能の高低に関わらず、女性であることを理由に戦闘機操縦は許されていない。そんな中、基地とその周辺で女性パイロットを狙った連続殺人が起きる。
本書の女性陣は、性差別に晒されるばかりか連続殺人の標的になり、困難、恐怖、悲嘆に見舞われる。だが決して快活さとユーモアを失わない。これに加えて、プロファイリングそれ自体が克明に描写される。リジーがパニック障害を持ちそれをどうやら隠しているのが良いアクセントとなり、分析自体にスリルが生じているのも大きいし、真相への伏線も十分。 |
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| No.361 | 8点 | 恐るべき太陽- ミシェル・ビュッシ | 2025/05/13 21:54 |
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| ヒバオア島にあるバンガロー荘に五人の女性がやってきた。みなベストセラー作家ピエール=イヴ・フランソワが講師となった作家志望者のためのツアー参加者だった。
彼らはプロの小説家を目指し、ピエール=イヴが出す創作のための課題をこなしていく。最初のテーマは「死ぬ前にわたしは〇〇をしたい」だった。だが、やがて一人が姿を消した。島に集まった人々が一人ずつ消えていくという展開は、クリスティの「そして誰もいなくなった」を思わせる。とはいえ、一筋縄ではいかない企みが幾重にも仕掛けられている。 芸術家が愛した自然豊かな土地を巡る本作は、石の神像やタトゥ―の文様といったポリネシアならではの風俗や伝統が物語に取り込まれているため、独特の雰囲気が漂っている。バラバラに見えたパズルのピースが全て揃ったときに見える絵の驚きが見事に結末に待っている。 |
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| No.360 | 7点 | ランナウェイ- ハーラン・コーベン | 2025/04/29 22:01 |
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| 金融アナリストのサイモンの娘が薬物中毒になって失踪してから半年が経った。セントラルパークで偶然娘を見かけたことがきっかけで、彼は重大な事件に巻き込まれる。
探索行を続けるサイモンとは別に、二つの視点で叙述が行われる。父親の依頼で行方不明の息子を捜す私立探偵、そして依頼を受けて人を殺し続ける謎の二人組だ。 一見バラバラなこれらの語りは、物語のある時点で合流する。そこで明らかになる真相が興味深い。壮大な構図によってアメリカ社会の全体を照射する、手慣れのスリラーである。 |
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| No.359 | 7点 | ギャンブラーが多すぎる- ドナルド・E・ウェストレイク | 2025/04/29 21:56 |
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| タクシー運転手のチェットが競馬の配当金を受け取ろうと訪ねたノミ屋は、何者かに殺されていた。警察に疑われ、二つのギャング団に狙われ、謎の女性にも銃を突きつけられたチェットは、真犯人捜しに動き出す。
スピーディかつ意外性に富んだ展開や気の利いた会話が抜群に愉快。終盤には関係者を一室に集めてチェットが推理を披露する場面もあったりして嬉しい限り。 |
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| No.358 | 6点 | ミステリアム- ディーン・クーンツ | 2025/04/17 21:48 |
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| IQ186の少年と母が、妄執に囚われた殺人鬼、及び傲慢な大企業や官憲の悪意によって命を脅かされ続ける。
危機また危機で強烈にハラハラさせると同時に、特殊能力を持つ賢い犬の活躍を通じて、人と犬、人と人の交流の素晴らしさを浮き彫りにしていく。犬も含め視点は多いが、全員を活かしきって終止符を打つ。 |
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| No.357 | 7点 | 念入りに殺された男- エルザ・マルボ | 2025/04/17 21:42 |
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| 主婦のアレックスが営むペンションにゴンクール賞作家シャルル・ベリエがやってきて、危うくレイプされそうになり抵抗の勢いで相手を殺してしまう。だが自首などせずシャルル殺しの最も適当な犯人は誰かを探り、その人物に罪を着せようとする。
フランス作家らしく、皮肉が利いていてしたたか、そして実に大胆。 面白いのは、アレックスが挫折した元作家という設定で、なりすましているうちに邪な分身を見出して、作家としての真の実力に目覚める点だろう。中盤からはアレックスを追い詰める探偵も現れて、展開が二転三転するのもいい。窮地に立たされながら、犯人捜しを行い、予想外の終点へと突き進む。不思議なカタルシスを生み出す結末もお見事。 |
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