海外/国内ミステリ小説の投稿型書評サイト
皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止 していません。ご注意を!

YMYさん
平均点: 5.86点 書評数: 336件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.56 7点 ディオゲネス変奏曲- 陳浩基 2019/08/08 18:52
ストレートな謎解きから、サスペンス、ホラー、SFと、ジャンルの幅は相当に広い。個々の収録作は短い(わずか2ページのものもある)が、その中できっちりと趣向を凝らした展開をみせて、物足りなさを感じさせない。物語の結末の組み立て方が極めて巧み。

No.55 6点 ザ・プロフェッサー- ロバート・ベイリー 2019/08/03 17:03
ロースクールの老教授トムと教え子の、法と正義をめぐる物語。
友の裏切りと病で絶望の中にいたトム。昔の恋人から訴訟の相談を受けるが、絶縁状態のかつての教え子を紹介し、自らは身を隠してしまう。訴訟は卑劣な工作によって思わぬ展開に。
シンプルな勧善懲悪の図式に人々の確執を重ねて、心を揺さぶるドラマに仕上げている。

No.54 5点 俺は駄目じゃない- 山本甲士 2019/07/26 19:58
名井等は、気弱でお人好しな性格のせいか、どこまでも不運な男だった。ある時、下着泥棒の疑いで逮捕され、留置所に入れられたばかりか、釈放後、仕事を失うことになった。
しかし、「エンザイ男」の名前で誤認逮捕の経緯を書いたブログ「俺は何もやってません」を立ち上げたところ、思いもしなかった反響を呼ぶ。
有名になったことから、嫌がらせを受けたり、何者かに襲撃されたりするも、さらに予想外の運命が彼を待ち受けていた。
確かに、何をやっても駄目なときはある。良かれと思ってしたことが裏目に出る。物事がみんな悪い方へ転ぶ。そんなドタバタ模様とともに、誤認逮捕した警察組織の腐敗に立ち向かうという展開が無性に面白い。
暗く深刻な犯罪ものが苦手という方には、おすすめ。

No.53 5点 クリーピー- 前川裕 2019/07/23 20:16
ごくありふれた住宅街で巻き起こる不気味な事件追う長編。
同居している父らしき男を「あの人お父さんじゃありません」と言って隣の家の娘が逃げ込んできたり、老親子の家が火事となったり、ごく浅い付き合いしかしない近隣家族に次々と怪しい出来事が起きる。作者は、事件や人物の異様で歪んだ部分を生々しく描くとともに、凝った筋立てによってスリルを高めている。なんともおぞましい隣人サスペンス。

No.52 7点 ビット・プレイヤー- グレッグ・イーガン 2019/07/21 09:04
表題作は奇妙な世界が舞台で何と日光が足元から照り付けている。そこに放り込まれた主人公が、矛盾だらけのデタラメな世界のありかたを考察するという人を食った物語。それでいて、思考は徹底して論理的なところがイーガンらしい。

No.51 5点 ハンティング- ベリンダ・バウアー 2019/07/17 19:24
3部作の完結編で、1作目で殺されかけた少年スティーヴンと2作目で妻を亡くした巡査ジョーナスが登場する。
英国の寒村で次々に子供が失踪し、現場から「お前は彼女を愛していない」と書かれたメモが見つかる。親たちは絶望に突き落とされ、恋に癒されつつあったスティーヴン、休職し孤独に苦しむジョーナスも事件に巻き込まれる。
だが、犯人もまた愛を失った一人であった。悲嘆と怒りから誘拐を企てた動機には説得力があり、悲哀すら漂う。この愛と喪失の物語は悲しくも美しい。

No.50 8点 11/22/63- スティーヴン・キング 2019/07/14 20:03
国際スリラー作家協会長編賞などを受賞したエンターテインメント大作。
高校教師のジェイクは、病に倒れた友人から、過去に通じる「穴」の秘密を託され、同時にケネディ大統領暗殺を食い止めたいという友人の悲願も受け継ぐ。
歴史改変に挑む主人公は、元に戻ろうとする「時間」の法則に勝つことが出来るのか。アクティブでナイーブなSFの王道を行く「あの時間を止めたい」系タイムトラベルもので、ラストには感動さえも与えてくれる。

No.49 5点 MM9 destruction- 山本弘 2019/07/08 19:41
怪獣が自然災害のように不定期に襲ってくる「ゴジラ」的世界を舞台にした人気シリーズの第三部。今回はUFOに(うつぼ舟)伝説が絡み、神話宇宙生物として金属怪獣が登場。異星人による地球侵略の危機に、地球側も怪獣総身進撃で立ち向かう。随所にマニアも唸る特撮ネタが散りばめられているのも嬉しい。

No.48 6点 隠し絵の囚人- ロバート・ゴダード 2019/06/29 18:28
1976年のロンドンと40年のダブリンを舞台にした絵画ミステリー。
石油業界の職を失ったスティーヴンは、アイルランドの監獄を36年ぶりに出所した伯父に、あるコレクションのピカソの絵が盗まれた品であることを証明する仕事を手伝ってほしいと頼まれる。伯父の語る昔話に魅了され、スティーヴンは引き受ける。
複雑に絡み合った糸が少しずつほどけていく。そんな快感が味わえるゴダードの語りは秀逸。

No.47 5点 悪意- ホーカン・ネッセル 2019/06/22 15:36
北欧ミステリーの短編集。
警察や犯罪者ではない普通の人々を主人公に、たくらみと驚きに満ちた展開を見せる五つの物語を収めている。丁寧に組み立てられた語りの技巧を堪能できる。

No.46 5点 ここを過ぎて悦楽の都- 平山瑞穂 2019/06/13 20:09
現実と夢との間を漂うような体験が描かれた異色作。
どうしようもない不安と危うい快楽がないまぜになった「カフカ的な世界」に迷い込んだ青年の物語。現実世界を理不尽で醜いものと感じ、他人ばかりか家族ですら苦手に思い、絶えず生きづらさを抱えている人ならば、本作はあらがいがたい魅力を感じるでしょう。

No.45 5点 てのひらに爆弾を- 黒武洋 2019/06/02 08:13
罪なき市民を恐怖に陥れる衝撃的な物語。
携帯電話が爆発し、女性が重傷を負った。やがて同様の事件が起き、犯人は携帯電話会社に5千万円を要求してきた。だが、その後の犯人の動きはいささか不可解なものだった。犯人の目的は?なぜ携帯電話会社を脅迫するのか?
無差別殺人という大胆な犯罪を描く本作。だが、社会のあちこちで起こる救いようのない悲劇を止めるには、それだけのショックを与えなければならないのかもと思わせる説得力がある。社会的サスペンスといえるでしょう。

No.44 7点 モリアーティ秘録- キム・ニューマン 2019/05/13 19:43
シャーロック・ホームズの宿敵モリアーティ教授を描いたパスティーシュ(模倣)小説。
原典にも登場した、教授の手下モラン大佐が残した手記の体裁をとっている。ホームズ作品と微妙に重なり合う、魅力に富んだピカレスク(悪漢小説)に仕上がっている。
博覧強記の作者ならではの、細部へのこだわりも楽しい。

No.43 5点 拳銃使いの娘- ジョーダン・ハーパー 2019/05/06 10:20
アメリカ探偵作家クラブ賞(エドガー賞)最優秀新人賞受賞、アレックス賞受賞作で、少女の成長を描く犯罪ドラマ。
11歳のポリーの前に現れたのは、刑務所から出てきた父。犯罪組織を敵に回した彼は、妻子ともども命を狙われていた。父とともに逃亡の旅を続けながら、ポリーは過酷な境遇を生き延びる力を身に付けていく。
起伏に富んだ展開の中で、父と娘の間に信頼が育つ様子が描かれる。粗削りだが、心を揺さぶる物語。

No.42 7点 死が最後にやってくる- アガサ・クリスティー 2019/04/24 19:12
再読です。
数あるアガサ・クリスティーの作品で、最初にこの作品を選んで読んだのは自分だけではないだろうか?何故この作品を最初に読んだかというと・・・。特に意味はなくその当時、アガサ・クリスティーという名前は知っていたが、どの作品が有名で知られているかの知識はなく、適当に選んでしまったからです。
古代エジプトを舞台にした作者唯一の歴史ミステリー?(違っていたらすみません)で、謎解きと家族ドラマが融合された本格派推理小説。前半は地味で退屈ですが、後半に入ると一気にサスペンスフルな展開になり楽しめました。

No.41 5点 殺人回廊- 梶龍雄 2019/04/08 19:26
第二次世界大戦を背景にした作品。
終戦間際でのスパイ事件という扱われ方の微妙さや、公爵ならではの体面、さらには物不足、食料不足といった時代背景が全て事件に溶け込んで一つのミステリーを形成している点は評価できるが、真相は早い段階で予想できてしまうのはどうかと思う。

No.40 5点 堕天使拷問刑- 飛鳥部勝則 2019/03/29 19:24
本格ミステリー小説、ホラー小説、冒険小説さらには恋愛小説が混然一体となっている作品で、詰め込みすぎの感はあるが、途中のとんでもない謎解き、そしてラストの謎解きと共にいい感じ。
ただ全編に渡り、ラノベ調なので好き嫌いは大きく分かれると思う。

No.39 5点 刑事シーハン 紺青の傷痕- オリヴィア・キアナン 2019/03/21 10:47
舞台はアイルランドのダブリン。主人公のシーハンは、警視正という階級だが、現場での捜査を好む根っからの刑事。彼女は共感を武器に捜査を進める。そのため、真相を追う過程で、自らも心に傷を負わざるを得ない。丁寧に描かれた警察の捜査活動と、体当たりで事件に挑む刑事の姿が心に焼き付く小説。

No.38 7点 オブジェクタム- 高山羽根子 2019/03/14 19:44
短編三作を収めている。
描かれている世界にはリアリティーがあり、現実そのもののように見える。だが、その世界は少しだけ、でも決定的にわれわれの「現実」とは違っている。
例えば、表題作では、壁新聞や秘密基地など懐かしいモチーフに彩られているものの、注意深く読めば、実は近未来が舞台であることが分かってくる。変化に乏しい日常の中に、ささやかな奇跡が立ち現れる。たまにはSFもいいなと思わせてくれた作品。

No.37 5点 消せない女- 多岐川恭 2019/03/02 18:06
命を狙われつつも本人が気がつかないうちに、強運で助かってしまう人物と、その人物を殺そうとするその他の人物、さらにその計画を頼んでもいないのに阻止しようとする第三勢力まで加わり、本人がのんびり構えている間に周囲で悲喜こもごもの人間模様が繰り広げられるという変わった物語。
作者ならではのユーモアが楽しめるが、プロットは今一つ。

キーワードから探す