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YMYさん
平均点: 5.87点 書評数: 302件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.62 5点 偽りの春 神倉駅前交番狩野雷太の推理- 降田天 2019/09/03 20:08
帯に「だまされる快感を味わった」(大沢在昌)とあり、買ってみた。
高齢者詐欺グループリーダーの光代が脅迫される「偽りの春」、美大生たちの悪意が交錯する「見知らぬ親友」、声優殺しの謎に迫る「サロメの遺言」など5編を収録しているが、どれもひねりの切れがいい。
そのなかでは青春小説のきらめきを持つ「見知らぬ親友」とその続編の「サロメの遺言」が気に入った。「落としの狩野」といわれたヒーローの挫折の話をゆっくりと後景から前景に押し出して、犯人の動機をより深く切実なものにしている。
「偽りの春」は、日本推理作家協会賞「短編部門」を受賞している。

No.61 5点 襲名犯- 竹吉優輔 2019/08/31 20:21
茨城県栄馬市で、7人が次々と殺害された。ブージャムと呼ばれた犯人は逮捕されたのち、美しいその風貌により多くの熱狂的信奉者を生んだ。そして14年後に男の死刑が執行されてから、ブージャムを名乗る犯人による同様の殺人が起こった。
物語は、市立図書館に勤務する南條仁を中心に展開する。仁は、かつての事件における最後の被害者・南條信の双子の弟だった。仁は図書館利用者からの依頼に応えて資料集めや情報調査をするレファレンスサービスの仕事をしているせいで、あらためて事件に深く関わることとなった。
衝撃的な猟奇殺人の真相と新たな犯人捜しの妙もさることながら、主人公の日常、交友関係、過去と現在などが細やかに描かれており、その展開を追うだけでスリリングな面白さが味わえる。

No.60 6点 シンドロームE- フランク・ティリエ 2019/08/25 09:27
短編映画を観た映画コレクターが失明。衝撃的な幕開けで、一気に物語に引きずり込んでいく。
コレクターの知り合いだった女性警部補のリューシーは映画を専門家に分析してもらう。かたや統合失調症を患うシャルコ警視は、目玉がくりぬかれた5人の変死体を調べていた。やがて二つの事件のつながりが判明するが、サスペンスがラストまで途切れず、ひかれあう2人の微妙な心情も巧みに描き込まれている。ラストの不穏な一行に次作への期待が膨らんだ。

No.59 5点 湿地- アーナルデュル・インドリダソン 2019/08/17 10:22
一人暮らしの老人が撲殺された。当初は強盗の犯行にも思われたが、現場に残されたあるメッセージから、捜査官エーレンデュルは老人の過去を洗いはじめる。そして明らかにされた事実は、何人もの人生を左右する重く残酷なものだった。
40年近く前の過去を掘り起こすうち、離婚や娘の麻薬中毒に痛みを抱える自分の人生をそこに重ね、苦しむエーレンデュルの姿が心を揺すぶる血のつながりや親子という主題が胸にしみた。

No.58 5点 崩壊家族- リンウッド・バークレイ 2019/08/13 10:31
ある家族を襲う危機がサスペンスたっぷりに描かれる。
17歳のデリクは恋人と2人きりで過ごすため、一週間留守にする隣家に忍び込んだ。しかしその夜、不意に帰宅した隣人一家が、彼の目の前で何者かに撃ち殺されてしまう。
登場人物の秘密が明らかにされていく過程は、ぐいぐい読ませる。デリクに疑いがかけられ、崩壊しかけた一家の姿に、家族の意味もあらためて考えさせられた。

No.57 6点 獅子の血戦- ネルソン・デミル 2019/08/10 11:14
リビア人テロリストのハリールと米国のテロ対策捜査官コーリーとの命がけの戦いが描かれる。冒頭のパラシュート降下から終盤の死闘まで、まさに手に汗握る場面の連続。コーリーのへらず口も楽しく、一気読みの保証付き。

No.56 7点 ディオゲネス変奏曲- 陳浩基 2019/08/08 18:52
ストレートな謎解きから、サスペンス、ホラー、SFと、ジャンルの幅は相当に広い。個々の収録作は短い(わずか2ページのものもある)が、その中できっちりと趣向を凝らした展開をみせて、物足りなさを感じさせない。物語の結末の組み立て方が極めて巧み。

No.55 6点 ザ・プロフェッサー- ロバート・ベイリー 2019/08/03 17:03
ロースクールの老教授トムと教え子の、法と正義をめぐる物語。
友の裏切りと病で絶望の中にいたトム。昔の恋人から訴訟の相談を受けるが、絶縁状態のかつての教え子を紹介し、自らは身を隠してしまう。訴訟は卑劣な工作によって思わぬ展開に。
シンプルな勧善懲悪の図式に人々の確執を重ねて、心を揺さぶるドラマに仕上げている。

No.54 5点 俺は駄目じゃない- 山本甲士 2019/07/26 19:58
名井等は、気弱でお人好しな性格のせいか、どこまでも不運な男だった。ある時、下着泥棒の疑いで逮捕され、留置所に入れられたばかりか、釈放後、仕事を失うことになった。
しかし、「エンザイ男」の名前で誤認逮捕の経緯を書いたブログ「俺は何もやってません」を立ち上げたところ、思いもしなかった反響を呼ぶ。
有名になったことから、嫌がらせを受けたり、何者かに襲撃されたりするも、さらに予想外の運命が彼を待ち受けていた。
確かに、何をやっても駄目なときはある。良かれと思ってしたことが裏目に出る。物事がみんな悪い方へ転ぶ。そんなドタバタ模様とともに、誤認逮捕した警察組織の腐敗に立ち向かうという展開が無性に面白い。
暗く深刻な犯罪ものが苦手という方には、おすすめ。

No.53 5点 クリーピー- 前川裕 2019/07/23 20:16
ごくありふれた住宅街で巻き起こる不気味な事件追う長編。
同居している父らしき男を「あの人お父さんじゃありません」と言って隣の家の娘が逃げ込んできたり、老親子の家が火事となったり、ごく浅い付き合いしかしない近隣家族に次々と怪しい出来事が起きる。作者は、事件や人物の異様で歪んだ部分を生々しく描くとともに、凝った筋立てによってスリルを高めている。なんともおぞましい隣人サスペンス。

No.52 7点 ビット・プレイヤー- グレッグ・イーガン 2019/07/21 09:04
表題作は奇妙な世界が舞台で何と日光が足元から照り付けている。そこに放り込まれた主人公が、矛盾だらけのデタラメな世界のありかたを考察するという人を食った物語。それでいて、思考は徹底して論理的なところがイーガンらしい。

No.51 5点 ハンティング- ベリンダ・バウアー 2019/07/17 19:24
3部作の完結編で、1作目で殺されかけた少年スティーヴンと2作目で妻を亡くした巡査ジョーナスが登場する。
英国の寒村で次々に子供が失踪し、現場から「お前は彼女を愛していない」と書かれたメモが見つかる。親たちは絶望に突き落とされ、恋に癒されつつあったスティーヴン、休職し孤独に苦しむジョーナスも事件に巻き込まれる。
だが、犯人もまた愛を失った一人であった。悲嘆と怒りから誘拐を企てた動機には説得力があり、悲哀すら漂う。この愛と喪失の物語は悲しくも美しい。

No.50 8点 11/22/63- スティーヴン・キング 2019/07/14 20:03
国際スリラー作家協会長編賞などを受賞したエンターテインメント大作。
高校教師のジェイクは、病に倒れた友人から、過去に通じる「穴」の秘密を託され、同時にケネディ大統領暗殺を食い止めたいという友人の悲願も受け継ぐ。
歴史改変に挑む主人公は、元に戻ろうとする「時間」の法則に勝つことが出来るのか。アクティブでナイーブなSFの王道を行く「あの時間を止めたい」系タイムトラベルもので、ラストには感動さえも与えてくれる。

No.49 5点 MM9 destruction- 山本弘 2019/07/08 19:41
怪獣が自然災害のように不定期に襲ってくる「ゴジラ」的世界を舞台にした人気シリーズの第三部。今回はUFOに(うつぼ舟)伝説が絡み、神話宇宙生物として金属怪獣が登場。異星人による地球侵略の危機に、地球側も怪獣総身進撃で立ち向かう。随所にマニアも唸る特撮ネタが散りばめられているのも嬉しい。

No.48 6点 隠し絵の囚人- ロバート・ゴダード 2019/06/29 18:28
1976年のロンドンと40年のダブリンを舞台にした絵画ミステリー。
石油業界の職を失ったスティーヴンは、アイルランドの監獄を36年ぶりに出所した伯父に、あるコレクションのピカソの絵が盗まれた品であることを証明する仕事を手伝ってほしいと頼まれる。伯父の語る昔話に魅了され、スティーヴンは引き受ける。
複雑に絡み合った糸が少しずつほどけていく。そんな快感が味わえるゴダードの語りは秀逸。

No.47 5点 悪意- ホーカン・ネッセル 2019/06/22 15:36
北欧ミステリーの短編集。
警察や犯罪者ではない普通の人々を主人公に、たくらみと驚きに満ちた展開を見せる五つの物語を収めている。丁寧に組み立てられた語りの技巧を堪能できる。

No.46 5点 ここを過ぎて悦楽の都- 平山瑞穂 2019/06/13 20:09
現実と夢との間を漂うような体験が描かれた異色作。
どうしようもない不安と危うい快楽がないまぜになった「カフカ的な世界」に迷い込んだ青年の物語。現実世界を理不尽で醜いものと感じ、他人ばかりか家族ですら苦手に思い、絶えず生きづらさを抱えている人ならば、本作はあらがいがたい魅力を感じるでしょう。

No.45 5点 てのひらに爆弾を- 黒武洋 2019/06/02 08:13
罪なき市民を恐怖に陥れる衝撃的な物語。
携帯電話が爆発し、女性が重傷を負った。やがて同様の事件が起き、犯人は携帯電話会社に5千万円を要求してきた。だが、その後の犯人の動きはいささか不可解なものだった。犯人の目的は?なぜ携帯電話会社を脅迫するのか?
無差別殺人という大胆な犯罪を描く本作。だが、社会のあちこちで起こる救いようのない悲劇を止めるには、それだけのショックを与えなければならないのかもと思わせる説得力がある。社会的サスペンスといえるでしょう。

No.44 7点 モリアーティ秘録- キム・ニューマン 2019/05/13 19:43
シャーロック・ホームズの宿敵モリアーティ教授を描いたパスティーシュ(模倣)小説。
原典にも登場した、教授の手下モラン大佐が残した手記の体裁をとっている。ホームズ作品と微妙に重なり合う、魅力に富んだピカレスク(悪漢小説)に仕上がっている。
博覧強記の作者ならではの、細部へのこだわりも楽しい。

No.43 5点 拳銃使いの娘- ジョーダン・ハーパー 2019/05/06 10:20
アメリカ探偵作家クラブ賞(エドガー賞)最優秀新人賞受賞、アレックス賞受賞作で、少女の成長を描く犯罪ドラマ。
11歳のポリーの前に現れたのは、刑務所から出てきた父。犯罪組織を敵に回した彼は、妻子ともども命を狙われていた。父とともに逃亡の旅を続けながら、ポリーは過酷な境遇を生き延びる力を身に付けていく。
起伏に富んだ展開の中で、父と娘の間に信頼が育つ様子が描かれる。粗削りだが、心を揺さぶる物語。

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