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猫サーカスさん
平均点: 6.19点 書評数: 405件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.4 8点 黒牢城- 米澤穂信 2024/06/29 19:26
天正六年に織田信長に謀反を起こし、翌年まで籠城戦を展開した武将・荒木村重が主人公となり、籠城の拠点となった有岡城内で彼の舞に現れる四つの謎と対峙する連作形式の長編である。密室状況の納戸で矢により射殺された死体から凶器が消える「雪夜灯籠」、合戦で持ち帰った二つの手柄首のどちらが大将首かを推理する「花影手柄」、名器を持たせ明智光秀への使者の任を与えた僧侶が城内で殺害される「遠雷念仏」、家臣の中に潜む謀反人を探るうちに村重がこれまでの事件に思いを馳せる「落日孤影」。謎解きに実質的な名探偵役として力を発揮するのが、史実でも籠城期間に城内に幽閉された黒田官兵衛である。ここにおいて、村重が官兵衛になぜ危害を加えなかったかということもまた大きな謎となる。実際にあった籠城戦の最中によくこれだけの謎を創造するものだという感嘆という程度の表現では言い尽くせないのは、官兵衛の例からもわかるように個々の謎解き以外にも様々な謎と企みを有岡城内に仕込んでいるからだ。そしてそれら全てに、戦国の世ならではの論理によってことごとく筋が通っている。

No.3 6点 本と鍵の季節- 米澤穂信 2022/10/13 18:04
主人公の堀川次郎は高校二年生の図書委員。相棒は同じく図書委員で皮肉屋の松倉詩門。利用者の少ない図書室で暇を持て余す二人のもとに舞い込む厄介事や頼まれた事が、連作短編の形で綴られる。この謎解きが実に多彩で、開かずの金庫に挑戦する「913」は暗号ミステリ。美容師の一言から思わぬ事実が導き出される「ロックオンロッカー」。テスト問題を盗んだ疑いを掛けられた生徒を助ける「金曜に彼は何をしたのか」はアリバイもの。自殺した先輩が最後に読んだ本を知りたいという「ない本」は、証言から真相に到達する安楽椅子探偵もの。収録されている謎解きは趣向こそ違えど、第二話以外はすべて何かを「探す」話である。それは高校生という、何かを探して足搔く年頃のメタファのように思える。本書は、今の自分では出せない結論を、それでも懸命に探す若者の物語なのだ。若い世代にはもちろん、幅広い世代の人たちに読んでいただきたいほろ苦い青春ミステリ。

No.2 7点 満願- 米澤穂信 2022/01/06 19:24
六編収録されているが、一番スリリングなのは「関守」。フリーライターの「俺」が都市伝説を取材することになり、車の転落事故が多発する「死を呼ぶ峠」に赴き、ドライブインを経営するおばあちゃんに話を聞く。のんびりした話から、だんだんと鬼気迫るものになり、驚きの真実に触れることになる。迫力という点では「万灯」もいい。在外ビジネスマンの冷徹な犯罪遂行を意外な落とし穴を捉えているのだが、ジレンマに陥り不幸な選択を迫られる結末が何とも皮肉。そのほか中学生姉妹が両親の離婚に際して親権争いで予想外の行動をとる「柘榴」、警官の殉職の裏に隠された周到な計画をあぶりだす「夜警」、元彼女が働く温泉宿での事件阻止をめぐる思いがけない顛末「死人宿」、そして殺人を犯して刑期を終えた女との再会と事件検証「満願」など、どれも巧妙に作り上げられていて着地も見事。奇妙な事件の意外な成り行きを、驚きと共に語る語り口は抜群であり、プロットの切れ味も良い。静かな心理ドラマを潜ませてたっぷり読ませる優れた短編集といえる。

No.1 6点 真実の10メートル手前- 米澤穂信 2020/07/24 16:41
主人公は探偵ではなく記者。女性記者・太刀洗万智が取材先で出会う「謎」に立ち向かう。探偵は真実を明らかにすることが、記者は真実を見つけ出して人に伝えることが仕事。両者は似ているようで、あまりにも異なる。それでも作者は、彼女を主人公に据えた。この点で、ミステリでありながら、「メディアの役割とは何か」「メディアのあるべき姿とは何か」という命題が背景に存在し、そこから透けて見えてくる人間の心理が魅力的な作品。主人公は、取材した人間の本当の思い、「真実」を見抜く。そして取材を受けた人間の「本当の思いをみんなに分かってほしい」という願いを、代弁したいと望む。メディアが伝えるべき真実・真理とは、こういうものではないだろうか?しかし、それを暴くことを、主人公は思い悩む。自分のしていることは正しいのかと惑う。この作品で展開されるこのような物語を目撃した時、読者も真実というものに悩むでしょう。

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猫サーカスさん
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採点傾向
平均点: 6.19点   採点数: 405件
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