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猫サーカスさん
平均点: 6.21点 書評数: 385件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.6 9点 白夜行- 東野圭吾 2021/03/30 17:54
一九七三年、大阪の近鉄布施駅近くにある七階建ての空きビルで男の死体が発見されるところから始まる。それから二十年、時間の流れとともに新しい場所と新しい人間が次々と登場し、そこに過去の登場人物たちがまた現れ、奥行きを広げていく。この事件の真相を解明に退職してもなお執念を燃やす刑事が、真犯人を突き止めるというストーリー。目まぐるしく移り変わる時代に、それぞれの季節を生きようとする者と、それを拒否してモノクロームの夜を生きるしかない者がいる。彼らが二十年に渡ってつくり、壊していく人間関係の中に、現代人が心の中に押し込めている孤独感や愛憎のかたち、虚無を浮かび上がらせていく社会派ミステリである。現世は極楽と思えば極楽、地獄と思えば地獄。モノクロームの冬に花を咲かせようと白夜を行く者の哀切さは、時代の陰に張り付いた虚無を実感させる。

No.5 7点 秘密- 東野圭吾 2021/03/30 17:54
スキーバスが崖下に転落して多数の死傷者が出た。その中に杉田直子と藻奈美という母子が含まれていた。母は病院で息を引き取り、娘は一命を取り留めた。そして母の葬儀の日、奇跡的に意識を回復した娘の肉体には母の人格が宿っていた。こうして始まった父と娘(夫と妻)の奇妙な二重生活を、さながらホームドラマのように淡々と描き出していく。夫婦の性生活、藻奈美の進学問題など次々に難問が持ち上がるが、二人は力を合わせて乗り越えていく。この奇抜なプロットには一定のリアリティーがあり、結末の謎解き部分にも納得させてしまうほどの説得力がある。それというのも、「秘密」を共有する父と娘(夫と妻)の関係の描き方が絶妙だからで、その境遇と心情の切なさに、感涙を禁じえなかった。

No.4 6点 夜明けの街で- 東野圭吾 2020/10/14 18:11
結婚して年をとり中年になった主人公は、まさか自分が妻以外の女性に恋するとは夢にも思っていなかった。だが、いつしか相手との距離が縮まり、ともに夜を過ごすうちに、どんどん深みへはまっていく。本作では、さかんに言い訳や口実を探し、謎めいたヒロインに翻弄されつつも不倫にのめり込んでいく。そんな男の心理と行動が見事なまでに描かれている。哀れさを感じる場面もあるくらいだ。と同時に、過去の事件にまつわるタイミリミット・サスペンスとしての意外な展開が加わり、単なるドラマに終わっていない。読み始めると、最後まで一気にページをめくらされる一冊。

No.3 7点 悪意- 東野圭吾 2020/04/21 17:44
序盤で早々と主人公が犯人を見つけて逮捕し、普通ならこれで終わりの物語。しかしその犯人は頑なに、「動機」を語ろうとしなかった。この物語が教えてくれるのは、人間の悪意のあり方。なぜ犯罪を犯したのか、その本当の理由が語られる時、そこにある人間の欲深さと、溜め込まれた悪意の発露に驚かされた。またこの物語を盛り上げているのは、独特な語り方。他のミステリにはない筆致と構成が、「悪意」という作品の魅力を最大限に高めてくれている。ただ相手の言葉がそのまま記録して描かれたり、一人の人間がワンサイドで語り続けたりと、普通の物語では考えられない構成になっている。そしてこの構成が、終盤に至って大きな意味を持ってくる。信用できない書き手なのではなく、単にそういう「物語」が展開されているだけ。そして犯人のトリックに、まんまと騙される。他のミステリではあり得ないこの構成が「動機」という一点にのみ焦点を当てたこの物語の特異性を強調してくれている。

No.2 9点 容疑者Xの献身- 東野圭吾 2020/01/27 18:28
この物語において、その中心にあるのは「愛」であり「献身」。こんなに犯人側に感情移入できる作品は、今まで出会っていません。彼の行動には疑問を挟む余地が何もありません。ただただ愛ゆえの行動であり、誰も否定することのできない犯罪。その犯罪に至る過程と、全てを織り込み済みの計画、この物語の構成するすべてが美しい。そしてなんと言っても一番美しいのは結末。本当に美しいとしか言いようがありません。100%完璧なトリック、絶対に綻ぶことのない完全な計画。それが、たった一つの計算違いによって崩れてしまった。その計算違いは紛れもなく、「愛」が招いてしまったもの。報われなくていいと本気で思っていたからこそ、計算違いが生じてしまった。この物語の読了感は本当に独特であり、また人によって感じ方が違うのだと思います。メリーバッドエンドであり、また誰に感情移入するかも読み手によって全く違ってくる。この本の感想を友人と語り合った時、お互い全く異なる解釈で驚いたのを覚えている。しかし、それほどまでにこの物語は深い。深くてどんな解釈するにせよ、何かを私たちの心に残してくれるのです。

No.1 6点 怪笑小説- 東野圭吾 2018/03/13 20:54
ブラックな味わいの物語を集めた短編集。どの作品も構成が秀逸で、グイグイ入り込んでいくと、シュールで見事なオチが用意されている。例えば、混雑する電車の乗客たちの心の声が延々とつづられる「うっせき電車」。赤裸々で容赦ない本音の数々にうなずいたり、苦笑したり、面白おかしく読み進めると、最後の数行で唖然とさせられ、苦い後味の中に読者を引きずり込む。小気味良い演出で、しかも不思議と温かい気持ちになれる作品集。

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平均点: 6.21点   採点数: 385件
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