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猫サーカスさん
平均点: 6.19点 書評数: 419件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.279 5点 キング&クイーン- 柳広司 2021/07/12 18:32
警察を辞めた女性が主人公となる異色サスペンス。冬木安奈は、六本木の雑居ビルにあるバー「ダズン」で働いていた。元SPの彼女は、その経歴から店へ来る女性客のために用心棒の役目を果たすことがあった。だがある日、常連客に連れられて店に来た栄蓮花から、アンディ・ウォーカーという男の警護を依頼された。彼は元チェス世界王者だった。果たして安奈は最善手を打ってアンディを守れるのか。本作は、チェスの世界を現実に置き換え、いかに盤上のキング、アンディを守るか、その戦いに挑むヒロインの活躍が描かれている。安奈とアンディそれぞれの過去が現在に絡み、緊迫した状況へと展開していく。おそらくチェスを多少でも知っていれば、アンディ・ウォーカーは伝説のチェスチャンピオン、ボビー・フィッシャーをモデルにしていることは明白だろう。しかし当然ながら、様々なフィクションがほどこされており、単に実在した天才の経歴をなぞるだけではなく、チェスを模した要人警護の話にとどまってもいない。読み手さえも騙してチェックメイトとなる。

No.278 6点 人質の朗読会- 小川洋子 2021/07/05 19:11
9話からなる物語はそれぞれ語り手が違う。地球の裏側で反政府ゲリラの人質となった彼らが毎夜、粗末な廃屋で自らの過去について語る。それが録音され「人質の朗読会」と題されたラジオ番組になるという形式の物語。冒頭で人質たちは犯人の仕掛けた爆弾で死亡したことが書かれる。物語は死者の声として進む。もう生きていないはずの彼らは、自分の人生で起きたある出来事を生き生きと語る。英字ビスケットで綴られた単語、背負った老人の重み、隣人と作った黄金色のコンソメスープ、緑の小川のようなハキリアリの行進。ささやかだが、決して損なわれることのない、鮮やかな記憶だ。誰しも語るべき物語を持っているのだと思わせられる。けれど、それはもう声だけで、彼らはいない。物語のはずなのに喪失感が迫ってくる。いったいこの世ではどれだけの声が消されていっているのだろうと胸が苦しくなり、物語の強さに驚く。耳を澄ませて、会ったことのない誰かの小さな日常を、声を、消えていく記憶を、特別ではない人生の欠片を拾い集めて、一字一字記している。

No.277 8点 鏡の中は日曜日- 殊能将之 2021/06/26 18:38
一九八七年、鎌倉に住む仏文学者の邸で訪問客の一人が殺害された。居合わせた名探偵・水城優臣の推理によって、事件は解決されたかに見えた。しかし二〇〇一年、探偵の石動戯作のもとに、事件の再調査をしてほしいという依頼が持ち込まれる。犯人は誰か、トリックは何かといった謎解きのパーツを個々に取り出せば案外月並みだが、本書において解かれるべき謎の核は、そもそもこの作品の中では一体何が起こったのかという点にある。推理の前提となるべき条件が次々と覆され、それに伴って事件の全容そのものが絶えず微妙な変貌を遂げてゆくのである。屈折したユーモアのセンスも含め、尋常ならざる才気に裏打ちされた小説である。

No.276 7点 ポジ・スパイラル- 服部真澄 2021/06/21 18:37
新しい日本の海の姿をシュミレートしてみせる小説。物語は、環境省のエリートである橋場が海に潜るシーンから始まり、次に人気俳優の久保倉が東大の准教授・住之江沙紀からレクチャーを受ける場面へと展開する。やがて沙紀たちは、有明海、東京湾など日本の海の再生に向け、大胆な挑戦を続けていく。「なぜ橋場は自殺したのか」という謎を含んでいるものの、理想的な再開発や環境問題をめぐる情報小説としての色合いが強い。石油や小麦などの値上がりが続く昨今、その背後にある問題や、環境、エネルギー、農業漁業など、どれをとっても悪いデータや暗い見通しばかりが支配している感がある。そんな現在のネガティブな方法論で示したのが、この「ポジ・スパイラル」。少しでも日本の海とその未来に関心のある方はぜひ。

No.275 5点 プラ・バロック- 結城充考 2021/06/13 19:07
神奈川県警の女性刑事クロハは、呼び出された現場で思いもよらない凶悪な事件に立ち会うこととなった。埋め立て地の冷凍コンテナからから、十四体もの死体が発見されたのだ。はたして集団自殺なのか。やがて一人の身元が確認されたものの、新たに六体が発見された。頻繁な改行や体言止めを多用した文体のため、かなり安っぽく感じもするが、それも作者の計算の内なのか、独自の雰囲気に統一された作品である。メールに残された数字の謎をはじめ、クロハが仮想空間で会話していくなど細かい道具立ても含め、全てが近未来風イメージによる無機質な世界。表面的な解決の向こうにある驚きの真相など、巧みな構成をそなえている。

No.274 5点 くちぬい- 坂東眞砂子 2021/06/09 18:34
都会へ出て山村で暮らし始めた夫婦が味わう恐怖の物語。竣亮は定年退職を機に、妻の麻由子と二人で高知の山奥へ移り住むようになった。麻由子は放射能汚染に不安を感じ、東京から逃げたかったのだ。当初は理想の生活を手に入れたと思っていた。ところが高齢者ばかりの村人たちとの関係は次第に嫌悪となっていく。きっかけは「赤線」と呼ばれる道の上に穴窯を作ったことだった。そして夫婦は陰湿な嫌がらせを受け始める。「村」という閉鎖社会での陰湿ないじめや人の心が壊れる過程が不気味に語られていく。だが、それはなにも田舎だけではなく、どこへ逃げようとも付きまとってくるのかもしれない。本作は、まるで日本という国の根源的な病理を示しているかのような恐ろしさを、読者に覚えさせているようだ。

No.273 7点 恋するアダム- イアン・マキューアン 2021/06/04 16:21
恋のライバルは、超高性能人工知能を搭載したアンドロイド?男女の三角関係という普遍的なテーマを、現代的にポップに捉え直したこの作品はその実、人間の本質や倫理観をあぶりだす意欲作だ。自動運転車が走り、数学者チューリングが存命の、架空の1982年イギリス。30歳過ぎのチャーリーは、遺産で得た大金で最新アンドロイドを購入する。それはアパートの上階に住むミランダを振り向かせるため。子を育てるがごとくアダムの設定を共同で行い、縁を強めようという作戦だ。ミランダとの接近は成功する。だが大誤算はミランダがアダムと身体の関係を持ったこと。アダムは性の愉悦を知ると同時に、アイデンティティーをめぐって苦悩するように。さらに、電源のオンオフで生殺与奪を握るチャーリーとの熾烈な闘いも始まる。アダムは、ビッグデータとつながり、瞬時に最適解を導く頭脳と人型を有する。家事もすれば、肌も温かく、詩も読む彼を無慈悲に扱えるか。一方で、嘘をついたり不正を容認したりできないアダムに、人間的な情緒は通用するのか。ストーリーは、秘密を抱えたミランダの魂の救済という問題に及び、複雑さを増す。アンドロイドを制御可能と考えることと、正義感のために法を犯すことの類似が語られていく。人間の鏡像としてのアンドロイドは、人間の愚かさも白日の下にさらす。作者らしい皮肉の効いた、スリリングな物語だ。

No.272 7点 愛しき者はすべて去りゆく- デニス・ルヘイン 2021/06/04 16:21
私立探偵パトリック&アンジーものの第四作。男女探偵が幼女の失踪事件を捜査する物語というと、誘拐事件をメインにしたサスペンスやロス・マク風の過去にさかのぼる一族の秘密を探る私立探偵小説を想起するでしょうが、作者はどちらにも安易に流れずに独自の世界を形作る。大きな社会問題にもなっている幼児行方不明事件を見据えて、人間性のかけらもない小児愛好家たちのおぞましい犯罪と、子供に対して何の感情を持たぬ無責任な親たちを提示しながら、いかに子供を救済するのかという問題を問いかける。事件をめぐる卓越したプロットもさることながら、この子供の救済をめぐって起きるパトリックとアンジーの葛藤が本書の最大の読みどころでしょう。

No.271 5点 独白するユニバーサル横メルカトル- 平山夢明 2021/05/28 19:12
狂気と暴力におかされた人々が登場し、異様な地獄世界が展開するホラー小説集。八つの短編が収録されており、表題作は日本推理作家協会賞受賞作。なんと、メルカトル図法によって描かれた市街道路地図帖が語り手。その地図は、持ち主を「お坊ちゃま」と呼び、彼の「使命」を手助けしていた。奇抜な発想とダークな恐怖感覚が見事に融合している。そのほか、残虐ないじめや子供の虐待、もしくは未来の全体主義社会がテーマの短編が並んでいる。今生きている現実の感覚が、全て破壊されてしまう悪夢がここにある。

No.270 6点 オーディンの鴉- 福田和代 2021/05/24 18:58
情報化・監視社会の大型犯罪を取り上げ、事件が現実に発生した時の恐怖を味わえるサスペンス。東京地検による家宅捜索を前に、国会議員の矢島が自殺した。インターネット上では、矢島に関する悪意のこもった写真や動画、そして行動の記録などがあふれていた。ありとあらゆる個人情報がネットに流出する恐怖もさることながら、おぞましいのはマイナスの印象を与えるように断片的な事実が巧みに加工され、ばら撒かれることだ。冤罪事件発生の構図ともよく似ている。本作の凄味は、そんな匿名ネット社会の陰湿さ、不気味さが徹底的に書かれているところにあるだろう。

No.269 4点 T.R.Y. - 井上尚登 2021/05/18 18:47
明治の東京と上海を舞台に実在の人物を巧みに織り交ぜながら、詐欺師の主人公が軍と軍閥を手玉に取る様子を新人離れした筆致で描いている。主人公を取り巻く脇役たちの造形も、芸者屋の女将をはじめとして中々いいし、頼りなない犬が登場して大活躍するなど、コミカルな味付けもいい。人物造形、構成がよく、波乱万丈のストーリー展開もいい。ただ、既読感があり、新鮮味という点で物足りなさを感じてしまうので、全体の高揚を削いでいることは否めない。

No.268 6点 偽憶- 平山瑞穂 2021/05/13 18:51
初めに結論ありきで事実を都合よく捻じ曲げて記憶する。誰もが知らず知らずにそんな思い込みをしているかもしれない。この作品は、忘れていた過去の真実が暴かれる物語である。疋田利幸は、実家に届いた奇妙な手紙を手にとった。ある人物の遺産問題に絡み、利幸が小学六年生の時に行われたサマーキャンプ参加者五人に集まってほしいという。やがて女性弁護士による説明会が行われた。故人の遺産はなんと31億円。しかし受け取る資格があるのは、15年前の夏に「或ること」をした人だけだという。一体あの夏に誰が何をしたのか...。大手メーカー勤務の利幸、バーの雇われ店長の樹、派遣労働で食いつなぐ一彦、自称タレントの智沙、公益団体に勤める今日子。それぞれの過去が生々しく物語られ、次第に個性の違う彼らの人となりや現在の境遇が明らかになっていく。家族、学校、思春期の悩みなど、痛々しく身に迫るエピソードも多い。話の中盤で真相はおおかた判明するものの、キャラクター設定と描き方がうまく、「同窓会ミステリ」としての読みごたえは十分すぎるほど。5人の相性の良し悪しや遺産に対する執着がそれぞれ異なるため、よりサスペンスが高まっている。「偽憶」にまつわる結末も見事。

No.267 6点 邪馬台- 北森鴻 2021/05/08 18:54
異端の民俗学者と呼ばれる蓮丈のもとへ、知り合いの古物商から、「阿久仁村遺聞」という資料が送られてきた。その25編から成る手書きの古文書には、村で起こった出来事が民話や伝統のように記されていた。だが、そこに隠された謎を読み解き、「邪馬台国」に関する議論を重ねていく過程で、思わぬ事件が巻き起こる。これまでも多くの学者や作家が邪馬台国の謎に挑んできたのはご存知のとおり。「魏志倭人伝」に記された卑弥呼が治める女王国とは日本のどこにあったのか。ここでは現代の調査と事件を軸に、謎の古文書に含まれる鏡のモチーフをはじめ、廃村、ヤマタノオロチ伝説といった多くの手掛かりから、明治期に村で起こった大量殺人事件、および歴史に隠された邪馬台国の謎が暴かれていく。民俗学や古代史に関する深い考察ばかりか、骨董や美食の蘊蓄なども含め、多彩な魅力がいたるところに詰まっている。

No.266 6点 ベイジン- 真山仁 2021/05/03 18:30
地球温暖化、原油価格高騰、バイオ燃料への転換がもたらす弊害など、いま世界が抱える問題の大部分は、エネルギーに関するものだといってもおかしくない状況。そして原子力発電に関しても、安全性や放射性廃棄物の問題など、依然大きな不安を残したままである。この作品は、世界最大規模の原発に関わる日本人技術者を主人公とした大型エンターテインメント。舞台は五輪開幕を目前に抱えた中国。日本技術者のみならず、中国側の責任者、そして北京五輪の記録映画の監督に指名された中国人女性の三人の視点で話は展開していく。「絶対的な安全」という目的と「国家の威信」という中国政府のメンツがぶつかったり、大連市の汚職摘発問題が背後にあったり、日本と中国の関係がさまざまな事件に発展していったりと重層的な物語が読み応えを深めつつ、幾多の困難に見舞われながらも最後まで「希望」を捨てない主人公らの姿が身に迫ってくる。さらに五輪開幕日までの悪戦苦闘ぶりが、壮大なタイムリミットサスペンスのように緊張と興奮をもたらす。

No.265 5点 贄の夜会- 香納諒一 2021/04/28 18:53
都内で「犯罪被害者家族の集い」に参加した二人の女性が、残虐な方法により殺害される事件が起こった。ひとりは両手首を切り落とされ、もうひとりは後頭部を石段に何度も叩きつけられていた。一匹狼として事件を捜査する刑事が主人公となり、正体のわからない不気味な敵と対決していく。作中、ある弁護士が過去に起きた少年猟奇事件の犯人だったり、被害者の夫がプロの殺し屋であるなど、ハリウッド映画のような大胆な設定が導入されている。だが、詳細に描かれている警察捜査の実態はもちろんのこと、主要人物それぞれの過去から日常生活に至るまでが実写的に書き込まれているため、単なる荒唐無稽な犯罪小説にとどまっていない。フィクションとしての厚みがあり、しかも多視点によるスピーディーな展開と迫真の活劇場面が続く。エンターテインメント性の高いサスペンス。

No.264 8点 オリガ・モリソヴナの反語法- 米原万里 2021/04/23 17:44
子供の頃に何気なく見聞きしたことを、大人になってから、「あれは何だったのだろう?」と疑問に思うことは誰にでもあるはず。この作品の主人公は、中年になったある日、プラハのソビエト学校で過ごした少女時代をたどる旅に出る。彼女が捜すのは、オリガ・モリソヴナという名のダンス教師。常人離れしたダンスの技量を持ち、口の悪さとド派手なファッションで主人公の志摩に強烈な印象を残した高齢の女性だ。オリガとはいったい何者だったのか?彼女が時折見せた不可思議な言動には、どんな意味があったのか?それらを調べるうちに、オリガの秘密とスターリン時代のソビエトの闇を知ることになる。志摩は米原自身をモデルとしており、ソビエト学校時代の描写も彼女の体験に基づいている。ストーリーテリングの巧みさ、登場人物の魅力と生々しさ、物語のスケールの大きさに圧倒される。本書は緻密な取材に深く根ざしたミステリであり、超ド級のエンターテインメントであり、人類が忘れてはならない歴史の記録でもある。

No.263 5点 踊る天使- 永瀬隼介 2021/04/19 18:24
現実に起きた犯罪を取り入れたミステリは少なくない。マスコミで盛んに報道された大事件は、写真や映像などのイメージも残っており、活字の世界がより具体的に迫ってくる。この作品のモデルにしているのは、新宿歌舞伎町の雑居ビル火災。もちろん実際の出来事そのままではなく、小説ならではの物語が展開していく。一九八〇年代後半、いわゆる狂乱のバブル経済が最高潮に達しようとしていた日本における肥大した欲望とその裏で生まれた憎しみが事件に絡んでいる。冒頭、ひとりの消防士の視点でビル火災の模様が描写される。激しく燃えさかる建物を必死で消火しようとする姿は、すさまじいほどの迫力。まずは、この臨場感に圧倒され、先を読まずにおれなくなる。振り返れば異常としか言いようのなかったバブル期の熱気と復讐の憎悪を燃やす者たちをめぐる本作は、まさに熱さを感じる一作。

No.262 5点 愛ある追跡- 藤田宜永 2021/04/13 18:37
ペットを家族の一員として暮らす人が少なくない。一方で少子高齢化、離婚や未婚といった要因でますます家族はバラバラになっていく。この作品は、そんな現代社会を鮮やかに切り取った連作ミステリ。岩佐一郎は横浜のペットクリニックで獣医師として長年働いてきた。だが、あるとき娘の瑶子が殺人容疑に掛けられる。そして瑶子は行方をくらませ、指名手配された。一郎は、わずかな手掛かりをもとに娘を追い日本各地を旅する。渋谷のホテル街から始まる本作の舞台が、やがて伊勢神宮や群馬の温泉地など、ある種の「人が癒しを求める」場所へと移っていくあたり、いわゆるバブル崩壊後、身も心も疲弊した姿を捉えることが物語のテーマにあるようだ。事件の真相を暴く探偵小説というよりも、人と人との触れ合いを描くロードノベルとして、じんわり胸に迫ってくる。

No.261 9点 白夜行- 東野圭吾 2021/03/30 17:54
一九七三年、大阪の近鉄布施駅近くにある七階建ての空きビルで男の死体が発見されるところから始まる。それから二十年、時間の流れとともに新しい場所と新しい人間が次々と登場し、そこに過去の登場人物たちがまた現れ、奥行きを広げていく。この事件の真相を解明に退職してもなお執念を燃やす刑事が、真犯人を突き止めるというストーリー。目まぐるしく移り変わる時代に、それぞれの季節を生きようとする者と、それを拒否してモノクロームの夜を生きるしかない者がいる。彼らが二十年に渡ってつくり、壊していく人間関係の中に、現代人が心の中に押し込めている孤独感や愛憎のかたち、虚無を浮かび上がらせていく社会派ミステリである。現世は極楽と思えば極楽、地獄と思えば地獄。モノクロームの冬に花を咲かせようと白夜を行く者の哀切さは、時代の陰に張り付いた虚無を実感させる。

No.260 7点 秘密- 東野圭吾 2021/03/30 17:54
スキーバスが崖下に転落して多数の死傷者が出た。その中に杉田直子と藻奈美という母子が含まれていた。母は病院で息を引き取り、娘は一命を取り留めた。そして母の葬儀の日、奇跡的に意識を回復した娘の肉体には母の人格が宿っていた。こうして始まった父と娘(夫と妻)の奇妙な二重生活を、さながらホームドラマのように淡々と描き出していく。夫婦の性生活、藻奈美の進学問題など次々に難問が持ち上がるが、二人は力を合わせて乗り越えていく。この奇抜なプロットには一定のリアリティーがあり、結末の謎解き部分にも納得させてしまうほどの説得力がある。それというのも、「秘密」を共有する父と娘(夫と妻)の関係の描き方が絶妙だからで、その境遇と心情の切なさに、感涙を禁じえなかった。

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