皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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猫サーカスさん |
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平均点: 6.18点 | 書評数: 433件 |
No.253 | 6点 | あんじゅう 三島屋変調百物語事続- 宮部みゆき | 2021/02/01 18:02 |
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袋物を商う三島屋夫婦の姪「おちか」が、怖い話や不思議な話を聞く「三島屋変調百物語」の第二弾。といっても前作とのつながりはないので、本書から読み始めても楽しめる。ほぼすべての見聞きに南伸坊のかわいいイラストが掲載されていて、物語と挿絵をセットにしていた時代小説の伝統を復活させた趣向も嬉しい。自分を忘れた村人を恨む土地神「お早さん」にとりつかれた少年を救う方法を考える「逃げ水」や、男が怨念を込めた仏像が、桃源郷のような隠れ里を恐怖に包む「吼える仏」は、自然や霊魂を崇拝する素朴な信仰が、いつしか狂言へと転じる恐怖を活写しているので、カルトが生まれる原因や、宗教戦争がなくならない理由といった現代社会の闇ともリンクしているように思えた。また双子の孫を嫌う祖母の妄念が、その死後も平穏な家庭に暗い影を落とす「藪から千本」は、逃げ場のない家庭で、人間ならだれもが持っている負の感情が奇妙な現象を引き起こすので、恐怖がリアルに感じられるのではないだろうか。ただ因縁なる屋敷に住む人外のモノ「くろすけ」と老夫婦の交流を描く表題作「暗獣」や、脇役として物語のあちこちに顔を出す明るく無邪気な少年たちの活躍、そしてエピローグに用意された心温まる結末は、人と人とが信頼の絆で結ばれれば闇に打ち勝つことが出来るという強いメッセージとなっており、読後感は心地よい。 |
No.252 | 5点 | 汝、隣人を愛せよ- 福澤徹三 | 2021/02/01 18:02 |
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半年前に購入した中古マンションの8階で妻と暮らす真壁昌平は、クリスマスイブの夜、「静かにしてください」とプリントされた手紙を受け取った。騒音クレームなのだろうが、宛名は無かった。だがその後、陰湿で悪質な嫌がらせが頻発していく。騒音問題、ゴミの不法投棄、凶悪なクレーマー、管理組合の紛糾。おそらくマンションの住人の多くが経験している隣人トラブルが、これでもかと登場する。それに伴い主人公自身も仕事と私生活で不運に見舞われてしまう。さらに、自殺者の幽霊らしき足音までが屋上から響く。現代人の恐怖を丸ごと盛り込んだ「他人事ではない」ホラーサスペンス。 |
No.251 | 6点 | 密やかな結晶- 小川洋子 | 2021/01/19 18:08 |
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舞台は閉ざされた島。リボン、鈴、エメラルド、切手、香水、鳥...。何かが一種類ずつ消えていく。実体としてなくなるのではなく、人々の記憶から消滅するのだ。もしそれが手元にあれば、捨てたり燃やしたりしなければならない。消えたもののことを覚えている人たちがいる。彼らは秘密警察による「記憶狩り」で捕らえられ、連れ去られる。かくまう組織もあるが、秘密警察の力は圧倒的で、逃げ延びるのは難しい。島は不穏な空気に満ちている。父母を亡くし、一人で暮らす小説家の「わたし」は、フェリーの整備士だった旧知のおじいさんと助け合い、励まし合って生活をしている。担当編集者のR氏も記憶を失わない人だとわかる。「わたし」はおじいさんと力を合わせ、R氏を自宅の隠し部屋にかくまう。「わたし」とR氏の交流は密かに続く。やがて「小説」が消滅する日が来る。本が焼かれるが、それでも「わたし」は物語をつむごうとする。それは、声を失ったタイプライターの話だった。この作品は寓話的な小説である。そしてアンネ・フランクの「アンネの日記」も想起させる。ナチスの理不尽な迫害を逃れ、隠れ家で書き続けた日記は、記憶をつなぎとめ、時空をこえて未来へつながる営為だった。秘密警察に引きずられてゆく女性が叫ぶ。「物語の記憶は、誰にも消せないわ」。原稿用紙の束を前にしてR氏が言う。「ますめの一つ一つに言葉が存在しています。そして書いたのは君だ」結末を破滅と捉えるか、解放とみなすかは読者に委ねられる。そして記憶とは何か、物語は誰のために存在するのかという問いもまた、読者に残される。 |
No.250 | 6点 | 蜂の巣にキス- ジョナサン・キャロル | 2021/01/19 18:08 |
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主人公のベストセラー作家サムは、ひどいスランプに悩んでいたが、少年時代に美少女ポーリンの死体を発見したことを思い出す。そこで、その事件を題材にノンフィクションを書くことにした。だが取材を進めるにつれ、ポーリンの奔放な生き方、それに翻弄されていた男たちの姿が浮かび上がってきた。さらに今になって、事件の関係者の一人が殺され、獄中で自殺したポーリン殺しの犯人の父親にメッセージが届く。三度も結婚に失敗しているサム、サムと恋仲になるヴェロニカという謎めいた女性、息子の無実を信じている犯人の父親、亡くなったポーリン、全員が手に入らないものを必死に求め、一時はそれに成功したと錯覚する。だが残酷な真実に気づいた時、そこに待っているのは深い絶望。人間の切ない願いと愛と希望、そして、それが打ち砕かれた時の悲嘆と諦念を哀切に描き切っている。 |
No.249 | 5点 | 殺人図像学- マルコス・M・ビジャトーロ | 2021/01/05 20:08 |
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女性刑事ロミリアが活躍するシリーズ二作目。七年前、ロミリアの姉ケイティを惨殺した「ウィスパー」がまた現れた。凄惨な犯行現場には奇妙なメッセージが残され、犯人は警察を挑発し続ける。姉の敵を取るために警官になったロミリアは、復讐に燃え、猛然と捜査に取り組む。解説にも書かれているようにロミリアは火の玉のように熱い。激情に駆られ容疑者を殴りつけたり拳銃を向けたりする暴走も、なるほどと思わせる。しかし、全ては正義のため、殺された姉のため。さらに夫を亡くして一人で育てている幼い息子への愛のため。読者として胸がすく思いがした。また、奇妙な形でロミリアを助ける麻薬王テクン・ウマンが実に魅力的。彼とロミリアとの間には不思議な共感が存在し、追う者と追われる者のあいだの緊張がゆるむ瞬間が印象的。犯人が仕掛けた知的な罠を、ロミリアはガルシア・マルケスやダンテなどの文学的素養によって解き明かしていく。その謎解きの過程は大いに楽しめた。 |
No.248 | 4点 | 浅草色つき不良少年団- 祐光正 | 2021/01/05 20:08 |
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大正から昭和のはじめごろまでの浅草を舞台にした五編が収録された連作集。戦前の浅草には、色の名前を付けた不良少年団が三つあり、その中の黄色団を率いていたのが、似顔絵ジョージこと神名火譲二。東京一の歓楽街・浅草をはじめ、東京各地で起きた怪事件を譲二少年が仲間ととともに解決していく。それぞれの短編で、占い師と双子、瓶詰少女など、怪奇や猟奇に満ちた事件が登場する。全体に説明過剰でやや物語が硬く読みづらいのが難だが、この時代や乱歩の世界が好きな方なら、興味深く読めるでしょう。 |
No.247 | 6点 | ストーンサークルの殺人- M・W・クレイヴン | 2020/12/20 12:14 |
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イングランド北西部に位置するカンプリア州は湖水など豊かな自然に恵まれ、ストーンサークルが多く点在する。そのストーンサークルを舞台に同年齢層の男性を標的とした残虐な焼殺事件が次々に発生し、犯人は「イモレーション・マン」と呼ばれる。3番目の被害者の損壊した遺体に、不祥事で停職中の国家犯罪対策庁重大犯罪分析課の警官ワシントン・ポーの名前と「5」と思しき字が刻まれていることが判明した結果、ポーは処分を解かれ捜査に加わることになる。被害者の共通事項は一体何なのか、犯人の動機は何か、謎は簡単に解明されない。が、事件の背後に潜む果てしない闇は、地道な捜査により徐々に明らかになっていく。世間一般の常識を超えて、正義を求める欲求が強いポーは、上層部との摩擦が絶えない。そのため、時として窮地に陥るが、機転を利かせて状況を打開する。警察内部では敬遠される存在だが、物語の主人公としては魅力的。物語はほぼ一貫してポーの三人称現在進行形で書かれていることから、視点が固定し捜査の進行も頭に入りやすい。捜査手法は理に適っており、推論の過程にも無理がない。 |
No.246 | 7点 | デッドライン- 建倉圭介 | 2020/12/20 12:14 |
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これまで第二次世界大戦秘話を扱った歴史冒険小説はいくつも書かれている。特にケン・フォレット「針の目」や佐々木譲「エトロフ発緊急電」など、期日までに使命を果たさねばならない、いわゆるタイムリミットサスペンス型の長編に傑作が少なくない。この作品もまた同様の趣向による、壮大なスケールの冒険活劇といえる。一九四五年、日系二世のミノル・タガワは、大学で巨大な計算装置の開発計画に加わることになった。だが、やがて原子爆弾の完成が間近で、日本へ投下されるということを知る。そんな時、ミノルにスパイ容疑が持ち上がったばかりか、殺人犯として追われる立場になってしまう。ミノルは逃亡先でエリイという女性とともに日本への密航を企てる...。戦時下ゆえ、ありえない話かもしれないが、二人に迫る機器が臨場感たっぷりに描写され、生死すれすれの状態による道中が随所で展開されているため、フィクションであることを忘れて、ページを捲らずにいられなくなる。本作は、日系移民をはじめ理不尽な立場に置かれた人々が登場するなど、戦争冒険活劇にとどまらない内容を持った作品に仕上がっている。 |
No.245 | 6点 | 指差す標識の事例- イーアン・ペアーズ | 2020/11/27 17:50 |
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17世紀にイングランドといえば、多くの方にとってはイメージの湧きづらい舞台かも知れない。だが、そのなじみの薄さを、補って余りある読み応えを提供してくれている。革命から王政復古に至る動乱の時代を経たイングランド。ヴェネツィアからの来訪者コーラは、オックスフォードで大学講師が殺される事件に遭遇する。一見すると単純な殺人事件。だがその裏側には。物語は、書き手の異なる4編の手記で構成されている。コーラによる手記が終わると、それを読んだ別の人物による第2の手記が始まる。同じ事件が、異なる視点から、コーラの記さなかったことも含めて語られる。4人の語りに生じる矛盾、隠された秘密、それらが絡み合って思わぬ真相を浮かび上がらせる。それぞれに思惑を抱えた手記の筆者たちは、いわば「信用できない語り手」。たくらみに満ちた語りが紡ぎ出す、驚きに満ちた物語。現代の我々にとっては異世界と言ってもいい、17世紀イングランドの描写も読ませる。
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No.244 | 5点 | 水上のパッサカリア- 海野碧 | 2020/11/13 18:11 |
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大道寺勉は、高原の湖畔で三年ほど一緒に過ごした菜津を半年前に交通事故で失い、今は飼い犬とともに暮らしていた。ところがある日、勉の前に昔の仲間が現れた。しかも菜津の死は、単なる事故ではないというのだ。自動車整備士の主人公には、何か訳ありの過去があるらしい。そんな秘密がいくつも隠されたまま、話は進行していく。始末屋グループの登場やその背景など、いささか乱暴な設定を盛り込んだり、謎と意外性のための構成をとったりしながらも、それが陳腐な形に終わっていない。興奮するような活劇や劇的なサスペンスにやや乏しいうらみはあるが、湖畔の生活や女性と犬についての回想などが実に精緻に描かれているため、知らず知らずのうちに物語に引き込まれてしまう。 |
No.243 | 4点 | 警官倶楽部- 大倉崇裕 | 2020/11/13 18:01 |
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警察オタクをめぐる犯罪エンターテインメント。全くの素人連中でありながら、主人公たちは制服警官の格好をしたり、警察に関する専門的な知識を生かしたりして、カルト教団の現金運搬車を襲撃し、借金の取り立てやと戦い、謎めいた誘拐騒動に立ち向かっていく。問答無用で次から次へと奇妙な事件が展開するばかりか、制服や警察手帳はもちろんのこと、盗聴、尾行、逮捕術などのテクニックから、果ては改造パトカーまで「超」のつく警察マニアならではのアイテムや特技が持ち出されていく。話はかなり乱暴に進行していくし、主人公をはじめとするキャラクターの個性や魅力がやや乏しく感じられるものの、何よりもその粗っぽさを凌駕する警察オタクぶりが読みどころ。細かいことを抜きにして、一気に読んで楽しむべき娯楽作品である。 |
No.242 | 6点 | あの日、君は何をした- まさきとしか | 2020/10/30 18:03 |
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いびつな家族のありようが殺人事件の捜査の中で浮かび上がる。2004年、世間を騒がせた宇都宮女性連続殺人事件の容疑者が警察署のトイレから脱走し、3日後の未明、不審人物として警察の職務質問から逃れた男がトラックに衝突して死亡する。死んだのは容疑者と無関係の中学生水野大樹。この事件により母親のいづみの人生は一変する。それから15年後、若い女性が殺害され、重要参考人である不倫相手の百井辰彦が失踪する。捜査に当たる刑事の三ツ矢は二つの事件の関連性を見いだそうとする。二つの関連がわかるのは終盤になってからだが、パズルがかみあうと伏せられていたカードが一気にひっくり返されて、驚きの連続となる。刑事の三ツ矢をはじめ、主要人物がみな家族問題を抱えており、母親の狂気・妄執に焦点があわさって、物語は一段とねじれ、切実な響きを増すことになる。少年少女らの真の姿を見せつけるラストシーンも鋭く強烈。 |
No.241 | 5点 | 五年後に- 咲沢くれは | 2020/10/30 18:02 |
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第40回小説推理新人賞を受賞した表題作をタイトルにした作品集。教師の夫が女生徒の犯罪に巻き込まれる「五年後に」、帰宅しない息子を待つ老婦人と対話する「渡船場で」、末期がんの母親との思い出をたどる「眠るひと」、いじめ問題を見据える「教室の匂いのなかで」の4編が収録されている。いずれも異なる中学校教師を主人公にして、学校と生徒と教師自身の家族の問題を丁寧に解き明かしている。「小説は人の傷口を素手で触る仕事なんだと、改めて思った」(桜木紫乃選考委員)と評されたひそやかな悪意のせめぎ合いを捉える表題作もいいけれど、それ以上に優れているのが次の2作。複雑な家族関係に悩む生徒と自身の問題を温かくみつめる「渡船場で」と母親の思いがけない人生を目の当たりにして生きることの悲しみと喜びを切々と描き切った「眠るひと」。身近にいる家族の思いを救い上げて静かな感動を呼ぶ。ひときわ印象深い。 |
No.240 | 6点 | 当確への布石- 高山聖史 | 2020/10/14 18:12 |
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大原奈津子は、女性学を専門とする准教授であると同時に、犯罪被害者を支援する活動家として世間に顔を知られていた。ある時、東京6区の衆院議員が辞職したため、その補選が行われることになり、奈津子は立候補を決意した。だが、すぐさま何者かの妨害工作を思える事件が起こった。奈津子は、さっそく元刑事の男に調査を依頼したのだが...。清廉で生真面目なヒロインが選挙にのぞむ実態を本作ではうまくフィクションに仕立てている。ここまで具体的なエピソードが盛り込まれた作品も久しぶりだ。選挙戦の一部始終が現実さながらに描かれているのである。そして勝敗の行方ばかりか、裏側の薄汚い陰謀やヒロイン自身の過去が絡むなどして、物語は重層的に展開していく。選挙戦をめぐる迫真のサスペンスとしてお薦め。 |
No.239 | 6点 | 夜明けの街で- 東野圭吾 | 2020/10/14 18:11 |
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結婚して年をとり中年になった主人公は、まさか自分が妻以外の女性に恋するとは夢にも思っていなかった。だが、いつしか相手との距離が縮まり、ともに夜を過ごすうちに、どんどん深みへはまっていく。本作では、さかんに言い訳や口実を探し、謎めいたヒロインに翻弄されつつも不倫にのめり込んでいく。そんな男の心理と行動が見事なまでに描かれている。哀れさを感じる場面もあるくらいだ。と同時に、過去の事件にまつわるタイミリミット・サスペンスとしての意外な展開が加わり、単なるドラマに終わっていない。読み始めると、最後まで一気にページをめくらされる一冊。 |
No.238 | 6点 | 時計仕掛けの歪んだ罠- アルネ・ダール | 2020/09/29 18:42 |
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スウェーデン国内で起きた3件の少女失踪。サム・ベリエル警部は、ある確信に基づいて連続殺人だと主張するが、上司は認めない。やがてベリエルは、どの現場にもいた不審な人物を尋問することに。だが、その先には、彼自身も予想しなかった状況が待っていた。上司と衝突してでも自分の確信に従って捜査を進めようとするベリエルの個性がまず印象に残る。同時に、何かを予見していたかのような態度も。そうした小さな違和感が伏線となって、後に回収される精緻な作りの作品。攻守が二転三転する尋問のシーンの緊張、それに続く意外な展開も忘れがたい。登場人物たちの強烈な意志、そして事件の驚きに満ちた展開が堪能できる。 |
No.237 | 6点 | あの日の交換日記- 辻堂ゆめ | 2020/09/29 18:40 |
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交換日記で構成された7編の連作で、最後の第7話での伏線が回収される凝った仕掛け。入院患者と見舞客、教師と児童、姉と妹、母と息子、加害者と被害者、上司と部下、そして夫と妻というさままざまな立場の2人が紡いでいく話には毎回驚きがある。特に同級生殺しを予告する「教師と児童」、罵倒の連続となる「姉と妹」、ひねりが抜群の「加害者と被害者」が切れもあって優れているが、過去6話の背景や事件の挿話を巧みにつないで大胆なドラマ仕立てにした第7話が秀逸。メール全盛の現代にあって手書きによる交換日記というアナログな手法が、秘めた思いを語らせ、隠された事実を浮かび上がらせるのに有効であることがわかる。 |
No.236 | 4点 | わらの人- 山本甲士 | 2020/09/16 18:31 |
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登場人物は、思うように生きられず、内に不満をため込んだ、いわゆるストレスを抱えた人たちばかり。しかし、ふと立ち寄った理髪店で髪型を変えられたことから、彼らの人生までもが劇的に変わってしまう、なんともユニークな連作短編集。作品ごとに語り手が変わり、ある人は髪をバッサリと切られ、刈りあげられ、ある人は短髪の金髪にされてしまう。ところが髪型が変わることで性格が変わり、まるで子供向けヒーローが変身するかのように、不正を隠している職場を正したり、自分の進むべき道を見つけたりする。読めばストレスが吹き飛ぶ、そんな痛快な物語が詰まっている。 |
No.235 | 5点 | 闇鏡- 堀川アサコ | 2020/09/16 18:30 |
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室町時代の京を舞台にした異色長編ミステリ。京随一の遊女が殺されるという事件が起きた。しかも、その陰惨な現場には、半月前に死んだはずの女がいたという。事件の調査にあたった検非違使・龍雪の前に、いくつもの謎が現れる。凶兆を示す都の空の異変にはじまり、傀儡目、陰陽士、白拍子といった面々が登場するなど、この時代におけるあやしく恐ろしく、いわくありげな世界がこれでもかと展開していく。同時に、女たちの情念の行方も見逃せない。さらに、登場する人物たちが個性的で、その描き方にどことなくユーモアが感じられるため、単なるおどろおどろしい怪異譚に終わっていない。 |
No.234 | 7点 | きたきた捕物帖- 宮部みゆき | 2020/09/02 20:01 |
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岡っ引きの親分の頓死により、世間に放り出された末の子分・北一が主人公。親分の本業だった文庫売りを続けながら、様々な事件に関わっていく。本書は短編4作で構成されている。北一に長屋の世話をする、差配の富勘。親分の女房で、盲目だが耳と勘の鋭い松葉。欅屋敷の用人の青梅新兵衛。周囲の大人たちに期待されながら、成長していく北一の姿が気持ちいい。連続神隠し事件や、生まれ変わり騒動を発端とした殺人など、各話の内容も面白かった。第3話からは、湯屋の釜焚きの喜多次が登場。あることから北一に恩を感じて、協力者となる。タイトルの「きたきた」は、この二人を意味しているのだ。シリーズ化されるそうなので、これからのコンビとしての活躍にも期待したい。なお本書は、宮部の「桜ほうさら」と「<完本>初ものがたり」とリンクしている。 |