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ALFAさん
平均点: 6.67点 書評数: 166件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.7 6点 殺人鬼(角川文庫版)- 横溝正史 2023/10/17 06:47
横溝の雰囲気を軽く楽しむにはいい。
表題作はスリラーテイスト。
一方「百日紅の下にて」は本格味。典型的な過去の犯罪もので、こちらの方が出来はいい。

No.6 8点 八つ墓村- 横溝正史 2022/04/01 08:45
横溝作品は数多く映画化されていて、おどろおどろしいビジュアルが記憶に残るが、原作にはホラー要素はあまりない。骨格は本格ミステリーだ。

この作品も、有名な懐中電灯の鬼姿で殺しまくるのは導入部の因縁話で、本編では粛々と毒殺が進む。
そのわりに前半やや盛り上がりに欠けるのは読者側に情報が少ないためだろう。どう興奮していいかわからないのだ。
殺しの手掛かりやダミーの容疑者などがもっと提示されていればいいのだが。

文体は読みやすいし、キャラはしっかりと造形されている。特に横溝にしては珍しく女性三人が魅力的。
金田一が、殺人メモに便乗した犯人のミスを指摘するところなど、ミステリー的感興をそそるディテールもある。
ただ、モーレツなスピードで次々殺されていく割に手掛かりは少なく、金田一は最後まで脳天気だから、まあ謎解きミステリーというよりはサービス満点のエンタメスリラーと見るのが正解だろう。
その視点からするとなかなかの名作。

No.5 7点 犬神家の一族- 横溝正史 2022/03/26 15:21
タイトに引き締まった「獄門島」とは対照的。とはいっても骨格は意外にちゃんとしている。

すべての始まりは遺言状。翻訳物を含め、これほど精緻で悪意に満ちた遺言状はないだろう。それを引き金に息つくひまもなく事件が起こる。

ご都合主義?そんなことは横溝自身が作品中で述べている。「すべてが偶然であった。なにもかもが偶然の集積であった。」(角川文庫P.384)・・・
細かいことは気にせずサービス満点の横溝ワールドを楽しむ作品である。

ネタバレ注意




この作品、過去に数多く映画、ドラマ化されている。もっとも存在感のある犯人役は、妖怪感が半端ない超美女京マチ子と大仏顔の高峰三枝子だろう。やはり超然としたところがないとね。栗原小巻や富司純子ではあまりにも普通の悪女でものたりない。
当主の犬神佐兵衛は少年時代BLというからには平幹二朗一択だろうね。

No.4 9点 獄門島- 横溝正史 2019/03/04 11:40
作者固有の世界観の中にいかに合理的なプロットを組み込めるかがミステリ成功の鍵になると思う。
クリスティならイギリス中上流社会の人間模様、清張なら昭和の重く濃い人間関係や社会情勢。それぞれにお得意の世界観がある。そして横溝の場合は閉じられた空間での濃い血縁と地縁模様。

ネタバレします


ともすればおどろおどろしい雰囲気や奇怪なギミックが突出しかねない横溝作品の中にあって、ここではとても自然なバランスでプロットが組み込まれていると思う。したがってミステリとして読みやすく楽しめる。
犯人(主犯)の器の大きいキャラクターも秀逸。太閤と呼ばれた当主の晩年の狂気も秀吉さながらで、これも作者の「見立て」か。対照的に初めは腹黒そうに描かれた分鬼頭の当主の、実は重厚で落ち着いた人柄の描きかたもうまい。
犯人が複数になるのはストーリー上やむを得ないが、従犯?二人はもう少し動機を補強しておきたいところ。
三姉妹だけが極端な船場風大阪弁なのも違和感あり。

No.3 7点 本陣殺人事件- 横溝正史 2018/12/09 18:05
短編集としての評価

(少しネタバレ)
密室トリックはとても楽しめた。ただ、ミステリとしての全体評価となると、三つの点で物足りない。まず何といっても動機。犯人の性格はよく造形されているのだから、ここはさらに恐喝などを絡ませて抜き差しならない動機付けをしてもらわないと単にあの動機では・・・・。そして都合よすぎる死体と共犯者。
思うに作者は密室トリックの出来の良さに満足してあとは付け足しだったのでは?
併載されている中編2編は読みごたえがある。
特に「車井戸はなぜ軋る」は人間関係に変なひねりがないだけプロットが自然で、本編よりもミステリとしての構えが大きい。手紙形式の謎解きも楽しい。オカルティックなタイトルが最後に合理的な説明がつくのも後味がいい。こちらは8点。
「黒猫亭事件」は都合のいい共犯者などアラはあるが何よりも有名なトリックを使い、大胆な手掛かりを提示しながら堂々と読者を欺くのは見事。こちらは7点。

No.2 5点 悪魔が来りて笛を吹く- 横溝正史 2018/11/29 17:21
絢爛たるディテールに比べて構成は弱いと思う。全編を通して、犯人とその動機をしっかり暗示してほしかった。そもそもこの動機のもとになる行為、確かにタブーではあるがそれほど悪魔的かな?
共犯者の造形もご都合主義的だし、それまであまり目立たなかった人物(犯人や共犯者)が終盤になって急転直下注目されるというのは、あまり好まない。
おどろおどろしいディテールや帝銀事件的モチーフも今となってはいささか陳腐。むしろストーリーと関係ない情景描写がほっこりする。
余り難しく考えずに作者のサービス満点のギミックを楽しむならいいかも。

No.1 8点 悪魔の手毬唄- 横溝正史 2018/11/28 17:57
(少しネタバレ)
書評がなかなか盛り上がっている(揉めている)ようなので、面白くなって数十年ぶりに再読。内容もやはり面白かった。それほど凝ったトリックやアリバイ工作はないのだが。お得意の閉ざされた空間、過去の事件がカギになる重層的な時間の流れ。複雑な人間関係。重苦しい動機など。満腹感の味わえる長編です。
さて例の論争だが、
見立てに意味はあるか?もちろんある。現に作中でミスリードとして効果が出ている。読者、登場人物、各々がどこまで情報として持っているかどうかは些末なことで、あとから「あの人ならやりかねない・・・・」くらいで十分。(なお、情報の区別がついてないなどと他の読者を軽んじるのは厨二病的思い上がりだろう。ほとんどの読者はそんなことはわかって読んでいると思うよ)
そもそも「見立て」は①単に作者の趣向(あまり意味のない)②犯人の趣向(犯人のキャラに沿った設定)③構成上の必然、などいろいろあっていいのだ。クリスティを例にとると③の典型は「ABC殺人事件」。ここでは「見立て」は構成上抜き差しならない仕掛けになっている。一方「誰もいなくなった」は②の好例。狂信的な犯人のキャラ立てに効果的に使われている。
この作品では③といえるが、①の要素も強いため評価が分かれるのだろう。
あえてこの作品の欠点を上げれば重要な地理的情報が不親切なこと、そして登場人物が多く複雑なこと。それぞれに意味はあるのだが、それにしても多い。
特に例の「老婆」と「おりん」抜きで構成できなかったか。手紙の件が偶然に頼りすぎていて、構成が弱くなっている。
犯人のミスディレクションは一本に絞ったほうが真犯人の鮮やかな手口が冴えると思うが。
一方、映像的には峠で金田一とすれ違うシーンは非常に効果的だろうな。
ともすれば絢爛たるディテールの中に構成が埋もれてしまうこともある作者だが、ここではサービス満点のギミックに負けない骨太の構成で読みごたえがある。

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ALFAさん
ひとこと
物理的な合理性、心理的な整合性、生き生きとした情景描写などがバランスした作品が好きです。
好きな作家
アガサ クリスティー、クリスティアナ ブランド、連城三紀彦、G.K.チェスタトン
採点傾向
平均点: 6.67点   採点数: 166件
採点の多い作家(TOP10)
宮部みゆき(23)
アガサ・クリスティー(19)
松本清張(15)
連城三紀彦(14)
三津田信三(12)
横溝正史(7)
青山文平(7)
G・K・チェスタトン(5)
北森鴻(4)
東野圭吾(4)