皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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ALFAさん |
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平均点: 6.63点 | 書評数: 198件 |
No.4 | 6点 | 黒いトランク- 鮎川哲也 | 2025/02/10 10:16 |
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本格を代表する作家ながら、これまでいくつかの有名短篇を読む限りではトリックの説明文をノベライズしたかのような味気なさを否めなかった。
さすがにこの長編では、淡々とした叙述の中に時代背景や地方の風情が感じられて楽しい。梅田警部補の筑後柳河旅情などはしみじみと味わい深い。 精緻かつ壮大なアリバイトリックを丁寧に読み進めながら解いていくのはまさに本格の醍醐味。一方で犯人はほぼ初めから決め打ちで、フーダニットを探る楽しみはない。これってやはりミステリーとしては片手落ちでは? まあそれも作風ということか。合う合わないは読者側の都合ということだろう。 精緻をきわめた、分単位のアリバイトリックの中にトラックのヒッチハイクなどという不確実な要素が突然紛れるのも違和感。 |
No.3 | 5点 | りら荘事件- 鮎川哲也 | 2024/07/19 08:20 |
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新版で再読。猛烈に殺されて、「誰もいなくなり」そうな展開。これだけたくさんの殺人につじつまを合わせて着地しているので、パズラーとしては楽しめる。
一方、小説としては評価できない。 まず構成。犯行はクローズドサークルスタイルだが設定は閉ざされていない。だから「なぜ逃げない?」となる。そもそも極端に仲の悪い同士が合宿する必然性は? 人物造形は外見中心でキャラクターは立ってこない。 そして文体。ユーモアは空回り、修飾や比喩表現は時代性を差し引いても不適切。「醜女」「白豚」「ホッテントット」等、読む方が居心地悪くなる。これはもう作品の品格に関わるだろう。 そしてあの「美白」。古い都市伝説めいたものはあるがエビデンスは全くない。重要なトリックに使うのはルール違反。 作者は本格の大家とされているが、むしろ「ミステリーパズルの名手」とすべきではないか。 |
No.2 | 6点 | 下り”はつかり”―鮎川哲也短編傑作集〈2〉- 鮎川哲也 | 2024/07/14 09:25 |
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本格ありファンタジーあり、バラエティに富んだ11編。
トリックも緻密なもの、大胆なもの、ちょっと笑えるものなど多彩で作者のミステリー愛を感じる。 ただ残念なことに構成は単調で、事件の記録とトリックの解説をそのままノベライズしたかのよう。地の文もセリフもひたすら「説明」に忙しい。結果として人物も記号的になる。文体も洗練にはほど遠く、一編の小説として味わうには至らない。 なかでは「赤い密室」の緻密なトリックや「達也が嗤う」の大胆な叙述が面白い。 「碑文谷事件」は「点と線」の向こうを張った列車トリックだが、こちらにも大きな欠陥がある。そもそもこの証人自体が犯人にとって致命的ではないか。それとも、そんなことはさておいて二つの地名の妙を楽しめと言うことか。 同じ鉄道ものなら「下り"はつかり"」の笑えるトリックが楽しい。 「死が二人を別つまで」の悪魔的なネタは現代の作家で読み直してみたいものだ。 |
No.1 | 4点 | 五つの時計―鮎川哲也短編傑作集〈1〉- 鮎川哲也 | 2022/01/24 13:04 |
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表題作を含めた10篇からなる短編集。
このサイトで評価が高い表題作「五つの時計」は最初の7ページでフー、ホワイダニットがあっさり説明され、あとはすべてアリバイトリックの提示と解決にページが割かれている。作者の個性というよりは、これがこの時代「本格」に求められたスタイルなのだろうか。 ドラマの中に、抜き差しならぬ動機やトリックを精緻に織り込んだミステリを読みたい当方としては単にパズルを提示されたようで物足りない。 全編を通して人物描写は紋切り型、用いられる比喩もユーモラスというよりはスベり気味で読む方の居心地が悪くなる。 一方トリックそのものは精緻で面白い。中でも印象に残るのは「五つの時計」の蕎麦屋のトリック。 10編中あえてのお気に入りは、大仕掛けな反転が楽しい「薔薇荘殺人事件」。第一の殺人をもう少し合理的にしたらゴシック風味の面白い短編になっただろう。花森安治の解決編「作者と人形」のほうがもっと面白いが。 「不完全犯罪」は松本清張で読みたかったかも。 |