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人並由真さん
平均点: 6.32点 書評数: 2037件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.317 7点 ファミ・コン!- 鏑矢竜 2018/03/21 11:52
(ネタバレなし)
 弁護士・連城雄大の長男である「僕」こと高校三年生の紡(つむぐ)は、この若さで家を追い出され、そして婚約することになった。その騒動のきっかけは、父が家に、紡と同じ年の薄幸の美少女・雛咲幽(ひなさき かすか)を連れてきた夜から始まる……。

 自分が所属するミステリーサークル・SRの会の正会誌「SRマンスリー」の最近の号の<新本格30周年記念特集>のなかでの<あまり語られないが改めて注目してみたい、この30年のなかの作品群>という趣旨の記事中で紹介されていた一冊。
 本書は2010~2011年頃のメフィスト賞応募作で、受賞はしなかったものの関係者の反響を得て刊行された長編。今のところ作者の(少なくともこの名義での)著作はこれ一作のようである。ちなみにタイトルの意味は旧世代の家庭用ゲーム機のことではなく、何を表意するのかは、よく見ると表紙に書いてある。
 
 くだんのSRマンスリーでの本書の紹介文がなかなかくすぐりが効いていたので(かなり変な型破りの作品だとか)、これで興味が湧いて手に取ってみた次第。
 でもって中味は設定&導入部どおりのシチュエーションコメディ風ラノベ。ものの見事にラノベ。
 大筋はヒロイン・幽の窮地を救おうと、周囲の人々の協力を得ながら八方破れに駆け巡る主人公・紡のコミック的な奮闘を追い続ける。

 しかしこれがミステリとして評価されているということは……最後にどう着地するんだろうと思いつつ読み進めても、なかなか底が割れない。
 …と思いきや、最後の最後で、はああああああというオチが待っていた。個人的には、大昔に読んだクリスティーのあの作品(断っとくが非・ポアロものだよ)に匹敵するサプライズで、なるほどこれは印象に残る。同時にこんなアホなことをやり遂げた作者にも、そして当該の作中の登場人物の行動にもある種のダイナミズムを称えたくなるような感慨が湧く。
 Amazonの評は賛否に分かれていた(といっても2つだけだ)が、個人的にはノリのいい随所のボケとツッコミのギャグもなかなか面白かった。
 この作者の人、今は何をしているんだろ。なんか別名義で人気のラノベとか書いていそうな気もするんだけれど。

No.316 7点 人質オペラ- 荒木源 2018/03/19 18:43
 海外渡航の際にテロリストに人質にされる災禍を主題にした、ポリティカルフィクションにして群像劇バーレスク。
 中盤のミステリ的な仕掛けは、まあ先読み可能だが、後半の「あ、そっちの方向に行くの…」という展開。ネタバレになるので絶対に言えない(言いたくない)けれど、ズルい、ズルいよ、これは。
 いろんな読み方が許される、正にそんな作品だと思う。

No.315 5点 サイレンス - 秋吉理香子 2018/03/19 18:36
 どういう持ち技で攻めてくるか中盤でほぼ見えてしまうが、それでも読むのを止められない、じっとりとべとついた感じ。これってアルレーのBクラス作品あたりの食感に近い。
 この作者のとんがったところが無くなって、その代わりに一種の安定感が芽生えて、今はここに着地したという印象ね。
 悪くはないんだけれど、もっと振り切ったものを期待したい。

No.314 5点 毎年、記憶を失う彼女の救いかた- 望月拓海 2018/03/19 18:31
 今年は似たような闘病恋愛ミステリを、つい先日読んじゃったばかりなので、どうしたって印象が薄れる、インパクトもかすむ。もちろんこの本固有の責任ではないですが。
 決して悪い作品ではないのだろうが、今の自分のそういうメンタリティの中から湧き出る涙は、先に読んだ作品の方で使い切っちゃった感じだな。すみません。

No.313 6点 たぶん、出会わなければよかった 噓つきな君に- 佐藤青南 2018/03/19 18:26
 最後まで読み終えて、良かった、とは思う。ただし底が割れてからの、ある重要キャラクターに抱く質感が終盤であまりにも様変わりして。

 うーん、これは何というか、妙な例えだが、たとえば文芸ドラマ性の強い18禁恋愛ゲームをプレイしていると、それまで地味で不器用な若者だった主人公が、最後の最後でいきなり種馬的セックスをやり出して、受け手が置いていかれる違和感…あれに近いものがある。いやこの作品の変質のベクトルは、まったく別の方向であり成分なのだが。
 もし、この本を読んで、自分は<あの登場人物>に最後まで、変わらずに感情移入をし続けましたよという方がいたら、イヤミや煽りでなく、その心情をうかがってみたいもので。

No.312 6点 僕たちのアラル- 乾緑郎 2018/03/19 18:17
 苦みのある青春SFミステリとして、なかなか心に染みた。
 しかしこの帯の文句は今さら『メガゾーン23』でも手塚作品『赤の他人』でもあるまいし、悪い意味で王道すぎる。
 あとメインヒロインは、最後にたどり着くこのポジションじゃなく、第二ヒロインなれども実質的に主人公の心を永遠に占有する、そんな立場の方が良かったような。

No.311 5点 dele ディーリー- 本多孝好 2018/03/19 18:13
 依頼人の死後、誰にも見られたくないデータを(当たり前だが、今はもういない)当人に代わって、デジタルデバイスから削除する会社『dele.LIFE』。そこに勤める若者・真柴祐太郎を主人公にしたミステリ連作。

 仕様としてはよくある『ブラック・ジャック』もの(専門職もの)だが、<プライベートに関する記録内容を消去すべき約束>に待ったがかかる筋運びは、連作のそれぞれに一応の工夫が凝らされていて、まあ面白い。
 主要登場人物の設定のなかには決着していない部分もあるようだから、シリーズ二冊目も書かれそうではある。

No.310 6点 5まで数える- 松崎有理 2018/03/19 18:06
 半年かけて、少しずつ味わうように、ちびちび楽しんでいた中短編集。
 早川の「異色作家短篇集」を21世紀の国内作品として再生させたら、こんなのになるんじゃないかなという感じでとても愉しかった。
 ジャンルを超えて、本を読むことは面白いと素直に思える一冊である。

No.309 6点 黙視論- 一肇 2018/03/19 17:59
 主人公ヒロインの繊細な内面に対しては読み手の興も乗るのだが、フェイクに終わったサブキャラがあとから薄っぺらく感じるのがちょっと辛い。
 あと事件(というか事態)の陰に隠された真実はとてもジーンとくるんだけれど、キーパーソンの登場のさせ方が少し後手すぎるんじゃないだろうか。まあそのさじ加減が難しいのはわかるんだけれど。

No.308 6点 探偵さえいなければ- 東川篤哉 2018/03/19 17:55
 このシリーズは実は初めて触れますが、とても楽しかったですな。一本一本ごとに、自分自身も楽しんでミステリを書いてるのであろう送り手の心情が透けて見えて、実に快い。
 機会を見て少しずつ本シリーズを楽しませてもらいます。

No.307 5点 分かったで済むなら、名探偵はいらない- 林泰広 2018/03/19 17:50
「♪暗い闇ひきさいて~明るい光が差すように~地獄から甦る『見えない精霊』林泰広の白い牙」という感じの大復活であったが、できたものはフツーに手堅い日常の謎風な連作もの(殺人事件もあるが)であった。
 とはいえエピソード全部に一貫する「ロミオとジュリエット」のウラ読みという趣向など、ほかとはひと味違う妙な才気は今回も感じさせる。
 次回は、剛速球のトリッキィな長編を期待しています。

No.306 6点 悪寒- 伊岡瞬 2018/03/19 17:46
 ドラマチックな導入部のうまさと、いびつな悪人像の鮮烈さ。この辺はさすがに伊岡作品といった手応え。
 前作『痣』の主人公だった刑事・真壁が再登場し(さらに別作品の白石弁護士一家ともリンク)、この作者としては珍しい? シリーズキャラクターの活躍という趣向もうれしい。
 ただ最後に真相が明らかになったあとで中盤を読み返すと、ある人物の目撃証言はいったい何だったろうかと疑問が生じる(特に虚言を吐く理由も思い当たらない)。
 事件の真っ只中でややこしい事態が起きて主人公の焦燥が煽られたのはいいものの、トータルで見ると描写に整合を欠いたということであろうか。

No.305 5点 スマホを落としただけなのに- 志駕晃 2018/03/19 17:31
 中盤の展開上の重要な局面で、あまりにも大きな偶然が作用しすぎているんじゃないかと。つまらなくはないが、ありふれたサイコサスペンスという感じでした。悪い意味でマンガみたい、と言ったら、よくできた漫画やアニメに失礼か。

No.304 8点 さよなら僕らのスツールハウス - 岡崎琢磨 2018/03/19 17:28
 トリックや伏線などの面で一編一編の出来不出来は感じるものの、連作を通して読んで、とても心の燃焼感の大きい一冊。

 人間関係が順繰りに有機的に交錯して前のエピソードと次のエピソードとの関係性を紡ぎあってゆく手法はことさら珍しいものでもないのだろう。
 しかしこの趣向が、いろんな入居者がそれぞれの人生の一時期を送ってきた物語の舞台を際立たせるという意味で、とても効果を上げている。

 最後は藤子・F・不二雄先生の「×××××」になるかと思いきや…読み手の緊張をうっちゃるラストの捌き方も見事。個人的に昨年の収穫の一つだと思う。和製・青春ミステリ版『聖アンセルム923号室』かもしれん。

No.303 6点 (仮)ヴィラ・アーク 設計主旨 VILLA ARC (tentative)- 家原英生 2018/03/19 17:16
 最後の主題を語るためにミステリの結構全体が奉仕する、ある意味でとても感銘を呼ぶ作品のはずなのに、そういうパトスがあまり湧き上がってこないのは何でだろう。
 どうだ、俺は凡百の館ものを凌いで、崇高なメッセージをトリックとロジックの核にしたぞと言いたげな、送り手のドヤ顔がちらつくためか。
 いや、悪意的な読み方ですみません。マジで(汗)。

No.302 5点 ifの悲劇- 浦賀和宏 2018/03/19 17:09
 文字通り&評点通り「まぁまぁ楽しめた」のだけれど、この作品に関しては、先行するBLOWさんのレビュー「やっぱりそこに着地するのかあ、と落胆。とんかつ屋に入ったらラーメンが出てきた、みたいな感じ」という一言が、ものの見事に作品の素性を語りきっていると思います。
 アニメ『正解するカド』終盤のポカーンぶりみたいじゃ。

No.301 5点 合理的にあり得ない- 柚月裕子 2018/03/19 17:05
読み物としての連作キャラクターミステリ的には、決して悪くないと思う。ただし最初のニセ天才預言者のカラクリを暴く話、あまりにもトリックが昭和で、21世紀の現代にこれはないのでは、と呆れた。
 総じて軽く読めることは悪い事じゃないんだけどね。
 
 それにしても作者は美人ですな。数年前のミステリマガジンをたまたま読み返していて、インタビュー記事で、ハッと思いました(汗・笑)。 

No.300 7点 怪盗ニック全仕事(4)- エドワード・D・ホック 2018/03/19 16:41
 サンドラ共演ものなんて以前に一冊でまとまって出てるじゃん、すでに読んだ話も多いんだろうな…と思いきや
①予想以上に初訳編多し
②そもそもサンドラはポイント的に、良い塩梅でのみ登場
③昔読んだけれど忘れてる話も少なくない
という三つの理由で、予想以上に楽しめた。

そのサンドラ自身もかなりバラエティに富んだシリーズ上の運用で、その辺は連作を読み進む読者を退屈させない、ホックの職人作家ぶりを感じます。
 シリーズ前巻のようにとびぬけてぞっとするような優秀作はないんだけれど、全体のアベレージは第3巻よりも上かもしれない。
 あとグロリアとニックとの別れ話については、ホックの当時の構想を聞きたかったな。どっかですでに語っているのだろうか。

No.299 4点 偽りのレベッカ- アンナ・スヌクストラ 2018/03/19 16:29
 十数年前に誘拐された? 失踪した? まま、いま現在も行方不明な娘レベッカ。その顔をニュースで見て、偶然にも自分にそっくりだと意識した若い悪女がそのレベッカを偽って、当該の家庭に「帰って」なりすます。だが…というストーリー。
 21世紀現代の話だから当然DNA鑑定とかあるよねと思って読んでいると、作者はそんな疑問に中盤の筋運びのなかで一応は応えてくれるものの、これがまた、そういうストーリー上の配慮自体はいいとして、劇中の関係者はそれ以上ツッコマないんですが、という気もする描写であった。
 あと後半のサプライズは良くも悪くもそう来るだろうな、という流れだが、警察は以前の捜査時に<その事実>に気がつかなかったのだろうか。
 エピローグはちょっと良かった。

 ただし(中略・ネタバレになるので秘す)の読者である自分としては、えらく不愉快な場面があったのでこの評点。時崎狂三ちゃん、出番です。

No.298 6点 ピカデリー・パズル- ファーガス・ヒューム 2018/03/19 16:19
『ピカデリーパズル』『小人が棲む室』という短めの長編二本が三本の短編『緑玉の神様と株式仲買人』『幽霊の手触り』『紅蓮のダンサー』をサンドイッチする構成。
 表題作はWEBで「この時代にこんな××トリックの趣向を…」とかなんとか話題になってました。んでもって、それはまあ分かるんですが、この作品は、むしろ<さらに古典のあの作品(非ヒューム作品)>の変奏じゃないでしょうか、とも思う(もちろん詳しくは書けんが)。

 一昨年に邦訳された連作短編集『質屋探偵ヘイガー・スタンリーの事件簿』の、良い意味でおとぎ話的なミステリの面白さが相当にツボだったので、今回も期待したヒュームですが、そっちには及ばないもののまあ悪くはなかった、それなり以上に面白かった、という印象です。
 特に『小人が棲む室』は正に、そのおとぎ話というか大昔の正統派ジュブナイルという仕上げでなんか心地よい。

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ひとこと
以前は別のミステリ書評サイト「ミステリタウン」さんに参加させていただいておりました。(旧ペンネームは古畑弘三です。)改めまして本サイトでは、どうぞよろしくお願いいたします。基本的にはリアルタイムで読んだ...
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