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人並由真さん
平均点: 6.32点 書評数: 2036件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.736 5点 黙秘犯- 翔田寛 2020/01/19 20:03
(ネタバレなし)
 2019年の夏。千葉県船橋市の住宅街の路上で、大学生の西岡卓也が撲殺された。近隣に住む主婦・小森好美は、現場周辺で女の声と、逃げ去る男の姿を認めた。やがて現場に残されていた凶器の指紋から、二年前に傷害罪を起こして保護観察中の若い板前・倉田忠彦に殺人の嫌疑がかかる。逮捕され、取り調べを受けても黙秘を続ける倉田。捜査を担当する船橋署の面々は、この事件の奥に潜むもっと秘められたものを次第に見やり始めた。

 翔田作品は前にちょっとだけ読んだことのある評者だが、今年の新刊がAmazonのレビューで評判が良いようなので久々に手に取ってみる。
 しかし実際のところの内容は、極めてフツーの警察小説で、まあ水準作~佳作といったところ。
 最後に明かされる真相(タイトルの含意)も実にありふれたものだし、何より逮捕された倉田への尋問の場面がみっちり書かれていないのは、この作品の主題上、ヘンに思える(というよりそもそも、物語の軸として、何がなんでも警察側を××しようとする倉田の姿が十全に書き込まれていないと、この作品は成立しないのではないか?)。

 これは悪い意味で、被疑者の行動の心の謎に重きを置いた、一時間ものの刑事ドラマの筋立てを読まされたような印象。
 まあ、真犯人にトドメをさす決め手となる、ヒラリー・ウォー風の物的証拠だけはちょっと良かったかも(それも良くも悪くも昭和ミステリという感じだが)。
 あと、捜査陣の刑事連中のキャラクターは、そこそこの魅力はあった。

 最後に、平成31年~令和1年の設定のストーリーのはずだが、海水浴場などの監視カメラがいまだに記録媒体としてビデオテープを用いているというのは違和感がある。実際にまだそんな所とかあるんですか?

No.735 7点 流れは、いつか海へと- ウォルター・モズリイ 2020/01/19 15:00
(ネタバレなし)
「わたし」こと黒人の中年私立探偵ジョー・キング・オリヴァーは、元NY市警の刑事。10年前に事件関係者の女性をレイプしたという冤罪を契機に、警察を追われた過去があった。ジョーの別れた妻モニカが引き取った現在17歳の実娘「A・D」ことエイジア=デニスは不遇の父をずっと支援し、今ではジョーの探偵事務所の助手を買って出ている。そんなある日、ジョーが受けた依頼。それは警官を射殺した罪状で死刑を宣告された黒人ジャーナリスト、A・フリー・マンの潔白を証明してほしいというものだった。依頼人の新人弁護士の娘ウィラ・ポートマンは、大物弁護士スチュアート・ブラウンの事務所に勤務。そのブラウンがもともとマンの弁護を引き受けていたが、なぜか彼は急に態度を一転。その役割を放棄したという。調査に乗りだすジョーだが、そんな彼の周囲では、10年前の彼自身の事件に関する新たな事実が続々と頭をもたげてくる。

 原書は2018年のホヤホヤの新作で、MWAの最優秀長編賞受賞作。
 評者は、大分前に出たモズリイの既訳作イージー(エゼキエル・ローリンズ)ものは未読だが、長らく日本で忘れられていた(放って置かれた)作家がふたたび本邦に凱旋上陸した格好である。それで興味が湧いて読んでみた。
 
 でまあ、実質一日ほどでいっきに読み終えての感想だが、本文がポケミスの標準二段組みで310頁ちょっと。そんなに厚くない紙幅ながら、その割に登場人物が多い、場面転換が激しい(例によって登場人物名のメモを取りながら読み進めたら、名前の出てくるキャラだけで100人前後になった! アンソニー・アボットもびっくり!!)。
 事件の構造も(ネタバレにならないように書きたいが)現在形の死刑囚を救う案件と主人公ジョーの過去の件が絶妙な距離感で絡み合い、かなり錯綜している。
 それでもその割に物語の流れの理解においてあまりストレスを感じないのは、小説作りがうまいからであろう。登場人物が多い分、本当に小説の厚みを見せるためにだけ瞬間的に登場し、そのまま退場するキャラも少なくないが、その使い方も総じて効果を上げている(ジョーが電車やバス内の車中で会う複数の人物たちとか)。
 
 物語の主題は、腐敗した警察官僚と政財界の悪徳、それに立ち向かう市井の中年探偵とその仲間という図式。もうありふれた王道の構図だが、決して清廉なキャラクターでない主人公(妻帯時の時から女遊びもひどかった)の造形がまず前提にあり、そんな彼がギリギリのところで譲れない倫理の箍(たが)を遵守しながら行動する。が、きれい事ばかりでは勝負のしようがないため、必要に応じて裏の手も使う、心根も通じた凶悪犯罪者の協力も仰ぐ……そして……と、全編にわたって「この世の条理は善でも悪でもない」観点が作品世界の隅々まで浸透している。
 読み終わった後にwebのどこかで「旧弊ながら現代的な作品」という主旨の評を見たような気もするが、正にそのとおりで、種族を越えた人権、法の正義、家族の絆、弱者に寛容な社会……などの理想と倫理を心のどこかに仰ぎながら、それだけじゃ現実のなかでやっていけず、やむなくダーティプレイに手を染める主人公、の図がかなり際だった作品。
 いやまあ、実のところそんな文芸そのものは半世紀も一世紀も前からあるんだけれど、そういう清濁の融合への踏み込み方がすごく自然な分、ああ、21世紀の作品だなあという思いをひとしお感じさせてくれる一冊だった。
 絶対に勝てない社会の歪みに対してあがく主人公の姿は、どっかシドニー・ルメットの映画『セルピコ』あたりを想起させたりもする。

 ただし(すごい力作だし丁寧な作りの作品だとは思うんだけれど)、「傑作」と言う言葉でまとめて片づけたくはない長編。「優秀作」なら許せるような感触もある。そういった気分がどこら辺に由来するか、自分でもまだ消化しきれてないところもあるんだけれど。
 評点は8点でもいいかなあ……。そのうち気が向いたら、修正するかもしれない。

No.734 6点 サーカス・クイーンの死- アンソニー・アボット 2020/01/15 05:31
(ネタバレなし)
 先に読んだ『世紀の犯罪』同様に、動きの多い警察小説寄りの一流半のフーダニット。今回は、途中から明かされる<奇妙な凶器>の趣向も物語を盛り立てて、さらに面白かった。
 サーカス団の一角を占めるアフリカ人・ウバンギ族の連中のいかにも未開民族的な言動は、探偵役のコルトたちの捜査活動にまでじわじわと食い込んできて、その辺の異様な感覚が実に楽しかった。そんな文芸を受けた終盤のオチも決まっている。
 しかしこの<近代文明の大都会の一角にあまりにも場違いな未開人種のコミューンが成立し、その周囲で殺人事件が起きる>って、たぶんディッキンスンの『ガラス箱の蟻』の大設定の先駆だよね? 本書の解説でも特に触れられていませんが。
(と言いつつ、評者もまだ『ガラス箱の蟻』を読んでない~汗~。いつかそっちの現物を読んで、実際の異同のほどはこの目で確かめよう。)

 あと先駆といえば、事件の解決をわがままな理由でややこしくしたあの人だけど、こういうタイプのキャラって、のちのちに書かれた無数のミステリの中にタマに出てくるような。もしかするとこの作品は<その手の劇中人物>が登場するミステリの中で、結構先駆の一冊かもしれん? 
(まあ、これもしっかり検証したわけではないから、うかつな事は言えないのだが。)
 
 主要登場人物がそんなに多くはない(ただし名前だけ出るモブキャラは呆れるほど多い)こともあって、犯人の意外性は今ひとつだったけど、十分楽しく読めた佳作~秀作。アボットはこれからも良いペースで発掘紹介していってほしい。
 ただし本書巻末の横井司氏の解説は、今回はちょっと悪い意味で深読みしすぎ。ラストのアレは、そういう解釈とはまったく別ものの、ただの小説的な余韻を狙ってるものだと思うのですが?

No.733 6点 ひとんち 澤村伊智短編集- 澤村伊智 2020/01/13 20:41
(ネタバレなし)
 ノンシリーズのホラー短編集。8本収録。就寝前に読んでひと晩経つとあまり記憶に残ってないものもひとつふたつあるが、おおむねの作品は、なかなかコワイ。
 以下、印象的な作品の短評。

『夢の行き先』
 学校怪談ものだが、どことなく民話風な展開。そこそこに怖いオチに行き着くのが、かえって作品の印象を深めている。

『闇の花園』
 ……作者は、こういうものを一度は書いてみたかったんですね、という感じ。ちょっと微笑ましいような気もする。

『宮本くんの手』
 スーパーナチュラル性よりも、人の心の闇の怖さの方が残る一編。結構キツイ。

『シュマシラ』
 webの感想では本書中の人気上位作のようだが、初読でピンとこなかったので二回読んでなんとなく魅力がわかった。水木しげるの昭和30~40年代の怪奇短編のような話。

『死神』
 直球・剛球の怪談。問答無用にじわじわ来る怖さ。

『じぶんち』
 50年代「異色作家短篇集」の(中略)ホラー編+奇妙な味、のような内容。これも地味にゾクゾク来る。ちょっと星新一っぽい。
 
 ちなみに『シュマシラ』が「比嘉姉妹シリーズ」の世界観とリンクしている? というAmazonのレビューがあって、「え?」と思ったけど、それって、237頁のあの名前のことか? この作品世界にもアレは存在する、という解釈も可能なような気もするけれど。

No.732 7点 不死人(アンデッド)の検屍人ロザリア・バーネットの検屍録 骸骨城連続殺人事件- 手代木正太郎 2020/01/13 17:39
(ネタバレなし)
 吸血鬼やグール、そして魂なき動く死体「コープス」などの不死人(アンデッド)が跋扈する異世界。「俺」こと「不死狩り人(アンデッドハンター)」の巨漢クライヴ・アランデルは、「アンデッド検屍人」を自称する妖しい美少女ロザリア・バーネットとともに、吸血鬼の血族の居城と噂される古城「骸骨城」へと赴く。そこは200年前に不老不死を追求した当時の当主デズモンド伯爵の怪談が残り、そしてその妻エヴァ夫人の幽霊が今も徘徊すると評判だった。「骸骨城」の現当主にして城主エインズワース家三兄弟の長男、そして超美青年のセシルは、先日他界した母カリーナの遺志によって三人の花嫁候補と対面し、その中の誰かと婚姻を結ぶことになっていた。しかしそこに、さらに新たな花嫁候補が登場。だがくだんの四人の花嫁候補が怪異な状況の中で次々と絶命し、そしてそのそれぞれが……。

 異世界を舞台にしたフーダニットの謎解きパズラー。これも最近の一部のTwitterで話題になっているようなので、読んでみた。
 古城の舞台装置を活かした殺人トリックはちょっと興味深く、殺人手段のいくつかには、それぞれカーの複数の長編をなんとなく想起するようなギミックまで導入されている。
 とはいえ異世界パズラーとしての本作のキモは、この世界観と登場人物の設定ならではのクレイジーな動機。一番近い感覚でいえば、白井智之の諸作に登場する、犯行に至るまでのぶっとんだロジックの道筋あたりか。
 あと読み終わったミステリファンの大半は、真相を認めてそこで改めて、新本格派の某有名作品を思い出すだろうけど、そちらとは似た器と具材ながら、本作ならではの謎解きミステリのオリジナリティーを確保しているのは間違いない(特にその前述の、動機に至る思考の組立てにおいて)。
 作品の後半、ある種のキーアイテムとなる物品の逆転図もうまい。
 
 特殊な世界観を活かして、もう何冊かは良い意味でイカれたパズラーを読ませてもらえそうな気もするので、続刊も楽しみにしていきたいシリーズ。

【誤記・誤植】
135頁3行目
エヴァ夫人(誤)
エイダ夫人(正)
……再版か文庫化の際に直しておいて下さい。

No.731 7点 おしゃべり時計の秘密- フランク・グルーバー 2020/01/12 14:12
(ネタバレなし)
 『フランス鍵』『はらぺこ犬』に続いて本シリーズを読むのは三冊目。
 正直『フランス鍵』は大して楽しめなかったんだけれど、『はらぺこ犬』と本作は、これこそ自分が求める往年の海外ミステリ! という感じで涙が出るほど面白かった。
 ギャグコメディの愉しさ、登場人物の魅力、印象的で刺激的なシーンの配列、手数が多い一方で煩雑ではない謎の提示、サスペンスとちょっとしたペーソス、終盤の盛り上がりとラストの意外性……と、これだけ、一冊にあまねく盛り込んだ作者の職人芸的な腕前を感じる。

 ちなみに真犯人は意外であったが、ジョニーが疑問を持ったとする先行する場面での情報。そこはちゃんとさりげなく、読者の方にも手がかり&伏線として書いておいて欲しかったね。
(あれ? と思って読み直したけど、その該当の情報は前もって書かれておらず、犯人を暴いたのちに、ジョニーの口からいきなり出てきた。)
 まあ、そのさりげなく、が難しい(しっかり書くと、読者に、あー、ここが伏線だなと見え見えになってしまう)から、あえてオミットしたのかもしれないけれど。それでもその辺は古今東西のミステリ作家がみんな苦労しているところのハズだから、手を抜かないでほしい。そこだけ残念というか不満で一点減点。
 

No.730 7点 異世界の名探偵 1 首なし姫殺人事件- 片里鴎 2020/01/12 13:50
(ネタバレなし)
 ミステリ好きが昂じて警官となり、のちに私立探偵となった「俺」は犯罪者に殺された。その魂は生前の地球での意識と記憶を残したまま、異世界「バンゲア」の一国家シャークの新生児に転生。農家の長男ヴァンとして成長する。論理と科学の発達が緩やかな一方、魔法が存在するバンゲア。ヴァンは前世の物理法則の概念と知識を魔法の条理に応用し、天才的な資質を発揮した。かくして平民ながら、王都の名門国立魔法学校に特待生として入学することになったヴァン。彼はそこで3年間の学業を終え、ほかの3名の学友とともに、秀才としてシャーク王家の姫君ヴィクティーから表彰を受ける栄誉を被る。だがその表彰式の式典の最中に起きたのは、不可思議な密室殺人事件だった。

 異世界を舞台に、その世界の条理やロジックまで踏まえて展開される完全なフーダニットの謎解きパズラー。版元はライトノベルレーベルからの刊行ということになるが、その分、さすがに文章は読みやすい。Twitterの一部でえらく評判がいいので読んでみた。

 転生後もミステリ好きという属性を維持する「俺」=ヴァンは、少年時代からこの世界での「名探偵」に改めて憧れるが、この世界では近代的な法務やそれに応じた捜査論理もまだまだ未発達で、犯罪が起これば官憲は被疑者に場合によっては拷問を経て自白を強要、それで事件を解決するのが定法であった。要するに現実の江戸時代~戦前までの日本などの警察権力世界が投影された世界で、ここに論理と物証の力をミステリマニアとして信じるヴァンが社会改革のため(今後の「名探偵」として)、志を同じくする友人たちに背中を押されながら斬り込んでいくのが、本シリーズのテーマになるようである(まだ一作目が書かれたばかりだけど)。
 ちなみにパズラーとしてもかなり読み応えのあるもので、真相が暴かれる前に、それまで劇中で提示された謎を改めて整理して並べながら「読者への挑戦」まで挿入。この趣向は読んでいて嬉しくなる。

 なお密室の謎は解かれてしまえばなんと言うことはないシンプルなものだが、意外性としては十分に及第点であろう。しかし本作の最大のキモは……これは言わない方がよいか。
 思いつくかぎりに被疑者ひとりひとりの犯行の可能性を検証し、そこから犯罪の実行の可否をひとつひとつ絞りこんで行くヴァンの論理の立て方も頗る丁寧(一部の説明には、そこって何とかなりそうだな~っていうものもないではないが、まあおおむねは、無粋なツッコミレベルだ)。

 前述のとおり、あくまでわれわれの現実の世界とは違う、魔法の存在する異世界の条理を利用しての謎解きなので、ギャレットのダーシー卿とかの路線、あの和製版を思えば良い。ただし先述の本シリーズの縦糸となるであろうドラマとの融合で、ミステリ部分もさらにまた別の意味を持ってくる。

 評判通りに十分面白い作品であったけど、個人的にはこういう内容とジャンルの作品なら、ラノベらしく登場人物のビジュアルがわかる挿し絵が数枚欲しかった(本書のビジュアル画は、表紙のカバーアート一枚だけ)。最低でも主人公とヒロインだけでもいいから。
 まあ内容を入稿締め切りのギリギリまで推敲して、挿し絵との祖語が生じる危険性まで考えて、あえて挿し絵を入れない仕様にしていたのかもしれないけれどね。

No.729 5点 間宵の母- 歌野晶午 2020/01/11 12:43
(ネタバレなし)
 小学生・西崎詩穗が三年生の時に転校してきた同学年の少女・間宵紗江子。いつしか二人は親友となった。紗江子の義父でイケメンの青年「ユメドノ」こと夢之丞は、お話を語る(ストーリーテリングの)話術で類い希なる魅力を発揮し、娘の級友たちの人気者である。だがその夢之丞がある日、失踪。詩穗の母の早苗と不倫の末に、駆け落ちしたようだった。詩穗の父・宣史は絶望するが、それ以上に狂乱したのは、紗江子の母・己代子だった。次第に常軌を逸していく己代子。そしてこの暗い影は、二人の少女の人生をも大きく歪ませていく。

 二つの家庭(とその血筋)の異常な軌跡が、四本の連作短編をまとめた形の長編で語られる。最初の章が事態の基盤となる事件。次が紗江子の大学時代の、三つ目がOL時代の、そして最後が……という構成。
 最終的にかなりぶっとんだ方向に行っちゃう作品で、終盤の奇想も面白いといえば面白いが、この30年以上の東西のエンターテインメントの中に似たようなネタのものもあった気もする。だから、あまり新鮮味はない。ジャンルとしてどこに着地するかは、ネタバレになるので言わないでおく。とりあえずカテゴライズ分類は、版元の謳い文句の通りにホラーで。
(「デビュー30周年、著者最恐のホラー・ミステリー!」だそうである。 )

 総体としては、不愉快で後味の悪い(広義の)イヤミス。ただいっきに読ませる力はあるので、最後まで読んでそのどぎつさ、破格さがある種の快感に変われば、楽しめるとは思う。評者はぎりぎり、何とかその域に達した……かな。

No.728 5点 千葉の殺人- アッシュ・スミス 2020/01/10 12:25
(ネタバレなし)
 その年の6月15日。千葉県M市の路上で34歳の無職・中内潤子が刃物を振るい、道行く男女を次々と襲った。死者も出て犯人の異常な通り魔的犯行が世間の注目を浴びるなか、55歳のジャーナリスト・永野昭一は、自分のサイトにその事件の犯人・潤子から少し前に投稿があったことに気がつくが。

 二人の主人公といえる潤子と永野、前者は犯行に至るまでの過去の軌跡を主体に、後者は過去と現在をまぜこぜにしながら、双方のキャラクターについての叙述をほぼ並行的に語る作り。悪く言えば「よくある仕掛けものミステリ」である。
 否定的な物言いから始めたのは、読んだ直後はちょっと感心した記憶があるものの、読了から一週間ほど経った現在、面白みもインパクトも加速度的に薄れていく感触があるため。
 そもそもこの作品、最後に(中略)をキモとするのはいいのだが、主人公の一方の方は客観的三人称描写をしてるなら、そこで語られるのが自然な情報が都合良く覆い隠されてる(悪い意味での作者の神の所作が介在している)。さらにもう一方の主人公の方も、あとから考えれば自分から(中略)しなかったというのはいささか不自然ではないか? 少なくとも法令上は可能だよね?
 物語の全編をバックギャモンの様式になぞらえたのもスタイリッシュではあるが、同ゲームとの接点は主人公の片方にしかないのでやや中途半端な感じもある。あと、ところどころに出てくる文芸ネタが下品で汚いものが多いのも、この作品の場合は、個人的に減点。

 まずまず面白かったけれど、随所に引っかかる感じも多い作品。評点はまあ、こんな所で。

No.727 7点 潮首岬に郭公の鳴く- 平石貴樹 2020/01/10 04:24
(ネタバレなし)
 本サイトをふくめてwebのあちこちで「読むのがシンドイ」と風評の一冊だが、自分の場合は、いつものように登場人物メモを取りながら頁をめくっていたら、普通にほぼまったくストレスなどなく、手に取ってから半日で読み終わっていた。
 一見生硬に見える? 叙述も、昭和の国産ミステリを100冊も読んでいれば、いくらでも出会いそうなレベルのものに思えるし(私見では、初期の土屋隆夫の長編作品みたいな歯応えであった)。

 登場人物は確かに多めだが(メモをもとにカウントしたら、名前の出てくるキャラクターだけで43人以上)、一方でそんな多数の登場人物のメモを作り、人物関係を整理しながら読み進めていくのが加速度的に楽しくなる、その種の探求作業的な快感を与えてくれた作品でもあった(これってRPGでのマッピングとかによく似た楽しさかもしれない)。

 ……で、自慢しますが、途中のここだという伏線にピンと来て、事件の概要と真犯人、どちらも真相の露見前に見事、正解でした(笑~さすがに提示された謎やトリックの全ては見破れませんでしたが・汗~)。
 しかしそれでも十分に面白かった。技巧的、というよりはすごく直球的で正統的な作りの謎解きパズラーだと思う。
 でもって終盤の犯人の独白には『獄門島』ではない、また別の横溝作品の影を感じた。もちろんココでは、それ以上は決して言いませんが。

No.726 6点 探偵小説のためのエチュード「水剋火」- 古野まほろ 2020/01/08 18:39
(ネタバレなし)
 2019年の改稿・改題文庫版で読了。
 2019年の完全な新作と思って手に取ったのだが、ところどころにまほろ先生らしさは感じるものの、物語全体の結構は妙にシンプルだな……と思ったら、奥付手前のページを見て11年前の旧作の改稿版と初めて気がつく。なんかいろいろ腑に落ちた。

 青春ドラマとオカルト風味の器の中で、密室(?)不可能犯罪の謎に接近。細かい伏線や手がかりを丹念に拾いながら真相を詰めていく作りは、普通に面白かった。ただ、状況から考えるとどうしても容疑者のキャラクターは絞られてしまうので、真犯人の意外性はあまりない。犯行動機は普通に考えればトンデモの部類だが、まほろ作品世界の中でなら一応は納得してしまう。というか作者も、この文芸は狙ってやったんだろうし。
 あと、被害者の(中略)に関するギミックはあまり意味がないという先の評者さんの見解にはまったく同感だけど、これもたぶん作者はそういうミステリの手法を導入しながら、単に(中略)ネタに持って行きたかったんでしょうねえ。

No.725 8点 卒業タイムリミット- 辻堂ゆめ 2020/01/07 16:46
(ネタバレなし)
 開校5年目の私立高校「欅(けやき)台高校」3年生の卒業式を数日後に控えたその日、3年8組の担任で生徒達の人気も高い27歳の美人教師・水口里佐子が何者かに誘拐された。犯人は彼女を72時間後に始末すると宣告し、自由を奪ったその姿の動画をネットにアップ。明確な要求もないまま、一日に数回、その動画を更新する。警察も介入して高校周辺の教師も生徒も騒乱するなか、元不良の三年生・黒川良樹は「C」と署名のある人物から学校の屋上に呼び出され、この誘拐事件の解決に挑むよう挑戦を受ける。黒川のほかに呼び出されたのは、元サッカー部の荻生田隼平、学年一の美人の小松澪、そして黒川の幼なじみで学年トップの秀才女子・高畑あやね、みな黒川と同じ三年生だった。旧知の黒川とあやねも最近は疎遠で、四人の男子女子にはこれまでほとんど校内外での接点はない。四人はなぜ自分たちが選ばれたのか? との疑念を抱えながら、謎の誘拐事件に対して個々の推理を交換しあうが。

 2019年暮れの新刊。辻堂作品は合作をふくめてまだ数冊しか読んでいないが、とても面白かった。帯には「見事な伏線と鮮やかな結末。爽やかな読後感に包まれる青春ミステリーの傑作誕生!」とあるが、あながち誇張ではない。
 なぜ主人公となる4人の少年少女が選抜されたのかのホワイダニット、作品全体に仕掛けられたギミック、それぞれ決して斬新でも画期的なものでもないが、本作の器と主題によく馴染んだ使い方をしており、その意味で感銘する。
 しかし何より本作で最高級に際立ったのは真犯人の鮮烈な人物造形で、ここまで(中略)なキャラクターというのは、日本ミステリ史上でもかなり有数なのではないか。傷害、誘拐という犯行そのものはもちろん決して許される行為ではないが、その一方で、ある意味、不器用にそこに至らざるを得なかった犯人の(中略)に大きな手応えを感じた。その真相の開陳と同時に物語の細部をひとつずつ丁寧に詰めていくストーリーテリングの妙も、青春ミステリ、ヒューマンドラマミステリとして高い評価をしたい。
(あえていうのなら、最後の最後に明かされる真実に際しての、某・登場人物の反応。そこまで人間、優等生になれるか、とも思ったが、これはきっと私の心の方が、現実の塵芥のなかで煤け過ぎているのであろう……。)

 そういえば昨年2019年は、白河三兎の青春ミステリ路線は出なかったんだよなあ?
 個人的には、(もちろん作風や方向性の多少の異同はあれども)この作品が十分にその穴を埋めてくれた感じ。読んで良かった。

No.724 8点 待ちうける影- ヒラリー・ウォー 2020/01/05 17:27
(ネタバレなし)
 アメリカの地方都市ウォーターベリーの町で発生した、残虐な二件の婦女暴行殺人事件。高校教師ハーバート(ハーブ)・マードックの妻クレアが三人目の犠牲者になるが、その犯人はほかならぬハーブ自身の教え子である、高校生オーヴィル・エリオットだった。オーヴィルが愛妻を殺害しその死体を弄ぶ現場をたまたま直視したハーブは、組み合いの中で相手の銃を奪って銃撃。オーヴィルの男性自身を損壊させた。だが凶悪殺人者として審理されるはずのオーヴィルは精神異常を理由に収監もされず、いま8年間の療養生活によって異常性は完治したと見なされ、自由を得ようとしていた。逮捕から4年もの間、精神病院を3度も脱走してはハーブへの復讐を行おうとし、そのたびに失敗していたオーヴィルの狂気を忘れられないハーブ。現在のハーブは惨劇から8年の日々のなかで新たな家庭を築いて幸福な生活を送っていたが、ふたたび自由を得たオーヴィルの脅威が迫っていることを実感する。だがそんな事態をより劇的な状況に変えてスクープ記事にしようと、地方新聞の若手記者バート・コールズが陰に日向にの、裏工作をはじめた。

 1978年のアメリカ作品。フレッド・C・フェローズ警察署長などのシリーズものと無縁、警察小説ですらないノンシリーズのサスペンス編。
 主題はあらすじに書いたとおり、社会復帰完了を装ったサイコ殺人鬼の襲来におびえ、妻子を守るためにあれこれと対抗策をとる一般市民(高校教師)のストーリー。これにサブストーリーとして主人公ハーブの、総じて学力の低い高校を舞台にした学園ドラマもからみ、小説的にもとても厚みがある。
 白人教師の主人公に対し、逆レイシストの立場で怒鳴り込んでくる黒人の不良生徒の母親の描写など、21世紀の現在でも十二分に通じるモンスターペアレンツの図式だ。
(しかしながら、ネタバレになるのであまり詳しく書けないが、この高校でのサブストーリーが、終盤の本筋であるサスペンスドラマの方にも実にパッショネイトな形で雪崩れ込んでくる筋運びがあまりにも見事であった! この辺りは夜中に読んでいて、大声で(中略)させられた。)。


 正常になった風を演じながら、その実、狂気の復讐の牙を研ぐオーヴィル、必死に家族を守ろう(そして生徒たちのためになる教育をしよう)としながらもいつもいつも理想と常識を信じすぎて(世の中の正義と良識しか見ないというか……)不器用な主人公ハーブ、文筆家として高名になりたいという向上心がひずみをきたし、次第に道を踏み外していくコールズ……が三人のメインキャラクターだが、「4年間、療養所内で問題なしの実績があるんだから、法務上は放免しても何ら問題はないのだ」と無責任にオーヴィルに自由を与えてしまう地方判事、ハーブの恐怖と焦燥に一応の理解は示すものの「何かことが起きるまでは本格的に動けない」の姿勢を頑迷にとり続ける地方警察の面々。
 そういった事件関係者の思惑や各自の立場も必要十分以上に書き込まれ、特に後者(警察)は後者なりの行動規範のロジックがあり、それが救済を求める市民の要望と必ずしも折り合うものではないことを、綿々と傑作・秀作警察小説のシリーズを書き続けた作者らしい視点から、切々と語りかけてくる。それは、誰がいい、悪いというものではなく、そういうものなのだ(少なくとも「現状の文明世界」では)という、警察捜査陣からのリアルな絶叫にも思える。
 地方警察の重職がハーブに語るひとこと「われわれはいつも最初の悲劇に対しては何もできないのです。その最初の悲劇を教訓に法整備された中から、第二の悲劇を防ぐよう奮闘するしかないんです(大意)」は、決して警察は万能ではない、でも大半のまともな警官は、可能な限り必死なんだ(でも限界があるんだ!)という作者ウォーの本音の絶叫でもあろう。
(人間社会、どっかで妥協や折り合いは必要だ、だが、それを当たり前に言って良いのか、という文明批判を裏側に仕込んでいるようにもとれる。)

 クライマックスの展開(主人公ハーヴ側とオーヴィルとの三進二退のシーソーゲーム)も強烈なテンションで、残りのページがどんどん少なくなっていくなか、本当に物語に決着が突くのか……とも思わせるが、ラストは破裂寸前の風船が急速にしぼむように、加速的な勢いで終焉を迎える。その最後に残るもの……それは次にこの本を読むあなた自身の目で確認してほしい。たぶん色んなものが見えるだろうと思う。実際、評者は、このクロージングに、二つ~三つ以上のミーニングを感じた。

 これまでウォーの作品の中でも、最高級に面白かった。なにしろ夜中の12時過ぎに読み始めて、半分は明日にしようと思いながら、とうとう最後まで本を手放すことなどできず、結局は4時間半でいっき読みだったので(笑)。

 ただし、これまでのフェローズ警察署長もののような、いわばA級の職人・技巧派的な感覚がかなり希薄になり、どっちかというと80年代に隆盛するネオエンターテイメントの諸作とか、キングとかクーンツ作品のような「ゴージャスなオモシロ小説」的な食感の方がずっと強かった。
 すんごく熱量を感じた一冊だけど、本来はそういうものをウォーの作品に求めてはいないんだよね、という気分もある。それでも評点はかなり高くつけたい。いや、実際、9点でもいいかとも思った瞬間もあったんだけど、いま言った部分がやっぱり引っかかるので、この位で。

No.723 7点 裸のランナー- フランシス・クリフォード 2020/01/04 23:32
(ネタバレなし)
 1960年代半ばのイギリス。事務用品メーカーの重役で43歳のサム(サミュエル)・レイカーは通勤中のその朝、トラックに轢かれそうな若い母親と赤ん坊を危機一髪のところで助ける。レイカーはかつて第二次世界大戦中にドイツに潜入し、戦闘工作員として武勲を立てた過去があり、新聞はその功績にからめて彼を英雄扱いした。そんなレイカーは近日中に、父一人子一人の息子14歳のパトリックを連れて、東ドイツ内の国際見本市に向かう予定であった。そのレイカーのもとに、かつての大戦時代の上官で今も諜報活動の世界に身を置く男マーチン・スラタリーから十数年ぶりの連絡が来た。新聞記事を見たというスラタリーの要件は、東ドイツ内に潜伏するある英国側のスパイとの接触を願うもので、それ自体はごく簡単な任務だが、そのスパイの名を聞いてレイカーは愕然とする。それは彼自身の癒えることない心の傷となっている、大戦中の記憶に深く関わる人物の名だった。

 1965年の英国作品。日本でも60年代から80年代にかけて数作が紹介され、イギリス正統派エスピオナージュの書き手として一時期はそれなりの評価を得ていたものの、21世紀の現在ではほとんど忘れられてしまった作家フランシス・クリフォードの代表作のひとつ。
(とはいえ評者もクリフォード作品は大昔に1~2冊読んだか読まないかで、もしかしたら今回が初読かも? と言う程度の付き合いだが。ちなみに例によって本だけは大昔に買ってあった~汗~。)

 ハヤカワノヴェルズ版で300ページちょっと。本の束そのものはまあまあの厚さだが、中の本文は一段組だし、しかも翻訳は名訳者・永井淳(キングの『呪われた町』ほか)。会話もそれなりに多いし、ストーリーはハイテンポに進んでいく。これはもう淀みなく読める最高級のリーダビリティの高さであった。
 東ドイツ内に渡った主人公レイカーだが、中盤以降も二転三転の状況の悪化に見舞われ、ついには(中略)と思ったら、さらに……(中略)。
 うん、まあ、こういうあれやこれやの筋立ての勢いで言えば、初期のマイケル・バー=ゾウハーにも負けない作りで、一言で言えば良く出来た秀作。
 しかし最後のネタが暴かれれば、この(中略)そのものにそこまでの必然性はあったのか? という部分もないではないが、その辺は一歩引いて物語全体を俯瞰するなら、(中略)の思惟のなかでは「そう思いついても良かったこと」でもあり、ひとつの状況の道筋としては間違っていない。
 ラストのなんとも言えない甘苦い余韻も、いかにもこういう作劇の形を採ったエスピオナージらしい。

 本レビューの最初のあらすじは全体の5分の2くらいで、中盤からの(中略)がキモの作品なので、ネタバレを警戒して具体的にあんまり言えないのが何だが、いずれにしろフランシス・クリフォード、評判だけのことはある。
 残りの翻訳されている未読の作品、読んだかもしれないけれど内容を忘れてしまった作品、少しずつ読んでいこう。

No.722 5点 プロレス連続殺人事件- 三谷茉沙夫 2020/01/04 16:16
(ネタバレなし)
 1980年代の半ば。新日本プロレスと全日本プロレスの二大勢力を頂点に、群雄割拠の様相を呈し始めた当時の日本プロレス界。比較的規模の大きい新興団体「ワールド・プロレスリング」の中堅レスラー、ジャガー・大城は、プロレスラーとしてのさらなる躍進を図っていた。大城を応援するのは、恋人でOLの広瀬有美と、夕刊紙「オールスポーツ」のベテラン記者、馬場。興行をより盛り上げるために日々奮闘するワールド・プロレスリングの所属レスラーたちだが、そんなある日、彼らの仲間の一人が自宅で何者かに殺される事件が起きる。やがてしばらくして、思いもよらない状況の中で第二の惨事が……。

 作者・三谷茉沙夫(みたに まさお)は1970年代から活躍した著述家。エンターテインメント小説から歴史読み物本まで幅広い活動を為したが、ミステリ関係では初期は「コロンボ」シリーズの和製ノベライズ数冊(「訳者」名義で出した『死者の身代金』『死の方程式』ほか)を手がけたのち、80年代にはオリジナルの実作にも進出。本作はその三冊目になる。

 例によって、webで目に付いた愉快な題名(笑)と、Amazon古書価の高騰ぶりに興味を惹かれて、借りて読んだ。

 それでも一種の業界ものとして、当時のプロレス界の躍動を語る筆致にはかなりの熱気と真剣味があり(たぶん作者の得意なフィールドなんであろう)、主人公のジャガー・大城の視点や三人称の記述を介しての斯界への見識ぶりやトリヴィアの羅列はけっこう読ませる。プロレス小説としての成分が全体の5分の3くらい。
 一方でミステリの部分は一応はフーダニット、ハウダニットのパズラー。最初の殺人に関しては既存トリックの流用だし、さらにそんなに犯人の思惑どおりに行くかな? 検死でバレない? などの不満は感じるが、伏線の張り方の妙な手際は、ちょっと印象に残るかも。
 それなりにまとまっている、特殊な世界を舞台にしたB級ミステリだとは思うが、後半のストーリーの展開がエンターテインメントとしてどうなの? という感じなのが残念。まあそれで作者の言いたいこと、やりたかったことも何となく分からないでもないが、書かれた筋立ての(中略)は最終的にそれに釣り合ったかどうか。

No.721 5点 黄金の鍵- 高木彬光 2020/01/04 01:31
(ネタバレなし)
「わたし」こと34歳の有閑未亡人でミステリマニアの村田和子は、40歳代と思われるハンサムで知的な紳士・墨野隴人(すみのろうじん)と出会い、恋に落ちる。墨野の秘書兼友人の上松三男を交えて和子と墨野の交流が進む一方、その和子は亡き夫の従姉である児玉洋子から、洋子の夫の晴夫についての相談事を受けた。さらにもう一人、やはり亡き夫の友人・重原鋭作から、彼の家に現れた怪しい僧侶について悩み事を聞かされる和子。ざわつく周囲の中で、やがて殺人が発生。そしてその喧噪の中から、幕末の英傑・小栗上野介が隠したとされる幕府の財宝の伝説が聞えてきた。

 高木彬光の後期~晩期の主要シリーズ「墨野隴人」ものの第一弾。
 ちなみに本作の元版は光文社のカッパノベルス書下ろしで、初版は昭和45年11月10日刊行の奥付。なんかしらんけど、現状のAmazonではカッパノベルス版の刊行時期の表記がオカシイ。今回はこのカッパノベルス版で読んだ。
(同年11月15日の第7版。異常にハイペースな重版だ(爆笑)。)

 そこでまたミステリファンとしての私的な述懐になるが、評者はこのシリーズ、一番最初に第二作の『一、二、三-死』を読了。それ以降は第三作から最終巻の第五作まで順々に追い掛けた。
 なんで『一、二、三-死』から読んだかと言うと、大昔にあるミステリガイドブック(『推理小説雑学事典』廣済堂出版)の本文記事で、思いきりそのトンデモな趣向をネタバレされたものの、この場合はそれが苦にならず「そりゃすごい、読みたい!」と飛びついたため(笑)。
 今でも『一、二、三-死』のあまりにもぶっとんだ(アホな、かもしれない・笑)真相は大好きである。

 しかしその一方で、風の噂ではこの第一作『黄金の鍵』はあんまり評判がよろしくなく、そうこうしてるうちに第三作でシリーズ最大の破格編? 『大東京四谷怪談』が刊行。ここで妙に盛り上がったのち、続く第四作『現代夜討曽我』は凡作だったものの、最終巻『仮面よ、さらば』があの仕掛け! ギャー!! となる。
 ……つーことで、もう今さらこの第一作『黄金の鍵』なんか読む必要ねーや、的な気分でウン十年もいたのだが、いいトシになった今、まあそろそろ読んでもいいかな、と思って手に取ってみる。
 本書、そして墨野シリーズについては、そんな流れでの長い付き合い、というワケでして(笑)。

 でもって単品としてのミステリ『黄金の鍵』の評価だけど、……うん……まあ、シリーズ最低作(というかまるで印象に残ってない)『現代夜討曽我』よりはいくらか面白い(笑)。

 しかし、ややこしい人間関係の綾を、最後の最後にけっこう大雑把に、悪い意味の大技で処理した感は拭えない。それに細部の謎解きの雑さ(結局、軽井沢で死体が見つかった真相はアレでいいの? あと第一の殺人はああいう事後処理をする意味があったの?)もあって、マトモなパズラーとしては、まあボチボチの出来だろうね。
 他の評者の方もおっしゃっているけど、小栗上野介からみの財宝についての歴史推理の方がまだ楽しめる。その歴史部分がなかったら、たぶん評価はもう一点減点。

 ところでミステリファンを自称し「ミステリの鬼」ならぬ「(ミステリの)女鬼」を自認する主人公ヒロインの和子だけど、モノローグの中で語る知識にいくつも勘違いがあって妙に楽しい(笑)。
 ポーの『黄金虫』がデュパンのデビュー作だとか(え!?)、名探偵クロフツ警部だとか(フレンチのことらしい)、愉快なツッコミ所が続出(笑)。
 今回は元版のカッパノベルス版で読んだから、のちの文庫版では改修されているかもしれないが……あ、もしかしたらこの描写も(中略)のための(中略)なのか? (たぶん違うだろーけど。)

 ……そーいや第十四章前半の、あのセリフ。アレももしかすると……だとしたら、高木彬光、改めておそるべし!? 
(↑いや、それもきっと、たぶん違うとは思うが……(汗))

 最後に、第十七章で、上松が語った墨野とマタ・ハリの娘との過去の悲恋の逸話。あれも、どこまでが……(以下略)。

 いやー、改めて本当に奥の深いシリーズですの~(笑)。こわいこわい。

No.720 6点 大時計- ケネス・フィアリング 2020/01/03 11:45
(ネタバレなし~少なくとも後半の顛末は)
 大手出版社「ジャノス社」で犯罪実話雑誌の編集長を務めるジョージ・ストラウド。彼は愛する妻子がある身ながら、なりゆきから、自分の会社の社長アール・ジャノスの美しい愛人ポーリン・ディーロスとW不倫関係になる。密通を続けるストラウドだが、その夜、彼が帰った直後、愛人に別の男の影があることに気付いたジャノスがポーリンを詰問。口論の果てにジャノスはポーリンを殺してしまった。ジャノスから事実を打ち明けられた腹心の編集局長スティーヴ・へーゲンは、会社の存続のため犯行の隠蔽を示唆。当夜、その現場にいたらしいポーリンの愛人=謎の男をまずは探して何らかの口封じを考える。口実を設けて会社の人間を使い、マンパワーで謎の男を探そうと考えるへーゲン。だがその役目は、その<謎の男>の当人ストラウドに託されるのだった。一方でストラウドは犯行の夜、ジャノスを見かけたことから彼が真犯人だと確信。だが警察に通報することは自分の不倫関係を明らかにするため、二の足を踏んだ。ストラウドは、自分が率いる調査チームを誘導し、彼らの視点からジャノスの犯行が暴かれるようにとも考えるが……。

 1946年のアメリカ作品。評者が本作の存在を最初に知ったのは、今からウン十年前の少年時代、中島河太郎の名著『推理小説の読み方』の中。そこで新時代のサスペンススリラーとしていかにも面白そうに、他の近代の名作と並べて書いてあった。それでそれから数年内にそこそこのお金を払って、絶版かつ当時は稀覯本のポケミスを古書で入手。だがなんとなく積ん読のうちに、例の新作映画版(ケビン・コスナー主演の『追いつめられて』)にあわせてミステリ文庫版が出てしまう。やがて、そっちで読んでもいいかと思って同文庫を古本で買ったが、いざとなるとあまりにイメージの違う映画ビジュアルの表紙に抵抗を感じ、今日まで放って置いた(同じ作者の『孤獨な娘』は3年半前に読んだ)。そういう面倒くさい流れである。

 ちなみに翻訳はポケミスもミステリ文庫版も同じ長谷川修二の訳文だが、後者は1980年代の編集部の方で大幅に手を入れたらしく、ずいぶんと言葉づかいを改訂。ずっと読みやすくなっている。
 今回の評者は当初、大昔に大枚はたいて買った、風情のある訳文のポケミスで読もうと思ったが、並べて紙面を見るとさすがにリーダビリティはミステリ文庫版の方が格段に良い。そういうわけで割り切って、ミステリ文庫版で読んだ。もちろん手製の紙のカバーをかけて(笑)。

 それで内容の話だが、本作のミステリ的な眼目は言うまでも無く「ほかならぬ自分を探すように指示された主人公」であり、ほとんどこの着想ひとつで勝負の作品と言って良い。
 個人的には、クリスティ再読さんが指摘している詩人ならではの文章の妙というのは、長谷川修二プラス新世代ハヤカワ編集者の訳文を介してはあまり感じなかったのだけれど(すみません)、くえない女流画家ルイーズ・パターソン相手の二度にわたるやりとりや、最後の物語的な決着など、物語上の印象的な場面状況の方の叙述の面白さは、十分に感じる。
 総体的には、妙に背徳感の忍んだ文芸性を感じさせる都会派サスペンススリラーだろうし、そういう意味では最後までサスペンスフル、ハイテンションで楽しめる。

 ただし「自分を見つける使命」という窮地にあってうろたえる主人公ストラウドだが、不倫の発覚と、殺人容疑者の冤罪を着せられるあるいは真犯人から口封じさせられる、という危険性を天秤にかけるなら、どうしたって後者の方が重いわけで。ミステリ文庫版の巻末で瀬戸川猛資が指摘した問題点も踏まえて、実は本作の大設定には相応に無理がありすぎる。
 これはたぶん本作の趣向の着想が、(ポケミスの巻末で乱歩も話題にしている)あのサスペンスミステリの大名作の変奏から生じたためであって、そう考えるとそのアイデアの面白さに気を取られ(実際にストラウドの周囲に、彼の部下たちが集めた証人たちが集まってくるシーンのサスペンスなど絶妙である)、脇の甘さを固めなかった弱さがあるだろう。


【以下数行、ややネタバレ】




 とはいえ、不倫の事実を妻子に知られないように貞淑さを装うべく躍起になっていたストラウドだが、実は奥さんの方は、旦那の以前の浮気事実を知っていた(夫なんかその程度の人間だと、もともと見ていた)という、主人公の行動原理を一瞬で無意味にするどんでんかえしなどはけっこうキツイ。
 さりげないが、こういう残酷な皮肉こそ、作者が書きたかったポイントのひとつかもしれない。
  



【ネタバレ解除】

 ……というわけで得点的に見れば7~8点、一方でいろいろもっとやりよう、作劇のしようはあったんじゃない? という減点を勘案して評点はこのくらいに。
 ただまあ『孤獨な娘』とあわせて、作者フィアリングが、ちょっと変化球の気になる設定のミステリを書く作家ということは思い知った。実際のところミステリの著作はそんなに多くはないみたいだけど、乱歩の紹介記事の時代からちょっと海外でも話題になっていた未訳作「心の短剣」とか読んでみたい。こういうのも論創あたりで出ないかな。

No.719 5点 「阿い宇え於」殺人事件- 草野唯雄 2020/01/02 21:05
(ネタバレなし)
 東京・青山にある大企業・東洋商事の本社。そこではポルターガイストを思わせる怪奇現象が続発していた。そんななか、経理課のOL阿妻輝子と入間多喜子が、屋上から墜落死した。生前の輝子の横領事実が明らかになるなか、多喜子の方が彼女を脅迫していたとの見方も深まる。これに納得できない多喜子の妹・美佐は独自の調査を開始するが、やがて経理課の同僚・宇田昌代が殺されるに及び、事態は「アイウエオ連続殺人」の様相を示して……。

 あの『死霊鉱山』と並ぶ草野唯雄の問題作とかバカミスとか言われているらしい(?)ので、以前から購入しておいた本を、本日気が向いて読む。
 構想の初動から十数年かけて書き上げた作品と言うが、真犯人というか黒幕の正体は当初から見え見えだし、何よりこんなに計画がうまくいくわけねーだろという筋立て。さらにポイントとなる(中略)の犯罪の実体を仔細に検証もしない警察は完全に無能。
 とまあ悪口ばかり書いたが、ミステリとしての狙いというかこういう作劇もありだよね的な茶目っ気は嫌いになれない。オカルトホラーとミステリの分水嶺ぶりも、これはこれでアリだとは思う。最後のオチもスキを突かれた。

 二時間ちょっとで読めましたし、良く出来た謎解きミステリなどとは絶対に言えないけれど、奇妙な魅力もある作品。草野唯雄作品はこういうものこそをタマに読みたい……と言い切っていいのか?

No.718 6点 三人のイカれる男- トニー・ケンリック 2020/01/02 18:26
(ネタバレなし)
 健忘症に悩まされる35歳のジェームズ・ディブリー。存在しないはずの母親が見える40歳前後のチャーリー・スワボタ。本来の温和な青年とタフガイ、妖艶な美女と、三つの人格を備えた30代初頭の多重人格者ウォルター・バード。彼ら3人はNYの精神医療施設で知り合い、友人づきあいしていた。だがある日、3人が共用するオンボロの中古車が、整備不順な市道の穴に落ちて大破。怒った3人は、NY市を相手にした損害額150ドル(たった)相当の現金奪取作戦を考案した。この計画に反対しながらも、次第に巻き込まれていくディブリーの恋人キャロル・マース。だが3人の考えた作戦をふと耳にした別の悪人一派が、そのアイデアをさらに拡大。大規模な犯罪計画を準備し始める。

 1974年のアメリカ作品。ケンリックの長編としては『殺人はリビエラで』『スカイジャック』に続く第三作目だが、先にminiさんがレビューに書かれた事情で翻訳刊行は後回しになった(ケンリックの邦訳としてはこれが10冊目にあたる。つまり7作分、後発の原書が先に訳された訳で)。

 金が無い主人公トリオが犯罪計画の準備のため、強引にことを進める中盤からがおなじみケンリック流ギャグコメディの本領発揮。
 新車を調達する際の、どっか赤塚マンガを思わせるドタバタ劇や、犯罪計画に必要なあるものを奪取するため、囮役のキャロルにストリップを無理矢理させて衆人の注意を引くムフフな描写など、マルクス映画の出来のよい作品? という感じで笑わせる。

 ただし本作の眼目のハズの主人公3人のイカれた精神設定は今ひとつストーリーにイカされず(ウォルターの多重人格ネタはそこそこ重宝されたが)、実際のところ主人公トリオの向こうで、より真剣に悪事を企てる別の悪党一味の方が本当のウラ主役という感じで、後半の物語の機軸になっていく。
 たぶん作者ケンリック、書いていくうちにそっちの連中の方に感情移入しちゃったんだろうね(ラストのひねりや山場も、ウラ主役の悪党一味の方の比重が大きい)。
 別々の主役チームの物語を並列して語り、最後に双方を交錯させる手際はまあ悪くないが、作者の当初の構想を外れた? 計算違いの感覚も覗える完成度。
 それでも事件総体の決着を紙幅の限りギリギリまで引っ張る小説的作法など、この辺の初期編からすでに作家としての手慣れた印象も抱かせる。
(反面、最後になって、まったく忘れられちゃった脇役などもいるような……。)

 全体的にはフツー以上に充分オモシロかったし、これまでのケンリックの作品なら印象的な名場面がふたつみっつ心に残ればオッケーという感覚なので、本作も十分にそういったスタンダードはクリアしている。
 ただし本作のこの趣向、この文芸設定なら、もっと伸びしろはあったよなあ……的な不満も覚えないでもないので、評点はちょっときびしめにこのくらいで。

No.717 7点 見知らぬ町の男- ブレット・ハリデイ 2020/01/02 04:18
(ネタバレなし)
 遠方の町モビルの友人のもとで、一週間の休暇を楽しんだ私立探偵マイケル・シェーン。彼はその夜、自宅兼事務所のあるマイアミまであと三時間というところまで車を走らせていた。シェーンは初めて足を踏み入れる、人口約4万人の町ブロックトンのバーで一服しかける。だが店内に現れた美しい娘が訳ありげにシェーンに話しかけ、さらに彼女と入れ替わるように荒事師風の男が二人登場。男たちは店の表に連れ出したシェーンを失神させ、轢死に見せかけて謀殺を図った。必死に窮地を脱したシェーンだが、初めて訪れた町、たまたま入ったバー、見も知らぬ女、何もかもが殺される理由には結びつかなかった。シェーンはわずかな手がかりを頼りに、独自の調査を始めるが。

 1955年のアメリカ作品。マイケル・シェーンシリーズの長編第25弾で、日本に紹介された正編の中では比較的後期の一冊。当然ヒロインは二代目の、秘書ルーシイ・ハミルトンに交代している(すでに完全に恋人関係みたい)。
 なぜ何のゆかりもないたまたま訪れた町でシリーズ探偵の主人公が狙われたのか? キーパーソンらしきゲストヒロインの行動の意味は? という冒頭の謎(一種のホワイダニット)が結構なフックとなる。さらにシェーンがブロックトンの町で調査を進めるうちに、ある女性の事故死事件、さらに青年地方検事補の焼死事件などが浮かび上がってきて、それらの出来事がどう結びつくのかの興味で、全編のテンションはなかなか高い。約180頁と短い紙幅だが、それだけにストーリーの凝縮感はかなりのもの(さらにルーシイが留守番をしている事務所の方にもちょっとした事件が生じ、そういう趣向を介しての物語的な立体感も備わっている)。
 ミステリ全体としてはある種のホワットダニットの系譜で、真相となる地方都市の悪事そのものは底が割れればやや凡庸だが、そこまでのジグソーパーツを順々に並べていく手際、少しずつ事件の実体を明らかにしてゆく筋運びは見事な職人芸。謎解き要素をはらんだ軽ハードボイルドのエンターテインメントとしては水準以上の秀作であった。
(序盤のメインゲストヒロインとシェーンの接触の真相も、個人的にはなかなか面白い着想に思えた。)
 
 以下、もろもろ思うこと。
・ポケミス裏表紙のあらすじが例によって適当。シェーンは休暇を楽しんだのちマイアミに帰ってきて途中でブロックトンに寄るのだが、裏表紙では「仕事を終えてマイアミに帰る途中」とある。本文しっかり読んでないだろ、当時の編集。

・(やや分からず屋の)地方警察に拘留され、とりあえず釈放されるために妙に下手に出るシェーンがちょっと悲しい。シリーズが進んで角が丸くなった感じ。

・ポケミス126ページ目に、ゲストヒロインとシェーンの会話で
「女をひっぱたいたり、服をおっぱがしてまわる私立探偵? 映画にでてくるマイク・ハマーみたいに……」
「ぼくは、マイク・ハマーとはちょっと違う」
 というのが出てきて爆笑した。ここで話題にされたハマーの映画って当然、本作と同年(1955年)に公開の『キッスで殺せ!』(ロバート・アルドリッチ監督作品)のことだろーな。

・ネタバレになるからくわしくは言わないけど、シェーンシリーズのファンにとって一番嬉しかったのは、ポケミス150ページの下段で、シェーンがメインゲストヒロインに向かって告げたさる一言。めちゃくちゃ泣けた一言ではあったが、それだったら序盤の当該シーンでも、もうちょっとソレっぽくシェーンの内面をチラリと描写しておいて欲しかった。シェーンシリーズは一人称でなく三人称なんだから、主人公の内面の覗き込みの深浅もけっこう自在にできると思うんだけれど。でもなんかこの辺の不器用なところが、妙にハリディっぽい、シェーンシリーズっぽい気もしないでもない。

・終盤、ある職業を突き止めるのがミステリ的な興味の上での重要なポイントとなるが、そこに至るまでのシェーンの推理の論理。これは言語感覚的に、まず日本人にはわからないね。向こうの人(現地のアメリカ人)でも、この説明で納得がいったのかどうか、ちょっと疑問も覚える。

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以前は別のミステリ書評サイト「ミステリタウン」さんに参加させていただいておりました。(旧ペンネームは古畑弘三です。)改めまして本サイトでは、どうぞよろしくお願いいたします。基本的にはリアルタイムで読んだ...
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