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パメルさん
平均点: 6.14点 書評数: 565件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.19 6点 捜査線上の夕映え- 有栖川有栖 2023/11/06 20:09
新型コロナウイルスが拡大した中で、火村英生と有栖川有栖が謎解きを興じる。大阪のマンションの一室で、ある男性がスーツケースに詰め込まれた状態で発見された。このマンションの入り口には防犯カメラが設置されており、このマンションに訪れた人物はカメラでチェックされるため、容易に犯人を特定できると思われたが、そうはいかない。死亡した人物の交友関係を洗い出していく中で、容疑者が複数浮かぶ。しかし、防犯カメラの映像やアリバイが障害になり絞り込めない。
一見、シンプルな事件であるが中々上手くいかない。ある切り口から論理を突き詰めていくのだが、パズルが上手くはまらない部分が出てきてしまう。これを埋めようとして、また別の切り口から推理を進めていこうという繰り返しが読ませる。語り口もいつも通りな軽妙なやり取りで楽しい。
後半になると、それまで描かれていた雰囲気がガラリと転調され、印象が変わる技巧が素晴らしい。またタイトルにもなっている夕日のシーンが印象的だが、そのモチーフの使われ方も随所に効果的に使われている。詩情や旅情という別の魅力もある。トリック自体には無理があるが、エモーショナルなミステリとして楽しませてもらえた。

No.18 6点 濱地健三郎の幽たる事件簿- 有栖川有栖 2022/03/29 08:42
幽霊を視る能力があり、心霊現象を専門に扱う探偵・濱地健三郎とその助手・志摩ユリエが様々な怪異に対していく7編からなる連作短編集。
「ホームに佇む」出張の度に新幹線を利用するサラリーマンが、有楽町駅を通過する際に、赤い野球帽の少年の幽霊を毎回目撃する。理由はおかしみがあり、なるほどと思わせる。
「姉は何処に」郊外の実家に住んでいた姉が行方知れずになり、弟が実家に戻って捜索する中で、同じ場所・同じ時間に姉の幽霊が現れていることに気が付く。最後でゾッとさせられる。
「饒舌な依頼人」濱地探偵事務所に来た依頼人が饒舌におしゃべりする。怪談話なのだが、コミカルでオチが笑える。
「浴槽の花婿」資産家の男が浴室で死亡。事故か事件か。結末は恐ろしくも哀しくて憐れ。
「お家がだんだん遠くなる」毎夜寝る度に、幽体離脱してしまう女性が助けを求める。ミステリ要素はほとんどない。終わり方が苦々しい。
「ミステリー研究会の幽霊」高校のミステリー研究会の部室で起こっていた超常現象が、新しい部員を入れてからエスカレートしていく。ネタとしては学園もののホラーで良く出来ている。
「それは叫ぶ」夜道で得体の知れないモノに触れてから、発作的な自殺衝動に襲われる。ミステリ要素は皆無で完全に怪談。ただただ恐ろしい怪談が描かれている。
ミステリ要素よりも怪談に重きが置かれている話が多いので、謎解きを期待していると肩透かしを食らうでしょう。
濱地先生の役に立ちたいと、いつも思っている志摩ユリエ。助手をするなかで、何度も恐ろしい目に遭っていることを勝手に心配してしまう。今後どのように成長していくのか楽しみ。

No.17 5点 幻坂- 有栖川有栖 2021/12/13 09:15
大阪に実際ある「坂」を舞台にした7編の怪談と時代ものの怪談2編の9編からなる短編集。この世のならぬものとの出逢いを郷愁と叙情あふれる筆致で描き出している。
「清水坂」死の報せに不吉ながらも美しいものを重ねた怪談の様式美が際立つ。
「愛染坂」作家を目指した二人を穿つ女の死に、男の心情の揺らぎと郷愁が幽玄の再開を引き寄せる。
「源聖寺坂」とある別荘での幽霊騒ぎに、探偵が怪異の存在を前提にした転倒推理が素晴らしい。
「口縄坂」この世ならぬ世界への一線を越えてしまったがゆえの脱怪談式幕引きがおぞけを誘う。
「真言坂」幽霊との出逢いと感動的な別れを綴った美しすぎる恋愛譚。
「天神坂」幽霊と歴史ものをまじえたトークが極上のセラピーへと転じる。
「逢坂」視たくてもみることが出来ないあるものとの邂逅を感動的筆致で綴る。
「枯野」俳人の死にまつわる怪異の出来事。
「夕陽庵」重厚な歴史もので締めくくる。
怪談といってもおぞましい話はなく、どちらかというと幻想的で歴史を織り交ぜながら、切なさや無常感が漂う作品が多い。
帯の惹句にある通り、「ジェントル・ゴーストストーリー」であり本格ミステリを期待していると肩透かしを食らうでしょう。ただ「源聖寺坂」は本格ミステリらしい仕掛けの切れと転倒が味わえる。怪異の存在を前提としたからこその黒幕の存在と隠されていた真相が明かされた時の反転に驚かされる。

No.16 5点 カナダ金貨の謎- 有栖川有栖 2021/06/09 08:44
国名シリーズ第10弾で5編からなる中短編集。
「船長が死んだ夜」作家たちの書き下ろしが詰まった「7人の名探偵 新本格30周年アンソロジー」のために書かれた中編。アリスのとんでもない仮説がいつも以上にキレている。王道の謎解きが楽しめる。
「エア・キャット」アリスと先輩作家の朝井が飲み屋で火村を話題にしている。ミステリ仕立てになっているが、真相は大したことない。
「カナダ金貨の謎」犯人は被害者殺害後、予定外の事態が発生し偽装工作に失敗。火村はこの実行されなかった偽装工作の準備の痕跡から犯人を特定していくロジックが見事。
「あるトリックの蹉跌」JTの「ちょっと一服ひろば」というサイトにアップされた短編。火村とアリスの出会いの話。
「トロッコの行方」トロッコ問題「五人を救うために、一人を殺すか」という思考実験が下敷きにある中編。謎解きは呆気ないほどあっさりしている。犯人特定の何が決め手になったのかの説明が不足している。

No.15 6点 46番目の密室- 有栖川有栖 2020/11/09 19:39
推理作家・有栖川有栖とその友人の犯罪学者・火村英生のコンビシリーズ第一弾。
密室を扱ったミステリばかりを発表する推理小説作家・真壁聖一から、クリスマスパーティーに招かれた有栖川と火村は星火荘へ向かった。そんな中、完全な密室の中で真壁は殺されてしまう。自分の考えた46番目の密室トリックで殺されたのか。
タイトルのとおり、密室に焦点を当てた作品かと思ったが、メインの対象としては扱われてはいない。その他の様々なデータを集め、それらを組み合わせて犯人を導き出すというロジカルな謎解きが楽しめる。有栖川と火村のやり取りも楽しいし、テンポも良くリーダビリティが高く好印象。

No.14 7点 狩人の悪夢- 有栖川有栖 2020/09/08 09:28
作者と同姓同名の有栖川有栖が、人気ホラー作家である白布施正都との対談をきっかけに、彼の邸宅へ招かれる。「夢守荘」と名付けられたそこには、眠ると決まって悪夢を見てしまう悪夢の寝室があり、有栖はその部屋に泊まって一晩を明かす。翌日、右手首のない女性の死体が発見される...。
手首の切断理由は?壁に残された血の手形の目的は?現場にあった弓矢、流れていた音楽など、不可解な要素を合理的にロジックを積み上げて犯人、犯行方法を導き出していくプロセスは美しい。また思いがけないことが実は事件の重要な鍵になっており衝撃が大きい。
真相が全て明らかになると同時に、ある人物への悲哀溢れる半生と犯人が絶対悪ではなかったことを仄めかす逸話を添えて幕となるエピローグなど謎解きと人間ドラマが愉しめる。
ただ、事件自体は派手な演出や奇抜な要素が盛り込まれているわけでもないし、登場人物も少ないため地味に感じる方もいるだろうし、フーダニットとして愉しめないかもしれない。

No.13 6点 インド倶楽部の謎- 有栖川有栖 2020/01/22 08:40
臨床心理学者の火村英生と推理作家のアリスこと有栖川有栖のコンビが活躍する(国名シリーズ)と呼ばれる連作の九作目にあたる作品。
現実から夢想、そしてまた現実へ。そのような美しい弧を思い浮かべる謎解き小説で、本書の目玉は、物語の途中で明かされる「ある事実」。神戸の街を歩き回り、地道な調査を続ける火村とアリスに突き付けられるこの事実は、現実から幻惑的な空間へと飛翔させられることになる。
そして、この幻惑から現実へと着地していく推理場面もまた壮観。終盤において火村が展開するロジックの緊密さはシリーズの長所であるが、本書でも余詰めを排し、唯一無二の解答へと辿り着く過程に爽快感を覚える。
ただ、着想は素晴らしいが、ホワイダニットに関しては納得できない。

No.12 6点 白い兎が逃げる- 有栖川有栖 2018/09/09 01:19
4編からなる中短編集。
アリバイ崩し、ダイイングメッセージの謎、思いも寄らない意外な動機とバラエティに富んだ作品集で嬉しい。
表題作の「白い兎が逃げる」は追う側と追われる側がいつの間にか入れ替わる展開。鉄道絡みですが、時刻表トリックが苦手な方でもマニアック過ぎないので楽しめると思います。全体的には特筆すべき作品は無いが、ハズレも無いといった印象。
余談ですが「白い兎が逃げる」はP・T企画がプロデュースし、観客参加型ミステリ(ゲーム形式のミステリ演劇イベント)が開催されるそうです。(2018年9/28~9/30大阪 浄土宗慶典院にて)。

No.11 5点 暗い宿- 有栖川有栖 2017/11/29 01:10
取り壊し寸前の民宿、南の島のリゾートホテル、冬の温泉旅館、都心のシティホテルと宿屋ホテルを舞台にした事件を描いた四編からなる短編集。
雰囲気を味あわせて読ませる作品集で、ミステリとして秀でた作品は無く、また短編ならではの切れ味の鋭さを感じることは出来なかった。
特に残念だったのが「201号室の災厄」で、その場しのぎのパターンでのオチになっており、ロジックが売り?の作者とは思えない作品。

No.10 6点 スウェーデン館の謎- 有栖川有栖 2017/06/01 13:09
この作品はなんといっても消えた足跡トリックだと思うがそれを証明するためにいくつかの手掛かりをロジカルに組み立てていくさまが鮮やかで謎解きの面白さを堪能出来る
作者は海外のある作品に良く似たものがあると気付くが同じ足跡トリックでもルーツが異なるため大丈夫だと確信が持てたため発表に踏み切ったそうです
ただ犯人の行動は無理があるしリスクが大きすぎると感じてしまった
トリックよりロジックが好きという方にはお薦め出来ます

No.9 7点 マレー鉄道の謎- 有栖川有栖 2016/12/20 13:23
作者自身がクリスティーとカーとクイーンを意識して書いたと言っていることから本格ミステリとしての自信作とうかがえる
目張りされた密室にアリバイ崩しそしてダイイングメッセージも盛り込まれている
旅情感もたっぷりで南国リゾート地に訪れた気分になれて寒い時期に読むにはピッタリ
複雑な人間関係の連続殺人事件で細かく張られた伏線がはまっていく様は心地良い
メイントリックの謎が解ると自動的に犯人に結び付くという構図も中々面白い
不満な点は二人で状況を確認しながらの推理が同じ話の繰り返しで堂々巡りしている点
もう少しコンパクトにまとめられたでしょう

No.8 5点 江神二郎の洞察- 有栖川有栖 2016/05/27 21:14
昭和から平成への転換期を背景にアリスの入学から
マリアの入部までの一年を瑞々しく描かれた短編集
ミステリの出来としては今一つ
特徴的なのは一部を除いて死体が登場せず「日常の謎」を
中心に描かれている
学生アリスシリーズが好きでない限りおすすめ出来ない

No.7 6点 マジックミラー- 有栖川有栖 2016/03/16 00:58
いわゆるアリバイ崩し物
事件の鍵は思いがけない場所につながっている
鉄道ミステリとしてのみならずそれをミスディレクションとして
相対化した謎解きミステリとしても楽しめる

No.6 8点 女王国の城- 有栖川有栖 2016/02/08 10:31
散りばめられた伏線や終盤の解決シーンの直前に
挿入された「読者への挑戦」とワクワクさせる要素が満載
ロジックは「双頭の悪魔」に一歩譲るものの
冒険要素や活劇で十分に楽しませてくれる

No.5 5点 鍵の掛かった男- 有栖川有栖 2016/02/04 19:48
地道な聞き込みで少しづつ謎だらけの人物像が見えてくる
このじわじわ感が心地良い
推理のプロセスはエレガントだがその先にある真相は今一つに思える

No.4 6点 幽霊刑事- 有栖川有栖 2016/01/29 14:42
ラブストーリーを本格ミステリと融合した作品
特殊な状況ならではの伏線の仕込み方
たった一人しか主人公を認識出来ないゆえに起きること
純愛・笑い・ロジックが渾然一体となった娯楽作品

No.3 10点 双頭の悪魔- 有栖川有栖 2016/01/29 14:16
マリアとアリスが視点人物となり交互に語られていく
読者への挑戦が二つの村それぞれの謎解き
全体の構図の解明と計三回挿入される
具体的なものから推理が広がっていく謎解き部分
クローズドサークルという舞台設定など
シリーズの特徴が突き詰められた上に複雑に組み合わされている
まさに傑作

No.2 6点 スイス時計の謎- 有栖川有栖 2016/01/13 21:42
表題作のスイス時計の謎以外の作品は凡作に感じてしまった
スイス時計の謎は地味ではあるがトリックよりロジックという方には是非読んで欲しい作品

No.1 7点 孤島パズル- 有栖川有栖 2016/01/11 20:16
さりげない手掛かりから導き出されるロジック
「読者への挑戦」を具えた正統派パズラー
哀愁漂う幕引きも素晴らしい

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パメルさん
ひとこと
7点以上をつけた作品は、ほとんど差はありません。再読すればガラリと順位が変わるかもしれません。
好きな作家
岡嶋二人 東野圭吾 
採点傾向
平均点: 6.14点   採点数: 565件
採点の多い作家(TOP10)
東野圭吾(30)
岡嶋二人(20)
有栖川有栖(19)
綾辻行人(18)
米澤穂信(16)
西澤保彦(15)
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