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パメルさん
平均点: 6.12点 書評数: 708件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.268 6点 蝶々殺人事件- 横溝正史 2020/02/05 19:21
三編が収録されているが、いずれも金田一耕助は登場しない。表題作は、クロフツの「樽」を意識して作られたらしい。楽譜による暗号、容疑者の手記、コントラバスのケースの中の死体、派手な服を着た謎の男など趣向が派手で、細かい謎が多く、さらにもう一つ高度な不可能犯罪が起こる。コントラバスのケースの死体のアリバイトリックは、二転三転し楽しませてくれる。ストーリーはとても面白い。
不可能犯罪に関しては、結末で犯人が明かされるが、この人物が到底これが出来るとは思えなかった。由利先生のトリックの説明に一応納得したが、かなりアクロバティックなトリックといえる。
由利先生がひらめきで解決してしまい、推理のロジックが弱い点が個人的には残念。「蝶々殺人事件」以外の二編は、パズラーというよりも、ロマンティックな冒険譚に近く、後期の明智小五郎を意識したような作風。

No.267 6点 ボトルネック- 米澤穂信 2020/01/29 19:45
その場の状況に合わない言動をしたり、周囲を困らせたりしていながら、本人は気付いていない。はたから見て痛々しい。いわゆる「イタい」。この作品は、まさに人の「イタい」姿を敏感に感じさせる世代ならではのストーリーかもしれない。
リョウは、兄の訃報を受けて、すぐに家に戻らなければならなかった。その時彼は、二年前に崖から落ちて亡くなったノゾミを弔おうと現場に訪れていた。だが、ふいにめまいに襲われ気を失ってしまった。目を覚ましたのち家に帰ると、そこに見知らぬ若い女がいた。名前はサキ。この家の長女だという。リョウは、自分が生まれなかったもう一つの世界に迷い込んだというSF的な設定。リョウとサキは、お互いの知る世界の微妙な違いを探り、目をそらすことのできない真実へたどり着く。
「自分」の存在意義を考えさせられるパラレルワールドであり、青春時代特有の過剰な自意識、肥大した自尊心、歪曲した劣等感、臆病な心情、取り返しのつかないぶざまな過ちなどを真正面から突き付けてくる。苦さたっぷりで、若者に贈る手鏡のような作品。

No.266 6点 インド倶楽部の謎- 有栖川有栖 2020/01/22 08:40
臨床心理学者の火村英生と推理作家のアリスこと有栖川有栖のコンビが活躍する(国名シリーズ)と呼ばれる連作の九作目にあたる作品。
現実から夢想、そしてまた現実へ。そのような美しい弧を思い浮かべる謎解き小説で、本書の目玉は、物語の途中で明かされる「ある事実」。神戸の街を歩き回り、地道な調査を続ける火村とアリスに突き付けられるこの事実は、現実から幻惑的な空間へと飛翔させられることになる。
そして、この幻惑から現実へと着地していく推理場面もまた壮観。終盤において火村が展開するロジックの緊密さはシリーズの長所であるが、本書でも余詰めを排し、唯一無二の解答へと辿り着く過程に爽快感を覚える。
ただ、着想は素晴らしいが、ホワイダニットに関しては納得できない。

No.265 5点 太陽の坐る場所- 辻村深月 2020/01/15 18:41
卒業十年後のクラス会をめぐる青春ミステリ。
県立藤見高校の旧三年二組のクラス会は、毎年のように開かれていた。だが女優として活躍しているキョウコはいつも不参加だった。クラスメートたちは、次回はキョウコも来るようにともくろむものの、それぞれの高校時代の記憶が複雑な思いを揺さぶっていく。
誰が誰のことを話しているのか不明瞭な文章が多いが、嫉妬、悪意、後悔など、特に女性たちが抱く粘着性のどろどろした感情が、生々しく描かれているため読まされる。話の意外性をつくり出しているのは、相手の言動に対する勝手な思い込み。一方的な誤解が重なりドラマが生まれていき、ラストには驚きの真相が待っている。
過剰な自意識を持て余す青春期特有の人間模様が展開する本作をわがことのように思う人も多いのではないだろうか。小説としては面白かったが、ミステリ的には弱いのでこの評価。

No.264 6点 鬼の跫音- 道尾秀介 2020/01/06 19:39
六つの収録作は、いずれも単に怖がらせるためだけのホラーや驚かせるためだけのミステリにとどまっていない。
冒頭の「鈴虫」は、十一年前の友人S殺害事件ののち、恋人を奪って妻にした男の物語。谷底に落ちたSを穴に埋めたとき、近くで鈴虫が鳴いていた。いま自分を取り調べている刑事の肩口にも鈴虫が這い上がっており、私を見ていた・・・。
どの短篇も、忌まわしく暗い犯罪が扱われていながら、虫、けもの、鬼といった、いわば人外魔境の視点が持ち込まれているのに加え、誰もがみな持っている負の一面が書き込まれているため、歪んだ現実が迫ってくるようだ。白昼に見る夢のような、まどろみと周到に仕組まれた騙しの快楽がひとつになる時、グイっと別の次元へ引っ張り込まれたかのごとき浮遊感を覚えさえせられる。
作者ならではの、驚異の世界が凝縮した一冊。

No.263 7点 儚い羊たちの祝宴- 米澤穂信 2019/12/28 17:31
「ラスト一行」にこだわり抜いた連作集だという。
冒頭の「身内に不幸がありまして」は、ある「お嬢さま」の身の回りを世話するために孤児院から引き取られた女性の手記から始まり、屋敷一面を血の海にした惨劇とその後が語られていく・・・。
前半の軸になっているのは、部屋につくられた「秘密の書棚」や横溝正史、泉鏡花といった作家名、「バベルの会」という読書クラブなど、少女の小説趣味にまつわる話。ミステリ読書の興趣をそそる設定や怪奇なエピソードにあふれており、それが小説にふくらみとたくらみを与えている。他の収録短編も、館にとらわれた者、まだ雪の深い早春の山荘、名家の娘と、クラシカルな探偵小説でおなじみの舞台と展開に事欠かない。
しかし正直なところ、最後の衝撃については落語のサギ程度で終わっている。あらかじめ「ラスト一行」がすごいと強調されると、つい裏読みしながら読むので逆効果と感じた。それでも意表をつく展開は十分に面白く、異端の文芸たるミステリの怪しい魅力を堪能できる粒のそろった連作集といえる。

No.262 5点 ロシア幽霊軍艦事件- 島田荘司 2019/12/23 17:03
作者らしいスケールの大きな不可能興味で始まり、その後歴史ロマンへと展開していく異色の作品。芦ノ湖に軍艦が出現という、ありえないはずなのに実際に軍艦と中から降りてくるロシア軍人を見た目撃者がいる。そして翌日には、軍艦が跡形もなく消えてしまう謎が残る。
一方で、日本人の老人が、あるアメリカ人の女性へ「ベルリンでは本当にすまないことをした」と伝言する。この伝言の裏に隠された悲劇と壮大なロマン、これが徐々に明らかになっていく過程が本書の醍醐味といえるでしょう。
歴史ロマンの題材とは皇女アナスタシアにまつわるミステリで、本書ではロマノフ家に関する記述が多く出てくるが、その部分は史実に忠実に書かれているらしい。
構成も工夫されており、御手洗が謎解きをした後に、ロシアから日本、日本からベルリンへという過去の壮大なドラマの再現パートがやってくる。あまりにも数奇な人生を送った男女の運命的なドラマとして、ひしひしと胸に迫ってくる怒涛のようなクライマックスであり、重厚極まりない読後感と言っていいと思う。
ただ、エピローグで80ページ以上あるという事に関しては、冗長に感じてしまったし、ミステリ的にもかなり薄味という点は不満が残る。

No.261 6点 罪の轍- 奥田英朗 2019/12/13 01:21
東京オリンピックを翌年に控えた昭和39年。北海道の礼文島に暮らす青年が、ある犯罪の末に島から逃亡する。彼はサロベツで無人の林野庁詰め所から作業服と腕章を盗み出した。その一ヶ月後、東京の南千住で殺人事件が起きる。捜査する刑事の耳に怪しい男の情報が入ってきた。捜査本部はその男を捜そうとするが、隣接する浅草署管内で小学生男児の誘拐事件が発生する。
まず驚かされるのは昭和30年代の描写。団地ブームに夜行列車、警察に抵抗する活動家たち、山谷の猥雑な空気。米屋でプラッシーを買うというくだりは、思わず「懐かしい!」と声が出た。そういう風俗だけではない。本書で描かれる誘拐事件は、その年に実際に起きた「吉展ちゃん誘拐事件」を下敷きにしている。犯人像や動機、被害者の環境や年齢は変えているが、警察の捜査の手順はほぼ当時のまま再現されている。
電話やテレビが一般家庭にようやく普及し始めた頃で、通信と技術の発達により、犯罪と捜査と報道のあり方が大きく変わり、その混乱が巧みに描かれている。その様子が、ネットが普及した現代の混乱によく似ていることに驚く。社会の転換期を描いた本書は、同じオリンピック前年の今にふさわしい。
作者お得意の群像劇形式で描かれ、犯人が抱える悲しい過去と壮絶な孤独に胸を痛め、それを追う刑事たちの執念の捜査には手に汗を握る。犯人と刑事の心の交流には、一行ごとに熱いものがこみ上げた。
ただ、犯罪小説であり、警察小説でもある本書だが、犯人と警察との駆け引き、知恵比べということで楽しむ事は難しい。そういう点を期待していると、肩透かしを食らうかもしれません。個人的には、脇役の人物に魅力を感じたので、その人物を主人公にしたら、もっと面白かったのにと思ってしまいました。

No.260 8点 銅婚式- 佐野洋 2019/12/04 01:06
「週刊朝日」と「宝石」共催の企画に投じたデビュー作「銅婚式」が入選した。その「銅婚式」を含む8編からなる短編集。
さすが短編の名手と言われるだけあり、どの作品も一定の水準に達しており、粒ぞろいといってよいと思う。(短編の数はトータルで千編を超すというから驚き)
卓抜した着想と整然とした構成、精緻に張り巡らされたフェアな伏線、揺れ動く心理の丁寧な描写力、ひねりの効いたプロットに意外性の演出、軽快なストーリー展開にほどよいリアリズムと全体的に完成度が高い。
ただ、大掛かりな物理トリックや、怪奇的・幻想的な味付けは一切排除されているので、どちらかと言えば地味ではある。

No.259 6点 図書館の殺人- 青崎有吾 2019/11/27 18:58
探偵役のキャラが前2作に比べて薄まっているという事で読んでみた。(このようなキャラはどうも苦手で・・・)
平成のエラリー・クイーンと呼ばれている作者は、このシリーズで「密室」「アリバイ崩し」とテーマを決めて発表してきた。今回のテーマは「ダイイングメッセージ」。ダイイングメッセージもので、解読がそのまま犯人の指摘につながる例は、あまり見たことがない。その点で本書は成功していると思う。
探偵役の推理も実にロジカル。怪しいと思われる人物を何人も配置しながら、ちょっとした手掛かりから犯人を絞り込んでいく展開はとてもスリリングで好印象。
不満な点は、ミステリとは関係のない余計な会話が多いことと、犯人の動機に納得がいかないところ。犯人と被害者の関係を考えれば、あまりにも現実離れしている。その分、意外性には成功しているのだが・・・。

No.258 6点 死神の精度- 伊坂幸太郎 2019/10/21 11:00
死神が主人公の6編からなる連作短編集。
この死神は、近々死ぬことになっている人間に近づき、観察して最終的に死なせるかどうかを判断するのが仕事という設定。人間の死には全く関心がないため、かなりクールな印象がある。(この点は好みが分かれるでしょう)
ハードボイルド風味、嵐の山荘風味、恋愛小説風味、ロードノベル風味、人情噺風味と多彩ではあるが、謎と人間ドラマが結びついたストーリーという点が共通している。
リーダビリティーが高く、時にコミカルに、時に感動的に描かれ、軽く洒落た作風。この作者の持ち味なんでしょう。
最後の一編に、さりげなく驚く仕掛けがあるとともに、ストーリーの世界を拡大するような作用があり、それがとても心地良く読後感が非常に良い。
オシャレなミステリ、エンターテインメント性の高い作品を求めている人にはお薦め。濃密なストーリーが好きな方には、物足りなさを感じるかもしれません。
同じファンタジーならば、東野圭吾氏の「ナミヤ雑貨店の奇蹟」の方をお薦めします。

No.257 5点 インサート・コイン(ズ)- 詠坂雄二 2019/10/12 01:36
懐かしのビデオゲームの世界を題材にした連作ミステリ。
第一話は、フリーライターの柵馬がゲーム雑誌の特集企画で「スーパーマリオブラザーズ」におけるキノコの移動に着目したことから始まるストーリー。山へ動くキノコを探しに行き、そこで奇妙な出来事に遭遇。その謎を柵馬にとって憧れの先輩ライターである流川が見事に解いてみせる。
第二話で扱われているのは「ぷよぷよ」。さらにインベーダー、ドラクエなど懐かしのゲームを題材にしつつ、柵馬、流川、そして作者の詠坂自身も作中に登場する。
ひたすらゲームに没頭した青春が語られるだけでなく、メタな視点を生かしたり、巧みな伏線が置かれていたりとミステリの仕掛けも見事。なにより大人になった今もなお、人生をゲームに捧げ続けている者たちのさまざまな思いがひしひしと伝わる連作集。ファミコン世代ならずとも共感を楽しめるでしょう。
これらのゲームに詳しい方は、より楽しめると思いますが、詳しくなくても、ある程度の知識があれば「日常の謎」?のミステリとして楽しめると思います。ちなみに私は、ゲーム音痴です。

No.256 4点 隠花の飾り- 松本清張 2019/09/30 01:35
11編からなる短編集。三十枚という制約の中で書いたそうで、ただ三十枚でも百枚にも当てはまる内容のものをと志して書いたという意欲作。無駄を極力削ぎ落とし、内容を濃密にしようという心意気は、素晴らしいと思う。
「百円硬貨」は、プロットが引き締まり、簡潔でクールな前半の叙述と臨場感たっぷりの終盤の緻密な叙述の対比が鮮やか。
ただ、いわゆる不倫ものが多いが、作者お得意のドロドロとした愛憎劇というのは、影を潜めどうもあっさりとしている。晩年に書かれたそうだが、年を取ってそのような感性も鈍ってしまったのかなと感じた。また、全体としてアイデアも切れ味も不足という感は否めない。ミステリとしては弱いので、変わった味わいの小説として読むのが良いのかも知れない。

No.255 6点 死のある風景- 鮎川哲也 2019/09/22 01:12
序盤に提示される魅力的な謎、複数のトリックが絡み合い効果を発揮している巧妙なミスディレクション、難攻不落に思える鉄壁のアリバイ、思いがけない糸口から鮮やかに崩していく推理過程など、本格ミステリとしての魅力に溢れている。3つの事件が、それぞれどのように絡むのかといったプロットの妙も加わり、ワクワクさせてくれる要素は多い。
ただ、アリバイ崩しにかなりの分量が割かれているので、冗長に感じてしまった。(仕組まれたアリバイ工作の有効性が高いので、アリバイ崩しが好きな方は、読み応えがあり楽しめると思います。)また、鬼貫警部シリーズですが、登場するのは第十二章の一章のみ、しかも真相の解説は別人が行うため、シリーズのファンにとっては物足りなさを感じるかもしれません。

No.254 6点 むかしむかしあるところに、死体がありました。- 青柳碧人 2019/09/13 02:40
タイトルや表紙のイラストから見れば分かるように、昔話をミステリに書き換えた挑戦作で、何とも緻密に作られている。
「一寸法師」、「花咲か爺さん」、「鶴の恩返し」、「浦島太郎」、「桃太郎」と誰もが知っている昔話を、少しだけ捻りを加えただけの軽いミステリに終わらせるのではなく、本格的に仕上げているから驚く。「一寸法師の不在証明」は、殺人が行われた時に鬼の腹の中にいた一寸法師のアリバイを崩す話だし、「花咲か死者伝言」は、殺された花咲か爺さんのダイイングメッセージを犬が推理する話、「つるの倒叙がえし」は、鶴が巻き込まれた殺人事件を犯人側から書いていく倒叙スタイルで、「密室竜宮城」では浦島太郎が竜宮城で起きた密室殺人を解き明かし、「絶海の鬼ケ島」では桃太郎伝説とクリスティの「そして誰もいなくなった」を融合させているからたまらない。
昔話を徹底的に戯画化していてブラックユーモアが効いている。また、昔話ならではの小道具がトリックに使われたり、巧緻な仕掛けに意表をつく展開と楽しい作品が多い。その中でも、犯人と動機の解明が鍵となるフーダニット&ホワイダニットとして面白い「花咲か死者伝言」がベスト。

No.253 8点 首無の如き祟るもの- 三津田信三 2019/09/07 10:31
ここに参加させていただく以前に読んでいたのだが、大まかには覚えていたものの、細部は忘れていたので再読してみた。
女性のような顔立ちの男性、男装をした女性、そして同姓愛疑惑、それらが真実なのか?虚実なのか?そこに跡継ぎ争い問題、因習、祟りなどがホラー的な怪しい雰囲気で複雑に絡んできて、惹きつけられる。真相もどんでん返しを繰り返し、最後の最後まで分からないように工夫がされており、飽きさせないし衝撃度も高い。これぞ、本格とホラーの融合された作品といえる。
「首の無い死体」という今までのパターンに新機軸を打ち出した作例といわれており、トリックに目新しさは無いものの、緻密なプロットによって組み立てられた仕掛けは素晴らしい。事件を巡る多くの謎が、一つの事実に気付くと全てが解明するという構成も巧妙。伏線を一つ一つ確認すると考え抜かれているのがわかる。(これも再読の良さだと思う)ただ、プロットに凝りすぎてある真相に無理がある点は残念。

No.252 6点 黒い家- 貴志祐介 2019/08/30 01:10
第四回ホラー小説大賞受賞作。
作者自身の生命保険会社に勤めていた時代の経験をいかしており、リアルさが際立っている。前半の保険業界に関する蘊蓄も興味深く読むことが出来ました。
ホラーといっても霊的な類は一切出てこない。生身の人間の恐ろしさと狂気を描いており、キャラクター造形も巧みで、読んでいてゾクゾクさせられる。中盤以降のスピード感あふれる展開も素晴らしく、インパクトの強いホラー作品に仕上げているといっていいと思う。
ただ、後半のある場面で、そこはまず警察に通報するのが最優先なのでは?と行動に違和感を覚えたり、警察自体もあまりにも無能なため、それまで楽しく読めていたのに、一気にトーンダウンしてしまった。

No.251 6点 インシテミル- 米澤穂信 2019/08/20 01:27
常識外れの高額時給につられて、正体不明の施設の地下に一週間隔離され観察されるというアルバイトに応募した12人が、次々と死んでいく中を何とか生き延びようとするストーリーで、「バトルロワイアル」に似た設定を本格で行えばこうなるのかなと思う作品。
ボーナスとペナルティーで参加者を煽るルールに、古典名作にちなんだ武器が挑発的な解説と共に配給され、一人づつ死んでいく展開で、参加者それぞれが疑心暗鬼になっていく心理状態が丁寧に描かれ惹きつけられる。
一つ一つの凶器や殺しのシチュエーションにミステリー的な趣向が凝らされている点は好印象。
もともと「機構」の観察下で進行する実験というメタフィクション的な構造がある。証拠を偽造するメタ犯人に、探偵役を煽動する犯人という「操り」構造があって真相は最後の最後まで見えてこない。
「クローズド・サークル」「操りテーマ」「叙述トリック」「語呂合わせ」を露悪的に極端化したような作品。

No.250 5点 鎌倉XYZの悲劇- 梶龍雄 2019/08/10 01:07
ふらりと立ち寄ったブックオフで、新書版のこの作品を発見し、思わず手に取った。裏を見ると、108円のラベルシールが貼ってある。前にも書いたけど、この作者の作品は、やたらと高い価格で取引されているらしい。スマホで確認するとヤフオクでは出品されていなかったが、アマゾンでは2905円で出品されていた。(本当にこんな価格で買う人いるのかと疑問だったが)とりあえず買うことにした。
殺されて天国に来た被害者が、自分の死の真相を探るべく、天国から遠隔操作によって下界の探偵を使って捜査するというSF的な設定。設定的にはとても好み。ただ、序盤から海外の某有名作品のネタバレがあり、あまり感心しない。ストーリーは、そこそこ面白いのだが、トリックは既読感があり成功する可能性は高いかもしれないが、ちゃちで面白みがない。フーダニットとしては、意外性があり驚かされる(少し反則気味かな?)が泡坂妻夫氏の某作品の二番煎じといえるところが残念。

No.249 4点 びっくり館の殺人- 綾辻行人 2019/08/02 10:26
ジュブナイル作品で館シリーズ第7作。
子供向けという事もあり、文字はやたらと大きいし、行間は広いし、漢字にはすべて仮名がふってあり、逆に読みづらい。(笑)(単行本で読みました)
一人称による騙しのトリック、密室殺人、異常心理を扱ったホラーテイスト、謎解きの遊び心と作者らしさにあふれている。
ただ、この作品のメイントリックは「●●を●●と思わせる」ことですが、想像できてしまう方も多いのではないでしょうか。また、深刻な児童虐待の問題を扱っているので、子供向けとしては、とてもお薦めできない。
ラストに関しても、不気味な含みを持たせた感じで「今後どうなるのかは、読者の皆さん、それぞれ想像してみてください」的な終わり方で、賛否両論あると思うが、個人的には好みでは無い。

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パメルさん
ひとこと
7点以上をつけた作品は、ほとんど差はありません。再読すればガラリと順位が変わるかもしれません。
好きな作家
岡嶋二人 東野圭吾 
採点傾向
平均点: 6.12点   採点数: 708件
採点の多い作家(TOP10)
東野圭吾(32)
岡嶋二人(21)
有栖川有栖(19)
綾辻行人(18)
米澤穂信(18)
西澤保彦(17)
歌野晶午(16)
松本清張(16)
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