皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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公アキさん |
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平均点: 6.67点 | 書評数: 18件 |
No.18 | 8点 | 乙霧村の七人- 伊岡瞬 | 2015/09/25 17:19 |
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買って良かった、と思える良作でした。
作品全体が「第一部」「第二部」に分かれており、前半で事件が起き、後半ではその舞台裏が解き明かされていきます。クローズドサークルでの不可解殺人劇を勝手に期待していた私にとって、いざ作品が中盤に差し掛かってみればただのパニックホラーで、しかも隠そうとしている犯人の正体もかなり予想がついてしまうし、まさかこのまま終わるってことはないよな……? と不安なまま(しかも予感が的中し)、第一部が幕を閉じました。 しかし、第二部にやられました。往々にして所謂「本格推理小説」には「ただのパズルを文章化しただけであり、ニンゲンが描けていない」という批判がついてまわるものですが、この作品はまさにその人間の関係の在り方に”核”があり、とても緻密で無理のない舞台設定が徐々に解き明かされていく様と、この作品最大の”オチ”に、大変興奮させられました。 |
No.17 | 7点 | 長い廊下がある家- 有栖川有栖 | 2015/05/05 16:01 |
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軽妙な佳作の揃った短編集です。
表題作でもある1作目「長い廊下がある家」と2作目「雪と金婚式」はどちらも「死体が発見された場所には、容疑者の誰もが殺害推定時刻には行けなかったはず」という不可能殺人が演出されています。1作目では鍵のかかった地下通路の扉の向こう側に死体が、2作目では2人の容疑者にはそれぞれアリバイが、というふうに不可能状況も比較的わかりやすく、ミステリ初心者にもアクセシブルな印象です。 4作目「ロジカル・デスゲーム」は、窮地の状況に追い込まれた探偵が生き延びたすべが肝の、一風変わったハウダニット。これもまた不可能状況と言えば、一種の不可能状況です。 いずれもコンパクトな佳作で、またトリックもわかりやすいものでした。 (以下、ネタばらし有り) というのも、スノーマシンを使った夫のせいで足跡に関する死亡推定時刻がズレこんだり、3人掛かりで1人に嘘をつく協力プレイで東西のよく似た二つの家を逆に認識させたり、自分から当てにいくとなると模範解答を作るのは難しくとも、読み物としては理解しやすく充分に楽しめるものでした。3作目「天空の眼」も、状況証拠からの有栖川のひらめき一発で成り立つ、相当にシンプルな構造をしています。このようにライトであり、かつ安心感のある筆致は、作家有栖川有栖をしてこそ実現できる絶妙な味の短編集だと思いました。 |
No.16 | 10点 | 白銀荘の殺人鬼- 愛川晶 | 2015/04/05 06:03 |
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もしもミステリ小説の価値を、ファンタジックで不可解な謎、スリリングな展開、予想外の結末やどんでん返しではかるとしたら、この作品は文句無しに最上級に素晴らしいミステリ小説だと言えると思います。
サイコ・ミステリ、クローズドサークル。もう少し具体的に言えば、多重人格症、雪の山荘。読み進めていくと、すぐにそれらの異様なハーモニーを味わうことができます。 |
No.15 | 5点 | 犯罪ホロスコープⅡ 三人の女神の問題- 法月綸太郎 | 2015/02/21 15:24 |
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小説家(?)の法月綸太郎と警視庁の警視である父の二人が、6つの「ちょっと奇妙な事件」に立ち向かいます。趣向としては「安楽椅子探偵」のようなジャンルかもしれません。限られた情報から論理と情理(?)で犯人を割り出したり、事件の真相を突き止めていきます。
他の方もおっしゃっているように、前半3作は比較的ストレートアヘッドな殺人事件、後半3作はもう少しぶっ飛んだ奇天烈な事件という風に配置されており、さながらレコードのA面、B面のように趣の違う短編が楽しめるようになっています。 個人的には4作目『錯乱のシランクス』がおすすめですが、最も精巧に練られた一発ネタとしては1作目『宿命の交わる城で』が秀逸です。残念であり同時にすばらしい点でもあるのは、謎がパズル的な側面のみで構成されているのではなく、人情的な側面、つまり「この状況ならこの人はこう考えるはず」というような「推理」が少なくなく、リアリティをミステリにもとめる人には傑作なのかもしれませんが、論理の潔癖性は薄く、サスペンスドラマを観ている感覚に陥ったりもします。犯人の断定の根拠と犯人ではない明確な根拠が完全に提示されないまま幕引きとなる話もあり、私はあまり好みではありませんでした。 |
No.14 | 4点 | 仮面山荘殺人事件- 東野圭吾 | 2015/01/25 23:56 |
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物語の核になる真相は、非常に東野作品らしい構想となっています。「クローズドサークルもの」であっても、作品の持ち味が実は犯人の動機やホワイダニット解明にあるのが、彼の芯のぶれなさを感じさせてくれます。
ただし、真相は……私は、あまり良いカタルシスを得られませんでした。もう一点、私は講談社文庫でこの作品を読みましたが、あまり好きなフォントではなかったのも、印象がそこまでよくない原因かもしれません。 「最も核のアイデア」だけ覚えていて、あとは登場人物の名前すら覚えていないので、再読したら、もっと作品の良いところを再発見するかもしれませんが、とりあえずは「4点」です。 (もう何年も前に読んだきりの状態でのレヴューです) |
No.13 | 5点 | 極限推理コロシアム- 矢野龍王 | 2015/01/25 14:13 |
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一昔前に流行り始めた「デスゲームもの」の一種で、その性質ゆえのきらいは、クローズドサークルの構築や場面設定に現実感が薄いことで、設定に程よい色気をあまり感じられず、むしろどぎつさを感じてしまうことです。
真相に向かうロジックは、少し強引?と感じていたような。 (もう何年も前に読んだきりの状態でのレヴューです) |
No.12 | 6点 | 魔神館事件 夏と少女とサツリク風景- 椙本孝思 | 2015/01/19 12:59 |
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登場人物の「名付け」って、すごく作家さんの好みが出るなぁと思うのですが、この作品の登場人物の名前は、現実にいそうなものではなく、少年漫画作品のような印象。自分にはそれが読みやすさに繋がりました。
事件は謎の天才建築家・香具土深良が建てた「魔神館」で起こる、連続・不可能殺人事件です。主人公の男の子と女の子のやりとりやら設定やらはライトノベル調ですが、文体はライト過ぎず、若い感性と安心感のある文章の両立がなされていると思います。 (以下、ネタばらし有り) 真相は、私のような無類の「クローズドサークルもの」好き以外に受け入れられるかはわかりません。その意味では、この長編は、ストライクゾーンの狭い作品かもしれません。 真相に至る手順というか、連続殺人が起こるのと同時に進む操作や推理の過程が緊張感のあるものです。が、それだけに、その末に「その結末」というのは、良いカタルシスを迎えるか、「ふざけんな!」となってしまうか……幸い、私はぎりぎり前者でした(笑)。 (以下、メイントリックへの言及有り) 館そのものに様々な仕掛けが施されていて、とても人間業には思えない殺人現場は、人間によるものではなかった、という真相は、半分がっかり・半分感心です(笑)。事件が起こる度にエントランスにある巨大な石像の一部が壊れるというのは、どういうことなんだと思ったら、館による自壊だったとは(笑)。細部は覚えてないので、いつか再読したいとは思っているのですが、真相のインパクトが強すぎて、中々手が出ません。 (もう何年も前に読んだきりの状態でのレヴューです) |
No.11 | 7点 | 群衆リドル Yの悲劇 '93- 古野まほろ | 2015/01/16 18:46 |
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雪降る山奥の館での連続殺人事件。「そして誰もいなくなった」のようにがんがん人が死んでいきます。そして解決編では、全ての事件に対して緻密な「犯人当て」が繰り広げられます。論理の潔癖さが見事で、かつ独特ながらも読みやすい文体です。読中は、無性に寿司が食べたくなりました(笑)。 |
No.10 | 7点 | 星降り山荘の殺人- 倉知淳 | 2015/01/16 18:40 |
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「騙された!」と笑顔で言える作風と見事なトリック。「クローズドサークルあるある」的な諸要素と、それらを読みやすくかつライトになりすぎないきわどいラインで描き切る絶妙な筆致は、中々お目にかかれないものがある、と思いました。
(もう何年も前に読んだきりの状態でのレヴューです) |
No.9 | 7点 | 永遠の館の殺人- 黒田研二 | 2015/01/16 18:36 |
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異常な結末と、犯人の動機に戦慄する良作。本格推理小説の範疇としては、トリック崩し、フーダニットのパズラーが主眼かと思いきや、読後数年経って未だに印象に残っているのは、ラストのあの恐ろしい場面です。ちゃんと読み直せば、もっと点数上がりそうです。
(もう何年も前に読んだきりの状態でのレヴューです) |
No.8 | 5点 | 鬼面村の殺人- 折原一 | 2015/01/16 18:18 |
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コミカルタッチな本格推理小説。奥飛騨の鬼面村を舞台に繰り広げられる密室殺人と建物消失トリック(五階建ての合掌造りの公民館が一夜にして消えるという)が本作のメインミステリーです。
(以下、ネタばらし有り) いきなりですが、残念な点がありました。「そうじゃなければいいなぁ」と頭をよぎっていたことが、真相に含まれていたのです。というのも、不可能トリックというのはたった一人の人間が、人間業とは思えないようなスケールの大きな謎を完成させるという構造に、いわゆる「トリックもの」の魅力はあるように私は思うのですが、村人全員が主人公ら二人を騙そうと動いているのでは……しかしまぁ、それでも黒星警部の推理は楽しめましたが。 最後の最後にもう一山あったのは、だからそんな私にとっては救いでした。 (もう何年も前に読んだきりの状態でのレヴューです) |
No.7 | 5点 | すべてのものをひとつの夜が待つ- 篠田真由美 | 2015/01/16 17:59 |
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小島に建つ西洋館を舞台に起こる連続殺人事件。館の所有者・満喜寿一郎の後継者になる条件は、館に隠された巨大ダイヤを見つけ出すこと。彼の血縁関係者の五組の男女が館に集められ、物語は「宝探しゲーム」と殺人事件の二つが同時進行する形で進められていくーー。
物語に詰め込まれた要素は、「好きな人はたまらなく好きな」クローズドサークルもの、なのですが……。いかんせん、文が読みにくい、と私は感じました。もっとはっきり言うなら、「せっかくの物語が文章力に台無しにされているような……」という感を抱いてしまいました。 それに、ここまで複雑に登場人物を動かすなら、館の平面図は必要では、とも思いました。 惹句には確か「ゴシックロマンス」が謳われていましたが、物語の内容ではなく、文章にあまり色気がなく感じられてしまったせいで、全体としての印象も高く評価できないのは、残念でした。 (もう何年も前に読んだきりの状態でのレヴューです) |
No.6 | 9点 | 『アリス・ミラー城』殺人事件- 北山猛邦 | 2015/01/11 14:23 |
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(ネタばらし有り)
真相ーー「アリス」の存在を明らかにされてから再読すると、海上が「アリスを見た」と叫ぶ場面の見え方があまりに変わりますね。 探偵達が孤島の館に集められて、という「いかにも」な設定のわりに、本作の主人公であるかのように描かれていた鷲羽が最初に殺されたり、「探偵に推理させるための密室」が構築されたり……と、「クローズド・サークル」好きの読者にはたまらないんじゃないかと思わせられるような王道とメタ・王道のような相反する二つの要素でべっとりと色付けされた作品でした(少なくとも私にはたまりませんでした)。 (もう何年も前に読んだきりの状態でのレヴューです) |
No.5 | 6点 | UFO大通り- 島田荘司 | 2015/01/11 14:03 |
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二つの中編からなる作品集で、どちらも言葉として聞くと不可解な状況(宇宙人の戦争や走るUFO、雨の夜に傘をわざわざ折る女)の内実を、探偵・御手洗潔が華麗な推理で暴く、という話です。こうした謎の派手さは島田作品らしいと言える、ような。とんでもない謎の提示からトリッキィですこし強引な推理の課程を経て真相に辿り着く……という、書く人によっては良作には成り得なさそうな構想が、著者・島田荘司氏の安心感のある筆致によって「他の人には書けそうもない、堅実でぶっ飛んだ作品」に仕上がっていたような気がします。
(以下、ネタばらし有り) 二つの事件は、どちらもアナフィラキシー・ショックがキーワードでした。 「傘を折る女」の御手洗潔による推理場面は、どこか(詳しい箇所は忘れました)のロジックに強引さを感じた、というか、それはロジックとは言えないのでは……と感じたところがあったのは、少し印象に残っています。確か、白いワンピースの女なのに明るい色の傘はささない、従ってその傘はその女の持ち物ではない、みたいなものだったような。 確かこの「傘を折る女」は漫画化もされており、そちらも楽しめました(確か)。 (もう何年も前に読んだきりの状態でのレヴューです) |
No.4 | 6点 | 妖精島の殺人- 山口芳宏 | 2015/01/11 13:47 |
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(他作品のものを含むネタばらし有り)
孤島、館、奇怪な連続殺人、「街の消失、妖精界の出現」という不可解な事態……と、わくわくする要素のたくさん詰まった大作です。著者・山口芳宏氏によれば、「とにかく枚数は気にせず、自分の好きなモノを全部書こう」とのことで、(記憶している限りでは)その通りの贅沢な作品だったと思います。 ただ、他の方がレヴューしているように、本作の約一年前に刊行された東川篤哉氏の作品『館島』とメイントリックが被っているのが、残念な点ではありました。 (もう何年も前に読んだきりの状態でのレヴューです) |
No.3 | 6点 | 深泥丘奇談・続- 綾辻行人 | 2015/01/10 03:08 |
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いくつかの作品について、コメントします。
(以下、ネタばらし有り) 「鈴」 小さな廃神社の鈴が、誰もいないはずの状況で鳴るのを聴いた「私」。誰かが鳴らしてすぐに隠れたのか、動物の仕業か、風の仕業か、トリックかーーこうした推理小説ライクな仮説が検証されますが、ラストは怪奇幻想的な決着を見せます。(作者があとがきで「ラストのひとくさりは含蓄があるなあ、とわれながら思ったりも」と書いていますが、私がホラー小説に明るくない読者だからか(?)、オチの含む「意味」はよくわかりませんでした。) 「狂い桜」 誰かが席を立つなり、その間だけ、居なくなったその人の「死を悼む」異様な旧友達の様子に戸惑う「私」。しかしそれは邪悪な儀式ではなく、”閏年の狂い桜は良くない”という言い伝えからはじまったらしい、厄除けのおまじないだった。そして、停電の間に誰にも気付かれずに離席し「おまじない」をされる”前”に戻ってきてしまった朱雀氏は、その一週間後に落石事故で命を落としてしまうーーという、どなたかがレヴューに書かれていたように『世にも奇妙なものがたり』にありそうな話でした。 「ホはホラー映画のホ」 エッセイ集『ナゴム、ホラーライフ 怖い映画のススメ』(綾辻行人・牧野修、幽ブックス)のおまけとして書き下ろされた、文庫本で十七ページほどの小品です。”そのための作品”ということもあって、五つの有名なホラー映画(『オーメン』『サスペリア』『エルム街の悪夢』『サンゲリア』『13日の金曜日』)のそれぞれの凄惨なワンシーンがネタにされています。 夢の中で、警察官の「私」と警察医である石倉医師が、ホラー映画の見立てとしか思えない連続殺人事件を追う。それぞれの殺人現場には、映画内の「殺人者」の頭文字が残されるのだが、偶然二人が発見した「第五の殺人現場」とおぼしきところにはイニシャルはない。そう、実はーーというオチの効かせ方が実に本格推理作家の作品らしい小品です。 「綾辻作品だから……」と、地の文の表現には気をつけてみて、「実にさまざまな偶然や巡り合わせが積み重なった結果」という表現の中身がトリックの鍵か?と疑ってみましたが、特にそういった含みがあるわけではなかったようです(笑)。 「深泥丘三地蔵」 ある涼しい夏の日に散歩に出かけた「私」は、深泥丘病院の斜向いの公園内で、全身「赤」にまみれた異様な地蔵を発見する。どうやらこの地には「深泥丘三地蔵」というのがあるらしく、さらにその内の「一つめ」は行方不明になっていてーーという、これも文庫本で三〇ページ少々の小品です(この作品集の中ではボリュームはまあまあ、ある方か)。この作品の中で扱われるささやかな叙述トリックは、本作を作品集中で最も綾辻作品らしい一作たらしめていると、私は思います。しかしそんなプチ・叙述トリックがありながらも、物語としての収束は、幻想的な方向へと向かってなされます。私は前作『深泥丘奇談』を読んでいないからか、いくつかの作品で時折登場する「巨鳥」のくだりがどんな意味を持つのかはわかりませんでした。しかし読後は、不思議な味わいが広がっていきました。 「ソウ」 「ホはホラー映画のホ」と同じく、警察官の「私」と警察医の石倉医師のコンビが、今度は別の奇怪な連続殺人事件にあたります。飛び降り自殺に失敗した女の内蔵を破裂させたり、家ごと破壊して中にいた男を壁に叩きつけて殺害する等、残忍かつ特別な装置や重機を用いなければ人間には実現不可能に思える犯行手口。一つ目の現場には「ソウ」という血文字が、二つ目の現場では男がジグソウパズルの一ピースを握りしめていてーーと、映画『ソウ』を想起させるような連続殺人事件が起こります。がーー。 これ正解は、ゾウ、ですよね?(笑) てっきり私は最初、恐竜(ダイナソー)かと思ったんですけど、それだと「欠け落ちた濁点」(角川文庫p179)の一文が合いませんもんね……。ゾウって、「重々しくも異様な足音を響かせて、それは猛然と坂道を駆け降りてくる。」(角川文庫p180)という描写が自分の中で上手くイメージできませんでした……”怖いゾウ”について、画像的、できれば映像的な知識がほしいところです(本作にそれを求めているわけではありませんが)。 「切断」 深泥森神社の境内で、バラバラ殺害事件が発生、犯人は当該神社の神主・堂場正十。彼は手頃な石ころで相手の頭を滅多打ちにして殺害した後、”声”に従って五十回の切断を行い、五十個のパーツに分けた。その後、それらをゴミ捨て場で焼こうとしていたところを逮捕。しかし、「それら」のDNA鑑定次第では、堂場氏は釈放されると言うーー。 本書のあとがきによると、「切断」は光文社カッパ・ノベルス創刊五十周年を記念して刊行された『Anniversary50』という競作集のための書き下ろし作品で、五十周年にちなんで「五十」をテーマにした作品を、というリクエストのもと、練り作られた作品らしいです。五十回の切断と五十個のパーツという状況に矛盾を生じさせない理屈として、頭と片足が繋がった******という存在をネタとする、というのは、なるほど(こういうものを書く時の)綾辻作品にふさわしい構想かもしれません(中編集『フリークス』にも異形のものたちが推理小説の登場人(?)物になる話がありました)。しかし紙面の枚数制限や詳細なリクエストなど諸般の事情があったのかはわかりませんが、せっかくの構想が、伏線未回収の不完全燃焼感で曇ってしまっているように、私には思えました。作品中では堂場氏の殺害理由には触れていても、五十回に切断した理由が予想よりずっと浅いもので(”電波系”という……)、しかも「それら」を焼いた理由が語られておらず、「DNA鑑定が出るまでは「私」が「それ」を死んだ人間だと誤認できる猶予を作り出す小説的都合」が露になっているのではないか、と思いました。それに、神屋刑事がわざわざ絵を描いて切断箇所の説明をした時に(「「ここを切って、ここをこう切って……」というふうに「切断図」を図中に描き込みながら解説してくれたのだった」(角川文庫p208))、頭と片足の切断について神屋刑事が可能性として触れないのは不自然ではないのか、と思いました。 「ラジオ塔」 「夕焼け」のイメージが強い、幻想的な作品。くだんの「巨鳥」が登場し、それがついには象形文字に……前作を読めば意味がわかるのか、もしそうならどんな意味合いが込められているのか……。文や文章から喚起されるイメージは美しく、恐ろしく、幻想的なものでしたが、それ以上のことを「読む」ことは、私にはできませんでした。 |
No.2 | 8点 | 奇面館の殺人- 綾辻行人 | 2015/01/09 16:06 |
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『奇面館の殺人』は複雑かつ豪華な作品です。著者・綾辻行人氏が「ゴシック趣味・怪奇幻想趣味はなるべく抑えめにして」「”遊び”に徹したパズラーを」と「あとがき」で公言しているように、王道ミステリの設定(”吹雪の山荘”、首なし死体、睡眠薬の混入etc.)を妖しくおどろおどろしい雰囲気で着飾らせることなく、むしろ独特で奇怪な設定を上乗せすることで、どこまでも精緻な、そして豪華なパズル作品としての高い価値を実現しているように思います。
というのも、館、事件現場としての舞台設定、そして人物設定のそれぞれに無駄がなく、それらの要素が原稿用紙八〇〇枚超というボリュームの中にふんだんに詰め込まれているのです。探偵役・鹿谷門実の推理の場面では、読者ですらも全てに気がつくことは至難の業であるような細かな各疑問点について、容疑者一人一人に質問していくという程で、その論理の潔癖さには脱帽でした。 (以下、他作品のものを含むネタばらし有り) 今回の犯人は、元々<未来の仮面>を人知れず盗むだけの犯罪計画を立てていたようですが、「予定外の事態」によって、殺人事件にーーしかも、さらに「予定外な事態」が重なって、凄惨な殺人事件に(笑)ーーなってしまった、という顛末は、なるほど怪奇幻想というよりは喜劇的ですらあるような滑稽さを感じさせます。鹿谷も「”気配”の質が違う」(講談社ノベルスp125下段)という風に、今までのおどろおどろしい館(水車館、迷路館etc.)の数々に居合わせて感じた「殺人の気配」とは違ったものを感じとっていたということが、読者へのヒントと言えばヒントだったのかもしれません。 そして。犯人当ての段となり、作者・綾辻行人がまたしても読者に仕掛けてきた「大罠」が、「客人全員が”影山逸史”という同姓同名者」という事実を伏せていたことでした。これは、「奇面館の主はこれまでに三人いる」という事実が巧妙に隠されていることと連動して、読者が犯人を当てることを非常に難しくする装置として機能しています。 ただし、最終的に犯人を当てる決定的な要素たり得たのは、雑誌『ミネルヴァ』のロゴマークについて「”犯人の条件”である館の二代目当主たり得る人物しか発言し得ないこと」を口走っていた人間が犯人、というただ一つの要素でした。この真犯人に辿り着くまでの、ミステリとしては単純な道のりを、上に挙げた二つの要素が非常に複雑なものに変化させており、作品のそこかしこに「その痕跡」が見られます。真相がわかってから本書を読みなおすと、「なるほど、ここの表現にもこんな気の遣い方が……」と綾辻氏のトリッキィかつ丁寧でフェアな筆致に感嘆せずにはいられず、そういった意味で本書は非常に「複雑かつ豪華」な作品だと、私は思いました。 また、犯人の幼い頃の記憶ーー<未来の仮面>に見せられた「未来」ーーが犯人の思惑すらを外れて「殺人事件」を成立させてしまった幻惑的な重要要素である、というのは、とても綾辻作品らしい構造だなと思いました。彼の作品の多くには、少年や、登場人物の幼い頃の記憶なんかが(本格ミステリ的にではなく、物語的に)物語のキィとして機能する形で登場する、と何かの綾辻作品の解説で読んだ事があります。常識的に(?)考えて、<奇面の間>への侵入が主にバレた時点で、平謝りに謝るとか、事情を説明するとか、逆に<未来の仮面>の所有権は自分にあると開き直るとか、色々できそうなものですけれど、ここで「犯人の所属する”現実”」が「あの恐ろしい夢の輪郭と溶け合い、現実としての輪郭を崩してしま」うことで(講談社ノベルズp362下段)、<未来の仮面>に見せられた通りの「未来」を、犯人は実現してしまった。そんなところに辻褄合わせの要素がないではないかもしれないけれど、むしろ魔力に操られてしまった男、という怪奇幻想的な要素を事件の核に潜ませることとなり、作品の魅力の一つとなっていると私は思います。 ちなみに、幻想的で論理超越的な小道具が実はずっと事件を予言していたというのは、シリーズ2作目『水車館の殺人』のオチに通じるものがあります。「なるべく抑えめに」した怪奇幻想趣味も、結局ここ一番の大事なポイントに埋め込まれていた、というところも、綾辻氏の「指紋」なのか、と考えると、複雑精緻なパズラーであり、かつ綾辻行人としての芯も通った良大作なのではないか、と思いました。 (ちなみに、新月瞳子の「いかにも自分は犯人じゃないというような◯◯だけれど、これが実は”演技”ではない保証はないーーと、瞳子は心中ひそかに首を振る」の五連続は、和みました(笑)。) |
No.1 | 9点 | びっくり館の殺人- 綾辻行人 | 2014/12/26 14:26 |
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美しい作品でした。私は、何年も前に著者・綾辻行人が展開していた「ミステリ=雰囲気論」のようなものを読んだことがあったからこそ、著者のミステリが起きる「場」への愛を強く感じることができました(ただ、その後彼の中では価値観の変化があったようですが、私はそのことについてはあまり明るくありません)。
私にとって、スタンダードな推理小説、ミステリ小説というのは、作品の前半で事件が起こって、明らかに提示された/されつつある謎に探偵役が立ち向かい、紆余曲折の末に謎が解明され、解決へ向かう、という物語です。それに比べて、本書は読んでも読んでも、中々「事件当日」まで話が進まない。最初に、人形や館で飾り付けられた密室殺人という魅力的なミステリの現場を見せられるが、1994年12月25日のその事件の日には、同年の5月頃から遡って、少しずつ事件当日に向かっていく。なので、本を読んでいる私としては、事件当日に到達することが一つのカタルシスでもあり、事件の解決ではなく、謎めいた事件の発生こそに異常な快感を感じることとなったのです(実際、小説はここまでのボリュームの割合が全体の中では大きく、事件発生現場の前に辿り着いたところで第2章の区切りとしています)。そうして、怪しげでミステリでホラーな幻惑的事件現場への価値を高めているところに、著者の「場」への愛を感じたのであり、こうした作品構造に、「美しい作品」と感じる所以の一つがありました。 しかしそうすると、「残りのこのページ数で、どうやって伏線を回収し、謎の解明に向かうのだろう」という不安が私を襲いました。電子書籍ではなく実際に手に本を持って読んでいると、どうしても「残りページ数の視覚的な予想」から逃れられません(笑)。私はこの作品の結末を想像しながら読んでいましたが、冗長でなくすぱっとエッヂの効いた「メイントリック」にまんまと騙され、驚異的な伏線回収の大波に、唸ってしまいました。 (以下、ネタばらし有り) 「メイントリック」とは即ちカギカッコで括られた「リリカ」とは俊生の変装であったこと、そして事件の第一発見者である三知也・あおい・新名が事件の隠蔽工作を行っていたこと(事件の当事者と読者で、そもそもの事件や「腹話術劇」の見え方が違っていたこと)です。リリカ/「リリカ」は作品の中で一貫した表記になっており、ミステリとしてはフェアなのではないか、と思います。だからこそ素直に驚き悔しがることができました(笑)。そしてさらに驚くべきは、この変装が事件のためだけのものではなく、古屋敷龍平氏の腹話術劇の相手として、「日常」の中で行われていたことです。そして最も驚くべきは三人による隠蔽工作です。確かに現場は密室だったが、それは不可能殺人でもなんでもなかったのです。そして、この作品が綾辻行人の作品であるブランドとして、中村青司の造ったからくり仕掛けがこの「読者に隠された隠蔽工作」のミソとなっているのも、ニヤリとしてまうところです。冒頭の文章の微妙な違和感、腹話術劇後の「虐待」という認識等、メイントリックを知ってから読み直すと、全く違った見え方がします。 既読の方には知っていることばかり話してしまいましたが、私がこの『びっくり館の殺人』を「美しい作品」だと考えるあと2つの要素だけ、簡潔にまとめます。 一つは、ミスリードも含めて、殆ど作品の要素に無駄がなく、『暗黒館の殺人』の8分の1のサイズとも言われる小品である本作の濃度が高く作り込まれていること。「虐待」への理解や隠蔽工作は新名無しには成し遂げられませんでしたし、俊生を庇うという発想やそのことへの説得力を持たせるためには、三知也の家族の話は欠かせませんでした。 そして、最後にこの作品のホラーテイストな終わり方。論理的な謎解きの後だからこそ、論理の追いつかない「悪魔の仮定」や「梨里香26歳の誕生日会場」等は、通常のホラー一色の作品の何倍もの怪しさや恐怖を生み出します。 未読の方に作品を薦められる文章ではなくなってしまったので、既読の方でこの書評を読んで楽しんでいただける方がいれば幸いと思います。 |