皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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クリスティ再読さん |
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平均点: 6.40点 | 書評数: 1325件 |
No.5 | 4点 | 第三の女- アガサ・クリスティー | 2015/01/04 23:27 |
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クリスティはポアロという主人公を好んでいなかった...という話があるが、まあこれこの作品にも登場するクリスティの分身オリヴァ夫人が、その菜食主義者のフィンランド人探偵に手を焼くあたりから何となく推測つくことではある。
パズラーに登場しがちな名探偵、とくに私立探偵ともなると、そのリアリティは時の経過とともにどんどん低下し、現代社会での居場所を求めることは難しくなる...だから、この小説では、ポアロは自分が雇われるように一生懸命売込みをしなければならない。そこらへんキビしいのだ。 でこの作品だと無軌道な少女と、その家族問題...というちょいとロスマク調のネタで始まるけども、考えてみりゃロスマクだってこの「第三の女」みたいな大ネタが結構あるわけで、リアリティがないと怒るのはちょいと軽率な気もする(まあ、大ネタがあるとわかってれば、真相は大体推測できるし)。 とはいえ、若干点がカラいのは、ヒロインが麻薬を盛られてるのが見え見えだけど、一人二役&二人一役の毛ほども気付いている様子がないのが不思議。あと、もう一人当然コレに気付くべき人がいるんだけど、気がつかないのが不思議。さらにクリスティに当時の文化に対する理解がまったくない点が気に入らない。ロックンロール! |
No.4 | 3点 | 魔術の殺人- アガサ・クリスティー | 2015/01/04 22:37 |
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これは駄作。あらすじを読んだだけで、トリックとか犯人とかすぐに予測がつくと思う...ほぼ同一シチュエーション同一トリックで、戦後すぐに発表された日本の某名作とカブるけども、日本の某名作の方が扱いがずっとスマート。
日本の某名作と比較すると、ポイントがわかりやすいので少し比較。 ・日本の某名作では連続殺人の中盤で、急遽勘定外の殺人をしなければいけなくなって、挿入された幕間劇風のエピソード。「魔術の殺人」はメインの大ネタ。 →作為の大きいネタなので、これだけを取り出して見ると、バレやすい。日本の名作では中盤の山場なので何となく見過ごしがちだが、「魔術の殺人」は直球勝負だから見逃せない... ・「魔術が効きにくい人」の使い方 →作品キーパーソンが「魔術の効きにくい人」だが、「魔術の殺人」では扱いが中途半端で、焦点がうまく絞りきれていない感じ。ミス・マープル自身あっさりダマされてるのが宜しからず。マープルが立ち会ったためにちょいと名探偵度を下げてるね。 ・監禁者 →日本の某名作だと普遍的な「痴情の縺れ」だが、こっちは精神病関連のイマドキちょいとキッツい「障がい」。日本の某名作だと全体的なキャラの濃さが半端ないので、監禁者の異常行動が目立たないんだが... というわけで、厳しい評価となります。 まあ、それでも婿のウォルターくんとか、いいキャラはいないでもないが.. あと邦題。原題は「手品師は鏡がタネ」ってくらいの意味だけど、「魔術の殺人」は少し盛りすぎな気がする。もう少し何とかならなかったかな。 |
No.3 | 10点 | 半七捕物帳- 岡本綺堂 | 2014/12/26 20:31 |
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半七は日本ミステリの皮切りと言っていい作品なのだが、これぞ日本ミステリの最高のものとして、世界に誇っても全然不思議ではないミステリの枠さえ超えた大傑作シリーズである。
ミステリ=「シャーロックホームズに刺激を受けて書かれた作品」と乱暴に定義するのならば、明白に半七はまさにそうなのだし、幾多のフォロワーたちを抜いて優れているのは、ホームズが持っている「社会のすべての階層を描いた小説」という側面を、まじめに実現できているという点である。いや、それだけではなく、描かれている社会が「過去の社会」である、というまさにその点で、ホームズさえも凌駕するところがある。 半七は有能な職業人ではあるが、天才探偵ではない。半七が到達する真相が驚くべきものであるのは、半七の生きた世界がすでに存在しないためであり、半七にとって明白なことは半七捕物帳の読者にとってはすでに自明ではないからである。それゆえ半七捕物張は意図せざるメタ・ミステリであり同時に、幕末社会に対する最高の案内書なのである。 日本と日本人の来歴を理解するためにこれほど優れた本は存在しない。日本人必読の書だと言っても過言ではない。それこそ漱石鴎外と並べても遜色がない小説なのだから、評点は最高点である。「逝きし世の面影」あたりを併読するとさらに佳し。 |
No.2 | 6点 | ハロウィーン・パーティ- アガサ・クリスティー | 2014/12/26 20:06 |
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評者はクリスティって言うと初期は「クィン氏」後期は「終わりなき夜に生れつく」が二大傑作だと思うようなマイノリティなんだけども、この作品はたぶんクリスティ本人も大いに気に入った「終わりなき~」を「もしポアロ物として書き直したらどうなるんだろう??」と思って書いたんじゃないかと推測する。要するに
1.犯人像 2.建築物(庭園)に対するこだわり 3.犠牲者的キャラ 4.副次的な共犯者を廃墟であっさり始末 5.イギリスの土俗的なオカルト風味(今風に言えばウィッカとか) 6.犯人は愛しているにもかかわらず殺す(殺そうとする) とかいろいろ要素的な部分で共通性が多いように思う。 まあ純粋にミステリとして読むと、犯人による偽証から来るレッドヘリングが2つあって、1つは明白にヘンなので犯人の推測がついちゃうためよろしくないが、もう一つはすばらしい(がこれされると、推測しづらくなりすぎる...)。被害者に関するミスディレクションは想定内。当然そうでしょう。 クリスティ的な見所は年老いたポアロの内面描写がどんどん増えていってるために、ポアロというよりもサタスウェイト氏化してきていて、そこらへん「犯人は芸術家だが、探偵は批評家にすぎない...」というような妙な感慨がある。言ったら何だが初期のポアロって年若い女性作家がついつい書いちゃったぽいキャラだったのだが、それなりの熟し方をしているのがこの本の一番の興味だと思う。 総じてファンタジックな趣が強く、小説としての良さがミステリとしての良さを上回っている。クリスティ晩年らしい作品。ミランダって命名はテンペストからだよね.... |
No.1 | 7点 | 蒼ざめた馬- アガサ・クリスティー | 2014/11/30 21:37 |
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昔読み倒したクリスティを改めて再読している。
クリスティの後期って初期とは比較にならないくらい人物造形がいい。この作品はおなじみ名探偵は出ないにもかかわらず、脇の印象的な人物が再登場するのが大きな趣向になっている。 クリスティ準レギュラーのオリヴァ夫人が、要のところでいい仕事をしているし、この作品だと特に「悪の卑小さ」みたいなことがテーマになってくるわけだが、それを際立たせる凛とした雰囲気を漂わせるカルスロップ夫人がいいし、デスパード夫妻も再登場である。 ヒロインはさすがに新規キャラだが、ジンジャーもクリスティらしい勇敢なヒロインで、ありがちな嫌味を出さずに書けるのがクリスティの本当にイイところのように思う。 で、この作品はクリスティ後期に目立つノンシリーズ物。「実年齢が追いついて自然体で書けるマープル物」と「時勢の流れの中でリアルに動かしづらくなってきているポアロ物」に対して、いろいろと実験的な試みをしているのがノンシリーズ物なのかもしれない。キャラ小説としては不利なせいか、どうも人気薄に感じるが、この作品とか「終りなき夜に生れつく」とか「ねじれた家」とか、独特のドゥーミーな雰囲気が好きだなぁ。 この作品の本当の狙いは、これらのおなじみ人物たちが、クリスティには珍しい組織犯罪に対して、相互に支えあうささやかな十字軍めいた関係にあるのではないのだろうか。再登場した人々は名探偵ではないが、それぞれに「義の人」であり、それゆえにゆったりと連帯しあう。ここらへんにどうやら評者は感動したようである... |