皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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クリスティ再読さん |
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| 平均点: 6.38点 | 書評数: 1664件 |
| No.4 | 7点 | 世界スパイ小説傑作選1- アンソロジー(国内編集者) | 2022/05/17 08:05 |
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| 「ダブル・スパイ」「霧の中」とこのところの評者の追跡対象の R.H.デイヴィスの邦訳最後の短編を収録したアンソロをゲット。この短編集に「フランスのどこかで」が入っている。
講談社文庫のこのアンソロ(1978)は、丸谷才一編で3巻出たものの第一弾。表に出ている名前と序文が丸谷才一だけども、常盤新平が全面協力で文庫解説も常盤、なので事実上、丸谷と常盤の共編、と見た方がよくて、「翻訳作品集成」でもそんな風に書かれている。 とはいえ収録作は他で読めるものも多い。スパイ小説は長編が主体だから、アンソロは長編の一部を短編扱いにして...とか編集を工夫する必要がある。 ・モーム「売国奴」 例によって「アシェンデン」のエピソード。 ・ビアス「悟れる男パーカー・アダスン」 南北戦争で捕虜となった「哲人にして才人だった」スパイと、南軍将軍との会話の妙。 ・アンブラー「影の軍団」 第二次大戦開戦前夜のドイツのレジスタンス活動に「飛び入り」したイギリス人外科医の体験。「情報活動の経験が皆無のアンブラーのスパイ小説の特徴は、細部に至るまで正確であることだ」まさにその通りだし、それが一種の「アンチ・スパイ小説」になる面白さよ。 ・ウォーレス「コード ナンバー2」 SFっぽい発想でのガジェットの面白味と、意外な通信手段。マンガっぽいといえばその通り。 ・ホイートリイ「エスピオナージュ」 「黒魔団」の作者で評者はご贔屓。この人もスパイ活動歴があって、イアン・フレミングの上司だった。遊び人風のスパイ像が007っぽい。 ・スティーヴンソン「りんごの樽」 「宝島」の一部。ジム少年がリンゴの樽に入って、シルヴァーの企みを盗み聞きするエピソード。 ・チェスタートン「めだたないノッポ」 「ポンド氏の逆説」所収。チェスタートンらしい幻想譚風の話。 ・デイヴィス「フランスのどこかで」 職業的な女スパイ、マリー・ゲスラーの一代記、といった体裁の話。女性でもオトコを手玉に取れる「職業」なのがスパイだったりする面白さ。マリーが「スパイ」という職業が「天職」であるあたりが、この短編のリアリティと迫力になっている。 ・ドイル「ブルース・パティントン設計図」 言わずと知れた有名作。 ・リーコック「あるスパイの暴露」 パロディで〆。 まあだから、他で読める作品がやたらと多いのは「お買い損」だけども、この本でしか読めない作品が出来がいい。やはりリチャード・ハーディング・デイヴィス、驚くほどの実力がある。日本でも埋もれているようで埋もれていない作家だし、英語版 Wikipedia とか見ると 1920年代までは映画の原作に多数採用されている人気作家だったことは間違いない。「リアル・スパイ」の元祖になる作家である。まさに「スパイ小説のオーパーツ」! |
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| No.3 | 7点 | 死体消滅 戦慄ミステリー傑作選- アンソロジー(国内編集者) | 2022/01/10 08:15 |
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| 先日楠田匡介やったから、ついつい「人肉の詩集」が読みたくて図書館で探すとこのアンソロがあった。大昔読んだ記憶あり。1976年ベストブック社だけど、アマゾンに登録がないみたいだ。
収録作品:「人間腸詰」夢野久作、「王とのつきあい」日影丈吉、「人肉の詩集」楠田匡介、「二瓶のソース」ダンセイニ、「死を弄ぶ男」山村正夫、「人間解体」森村誠一、「失楽園」北洋、「屍臭の女」斎藤栄、「おーそれーみお」水谷準。 死体処理に特化したアンソロ。グロ耐性がない読者は避けた方がいいかもね。要するに死体処理は即物的だから、アイデアだけだと小説にしたときに面白くない。だからそれに語り口なりロマンなりをうまく融合させる腕の見せ所、のように思える。そういう意味で夢Qはさすがなもの。腕一本の大工のべらんめえな語り口のうまさにしてやられる。 同様に語り口のうまさで読ませるのが日影丈吉とダンセイニ。技巧の極みみたいなものがある。山村正夫のは「自殺したけどもゾンビになるだけで死ねない男」を主人公にして、自殺の原因になった女に嫌がらせとして復讐をする話。どんどん腐っていくしブラックユーモアが落語みたい。これが意外に面白い話。 逆に「リアルで陰惨」になると、どうも面白くない。森村誠一と斎藤栄のはリアルで陰惨系だから嫌い。実は楠田匡介のは筋立てだけなら本当に安っぽいスリラーなんだ。しかしこれは、リアルで陰惨な話が、血をインクに、肉体をパルプに溶かし、皮を装丁に...として詩人とその想い人を「亡き人を追悼する詩集」化けさせるというイメージが、話の具体の内容を超越して訴求する力がある。ある意味究極の「肉体の詩集」なんだから、マラルメ的な「書物」にこだわるビブリオマニアな詩人の理念みたなものでもある。 つまり、観念的な「ロマンの味」が死体処理話の決め手のスパイスなのだ。まさにこの「ロマン」で押し切って成功したのが水谷準の伝説的な名作「おーそれーみお」で、やや押しきれていないのが北洋。「おーそれーみお」は昭和二年の新青年が初出だそうだからほぼ百年前! ポオをやや甘口にしたロマンチックな名作。 読みごたえありの名アンソロ。 ちなみに「人肉の詩集」をタイトルにする楠田匡介の短編集(1956)は、稀覯度が高くてやたらな値段がついている...で、湘南探偵倶楽部が短編「人肉の詩集」だけを抜き刷りにして2021年に出しているそうだ。たった14ページに2640円だすのも酔狂といえばそうなんだけど、思わず「本」として欲しくなる気持ちは、「人肉の詩集」については、わかる(苦笑) |
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| No.2 | 7点 | 殺しの一品料理(ア・ラ・カルト)- アンソロジー(国内編集者) | 2021/04/18 23:18 |
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| いわゆる推理小説年鑑の1973年度。昔は「推理小説年鑑」、最近は「ザ・ベストミステリーズ」で、「ミステリー傑作選」とか「推理小説代表作選集」とか銘打たれて、日本推理小説作家協会編で、講談社で刊行される年度別短編選集。名前が何度も変わってるし、文庫になるときに年ごとにキャッチーなタイトルが付くから、こういうサイトだと、分かりづらい。「日本推理小説作家協会編」で判別するしかないかな。けど、作品は当然粒ぞろい。一応全作短評しよう。
小松左京「待つ女」 人間消失だけど、奇譚風の話。「おクラさま」と古風なのを揶揄される女性の暮らしぶりが、「昔の庶民の生活」を体現していて、評者なんぞはすごく懐かしさを感じる。好き。 山村正夫「気になる投書」 人生相談を巡るアイロニカルな仕掛け話。ふつう。 三好徹「不確かな証人」 意外にリアルなトリックあり。ふつう。 海渡英祐「酔っぱらった死体」 吉田茂はゲスい。まあそれがウリのシリーズだけど。ふつう。 陳舜臣「宝蘭と二人の男」 神戸の中国人専用の娼婦宝蘭の数奇な人生と、彼女を巡り殺し合った二人の男の話。庶民の歴史、といったあたりの面白さに惹かれる。 夏樹静子「暗い玄界灘に」 婚約者がヘルニア手術中に急死した真相の話。雰囲気がいい。 戸板康二「明治村の時計」 中村雅楽ではない単発の、アララギ派歌人と無頼派詩人の因縁の話。いやこんなのフィクションでやるのかな? 都筑道夫「九段の母」 タイトルは戦時歌謡だけど、戦前の靖国神社の例大祭の縁日では見世物小屋や香具師がわんさかと...という猥雑な市井の「噺」という印象の作品。雰囲気が面白い。「なめくじ長屋」の昭和版?かしら。 松本清張「理外の理」 時代遅れの考証家が雑誌ラインナップから外されたことを復讐する話。書痴な話で、そこらへんに妙な味がある。 鮎川哲也「竜王氏の不吉な旅」 三番館でアリバイ崩し話。鬼貫物風の話で、不吉な名前の地名を回る旅行がアリバイ(死の島=篠島はw)。だけど、安楽椅子探偵のバーテンだから、どうも名探偵過ぎて、逆につまらない。 佐野洋「猿の証言」 ふつう。 土屋隆夫「泥の文学碑」 「盲目の鴉」の冒頭部分で事件が少しだけ違う。確かに「盲目の鴉」でこの部分、浮いてるもんね。「盲目の鴉」読んでると、モヤモヤする。 森村誠一「殺意の造型」 美容室でよろけた客がヒゲ剃り中の美容師を突き飛ばし、客は喉を切り裂かれて...単純な事故と思われた事件に、刑事は疑いを持つ。当時全盛期でベストセラー連発していた森村誠一。この頃まだかなりパズラー寄りでそれを社会派とミックスした作風....評者今まで1作もやってないけど、実は大の苦手。文章が嫌いだから、たぶん取り上げないんじゃないかと思う。けど、この作品、妙にバカミスな味があって、実に面白い。この本のベスト。 戸川昌子「裂けた鱗」。 パリにロケに出たTVクルーの一行は、独裁的なディレクターの独断で、「足の裏を切り裂く」ことで恍惚となる女をヒロインに据えた、「パリで蒸発する女」のセミドキュメンタリーな話を取ることになる....猟奇性高し。ナイス。 いやこの頃、社会派全盛末期くらいだけど、「ジャンル感が薄い」何が飛び出てくるか予測がつかないような面白さがある。レギュラー探偵もヒーロー性が薄い吉田警部補と三番館のバーテンだけだし、「ポストモダン」にならない「モダン」というあたりでは、一番典型的な時期のようにも思う。だって土屋隆夫だって戸板康二だって、古典的なパズラーとは言い難い作品を収録だし...意外に三好徹・夏樹静子がパズラー寄りかなあ。 |
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| No.1 | 6点 | 世界短編傑作集2 - アンソロジー(国内編集者) | 2020/03/22 08:10 |
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| 懐かしの短編傑作選である。今となってみると、とくにこの巻は短編黄金期の名探偵顔見世興行みたいなものだ。雑誌連載の短編がベースのもの中心なので、一つ一つにはあまり話のふくらみがなくて、名探偵のキャラも「もうわかってるでしょ」くらいで描写は最低限くらい。ルーチンな事件の中でも、個別の事件で面白いものを選んだ、という感覚。
アブナー伯父の「ズームドルフ事件」にはそれでもタダの有名トリックものじゃないだけの、宗教的な側面をうかがわせる小説らしい面白味がある。またソーンダイク博士の「オスカー・ブロズギー事件」には、複雑な機械がスムーズに動いて巧妙な結果が出てるようなメカニカルな美があってなかなか、いい。 逆にダゴベルトの「奇妙な跡」は、探偵役も奇矯な変人で、事件もリアルと言うのか馬鹿馬鹿しいというのか...で、描写もそっけなく「これでイイの?」と思うくらいのヘンテコな作品。ホームズ譚の「奇妙な受容」というくらいに思って珍重するのがいいのかもしれない。 そうしてみるとトレントの「好打」とかカラドスものの「ブルックベンド荘の悲劇」とかウィルスン警視の「窓のふくろう」は、探偵役のキャラもあまり話として効いていないし、面白味のない機械トリックだし...と思うのは仕方がないのかもしれないが、この「機械的」というあたりに、二十世紀初めの「大衆社会 meets (家電を象徴とする)電気」のショックを感じて、「電気の詩」を歌った時代の証言と読むのがいいのかも。 まあ何というのかね、このシリーズは「過去のある時代」が凍結して保存されているような懐かしさを感じる。評者の感傷かな。 |
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