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クリスティ再読さん
平均点: 6.40点 書評数: 1378件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.27 4点 ハートの4- エラリイ・クイーン 2017/09/24 19:46
ハリウッドもの、なんだけどね、皆さんハリウッドらしさが出てると評されるけど、評者に言わせると全然らしさが出てない。ポーラ・パリスみたいな地獄耳のゴシップ・コラムニストというと、ルエラ・パーソンズとかヘッダ・ホッパーとか、スター並みの存在感で恐れられた人(エピソードはずっとエグい)がいたりするわけだ。クイーンお得意の「呼ばれて行ったけど6週間音沙汰なし」のプロデューサーは、ハリウッドの第二世代の代表者のアーヴィング・ソールバーグがモデルで、この人はフィッツジェラルドの「ラスト・タイクーン」のモデルとしても知られる人だ。ここらへんのエピソード選択とか表面的なもので「ホントにハリウッド行ってたの?」級。まあハリウッドと言いながら撮影シーンがちゃんとないんだからねえ、もっと頑張ってほしいなぁ。
で..読んでてもどうもストーリーも冗長。トランプによる警告とか、後期の作品でもよくこの手の「謎のプレゼント」は多いけど、意外にサスペンスが盛り上がる...って具合にはいかないことのが多いように感じる。考えオチだからねこういうのは。
本来のミステリ部分が良ければそれでも...なんだけど、本作、犯人&動機をまともに隠せてないと思う。何か見え見えな真相でがっかりさせられる。
ふう、ここらへんの作品どれもこれも駄作なんだけど、その中では「ドラゴンの歯」が一番読める気がする。あれは恋愛担当をボー君に振って、エラリイはホント脇役だからね。そのくらいのバランスの方が話がうまく流れると思うよ。

No.26 6点 チャイナ蜜柑の秘密- エラリイ・クイーン 2017/09/03 21:51
評者クイーン長編もそろそろ終わりに近づいてるね。後期を先にやって最近になって国名シリーズに集中した理由は、単純に国名シリーズはほぼ昔読んでる(それと入手性がいい)だったわけ。で、だけど、やっぱ真相憶えてるんだよ....40年も昔に読んだキリでもね。本作も読んでると「ああこれあれがあれで...」なってしまってた。
まあだから、本作の読みどころは、あべこべ衣装をめぐるチェスタトン的論理と、大仕掛けな物理トリックが作り出すファンタジックなイメージ、ということに尽きると思う。物理トリックを「リアリティがない!」とかお怒りになるのは筋違いで、具体的な絵として想像してみると...シュールで華やか、綺想って感じで面白いじゃん。珍しく映画原作に売れた理由もそれじゃないかな。しかし中盤の展開が真相解明にまったく寄与していない、という長編構成上の問題があるから、もっと奇抜で似合った背景に変えて、100ページくらいの中編にまとめたら、切れ味のいい大傑作になったかもしれない。ヴァン・ダイン的な捜査プロセス小説の枠組みと、クイーンのしたいことが矛盾しだしてるのが本作の本当の難。
けど、エラリイのウンチクはどの作品でもトンチンカンなものばっかりだから、最近少々ウンザリしだしてる...

No.25 4点 日本庭園の秘密- エラリイ・クイーン 2017/09/03 21:25
本作は日本をネタにしたということで、日本人にとってはどうにも困惑な内容が多々あるが、細かいことには突っ込まないでおこう。
けどねえ、本作の真相が「ミステリとしてどうよ」というのとは別に、ハサミを凶器として選択する、ということ自体、またそれを、当時のアメリカ人のステレオタイプとしての「日本人的行為」である〇〇〇〇の道具に結びつけるという不適切さがやはりどうにもこうにも、違和感が強い。しかし、最後の再真相となると、再真相で明かされる主たる原因の結果としての〇〇〇〇...再真相としてはちょっと受け入れがたいものだ。そういうものじゃないでしょ。また再真相の犯人が完全に捨て身ならば、そういうこともできるかもしれないけど、被害者が事情を周囲に漏らす可能性を全然否定できないから、現実性があるようでない話だよ。後の再真相は「ミステリとしてどうよ、と突っ込まれがちな件よりも気が利いてる」と思って追加したんだろうけど、逆じゃないかなぁ。クイーンの方こそが「トリックのためのトリック」に淫している感じだ。
あと本作、前半エヴァ視点で描写が続くんだけど、他人に依存的な不快なほどのカマトト娘である。読んでてはっきり苦痛。国名シリーズあたりでクイーンの描く女性像って「令嬢が死体を見て失神」したりして「いるのかよこんなステレオタイプ!」ってなるくらいに保守的だしね。
印象的な女性キャラクタって「災厄の町」のノーラか「ダブル・ダブル」のリーマくらいにならないと出てこないから、女性が苦手な印象が強いなぁ。映画だってヒロインは、オフィスワーカーで自立した皮肉屋くらいがウケの線といっていい時代なんだから、同時代のハードボイルドな女たちと比較しちゃいけないが、それにしても保守的にすぎるんじゃない?

No.24 8点 オランダ靴の秘密- エラリイ・クイーン 2017/08/16 22:18
国名シリーズでも初期タイプの完成形だろう。本作のプロット一番特徴的なのは、あまりマジメに尋問しなくて、適当にうまく端折れているあたり。登場人物一覧に大量の容疑者が列挙されるので、「全部尋問するの?」とオソレるのだが、そうではなくてポイントポイントの尋問しか叙述していない。だから読んでいて無味乾燥でツラい、というのはない。書き方が手慣れだしているね。とくにスワンソン出頭からジャーニー殺しの発覚に至る流れなんて、興味を逸らさずにうまく書けているように感じる。
まあ「パズルの極み」みたいな謎解きなんだけど、本作だと3つある推理ポイントを、これでもかと強調しているために、クイーンの意図を読者が当てるゼスチャー・ゲームみたいなニュアンスになってきているよ。その分フェアなんだけども、推理が具体的な行為が示す意味を解釈することに重点が置かれるようになって、「こういうことをクイーンは伝えたいのでは?」とか当時の服装などのジョーシキを推し量りながら推理していくことを要求されているかのようだ。そこらへん、もう80年以上前の作品ということもあって、素直に「推理」しやすいものではなくなりつつあるのかもしれないな。評者は「ローマ帽子」のときシルクハットは畳めるものなのか?でかなり悩んだりしたんだよ...
評者はパズラーと言いながら「なぞなぞ」的なネタ一発の作品って好きじゃないんだな。本作は複数の情報を相互に参照して絞り込む必要があるので、なぞなぞではない「パズル」だ。そこらへんクイーンですら意外にできてる作品は少ない。本作は推理という面で貴重な作品である。推理の結果によるいくつかの属性によるグルーピングに必要だから、あれだけ大量の容疑者が要るというわけで、そのグルーピングに必然性があるからこそ、別に意外な犯人でもないわけだ。「類的推理」とか「カテゴリーベース推論」とか呼びたくなるようなエラリーの推理である。
そういうわけで、本作かなり貴重な作品。キャラの没個性もこういう作品だったら、けして悪いことではない。

No.23 4点 悪魔の報酬- エラリイ・クイーン 2017/08/15 22:34
ハリウッド全盛期のスクリューボール・コメディが夢物語だっていうことは否定できないことなんだけど、そういうのを狙ったにしても、主として経済的方面での切実さみたいなものが足りないので、どうも主人公カップルに感情移入とかしづらい作品だ...破産してアパートに引っ越すんだが、5部屋もあるんだぜ。ドッチラケも甚だしい。もっとマジメにやれ、と言いたいくらいだ。
でまあ話は主人公と未来の義父が互いにかばいあって事態を紛糾させるわけだが「犯人以外の善意の第三者による工作」って、パズラーとしては一番推理しづらい要素になりがちなので、評者ははっきり気に入らない。犯行手段も...ちょいと確実性が薄すぎるように感じるな。大丈夫か。
あとピンクくん、どう見てもゲイだろ。全体として雰囲気が浮ついてて、今一つな作品。

No.22 8点 災厄の町- エラリイ・クイーン 2017/07/30 21:50
クイーンの国名シリーズは小説的にはヴァン・ダインの模倣から始まっているのは言うまでもないことだが、本作あたりでクリスティ流、とでも言うべきパズラー書法をうまく手中に収めた感がある。クイーンの自己評価もそういうあたりだろうから、要するに本作、クイーンの「ナイルに死す」のわけだ。
なので、パズルとしての「意外さ」よりも、人間関係にうまく埋め込まれた罠を楽しむべきであって、そういう意味ではもちろん、成功している。犯人が分かって、「意外だった!」とびっくりするよりも、真犯人によって事件のフォーカスが当たりなおした真相が、小説としてより深まるというものの方が評者は好きだしね(まあそこらがクリスティ流)。というか、後期クイーンでも、ここまで真相によって「小説が深まる」成功をした作品ってないようにも思う。

このままにしておこう。(真相なんて)どうだっていいじゃないか。

エラリイがこれを言うんだよ...評者もいっぺん言ってみたいくらい。ヒッチコックが言ったという「たかが映画じゃないか」に匹敵する、自己否定的名セリフだと思うよ。このセリフをエラリイから引き出したカーターくん、いい奴だな。
本作だとクイーンはライツヴィルの魔女狩り風土に否定的な反応をしているけど、結末から愛着を覚えちゃったらしいのが見て取れる...だから魔女狩りに正面から取り組んだ「ガラスの村」は本作の仕切り直しみたいに読むのがよろしかろう。

No.21 7点 中途の家- エラリイ・クイーン 2017/07/17 23:43
一言で言えば良作。中盤に裁判を持ってきてうまく小説の核を作り、その後の落ち着いたところで最終的な手掛かりを得るための恋愛&駆け引きがあり、最後に関係者一同を集めた現場再現...と構成面でうまくまとまった作品だと思う。作者お気に入り、というのは小説とパズルのバランスがうまく「手にはいった」手ごたえを感じたんだろうな、と思わせる。
皆さんはマッチのロジックばかり指摘するけど、二重生活をする被害者が「どちらの人格として殺されたのか?」というエラリーが指摘する問いが小説としてうまく解決されているのに、評者は一番感心した。これがこの評点の理由だね。後期的な「人間的な謎」についての関心が本作で出ているわけだ。「中途の家」というのは、クイーン自身にとっても国名からライツヴィルへ至る「道半ばの家」ということで、狙ったわけではないのだろうけども、作家論的にも面白い位置にある。
本作評者の手元にあったのは、1967年の創元の5刷。子供のころ古本屋で買った50年前の本だよ...訳は井上勇なんだが、意味不明な訳文がたまにある。困ったな。けど、67年の時点でさらに50年前の本、と考えたら第一次大戦直後大正時代の本なので文章習慣とかかなり違うことを考えたら、つい最近になって新訳が増えたという、海外ミステリ受容の長期的なサイクルみたいなものを考えてみても面白いのかな。

No.20 5点 ドラゴンの歯- エラリイ・クイーン 2017/07/09 16:01
本作はクイーン流の「映画小説」みたいなものだ。ベースはいわゆる「スクリューボール・コメディ」。戦前のハリウッドの都会的な喜劇、っていうとこのスタイルがメジャーだったわけで、監督としてはルビッチが代名詞なんだけど、実際にはキャプラ(「或る夜の出来事」。「スミス都へ行く」のジーン・アーサーのツンデレが特にそれっぽい)もそうだし、戦後までこのスタイルを引き継いだのがルビッチの弟子ビリー・ワイルダー(「アパートの鍵貸します」とかね)と言ってもいいだろう。またRKO時代のアステア&ロジャーズのミュージカルだってベースはこれだ。
ここらの映画に親しんでいると、この作品のテイストはごく自然に理解できるんだけど、ミステリマニア一般にそれを要求するのも何だよね...ボーがエラリーの名前を名乗って活動するとか、奇矯な億万長者の遺言とか、内緒の結婚式の治安判事の正体とか、ここらへんをスクリューボール・コメディらしいアイデア(変装とか身元を偽るとか実に演劇的な効果絶大なわけで)だと楽しむのが、本来の作者が想定した読み方のように感じる。
まああくまで「ミステリ仕立て」に近いところもあるから、ミステリ的な部分はそもそもあまり期待すべきじゃない。ヒロインへの襲撃とかキャラの入れ違いとかそういうプロットの部分での変化を、絵をイメージしながらロマンチックなサスペンス映画をのんびり楽しむような感じで読むべきだな。それこそ今ならボーとエラリーの関係をバディ的興味で萌えるのもありかもよ。
ある作家を「あるジャンルの巨匠」と扱っちゃうと、それこそ状況に流されていろいろ試行錯誤した「流行」の部分が後から見るとまったく見えなくなって、単に「つまらない駄作」という情けない評価に甘んじることにあるわけで、そういう面を特に本作とか否定できないわけだが、時代と背景の理解のための資料みたいに読むんだったら、本作でも十分お役に立ってくれる(クイーンが書いたからこそ、かろうじて訳されるわけでね)。

No.19 9点 シャム双子の秘密- エラリイ・クイーン 2017/07/02 22:52
皆さんあまり指摘しないようだけど、評者は本作はアンチ・ミステリだと思う。
全体的に仕掛けが素晴らしく成功していて、後期クイーンは本作を何度も模倣した感じの作品を書いているけど、それらは全然本作には及ばない出来だ。本作は「後期クイーン」の前哨戦かもしれないけど、見事にかみ合って後期クイーン的作品の頂点と言っていいだろう。クイーン作家論としても超重要作である。評者なんかミニチュアの「黒死館」だと思うよ...

(アンチ・ミステリの論拠を説明しなきゃいけないから、アカラサマじゃないけど少しバレます)

後期以降定番になるダイイング・メッセージ物である。本作のアンチ・ミステリらしいところというのは、エラリーがダイイング・メッセージの象徴解釈を延々するのにもかかわらず、ダイイング・メッセージ自体が周囲の人々を惑わすための「アンチ手がかり」でしかない。エラリーも象徴解釈が大好きなためにそれに見事にひっかかるわけだ。本作は殺人が起きるまでクイーン父子が探偵だということが周囲に知られていないから、「名探偵をひっかけよう!」というものでもなく、真犯人から見たらターゲットへの「嫌がらせ」みたいなもののようだ。なのでエラリーは本当に黒死館風に「何もないところに空中楼閣を築く」ことになってしまう。後期に繰り返される「探偵の失敗」でも、本作のはアイロニカルな手ひどい失敗である。
犯人を導く真の手がかりは、象徴解釈ではなくて、意味を欠いた盲目なリビドーなので、これも一種の「アンチ手がかり」だったりする。がっかりする読者もいるようだが、評者は用意周到な狙いだと思うんだがどうだろうか?
本作と言えば山火事だけど、これはサスペンスを狙ったもの...と皆さんは読みがちだけど、山火事はすべての意味を焼き尽くしてすべて消し炭に変えてしまうカタストロフである。だから、ダイイングメッセージさえも、山火事は焼き焦がしてすべて意味を奪ってしまうものなのだ。しかし、アンチ・ミステリとして読むのなら、この山火事こそが、過剰な意味(しかも誤った解釈)から浄化して解放する契機だと読むべきなんだろう。そういう構図を見たら、本作は一個の象徴詩みたいなものだよ...

エラリーは、この瞬間、いま一同の注意力が完全に奪われているとき、ほんのつかの間、一同が死から面をそむけているこの瞬間、彼らの上に天井がぐらぐらと、煙とともに崩れ落ちることによって死がもたらされ、なんらの警告も、苦痛もなく、生命が一挙に抹殺されることを、どんなにか熱烈に希求した。

探偵小説が死を扱う「非情さ」に「死を克服しようとする意志」を見るというのを確かカフカが言ってたように記憶するけど、目前に迫る全員の死を前にして、はかない抵抗ではあっても「個人の死」にこだわり続け、犯人を指摘しようとするエラリーの姿が実に尊い。後期みたいにめそめそしないのがイイな。
なので、本作をCCとかいうのはまったく見当はずれで、本作の素晴らしいところはそういうアンチ・ミステリな部分である。あなたはなぜミステリなんて読むんですか?と読後問いかけたくなるような名作だ。

No.18 4点 心地よく秘密めいた場所- エラリイ・クイーン 2017/06/25 22:40
クイーン最終作品なのだが...何か読んでいて極めてよそよそしい。あれ、どうしたんだろう?と気になる小説だ。この事件にエラリイが引きずり込まれることになる父親との問答も、何か異化演劇風で「これはすべて架空のことなのだ!」と示そうとしているかのようだ。
最終的な被害者となる億万長者も何かそらぞらしいキャラだし、そのオブセッションである「9」でさえ、最終的にすべて意図的な「レッド・へリング」であることが示される....舞台装置の裏側はベニヤ板でしかないのだ。欺瞞に包囲されたエラリイは、9の象徴の飽和攻撃に押しつぶされるかのような惨めな失敗をする。後期エラリイはたびだび推理に失敗するのだが、その中でもおよそキャリアで最低のカッコ悪さでだ。作者クイーンがパズラーというもの、ミステリというものに、疑いを持ってしまったかのように。
本作はおそらく「最後の一撃」の書き直しみたいな面を持つのだろう。作者が設定する「謎」というもののこれ見よがしで不自然な部分だけが肥大し、探偵は解釈の多重性の中で途方に暮れるしかない。謎だけがそこにあって、真相は仮のものでしかないのかもしれない。もうちょっとズレたら、本作は前衛ミステリになるのかもしれないけど、そこまでの意義は残念ながら認めがたい。ヒロインの次のセリフは、エラリイへの慰謝か、それともクイーンのかなわぬ約束だったのか。

あなたはきっと、そのうちにほんとうの答えを考え出しなさるわ。

No.17 4点 最後の一撃- エラリイ・クイーン 2017/06/19 23:35
評者のクイーン読み順は結構ネラってこういう順にしているわけだけど、「ローマ帽子」直後に起きた設定のこの事件が、執筆リアルタイムの27年後に解決するというタイムスパンの長さが特徴の作品である。本作でクイーン合作は一旦引退となり、5年後の再開後もしばらくリーが執筆できないという状況を見ると、本作で「ローマ帽子」を回顧するのも、クイーンのキャリア全体に対するグランフィナーレめいた狙いがあったわけである。そういう大きな仕掛で見たときに、それなりに傑作とはいかなくても、クリスティで言えば「カーテン」みたいな問題作、みたいなものになって欲しかったんだろうな...しかし本作の知名度から分かるように、完全に外してしまっている。
後期らしく固執的なテーマがあるんだが、それが「12」というのがそもそも外す原因。12日間かけての12回の不吉な贈り物...というだけで、プロットが相当間延びしたものにならざるを得ない(6回くらいにしておけばイイのに)。読んでいて妙に弛緩した雰囲気が漂う。これがクイーンの同世代のアメリカ人だったら、作品の中で言及される出来事とか小説とかでノスタルジアに浸るとかあるんだろうけども、さすがに評者もそれはムリだ。(レックス・スタウトの処女小説は何か前衛小説みたいなものらしいね...)
真相もミステリとしてちょっと微妙。というのは「贈り物の秘密のメッセージが指し示す犯人像が、あまりに注文通りなので、エラリイはそれが自分に仕掛けられた罠なのか疑心暗鬼になって公表しなかった」という推理の経緯を、1930年篇でうまく示すのができていないから、1957年にそうだと言われても斜め上に滑った感じで...どうにも困る。で、そういう贈り物のメッセージなら「分かって分からない」ような絶妙なものでないとハマらないけども、実際はちょっと専門知識が要るようなものだからムリ筋としか言いようがない(そりゃ日本のやり方と共通した記号こそあるけどね)。
ホント言うとね....身元不明な被害者なんていうと、「これはJ.J.マック殺人事件かしら?」なんて評者は妙な期待をしてしまったのだ。グランフィナーレなんだから、何かメタなネタを仕込むとかしてもよかったのかもね(作者=犯人をしようとした、という説がEQFCに載ってる)。評者は(探偵)エラリイと(筆者)クイーンの違いと混同に関心があるから、本作で(探偵)エラリイが小説「ローマ帽子」を無邪気に書いたことになっていると、「何か仕掛けが?」とか勘ぐってしまうのだ...
あと時系列だと「ギリシャ棺」が「ローマ帽子」以前のエラリイ探偵譚だけど、本作では忘れてるみたいだ。やれやれ。

No.16 3点 帝王死す- エラリイ・クイーン 2017/06/12 00:14
市民ケーンかハワード・ヒューズか、それともドクター・ノオか、というような超権力者「キング」の島の、超堅牢密室の事件なんだけど...こりゃ、ダメだ。SFかファンタジーか007かという事件の舞台、ライツヴィルでの過去の因縁、3兄弟の確執、密室謎解きが、てんでバラバラの方向を向いてる作品で、すべてにおいて中途半端。そもそもリーの小説スタイルはリアルな方に向いてるから、こういうファンタジーはダメだよ。
ま評者密室殺人嫌いを公言してるわけだけど、要するに手品はネタをバラさないからファンタジーが成立するのであって、密室のトリックをばらしてドラマがうまく動く長編作品なんてまずないと思うよ。
最後バタバタと死と脱出でオチが付くけど、苦し紛れにしかみえないや。とにかく小説としてこれはクイーン最低の部類。取り柄は密室のハッタリの見せ方がイイことと、密室トリックは小粒でも実行可能なことくらい。この人も国際政治ネタをリアルに描くことが無理な資質なんだね....(クリスティだと「死への旅」みたいなものか)

No.15 7点 ローマ帽子の秘密- エラリイ・クイーン 2017/06/11 23:52
あれ、皆さん評判悪いな...どっちかいうと評者本作は楽しんで読んだけどね。そういえば小学生高学年くらいのときに、人に借りて読んだ本だよ。内容は完全に忘れてたけど、エラリーの推理ほぼそのままに今回読んでて推理は的中。アンフェアというイメージはないよ。
「帽子を回収できた人が犯人だ」という命題自体は結構最初から明示されているわけで、誰ができるのか、マジメに考えれば結構明白だと思うんだがねぇ。まあ人の出し入れとかそう上手じゃないとかあるし、エラリーのキャラがあまり魅力的でないとか、特に前書きが後の作品との一貫性がないとか、いろいろろツッコミどころはあるんだけど...実は本作、クイーン警視の描き方の方に力が入っていて、パパ実に素敵。実質ダブル名探偵だと思うよ...そんなクイーン警視のカッコよさだけでも十分楽しんで読めた(評者オヤジ萌え傾向がある、あれ目が腐ってるのかな?)。なのでその分エラリーがイカスケない若僧だ。今読むとエラリーの書痴ぶり&ペダントリが身の丈に合ってなさすぎるのがわかる。

No.14 7点 悪の起源- エラリイ・クイーン 2017/05/17 22:47
冒頭から「ハリウッドを殺したのは誰か?」なんて洒落た仕掛けをしてることからも窺われるように、本作リキはいってる。文章もかなりこってりと凝っているし、後期だとかなりの力作になると思うよ。
で、だけど、早い話タイトルがかなりのバレなので、見立てというか犯人の狙う絵の意味は、わりと見えやすいと思う。しかし、どっちか言うとネタがバレているからこそ、本来の事件の狙いが何なのか読めなくなる...というのがミステリとしての狙いのような気がする。絵が何なのかわかれば、事件が解る、というものではないんだな。なので、絵が「狙いは×だろ?」という感じでシラけることなく、殺人らしい殺人がなくても、サスペンスをうまく持続することに成功しているように思う。全部目くらましなのでは?という疑惑を最初から捨てれないので、どう展開するかを注視しつづけなくれはいけないからね。
後期クイーンらしく、二枚腰の真相のひっくり返し方とか手慣れた感じでもある。評者この真相(というかオチ)は結構気に入っている。幕が閉じてから、が気になるようなタイプの作品である。ロジャー・プライアムの性格を念入りに描写しているからこそ、ありそうでなさそうな、こういう犯罪が「それでもありか?」と思わせる。派手じゃなく分かりづらいが、狙いが成功している作品だ。

No.13 6点 フォックス家の殺人- エラリイ・クイーン 2017/05/06 13:46
皆さん言うように地味な良作なのは確かだ。エラリイのスタンスが「公正」なあたりに、本作は一番の魅力がある。
本作、ベトナム戦争以前の「ベトナム症候群」モノだったりする...「正義の戦争」だったとしてもコワれる人は壊れるわけだ。なので丁寧に書かれた「一家族を通してみる社会小説」としての印象は非常によく、フォックス家の家族に嫌な印象を受けるキャラがいない(悪役の薬剤師とかおせっかい老女とかも、単に卑小なだけだし)。
だから着地点は何となく想像がつくんだけども、その結果ミステリ+小説としての出来は肩透かし。結局「虚構のハッピーエンド」みたいなことになって、評者は「これでいいのかなぁ?」と生温かな結末に若干モヤモヤする。強いて比較すると、クリスティだと「無実はさいなむ」あたりに近い家族小説なんだけど、ここで比較したらクリスティの家族幻想の無さ加減がひどく過酷に感じられる...
証拠の後出しに見られるように、クイーンのパズラー性に対する関心というかコダワリみたいなものが、本作だと後退しちゃった気もする。タイトルは原題・訳題ともにちょっと反則だと思う。もう少しなんとかならないか(原題もちょっと訳しづらい...The Murderer is a fox 殺人者はキツネだ、じゃ締まらないし)。感覚的には7点つけたらヨイショ、というくらい。

No.12 6点 孤独の島- エラリイ・クイーン 2017/04/17 17:19
本作は周知のように、ダネイとリーがちゃんとコンビで書いたにも関わらず、エラリーも出なければパズラーでもない、人質を巡るスリラーである。それこそマッギヴァーンあたりが得意とするタイプの小説だ(「ジャグラー」のプロットと似てるね)。
で...だけど、意外なことに、本作結構面白い。人質を巡るアイロニカルなプロットが二転三転するし、主人公の警官マローンが、自分の子供を救出するために、犯人たちの隠れ家を推理するとか、金の隠し場所を推理するとか、かなり名探偵。サスペンスは持続するし、リーの文章は丁寧で味があっていいし...とあまり文句をつける理由がないんだよね。主人公マローンは後期クイーンがこだわる、ニューイングランド的なキャラ(独立独歩の男。リバタリアン傾向が強い)で、クイーン的な一貫性もある。邦題の「孤独の島」は、そういう孤独な主人公が、物語の最後で町の人々に「宥される」描写からうまく付けた感じのもの。ここら「ガラスの村」のラストと対比してもいいんじゃないかな。
で、原題は「Cop Out」で今だと「責任逃れをする」とか「逃げを打つ」とか、あまりいいニュアンスのある言葉じゃないようだが、「抜け駆けする」というくらいの意味の俗語でとるべきか。とはいえ、本作を読む人ってのは、クイーンのパズラーが好きでしょうがない人だろうから、ニーズを外してもったいない。クイーンという名前がついてるばっかりに、はっきり損している。

No.11 1点 最後の女- エラリイ・クイーン 2017/03/19 11:05
ごめん評者は本作はちょっと許せない。
本作の真相は現在書いたらアウトだし、1970年という出版年時点で考えてもアウトだと思う。まあけど、それは偏見ベースの知識の不正確さ、という点なので、今から指摘する点を別にすれば、老大家の時代遅れ...というくらいで寛恕すべきなのかもしれないんだけどね。しかし、本作の問題点はある意味、社会派ネタのパズラーというものの軽薄で軽率な内実に起因するものでもあるので、そこらもちょっと指摘したいと思う。

(なので、今から盛大にネタバレます)
ダイイングメッセージが今となってはバレバレなのはご愛敬。現在だと差別的なニュアンスが強くて、好まれない表現ではあるけどね。問題の部分というのは、同性愛・女装趣味・トランスジェンダーの3つのセクシャル・マイノリティの属性は、現在それぞれ独立の問題だ、とされていることである(また親の躾を原因とする見方はほぼ否定されている)。この3カテゴリをごっちゃにした犯人像は、ありそうにもない。また、一番殺人の動機に近い部分の同性愛感情でいえば、被害者に迫るのに女装する必要性はまったくない、というか完全に逆効果だよ...
なので、本作のセクマイ描写は、ちゃんとした取材や知見に基づいたものというよりも、偏見ベースのステロタイプだと結論していい。
なので、このネタをパズラーの真相として使うとなると、「こんなに奇妙な人が世の中にはいるんですね~~」という軽薄なモノシリ自慢にしかならない。真相解明でエラリイが聞き手の父にいろいろ知識披露するけども、向こうは現職のニューヨークのベテラン警官だよ...世の中のウラ側に対する知識を講釈するのは釈迦に説法というものだ。実際、69年のニューヨークで起きたストーンウォール事件では、警官とゲイバーの客が衝突して暴動になったわけで、クイーン警視なんてある意味当事者(!)なんだよ。
社会派ネタはすぐに古びたり陳腐化したり、扱いが結果として差別的になったりいろいろややこしい。パズラーでは真相として最後まで秘密にしておかなければいけないから、ちゃんとした内容の展開もできないわけで、どうしてもネタ扱いの軽薄さでしか扱えないことになる。これはパズラーの宿命みたいなもの、でしかないのかな?
クリスティでも評者は「愛国殺人」が許せなくて1点にしたけど、クイーンも本作を1点とします。まあこういう面でダメになるのは、ある意味クイーンらしいかもしれないね。ちなみにゲイコミュニティ内の殺人を扱ったタッカー・コウ(D.E.ウェストレイクの別名義)「刑事くずれ 牡羊座の凶運」は翌1971年に出ていて、この作品ではちゃんとした取材の跡が見えて差別的な部分もほぼない(ごめん「ある奇妙な死」(1966)は読めてない)。

No.10 6点 - エラリイ・クイーン 2017/03/13 22:28
評者、最近読んでたクイーンは代作物が多かったのだが、今回この作品はリーの復帰作である。特殊な容貌を持つセルマ・ピルターの描写など、リーらしい凝ったもので「あ、リーの文章!」と感じられるあたりが何かいい。まあ「三角形の第四辺」とか読むと「大丈夫かダネイ?」と評者なぞでも思うくらいだから、さぞかしリーは気がもめたことだろう...というわけで、本作は若干持ち直す。小ぶりだけど最終期のクイーンでは結構いい作品だと思う。
ダイイングメッセージもの、と紹介されることが多いけど、中盤でこのメッセージは解読されるので、あまりポイントが大きいという印象はない。とはいえ、オ●●●ヴを考えると「こういうメッセージ」と一義的に決めることができないので、無理筋だと評者は思う。ダイイングメッセージってよく考えると、暗号じゃなくてその本質は「明号」だね。一見わからないけど、見方をちょっと変えれば「誰にでもわかる」ものじゃないといけない...難しいよね(明号的性格は本作とつながる「最後の女」の方が明白)。
本作がイイのは、最終盤で真相が解ったエラリイがウジウジと悩みに悩むあたり。エラリイのある意味誤解した告発が、犯人による心情の告白もあって「告発が正しいのか?」とエラリイも自身を省みて落ち込む...というドラマが最後に待っている。一応これが後期クイーン的問題の、最終的な作家的な決着みたいな内容があるように思う。「偉くない名探偵」という独自な造形になっているんじゃないかな。
7点でもいいか...とも思わなくもなかったけど、ダイイングメッセージが疑問なので1点落として6点、とします。

No.9 3点 三角形の第四辺- エラリイ・クイーン 2017/02/26 09:47
確か横溝正史だったと思うけど、作家の実力は最高傑作と同様に最低の作品によっても推し量れる...なんてことを言っていた記憶があるが、本作あたりがクイーン正典の中での最低作くらいになるんだろうね。執筆はリーじゃなくて何作かライターをするデイヴィッドスン。
実は本作、小説としてはそう悪くないし、次々と焦点の当たる容疑者が切り替わる構成(まあ裁判モノにしちゃうと捜査当局に軽率感が出るので?だが)も悪いわけじゃない。なのでデイヴィッドスン頑張ってる感はある。問題は、ダネイが担当したはずの謎解き部分である。
被害者が現時点で付き合っていた男の名前がわかれば、それがすなわち犯人だ、というのはいかにも論理が飛躍しすぎているわけで、そりゃ「なぞなぞ」だよ。まあそれだけならともかく、ひっくり返した真相は、被害者視点での犯行描写から推し量られるタイムテーブルと整合性がない(来訪者多すぎで時間的余裕がない。パズラーで神視点3人称はあまり宜しくないように評者は思う...)。さらに悪いのは、エラリーの推理のベースになった証拠が最後に何の伏線もなくひっくり返される(おい!)...というわけで、本作の戦犯は全面的にダネイである。
とはいえ、クリスティの最低作である「ビッグ4」とか「フランクフルトへの乗客」だとホント小説の態をなしてないから、クイーンは「最低作でもまあ読めるからマシ」ということか。

No.8 6点 緋文字- エラリイ・クイーン 2017/02/12 22:46
まず本作が、ホーソンの「緋文字」を読んでいないと、何か面白味を味わい損ねる?という疑問について。評者は両方未読だったのを幸いに、今回はホーソンのを読んでから、クイーンを読むという趣向である。結論は「ほぼ関係なし」。ホーソンは読まなくても全然オッケー。それでもホーソンは独特の絵画的な才能があるし、キャラは独自で面白く、読んで損になるような小説ではないから、御用とお急ぎでないなら読むのもよろしかろう。
クイーンの本作だが...これホントにクイーンっぽくない小説だ。クイーン世界での立ち位置が一定しないニッキーが大活躍して秘書というか恋人?をほのめかす描写さえある(抱きかかえて運ぶんだよ)。エラリイがMWAの会合に出てたり、EQMMの投稿を読んだり...と、他作ではあまりない、エラリイとクイーンを同一視する描写があったり、エラリイが尾行するどころか、殴り・殴られる描写まである。他の作品で暗黙のタブーになってることを、平気でやっているような例外的な小説だ。これは本当に空想レベルの憶測だが、プロット=ダネイ、執筆=リーというのがクイーンの合作の定法だというが、本作は役割を試しに逆にしたのかも?と考えてみたがどうだろうか...
本作ではエラリイが行動的で、ハードボイルドみたいなものだ。そこら結構新鮮で評者とか面白く読んでたよ。クイーンだからま、タダでは済まないだろうね、と思ってた... ダイイングメッセージは英語の洒落みたいなものを知らないとダメだから、日本人はちょっと無理か。血文字だから「緋文字」と洒落たわけで、ホーソンのそれとは不倫の内容からしても共通点はほぼなきに等しい。クイーンは The Scarlet Letters で複数形だが、ホーソンではヒロインが生涯付けることを強制された姦通を示す「A」の文字を示すから当然単数形で、あまり混同の余地はないように思うよ。ホーソンのそれをミスディレクションに...というのは、ヨミ過ぎじゃない?
真相はまあ無理のないリアルなもの。そこらもクイーン流のハードボイルド?って感じ。評者意外なことの連続でびっくりしてるが、印象はいい。
(ややネタばれ)
っていうけどさ、そう重要な見地じゃないから言っちゃうけど、ホーソンのそれとクイーンのそれと、それぞれある人物から見た真相の骨格がほぼ同じなんだ...そういうのはミスディレクションと呼ばないように思うんだがねぇ。

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クリスティ再読さん
ひとこと
大人になってからは、母に「あんたの買ってくる本は難しくて..」となかなか一緒に楽しめる本がなかったのですが、クリスティだけは例外でした。その母も先年亡くなりました。

母の記憶のために...

...
好きな作家
クリスティ、チャンドラー、J=P.マンシェット、ライオネル・デヴィッドスン、小栗虫...
採点傾向
平均点: 6.40点   採点数: 1378件
採点の多い作家(TOP10)
ジョルジュ・シムノン(102)
アガサ・クリスティー(97)
エラリイ・クイーン(47)
ジョン・ディクスン・カー(32)
ボアロー&ナルスジャック(26)
ロス・マクドナルド(26)
アンドリュウ・ガーヴ(21)
ウィリアム・P・マッギヴァーン(17)
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