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斎藤警部さん
平均点: 6.68点 書評数: 1243件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.52 6点 影の地帯- 松本清張 2024/01/20 20:40
“その目撃者が宿に訪ねてきました。その興奮で、この手紙をあなたに書きました。”

本作の中心にある『屍体隠蔽』については、猟奇的トリック自体もさる事ながら、その二重底構造になっている点を推したい。

「お願いです。これ以上深入りしないでください。」
「あなたは、なんのために、ぼくにそういう注意をするのです。」

写真家である主人公馴染みの ”銀座ママ” が失踪。 前後して与党保守党の領袖が失踪。 事件の周囲に見え隠れする魅力的な若い女性と小太りの中年男は、主人公が以前に航空機内で偶然出遭った二人連れだった・・・ 幾手にも分かれつつ親密なる協調の探偵群は、その構成にちょっとした捻りあり。 決してありきたりでない主要登場人物群の有り様に変容めいた彩りもあったりして、盤石の推進力あるストーリー展開。 後半風情からあまりに痛く怪しい魍魎どもの蠢きと、そこへ被せてまた更なるうねり。 飽くまでも爽やかに。 いやァ愉しいっす。 昭和30年代中盤。

「おれは、もうやめたよ。妻子のあるからだだから、いま死ぬのはいやだからな。」

ごく淡い水彩画からのテイクオフが心地よい恋愛要素、そして、まさかの(?)◯◯物語という熱い側面。 清張らしい冷徹な規律は認められるが、やはり甘々の通俗長篇。 もはや量産期京太郎ぽい旅情サスペンス。 匂わせとご都合の激しさが逆に愛おしい。 だが社会派要素なるものは、果たしてどうかな。。 最後のそれらしき考察も、却って安心しちゃってるみたいで、”もどき” 感が強い。

さて主人公の名前は田代利介(たしろ・りすけ)。 今だったら「ロリスケ」って呼ばれるかも?

No.51 6点 事故- 松本清張 2022/06/08 21:26
中篇二本を収め、副題に「別冊黒い画集」とあるが、本家の「黒い画集」よりはぐっとお手軽に読める一冊。

事故
一瞬にして妄想を焚き付ける清張の表題眼力にやられっぱなしです。込められた重層的意味合い、物語の具体的ターニングポイント(..以下略..)、包み込まれた違和感、そこには時系列の妙が関与。 冒頭の数頁を読み、シンプルな事件構造をサスペンスと冷気たっぷりに追いかける、清張並みの筆力あってこそ成り立つタイプの最短距離疾走作かな、と思って読み進めると、予想外の方向から新しい登場人物やら事件が次々闖入して何やら複雑な本格パズラーの様相。。と思えば中盤では成りをガラリと変えて。。いえ、これ以上は言えません。 運送会社のトラックが某会社役員の邸宅に突っ込む事故の後に起こった二件の殺人事件には、果たしてそれぞれ繋がりがあるのか。。というお話。 まあ、或る登場人物がそこまで単純なバカってあり得るか・・って違和感は少しあるけどね。

熱い空気
パンチの効いたゴーゴーリズムで一気に駆け抜ける爽快ドタバタイヤミス。こっちの方が最短距離疾走型。人の醜い内面をここまで厭らしく、言葉配置のタイミングも最適に、極限までチューニングして描き出すのは流石の清張クオリティだが、こんなに深い所まで人間を描いておきながらエンタテインメントの側に寄せ切っているのは素晴らしい贅沢。 大学教授宅に派遣された家政婦が、一家に怨み(相手によって濃淡はある)を抱き、いずれこいつらを破滅させてやろうと策を弄するお話。終盤の二段構えツイスト、一段目の方にまさかの意外性があった。 醜女設定の筈の主人公から醜女感が出ておらず、むしろ十人並みの器量のように見えてしまうのは、どうかな。 方向的には見え透いてる割に唐突感のある、ちょっとオープンなエンディングは、物凄い偶然頼み、って事なのか?? 気になった。 そして本作もまた、表題の重層性が効いておりますな(「事故」ほどトリッキーではないが)。

No.50 7点 黒の回廊- 松本清張 2022/01/12 18:27
隠し球は、どこに隠す。。。? このエンディングには、突かれた! ある意味「○○ック・○○ー○」が最後の最後、傍若無人に急襲して来たようでもあり、全体構造をここで一気にひっくり返すとまでは言わないが、中央寄りに折り目付けて大きく折り返してやったくらいのインパクトはある。(ひょーっとしたら、後付けなのかも知らんが..)

旅行会社の企画した、女性ばかり大所帯の欧州歴訪ツアー。道中微妙なインシデントがチョコチョコ続く中、スコットランドはフォース湾北岸、ファイフの風光明媚な湖の畔にて、とうとう、警察の介入を拒むことの出来ない大事件が発生! 大所帯の旅ゆえに容疑者やたら多い(?)のも良し。大事な伏線が大っぴらに股を広げ過ぎな傾向はあるけれど、それで物語興味が落ちはしない(流石の清張匙加減)。 犯罪動機の、大枠で捉えればシンプルだが、バラして局地的に見ると実に細やかに嫌らしく錯綜した沙汰っぷりも良い。読んでて最初の方、いっけん旅情トゥーマッチなおとぼけイヤミスかとも映ったが、ま確かにそういう面も、良い意味で在るけど、イエイエ決してそればっかじゃありません。 トリックの説明で、ある事の「心理的抵抗が無かった」理由はそれとは違うんじゃ、、と違和感の箇所が一つあったな。。 まあでも、最後の『一同集めて真相暴露』シーンが奇蹟的にごく自然な成り行きで成立する中を匍匐前進する、ジリジリ這い上がって来るスリルの尊さったら、無え! 何気に後期なんとか問題めいたものを掠ってる(?)要素も有り、そこんトコ興味津々。 ただタイトルだけは、ちょっと何言ってんだか(笑)。

執筆背景にいわくありの本作。初出は清張全集(第一期)、三年強の長きに渡った月報連載(結末だけ単行本に書き下ろし)。 いつか再読するなら、それ行ってみたいね。(かなり直したそうだけど)

No.49 6点 高台の家- 松本清張 2021/05/19 07:34
高台の家    
急に来るんだもんなあ、心臓に悪いよ、ほんと最高よ。 一見さりげない締めがまた強力! 
ロシア語によるアジア史専門書の古本を辿って。。という導入部が独特です。古本から或る富豪の「高台の家」と繋がりが出来た主人公は、本の元持ち主が数年前に事故死しており、その若い未亡人は元持ち主の両親と豪邸に暮らし続けており、美貌の未亡人のもとには文化サロンの様に青年たちが集まって来ている事を発見。或る日、主人公は青年の一人に呼び止められ、予想外の質問を受ける。。 振り返って見れば、欺瞞のマトリョーシカのような構造が魅力的な短い中篇。

獄衣のない女囚
薄暗い導入部から、徐々に妙~に艶笑ユーモラスな筆致へズルズル、、と緩んでいた所へ一撃!
若さ溢れる男子部と草臥れかけた女子部とに分かれた「独身者アパート」。或る日女子部の風呂場で居住者ではない女の絞殺死体が発見される。被疑者の意外な私生活が憶測される中、その後も意外な死者が続出し。。 振り返れば、殺意のマトリョーシカだ。。。 犯人最後の名台詞は鮮烈! シリアスとコミカルのちょっと不器用な?混濁も魅力の長い中篇。

文春文庫のカップリング。

No.48 7点 蒼い描点- 松本清張 2021/01/08 17:05
“校了前の戦争のような多忙さと、そのあとの快い疲労とは、雑誌編集者だけが知る特殊な苦楽であろう。”

小出版社に勤める若い男女が、業務の合間を縫って(実はこの設定がちょっとしたミソ…)、或る人気女性作家の滞在先、箱根で起きた”スキャンダル売文家”の死亡事件を、編集長のサポートを得て調査開始! 控えめなユーモア、ささやかな旅情を道連れに .. 箱根だけじゃない、浜名湖のあたり、美濃国や、秋田までも行きます .. 爽やかな青春後期の躍動。 関係者が殺されたり失踪したり自殺したり実在しなかったり(?!)で次々と消えて行く、どこかに大きな盲点がありそうで大いに気を揉むストーリー。

「あっ」
典子は思わず声をあげた。
「あれが、あれが、そうだったの?」

ミステリ展開は、まるで初心者に見せつけるかの様な甘さを含んで始まり、前半にハードなサスペンスは漂わないがソフトロック的に心地よい律動がキープされ何とも快適。 中盤から謎が微妙な複雑性を振り撒きつつ増殖し始め、分厚いやや辛口にシフトチェンジする。着実に加速するスリル、更に拡がる疑惑対象が醸し出す、リーチの長いサスペンス。 実質的「読者への挑戦」のページも存在。 何気に本格ミステリ要素色々詰め込んだ仕事ミステリだねえ!(だが、この真犯人設定は.. ?? ←ん?)。 エモーショナルな真相クライマックスの後、理知的な会話の補足と爽やかなエンドで締めるのは素敵。 殺人トリックのヒントをくれた”国電に座り週刊誌の時代小説を読む自衛隊員”ってのも時代っぽくて良いな(S30年代前半)。 探偵役の男子、脳内でまたしても野田クリスタルが演じてくれた。 意外と、恋でもしちゃったか!?w  そういやこの男子(竜夫君)、 「その理由は後で話す」 というパターンがやけに目立つんだよなあ、それも味。

当時創刊したばかりの『週刊明星』に連載されていたそうです。 全体的に若やいだ感じは読者層を意識したものでしょうね。

No.47 6点 隠花の飾り- 松本清張 2020/03/26 19:14
足袋/愛犬/北の火箭/見送って/誤訳/百円硬貨/お手玉/記念に/箱根初詣で/再春/遺墨  (新潮文庫)

日陰に生きる女たちのショートストーリーズ。その割にちょっと薄味。読みやすい。軽くても印象の良い、人間関係ミステリ/サスペンス作品集。 しかしまあ、清張にしては畳み掛ける迫力に欠けるなあ、とは思う。 それはそれでいい。

中では異色かも知らん「見送って」の万感迫るブライトエンディング(... )は心に残ります。

No.46 9点 黒革の手帖- 松本清張 2020/01/04 23:07
「おぼえておれ、この性悪女! 人の恨みがどんなものか」   

ここまで引き裂き尽くしたらもはやイヤミスではない。 本格のホの字も見せないくせに、この大きく間をとった謎ふりまきの手早さ。 手探りの 憶測促す 悪い奴.。。。 灼け付くストーリーで最高に読ませる、これぞ悪女クライムの絶唱。

“世の中がこんなに面白いものとは思わなかった。なんと変化に富んであることか”

いんやあー、嫉妬なる強くも粗いもん相手に、いや、それに保身なる確固たる細則あるもん引き連れてだけど、緻密にして大胆な計算だねえー   「あなたには、女のほんとうの気持ちがわかってないわ」   オネエ獣医の魅力が後に行くほど伸びてくる。篠井英介が浮かんでしかたがない。  “通りすがりの人が、病人かと思ってふり返って見る” 

まるで「マル鷹」最終章のように畳み掛ける、冷んやり気持ちいい急所突きっ放しの容赦瞬間唾棄、最高過ぎて唾も呑み込めねえ。。。。  結局、善意の”破壊者”一人に最後まで踊らされた。。本当の暗闇はそこにありそうだ。。。通俗ながらこりゃ強烈!! オチも凄まじい!!(本気で、笑うしかない?)   それにしても「ヴァンス」がこれだけ頻繁に出てくる話もヴァン・ダイン以来だ。   

さて、現新潮文庫下巻裏表紙のネタバラシは獄門級の酷さです。上巻はまだストーリーレベルのネタバレでギリ許せる人もいるかも知れないが、下巻は完全にミステリレベルでやっちゃってる。。。。。。神経疑います。まじめにやりなさい。

No.45 8点 眼の気流- 松本清張 2018/11/23 10:25
眼の気流/暗線/結婚式/たづたづし/影   (新潮文庫)

怨念と犯罪のストーリーが巧みに躍動し0909(ワクワク)させる「表題作」と、強烈に暗く後ろめたいムードで押し尽くす「たづたづし」が何と言っても白眉。特に後者の、後を引く煙った薫りの力強さと言ったら無え。同じ暗闇話でもサスペンス以上に感慨がじんわり来る「暗線」も素晴らしい。「結婚式」「影」は本来ならちょっとした小噺を清張流に重く深く心理の底まで沈めた様な作品。後者はアンコールピースの味わいも。佳き短篇集と言えましょう。

No.44 8点 佐渡流人行- 松本清張 2018/11/19 22:32
腹中の敵/秀頼走路/戦国謀略/ひとりの武将/いびき/陰謀将軍/佐渡流人行/甲府在番/流人騒ぎ/左の腕/怖妻の棺  (新潮文庫)

表題作は圧巻の時代ミステリ。結末が見えてるとか伏線がそのまんまとか言うのは野暮。サスペンス強度を最大に上げる為わざとそうやってんだから。これだけ理不尽な時代イヤミスでありながら、逞しい救いの突風を吹かせる終結には最高の余韻が。 単純な主題に収斂させない物語の重層性と言い、やはり本作こそ白眉。

どことなく連城っぽい題名からは想像つかない最後のドタバタ劇「怖妻の棺」は視界の霞む高速展開と言い濃密な人情風景と言いなんだか凄い。エンディングは最高に爽やか。たまにはタバコが吸いたくなる一品だ。

ダークサスペンスからぎりぎりハッピーエンド(??)の「甲府在番」や怖滑稽バイオレンス「いびき」、歴史サスペンスのこれぞ魅力満載「陰謀将軍」に痛快人情アクション「左の腕」、どれもこれも壮年清張の筆冴え渡り盤石のラインナップ。 「腹中の敵」「戦国謀略」なんかはちょっと、氏にしては当たり前すぎる感もあるが。。突き上げる心理の意外性でサスペンスをより加速させて欲しかったが。。やはりスリルは有りつまらない代物ではありませんからこのあたりもまあ満足。

戦国末期武将、江戸泰平の役人、罪人に無宿人、流刑者、そして市井の者たち。 色んな意味で”流された”人間の話が目立つ。 そこに微妙な統一感が醸し出されている一冊と言えるか。

No.43 6点 Dの複合- 松本清張 2018/07/07 18:10
清張覚悟のバカミスはノっけから伝説と旅情と殺人興味の締まり良いタペストリー。 例によって激しすぎる思い込みがバシバシ的中したり偶然の力が半端無かったりそりゃもう酷いもんですが(笑)面白いから免罪です。「なに、煙草?」って台詞はもうギャグかと思いましたよ。 あと例の「『Dの複合』と名付けるだろう」とかなんとか頭の中の楽屋落ちみたいな苦笑必至のアレ。。

何がバカと言って、長きに渉って積りに積もった”伝説”と”数字”の二方向に展開する謎の群が、終わってみればアカラサマに小説の中の作り物の事件のために無理やり嵌め合わせられてるチャンチャラ感。本当に復讐したいんならそんなことウダウダやってるワケがあるかい!! ってなハイパー作り物感、いくら何でも破綻しています。でも面白いから仮釈です。文章良いからもう恩赦です。まあこれで凡庸なナニだったらバカにも見えないただのイマイチミステリなんでしょう。こんなスットコ本をわざわざ格調高いフミで書くんかい! っていうね。ああ面白かった!

No.42 7点 黒い福音- 松本清張 2017/12/23 11:02
斎藤警部なる人物が一瞬登場。坂口良子氏と、Roxanne(ポリースの歌でおなじみ)らしき人物も登場、特に後者は重要人物。新聞記者佐野はまさか洋チャンの事ではあるまいか。
時折神視点の作者目線が闖入する上、読者目線での憶測主役が不規則に入り乱れるドキュメンタリ風の造りがスリルを齎(もたら)している(元より実話ベースの作品ですが)。本格の味もほんの微(かす)かに掠(かす)るけどこれはやっぱり冷気吹き荒れるドサスペンス押しの一品。舞台はキリスト教某一派日本拠点。「われわれの歴史は迫害の歴史だ」ですってよ。。。作者の被害者意識も高く、告発に撓(たわ)み無しのストレートな社会派ですが、下ネタユーモア溢れる傍流逆伏線エピソードには微笑ませてもらいました。

No.41 8点 西郷札- 松本清張 2017/09/30 08:16
至宝「松本清張(初期)傑作短編集」の一角。 新潮文庫、時代小説篇その一。

「推理篇」と大きく違わない「現代篇」に較べればこちらは非ミステリの様相が濃い。とは言えその面白さの核心は何れにも共通の「清張DNA」に在り、陰鬱の嵐に晒されるダーク・サスペンスの基調は揺るがない。。のかと思えばそれなりにカラッと明るい爽快さを放つのもあり、、

犯罪興味をミステリ外の方向へ強烈に引っ張ったデビュー作「西郷札」、逃亡サスペンスの痛さが突き抜け歴史の転換を形成する「梟示抄」、視点の機微が冴える残酷ヒューマン・サスペンス「啾々吟」、事は深刻ながらどこか可笑しみのあるドタバタ劇「権妻」、何故かトボけた明るさ残す嫉妬の経緯イヤミス「噂始末」、際どい所で大胆な救いを見せる悲喜劇「面貌」、追い詰められた自暴自棄イヤミス「酒井の刃傷」、、クライム、サスペンス、パッション、ルサンチマン、、熱い熱い親ミステリ要素が沁み通った作品群に大いに組み伏せられたいではないか、まして秋の夜は、諸君!

だけど、最後の「白梅の香」だけはまるで藤沢周平が風呂上がりにステテコ一丁で書いたかのような軽く優しい明朗作で全く清張らしくない! そのくせ本作だけは純粋ミステリ範疇。主人公が性格良いイケメンってのも実に清張らしからぬ設定! 古いクラシック音楽の世界では時々「伝バッハ作曲」なんてのがあって、その中には「どう聴いてもヴィヴァルディあたりの作だろう」と突っ込みたくなるのも多いのですが、まさか本作、その類ではあるまいな?

西郷札 /くるま宿 /梟示抄(きょうじしょう) /啾々吟(しゅうしゅうぎん) /戦国権謀 /権妻 /酒井の刃傷 /二代の殉死 /面貌 /恋情 /噂始末 /白梅の香
(新潮文庫)

No.40 6点 溺れ谷- 松本清張 2017/06/08 22:45
往年の人気女優を、彼女のファンだったという製糖会社社長に雑誌インタビューで引き合わせ、それを足掛かりに甘い汁にありつこうと画策する下司な主人公、ところがそうは上手く事が運ばずイテテテ。。。 輸入自由化前の砂糖業界を巡る汚職絵図がなかなかエキサイティングに展開して、、読み応えはそれなりにある。面白い。ガツンとまでは来ないかも。

No.39 5点 高校殺人事件- 松本清張 2017/06/06 12:10
やっぱ清張にラノベは無理かw 
冒頭の重々しいモノローグの末、おいおいそれが「私」(男子高校生)かよ! と噴き出しそうになりました。 怪しい事象に対する主人公の疑いの持ち方の、特に人間関係の機微に関しての、立脚の浅さが高校生っぽさを何気にぎりぎり醸し出していますかね。ところが、よりミステリ文脈での明からさまな伏線攻撃にまでそんな柔っちい無反応を見せつけられると、重厚な文体との違和感が愈々。。賢い従姉妹ちゃんが登場してよかったね。
高校生向け学習雑誌(高校上級コース/高校コース)への連載らしくサスペンス度も社会派度も抑え目。若者たちが社会に出るのが嫌にならない程度にという配慮か(笑)? 本格ミステリとして見たら更に薄味だが、とは言え真犯人はギリ意外。某人物の敵味方属性は見え見えだけど、犯人側構造暴露のスリルはまずまず。それにしても「ノッポ」と「人夫のおじさん」は惜しまれる。。。
その昔NHK平日夕食時の「少年ドラマシリーズ」にて、原題の『赤い月』として放映されていました。

No.38 7点 日光中宮祠事件- 松本清張 2017/02/19 12:09
日光中宮祠事件/情死傍観/特技/山師/部分/厭戦/小さな旅館/老春/鴉
(角川文庫)

渋みと鋭さの光る銘品集。音楽に喩えればまるで『戦前BLUES』のような。
そんなんが好きな方にだけ薦めます。

No.37 7点 黄色い風土- 松本清張 2017/01/18 00:35
清張たのしい通俗。人が快調にヒョイヒョイ死ぬよ。まさかの人までヒョイと死ぬ。調子いい偶然ポンポン弾け、いよいよおォッと目をミハる、ってな寸法だ。

社会派を確信犯でダシに使ったつもりが、ついうっかり滲み出ちまった深淵なる社会派魂にちょいと染め上げられてしまいました、そんな感じだ。それでも、物語の核たる部分は飽くまで通俗スリラー(陰謀系)ではなかろうか?

思うに、しまそうの「奇想」なんかはその真逆で、本人の社会派たる覚悟にはいささかの踏み込み浅さが垣間見えるにも関わらず、物語そのものはほぼ完璧なる「本格にして社会派」として立派に成立しているんでないか? やはりバランスの問題か? 不思議なものだ。

鰊に、古代文字。。 わたしも日本のO.V.Wrightこと宮史郎さんは大好きなんですが、本作の主人公は若宮四郎という名の爽やかなる青年。熱海に住まう「松村京太郎」氏の名前も気になる。その夜の銀座裏はいいね。。

犯人は意外な人物です。でも途中でその「いかにも意外オーラ」と露骨度強のヒントちら見せで分かっちゃいます。だけど最初に登場した場面ではまったくのノー・ノー・ノーマークでした。いつこっそり物語に合流したのかさえ記憶は曖昧。相当に手練れの犯人隠匿と思います。嗚呼、清張。



【ここから、犯人イニシャルネタバレ】

今時の作家だったら、真犯人にして黒幕のMをむしろダミーに、Kを真犯人に設定するのかな、なんて途中で思ったけど、Mを黒幕にする昭和らしい設定も大いに味わい深いです。うん、Kが黒幕を張るような世界は嫌だな!短篇小説だったら面白いが。

【犯人イニシャルネタバレここまで】



突然の犯人視点で締めるエンディング、めちゃめちゃ残りますね。

それと、あの●●が最後に颯爽と艶やかに登場、なんて事にはしなかった清張の剛直な筆さばき、何とも言えねえ!

No.36 6点 ミステリーの系譜- 松本清張 2016/11/15 00:39
本の表題から受ける先入見とは大きくずれ、実際に起きた事件x3をクールな目線で語り尽くした内容。そこに敢えてこの題名を付したとあれば、何らかの創意工夫的「意図」の存在を感じずにはいられない。

闇に駆ける猟銃 / 肉鍋を食う女 / 二人の真犯人

冒頭作は、題名から察せられるかも知れぬが「八つ墓村」のモチーフというかインスパイア元となった「津山三十人殺し」の背景から後日談迄を冷静沈着、丁寧に敷衍したもの。余計な脚色は無し。記録文書の様なものだが清張の文章だから怖いこと苦いこと、ほとんどイヤミスです。

しかしね、こういう敢えて自論で踏み込まないドキュメンタリータッチでは意外とハッタリが効かないってか、むしろ(小説と同様)ハッタリ無しの横綱相撲で圧倒してやろうって企図なのかも知れないが、、もうちょっと味付けて欲しかったかもな。

他二作も程近い感触の力作イヤドキュメンタリー。いや最後の作だけちょっとあっさり味かな、内容は全く薄かァないんだが。
まあ、清張の長短篇をそれなりに数読んだ人向けでしょうなあ。

No.35 9点 黒地の絵- 松本清張 2016/10/07 23:23
同集では現代小説篇の第一巻「或る『小倉日記』伝」以上にミステリ要素の濃厚な現代小説篇第二巻。題名だけ眺めてもその雰囲気は伝わると思います。それはそれとしても胆力が尋常でない、読む者を片っ端から吹っ飛ばさずにいない様な、内なる何かを振り切ってしまった小説の群れ。表題作の激烈さは世に知れた通り。

二階/拐帯行/黒地の絵/装飾評伝/真贋の森/紙の牙/空白の意匠/草笛/確証
(新潮文庫)

氏の他書評でも似たようなこと書いてますが「二階」なんて当たり前過ぎる漢字二文字単語で胸が苦しくなるほど素早い暗黒予感の奔走を強いるこの表題オーラの眼力、これが怖いんですよ。

No.34 7点 火と汐- 松本清張 2016/09/11 12:52
火と汐/証言の森/種族同盟/山
(文春文庫)

ライト社会派、ではないが清張にしては軽い、しかしながら質は相当に高い本格ミステリ短篇集社会派寄り。

本格色の強い表題作の海上アリバイ工作は西村京太郎「赤い帆船」の中で微に入り細に入りネタバレというか解説され倒しています(但し必然性は有る)ので、そちらを読まれる際は御注意を。というより「火と汐」を先に読まれるのがベストかと。鮎川ファンの方にも薦めたい。

No.33 7点 鷗外の婢- 松本清張 2016/09/11 09:51
鷗外の婢/書道教授 .. の二篇  (新潮文庫)

薄昏い魅力。燻した薫り。時折の激しい動き。

しかし清張作というだけで『書道教授』なるごく普通の四文字表題にとてつもなく深い悪行の謎と暴露への妄想が掻き立てられてしまいます。 唯一無二の魂気(オーラ)畏るべし。

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斎藤警部さん
ひとこと
昔の創元推理文庫「本格」のマークだった「?おじさん」の横顔ですけど、あれどっちかつうと「本格」より「ハードボイルド」の探偵のイメージでないですか?
好きな作家
鮎川 清張 島荘 東野 クリスチアナ 京太郎 風太郎 連城
採点傾向
平均点: 6.68点   採点数: 1243件
採点の多い作家(TOP10)
東野圭吾(54)
松本清張(52)
鮎川哲也(50)
佐野洋(38)
島田荘司(36)
西村京太郎(34)
アガサ・クリスティー(33)
エラリイ・クイーン(25)
島田一男(24)
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