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斎藤警部さん
平均点: 6.69点 書評数: 1409件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.229 7点 アクロイド殺し- アガサ・クリスティー 2015/08/10 18:35
ご他聞に漏れず、先に犯人と言うか仕掛けを知ってから読みましたが、物語が終盤に及ぶに連れ、仕掛けを知っているからこそのスリルがじりじりと突き上げて来、ポアロが眞犯人を追及する件(くだり)では本当に手に汗握るどころが汗かき過ぎで滑っちゃって握れもしない程でした。 逆に、もし仕掛けを知らずに読んだら(個人的にですが「幻の女」の場合のように)あのポワロによる眞犯人追い詰めのシーンの途中で「まさか!」と勘付いて急性のスリルに一気に襲われたのだと思います。 結末以外の部分がどうにも凡庸に感じられただけに、仕掛けを知ってしまってから読んで意外と正解だったかという気もしますなあ。


ところで、初読時全く気付かなかったのが、クリスティ再読さんご指摘の「死亡推定時刻」の件です。

(ここからはっきりネタバレ)

眞犯人が死亡推定時刻を決める医師であり、尚且つ物語の語り手でもあるという事は、当時まったく見過ごしていましたが、実は私が常々求めて止まない「悪魔的アリバイトリック」にかなり際どい所まで迫った怖るべき作品だったのではないか、と思われてなりません。 こりゃ再読しろという神のお告げでしょうか。

No.228 7点 いつまでもショパン- 中山七里 2015/08/10 17:55
冒頭に、政府専用機に乗ったポーランド国大統領が同乗の妻や高官達もろとも謀殺されるシーン。
ポーランド軍派遣に対するイスラム過激派報復と目されるテロが連発するワルシャワ市内で、通常通りショパン・コンクールが敢行される。 “ピアニスト”と当局に呼ばれるテロリスト(眞犯人)の正体は果たして誰。。 "ピアニスト"を追い詰めたと見える若い警官の屍体がコンクール会場内で見つかったが。。と言うお話。 例によって音楽と演奏の描写が怖ろしくヴィヴィッド&リアリスティック。 私は歓迎ですが、くどいと思う人も結構いると思います。

“ピアニスト”の独白や、”ピアニスト”と警官との面会シーン(警官はこいつが眞犯人と分かった上で会っている)を挟んだり、後半から対ゲリラ戦争の現場が意味ありげに挿入されたり、その構成の妙にはかなり引きずられました。

重要登場人物の一人が途中からあからさまに怪しい行動を取る。という事は。。と睨んだ「意外な人物」が果たして眞犯人でした。。 ただね、その動機というか動機を中心に据えた上での犯人像がですね、人間ドラマとしてなら確かに重い感慨を抱かせる類でしょうけど、ず~~っと謎で引っ張って来た推理小説の結末としては深みも重みも感じません。悪く唐突。
とは言え、ほとんど最後までとても愉しく読ませてもらいました。

そうそう、途中ちょっと迷ったんですよね、まさかあのピアニストが”ピアニスト”では。。と疑ってしまったピアニストが二名ほど(今思うともう一人疑えたな)。 そんな暗黒小説じゃなくて良かった、とは思わなくもない。 それは、この小説が一定の希望を含んで終わるきらきらと美しい物語であるせいもあろう。(但し最後の「戦場の奇蹟」はちょっとやり過ぎの感あり。)

No.227 7点 暗闇坂の人喰いの木- 島田荘司 2015/08/09 00:31
薄気味の悪い、歴史が蠢く物々しい筆致が読ませます。
「巨人の家」の心理的物理トリックには頭の血がサーッと引く感動を覚えますが、最後に明かされる「横浜の家」の物理的物理トリックは、、突然のアホアホ大団円を迎えられても困ります。

No.226 8点 眩暈- 島田荘司 2015/08/09 00:14
冒頭から謎の巨大エネルギーに呑み込まれました。島田荘司ミステリならではの壮大なトリックに貫かれた、ただ謎とその解決にのみ捧げられる大河物語。

「手記」に、ある種の悪魔的アリバイトリックめいた秘密が隠されていた事には全く気付きませんでした。 手記内容の異様さも然ることながら、異様なマンションの構造、光景も記憶に残るなあ。。

読後振りかえれば、全ては謎とその解決の為に建築され破壊された幻の楼閣がそこに。 眩暈無しにはとても立ち去る事が出来ません。。

No.225 7点 帽子収集狂事件- ジョン・ディクスン・カー 2015/08/08 23:30
中学の頃サーッと読んでみて意味が分からず(どこがどう不可能犯罪なの?)高校の時に再読し、ははんなるほどとひとまず納得。 今思うと、アリバイトリックにフーダニットを絡ませたトリッキーな鮎川作品めいているような。そう思うと犯人の可哀想な境遇も鮎川風に見えて来る。

No.224 8点 猫と鼠の殺人- ジョン・ディクスン・カー 2015/08/08 23:07
結末の意外性に圧倒された想い出の作品です。 色々と「まさかね。。」って。 「電話」の件が印象深い。

No.223 6点 聯愁殺- 西澤保彦 2015/08/07 22:36
愉しい愉しい多重解決物語。。で終わるわきゃ無いよねえ、と思ってたら、そういう事だったんですか! aさんの動機はだいたいそういう事ですねとまず納得、ところがbさんの動機は。。 珍しい連続殺人動機として珍重しますが、そこまでするほど頭のぶっちぎれた人には見えないんですが、bさん。。 しかしこの構成の妙は、一連の事件の真相と合わせて後からじわじわ来ますね。

「これらの名前の共通点に気づきませんか?」 には笑ったなあ。 揃いも揃って超の付く珍姓さんばかり、に決まってんだろ! って突っ込みたくなった。  

No.222 7点 回廊亭の殺人- 東野圭吾 2015/08/07 12:54
莫大な遺産相続、偽装心中、火傷の痕、顔面整形、、犯人はきっとこいつだ、真相はアレだな、と早々に目星を付け結末を想像しながらジリジリわくわく読み進めて行くと、、最後に!! 流石の東野圭吾。 
しかし、その結末がそれまでのサスペンスのエネルギーを抱きとめきれなかったのか、若干の「意外な肩透かし」を感じた。

No.221 8点 むかし僕が死んだ家- 東野圭吾 2015/08/07 12:44
清冽な、おいしい水を少しずつ呑むように読みました。
東野作品の中でも特に美しい記憶に留まっている一作。

No.220 7点 完全犯罪―他8編 - 小栗虫太郎 2015/08/04 11:53
読了に三十一年も掛かった『黒死館』の読書途上(実際は十五年以上に渡る長い長い中断期だったか?)に、たしかベトナムで読んだ短編集。 いかにも一風奇妙な設定の物語ばかり並ぶが、かの長篇に比すればこちらは格段に読み易い。とは言え標準の探偵小説に較べれば文章咀嚼に手間が掛かる事は確かで、しかしそれもまた彼の作品の厄介な魅力。

完全犯罪 /W・B会綺譚 /夢殿殺人事件 /コント・A /聖アレキセイ寺院 /コント・B /後光殺人事件 /寿命帳 /失楽園殺人事件
(春陽文庫)

No.219 9点 黒死館殺人事件- 小栗虫太郎 2015/08/04 06:57
雰囲気が最高。 連続殺人劇の舞台としてこれ以上の何物かが創造され得ましょうや。

作者の撒き散らす碩学の破片達は存外誤りも夥しいとの巻末解説こそ最大のドンデン返したる趣もありましたが、それでもこの容赦無い衒学ぶりこそ創出し得た『黒死館』の内外を漂う空気、邪気、妖気をおそるおそる吸う行為こそは我が生涯忘れ得ぬ戦慄の間接経験に他なりません。

これだけ物々しい推理小説ですから、世にもとんでもなくおぞましい犯人設定を作者は企んだに違いない、と勝手に想像していたもので、、、実際の眞犯人を知ってみるに思いの他おとなしい着地点だったかなと思わなくはなし。 そういう意味でも「イニシエーション・ラヴ」とは究極の正反対に位置する作品w。 さて評者は数ヶ月前この本を約三十一年も掛けてやっと読破しました。 どちらかと言うと速読み派の評者としては異例中の異例と言うに他無い時間の掛かり具合で(極めて雑な概算ですが「イニシエーション・ラヴ」の約三万二千分の一のスピードで読んだ事になる)、この特殊な読書行為こそ自分にとって究極の叙述トリックであり究極のアリバイトリックではなかったか、と思わなくも無いと言った次第であります。(読者が犯人、というのに一脈通じるかも知れん)

No.218 9点 トレント最後の事件- E・C・ベントリー 2015/08/04 06:31
とても若い時節に読み、「こ、これは特別な傑作推理小説だ!」と感服したものです。
どうしてそう思ったのかは、再読してみないと正確には分からないが。。結末の反転に、それ迄の読書経験に無い異様な美しさを感じ取ったのは思い当たる要因の一つです。
今も心の片隅で仄かな光りを放ち続ける一作です。

No.217 7点 魔術はささやく- 宮部みゆき 2015/08/04 06:27
詳細はおぼろげだが、素晴らしく愉しい物語だった事と、だいたいの雰囲気は憶えている。 そんな幸せな作品だ。 たびたび「龍は眠る」と記憶がごっちゃになってしまう。

No.216 7点 龍は眠る- 宮部みゆき 2015/08/04 06:26
詳細は忘れたが、素晴らしく愉しい物語だった事と、だいたいの雰囲気は憶えている。 そんな幸せな作品だ。 たびたび「魔術はささやく」と記憶がごっちゃになってしまう。

No.215 7点 用心棒日月抄- 藤沢周平 2015/08/03 16:06
連作短編集。 とは言え大きな一つの物語がその外側にある事は頭から示されている。 一つ一つの話に仄かなミステリーの香りが漂い、通して読むと背後にどうも、最初に示されたストーリーとはまた別の、共通の何事かが潜んでいる気配。 果たしてその行き着く結末は。。

江戸にて浪人生活の若き侍、青江。 彼は経緯有って国許の許婚、由亀の父親を斬り、仇討ちの刺客がひっきり無しに送られて来ると言う厳しい状況。 彼はその度ごと刺客を斃すが、もしも由亀本人が江戸に現れる事があったらその時はおとなしく仇を討たれようとの覚悟を決めている。
その日を暮らす糧のため、老獪な仲介人を通じ主として単発の用心棒仕事をこなす日々。 そのうち妙に吉良家と浅野家浪人達の対立に巻き込まれているらしい仕事が多いことに気付き。。 用心棒仲間の所帯持ち好巨漢細谷や、途中参戦の魅力的な女忍者佐知など(そして前述の仲介屋も!)脇役陣の働きぶりもすこぶる充実。 
全体で見るとなかなかに複重層的なストーリー展開ですが、一つ一つの短篇も読んでいてとてもスリルを孕んで愉しく、そしてそして最後のお話は。。

「用心棒日月抄」シリーズには続篇がいくつかあります(って言うこと自体、この一冊をミステリーの一単位として捉えると大きなネタバレなんだけど)。 やはりこれを最初にお読みになってはいかがかと。

No.214 8点 東京空港殺人事件- 森村誠一 2015/08/03 12:02
力作感漲る長篇です。 冒頭で、何処かで起きた航空機遭難事故避難者達の苦境を描写し、過去から現在に連なる因縁をこれ見よがしに暗示。 現在の羽田沖では同社の航空機が残骸となって見つかり、更にその数ヵ月後、羽田沖事故の調査を進めていた同航空会社重役が空港ホテルの(ご丁寧にも二重の)密室内で死体となり発見されます。 
露骨に「高層の死角」を連想させる殺人ぶりではありますが、社会派本格推理の歴史に欠かせない一冊である事に間違い無し。 森村氏渾身の剛速球を是非、受け止めてください。

No.213 7点 新幹線殺人事件- 森村誠一 2015/08/03 11:47
芸能界への偏見爆発! そりゃ社長連中は他業種に較べてもワルい輩が多そうだが(偏見済みません)、実際に動いてる芸能人達を包括的にそこまでボロクソに言わなくても。。「彼らは実際何の芸も無いくせに」とか言ったそばから「声色遣いの演技ならお手の物であろう」って、芸があるのか無いのかどっちやねん!!
ここまでトンチンカンな言葉の無茶攻めされると、平素より作品内でオブラートに包まずボロクソ言われている彼の大っ嫌いなサラリーマン社会も権力界も実は彼が貶すほど本当は悪くないんじゃないか、って一筋の希望が見えて来るような気さえします。

閑話休題。 そりゃ安っペラい所もちょぃとあるけど、まだ若くてギラギラした良さがあり、捜査途上こそが愉しいアリバイ系本格推理(社会派とは言い難い)として充実の一作だと思うぞよ。

No.212 7点 殺人鬼- 綾辻行人 2015/07/30 21:53
このアヤ子も嫌いじゃないよ。ホラーじゃなくて、叙述ミステリとして読んじゃったよ。ヘヘイヘイ。

No.211 8点 人形館の殺人- 綾辻行人 2015/07/30 21:52
こういうアヤ子も嫌いじゃないよ。「館」でこれをやったってちっとも構わないよ。あまりに見え見えのモノローグですぐ気付いちゃったけど、最後までドキドキハラハラだったよ。 キヨシの登場シーンは見ていて痛々しかったよ。

No.210 9点 イニシエーションラブ- 乾くるみ 2015/07/30 21:47
(ネタバレ無しに挑戦してみましたが。。 )

「いや、死人出てんじゃん!?」と反論しそうになった私は、甘かった。。。。 と思って念のため読み返してみたら、否やっぱり一人死んでました(まさか○○がグルになってとは考え難い)、ま読みが甘かったな。 終結近く、つい”うっかり”してしまった”悪人”(犯人??)も甘かった。 それにピンと来ない主人公(?)もどこまで甘いんだか。。とは言えその主人公(?)は読者と同じ視点にいないんだから仕方無いか。
でもね、実は死人は出てませんでした、ってするのも充分アリだと思うんだけど(そうすりゃ"悪人"の悪どさがより光るだろ)、タバコや便秘の伏線を活かすためには必要だった、って事かな。。

考えてみたら、SIDE-Bで急にミステリの話題が途絶えるのが最大の伏線だったのかな。。そこに作者の「本作はれっきとしたミステリ小説です!」という主張が陰画の形で隠れているのかも。

仕掛けに気付いてから、最後どうやって一切をバラすのかとわくわくドキドキしながら読んでいたら、、予想外の、一切の無駄を削ぎ落とした”第三者”の最低限の一言でそう来るのか。。 真相が分かってはいても、その想像外のバラし方に、読後しばらく心臓バクバクだったよ。 読了後、物語の意味が一変するのは喧伝されている通りだけど、変わるだけでなく物語の深みが少しずつ深くなって行きあわや溺れそうになるあの感じが好き。 決して底の浅い小説ではないと思います。

で、例の衝撃の一言だけど、”その人”じゃなくって、その人の”親兄弟”に言わせるって手もあったかもよ。 私が作者だったら父親の口から何気なく言わせてみたい。その方がきっと、よりガツーン!と来る。(でもそれだと、この独特の真相じわじわ感が弱まっちまうか。。)

さて、タイトル、けっこう深い意味があったんですね。 作中でこの言葉を口にした登場人物にいちばん好感が持てます。

本作が果たして「ミステリなのか?」と形而上的に悩んでしまう方がいらっしゃるなら、これは「日常の謎」に強烈な叙述トリックをカマしたミステリ小説、と解釈すればよろしいのではないでしょうか。
それにしても、長々と語らずにいられない作品。まだまだ色んな角度から言い足りない!(渋い所では連城の件とか。。)



【最後に致命的ネタバレ】

そもそも叙述ミステリそのものですよね、二股って。


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斎藤警部さん
ひとこと
昔の創元推理文庫「本格」のマークだった「?おじさん」の横顔ですけど、あれどっちかつうと「本格」より「ハードボイルド」の探偵のイメージでないですか?
好きな作家
鮎川 清張 島荘 東野 クリスチアナ 京太郎 風太郎 連城
採点傾向
平均点: 6.69点   採点数: 1409件
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