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斎藤警部さん
平均点: 6.69点 書評数: 1357件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.717 8点 座席番号13- 島田一男 2017/07/07 10:53
昭和三十年代。 上野、谷中、根岸、、気っ風のいい町医者が鐵道と愛慾がらみの怪事件をちょっとしたキッカケから一瞬のヒラメキで一気に解いちまう短篇八本。何時もの手練れの味が堪能出来るが、本作群は特に伏線の張り方が実~~に巧み、地のムードにすんなり溶け込み過ぎだよ! 話の本拠地が轢死と縁深い鐵路そばだけに物理的残酷味も時に濃厚だが三十年代らしい殺伐なりの人情厚さもよく機能しほろ苦く中和。 主人公を中心に磁場を拡げる臨場感、連帯感、危機感、安心感、存在感、、コッツ、コッツと靴音響く、、ゴーリ、ゴーリと◯を斬る、、スカリッ、と切り取られた○が電車の車輪に貼り付いた 、 、 っとシマイチ先生ならではのカタカナ擬音擬態語も素敵に充実臨場感。 カーの人気作を思わす大胆トリック登場、ブラウン神父直系応用篇ちらほら(こっちの医師は神父よりちィと無骨だが) 、 そして最高の。。まるで下町過ぎるクリスチアナ・ブランドの様な。。。表題作。 いやァそれにしても、今年も島田一男の夏到来ですな。。

ビンづめの拷問 /首をちぢめる男 /ある暴走記録 /かげろう機関車 /機関車は偽らず /座席番号13 /顔のある車輪 /ノイローゼ殺人事件
(春陽文庫)

No.716 8点 犯罪- フェルディナント・フォン・シーラッハ 2017/07/03 17:20
「タナタ氏の茶盌」この味わい深さ、最高よ。

「某作」ここまで醪深い殺人シーン、無かったぜ俺のミステリ半生に。。二時間後。。。。。。。。さらなる七時間。。。 激しい、重い、最後の最後は強過ぎる。

なんて頑丈な、絶壁四方対峙型の作者だ!!!!!!!!

ミステリ興味は幻の楼閣ながら、最後の台詞まで表題の存在を忘れさせる技倆が激マブな「某作」。
奇妙な味の真髄を更に研磨せんとする「棘」に「愛情」。

我が愛するクリスチアナ・ブランドの精妙ないやらしさを凌駕しそうで思わず抹殺したくなる作者との邂逅、有り難く受け取りたい。冷静になった頃あらためて愛してやりたい。

暗黒の出生から始まった曲折の末、◯◯で〆るに至る「某作」の◯◯さも格別。

嗚呼、何だか清張とクリスチアナの合わせ技みたいなシーンに出くわすたび、体の芯が波動を繰り返しますよ。

No.715 5点 動かぬ証拠- 蘇部健一 2017/06/27 19:54
山崎豊子の「沈まぬ太陽」を髣髴とさせる題名ですが、中身は全く違う代物ですので、間違えて買わないようにしましょう。
結末というかオチ(動かぬ証拠、但しそう言い難いのも中には混じる)を捲った最終ページのイラストで瞬殺理解させるという企画にはなかなかの男気を感じます。
全体的に鮎川哲也のチャラい系倒叙短篇っぽいストーリーのが多いですが、⬅︎ここでわざわざ「鮎川哲也の」と書いたのがミソで、それなりにカッチリした本格ミステリ興味に裏打ちされた短篇が並んではいます。

中で最も結末に重みを感じる「しゃべり過ぎの凶器」。文章だけでもイケそなとこだが、わざわざ写実性高いイラストで『動かぬ証拠』を表した効果は確かにあった。
笑い方向への一撃となるとやはり「宿敵」。これも瞬殺イラストならではのインパクト。
一見地味な所で、一瞬ええっ!?と思い、秘められたストーリー部分に想いを馳せる「再会」。。。。これちょっと泣けませんか?
中にはオチ・イラスト化になってないのもあったりすんだけど、そいつも作品自体は詰まらなくない。
だけど、最後のイラスト収束に拘るあまり折角もっといい感じに膨らませそうなミステリ脈路をわざわざ窄めて終わらせてないか? ってのもある、二人の漫画家のヤツとか。

だけどね、ついついスイスイ読んでしまうのよ、アタシこういうの。でチョッピリ後悔するの。あなたはどうかしら?

No.714 8点 燃える男- A・J・クィネル 2017/06/25 17:47
男の三面鏡は反射角がソッポを向いてんだ。いや、ありふれた言い草より遥かに広大な女と男の四面鏡は。。そんな柔軟構造の素敵な『価値ある復讐』力作長篇だ(何言ってんだか分かんねえ)。
条件どうしの和やかに不穏な噛ませ合いから始まって。。主役も相棒も某も魅力あるな。リカが異様に美人設定なのも納得だ。ほぼルックスだけで彼らとのキャラクター勝負に引き分けなきゃならんのだからな。なんて思っていたよ。。 ピンタ。。。。。。。 君の可能性よ。。

『島』でのあのキラキラした大離別のひとくさり。 と、その後の一連の。。更に某との乾いたようで情けの沁みる別れのシーンまで最高にジーンとさせられる。
再会の後のまた再会。トビウオの様な叙述遠近法。 最高の’オーライ’ がそこに。

クリーシィ(主役、燃える男、元傭兵の星)がドクター・フックなんてチャラい音楽を好むのは驚いた。ブルー・バイユーはロイよりリンダか。ジョニー・キャッシュは俺も好みだぜ(刑事コロンボにも犯人役で出てましたね)。 ところで、その”逆アイリッシュコーヒー”みたいなカクテル、胸騒ぎを唆すよ。

なかなか刺さる’チョイ役バカ’の極限臨界瞬殺推理には眼を瞠った。

最終局面がちょっとだけバタバタの尻すぼみだったかな。。しかしラストシーンとエピローグの簡潔な味わい深さは格別。全篇通して名作力作。 読んでみい!

No.713 7点 二人の夫をもつ女- 夏樹静子 2017/06/23 00:33
どっかで聞いたようなタイトルの。。 文庫新装版の帯によれば『こんなにも怖い女ーーーもう誰にも書けない』だそうだが、ちょっと違うような。。怖いのはむしろ男のほう、って逆転構造の物語が目立つ気もする。わざとですか、夏樹さん。。

あなたに似た子・波の告発・二人の夫を持つ女・朝靄が死をつつむ・ガラスの中の痴態・朝は女の亡骸(むくろ)・幻の罠・夜明けまでの恐怖

以下、順不同

・某作品
犯人と共犯者はバレバレの様だが、どこかでその直線的疑惑に微妙な翳が混じって読ませること脅迫状の如し。 7点。  

・某作品
ホワイトどんでん返しが光るが、真相暴露その途端にミステリの厚みがシュゥーと凹んだかな。。。 7点。

・某作品
題名から受けるミステリ度合い濃厚なイメージを裏切るあっさり爽やかな作品である事が意外や意外。 まさか、逆・日常の謎??  6点。

・某作品
消える魔球ならぬ消える動機の考察が興味深い。 7点。

・某作品
唐突な違和感のザラつきは思わずページを繰り戻らせた。結末の急な蠕きは。。やはり女が怖い。。と見せて実は。。。 7点。

・某作品
またこの推理クイズネタか。。と油断してたら落とされた二重底! しかしそれも勘付きの範囲内だ。。あっちの方の犯人は別な方かと思ってましたが。。これも結局、怖いのは女より男って構造じゃないのさ。 7点。

・某作品
面白いねえ。。。 数式に還元してしまえばシンプル極まりない中核原理を物語のドラマ性と構築の妙で見事に目眩しさせたあたりは「占星術」にさえ通じるかも? ●としてはそのだめ押し反転がちょっと悔しいが、やはり最高の結末。 8点。

・某作品
これは怖い、ミステリ興味も分厚い、面白い、よく出来た反転心理劇。証言と逆証言(?)の綾に絡め取られ落ちて行くのは誰。。。ラストセンテンスには一瞬あらぬ事をも想像。 9点。

No.712 5点 あなたも人が殺せる- 都筑道夫 2017/06/21 23:16
色んな主題のユルユルしたヴェリィショートストーリーズが詰まった本。何処となく雑誌っぽい。
中では’花言葉’特集の部分がちょっと心に残ったか。

No.711 6点 封印再度- 森博嗣 2017/06/15 22:51
ドタバタの渦中に絶妙な低頻度で登場する国枝桃子が魅力的過ぎ。時には長時間無登場で恋しくさせる効果も狙ってるんでないかと思うほど、本作でのKM効果は喧しいS&Mラブコメの裏テーマとして作者もかなり意識計算している気配が濃厚。

工夫を凝らした比喩表現の数々を見て時々思うのですが、S&Mシリーズってのは一連のマーロウ物語をレッドゾーン近くまで格好悪く混ぜ返したパロディの側面もあるのではないかしら。。だが本作では、絞り出した生クリームの駆け引き、この辺りのフレーズ群はなかなか好きだった。その直後の、雲を作る工場のあたりも。。 幸せだね。。そのあと数ページも最高に面白し。最高だ。。。これが森君の心の隠し球か。。

さて壺と鍵のトリックについて、大筋ではセンスオヴワンダーまで達せず残念だったが、それでも(こっからちょっとネタバレ)「型」つまり再度封印方法の件は盲点を突かれてたじろぐ思い、ちょっと感動。しかしまあ、その半分強はマジックの種明かしに対する感動(でも分からない方が良かった、的な)でありまして、ミステリの真相を知った感動(やっぱり分かって良かった、的な)の割合を超えちゃってますね。んなわけでそこんとこ、推理小説を味わったって感じは弱い。

ただ、例の子供の証言の機微には、ハッとします。しかもそこへ繋げる伏線の巧妙なこと(大胆すぎるか?)。 とは言え無理があるとのご意見はごもっともで、全体ガヤガヤごちゃごちゃしてるムードの長篇だからこそギリギリ押し切れてる(又は押し切れてない)トリックなのかも知れません。

THE WHOの昔のアルバムを思わせる英題も込みで、やはりタイトルはピカ一ですね。S&M二人の関係も日本語の方には織り込まれていましょうが、実は英語の方もそうなのか .. ?

つーわけで
題名:9点
国枝桃子:9点
壺と鍵:8点
トリック全体:5点
文章:5点
バカ二人(失敬!):3点
総合計で6点とします。

No.710 5点 伯母の死- C・H・B・キッチン 2017/06/14 00:33
説明書。。。。。 電話。。。嘘。。微妙に退屈交えながらも、不思議な共同体の視点からパズルのピースは面白く嵌ったり、外れたり、弾かれたり。。
問題の第13章(主人公まさかの行動)をストーリー俯瞰で大化けさせるのがミステリってもんだろ、なんって思わなくもないですが。。 締めの一文は粋。

【ネタバレ&逆ネタバレ】
「伯母の死(DEATH OF MY AUNT)」なる題名が、より有名な「伯母殺し(MURDER OF MY AUNT)」と紛らわしいんですが、こちらもやはりかの作と同様、ダブルミーニングなわけでね。。。。

No.709 5点 東京下町殺人暮色- 宮部みゆき 2017/06/11 11:52
心の底からシビれはしないが、心が少し洗われる。 推理小説として、なかなか悪くない。
題名から受けるイメージとは、微妙にずれる内容というか雰囲気かも。 

No.708 6点 溺れ谷- 松本清張 2017/06/08 22:45
往年の人気女優を、彼女のファンだったという製糖会社社長に雑誌インタビューで引き合わせ、それを足掛かりに甘い汁にありつこうと画策する下司な主人公、ところがそうは上手く事が運ばずイテテテ。。。 輸入自由化前の砂糖業界を巡る汚職絵図がなかなかエキサイティングに展開して、、読み応えはそれなりにある。面白い。ガツンとまでは来ないかも。

No.707 5点 高校殺人事件- 松本清張 2017/06/06 12:10
やっぱ清張にラノベは無理かw 
冒頭の重々しいモノローグの末、おいおいそれが「私」(男子高校生)かよ! と噴き出しそうになりました。 怪しい事象に対する主人公の疑いの持ち方の、特に人間関係の機微に関しての、立脚の浅さが高校生っぽさを何気にぎりぎり醸し出していますかね。ところが、よりミステリ文脈での明からさまな伏線攻撃にまでそんな柔っちい無反応を見せつけられると、重厚な文体との違和感が愈々。。賢い従姉妹ちゃんが登場してよかったね。
高校生向け学習雑誌(高校上級コース/高校コース)への連載らしくサスペンス度も社会派度も抑え目。若者たちが社会に出るのが嫌にならない程度にという配慮か(笑)? 本格ミステリとして見たら更に薄味だが、とは言え真犯人はギリ意外。某人物の敵味方属性は見え見えだけど、犯人側構造暴露のスリルはまずまず。それにしても「ノッポ」と「人夫のおじさん」は惜しまれる。。。
その昔NHK平日夕食時の「少年ドラマシリーズ」にて、原題の『赤い月』として放映されていました。

No.706 6点 ミステリ国の人々- 評論・エッセイ 2017/06/02 22:12
連載で読んでました。終わった日は寂しかったなァ。。。ボンボンさん仰る 縦横斜め ってその通りの、アリスアリスの高いこころざしに裏打ちされた愉悦共有意図の素敵な行き渡りぶりには、すっかり癒されつつ魅了されたものです。やっぱり、好みと違うようでいて本当は好きなんだす、このひと。

No.705 6点 ハマースミスのうじ虫- ウィリアム・モール 2017/05/29 12:00
冒頭一読、含蓄有る不思議な恐喝理論と実践は切れ味勝負の短篇を想わせたが、引っ張って膨らませて展開も見事にいつしか屈強なる体躯の謎めいた長篇がそこに。腰のある文体に無駄のないユーモアが最高。そして芳醇なる余韻を生成して歩み去る、最後の一文よ。。嗜好に果たして合うかはともかく、間違いなく名作オーラは放っています。機会があったら触れてみましょう。嗚呼、抱水クロラール。。

No.704 8点 タイムマシン- ハーバート・ジョージ・ウェルズ 2017/05/26 00:28
有名過ぎて最早手に取らないようなジャンル草創期の超古典も、何かの機会にいざ読んでみたらガッツリ満足面白い、って事はままある。本作もその典型。やっぱ完成度も高い挑戦作ってのは輝きを失わない(ホームズやビートルズの様に)。 歴史に残るどころか歴史を作る奴はコアが違うね! 今は無い近所のディスカウント屋で買った50円の創元古本も想い出。

No.703 5点 絶叫城殺人事件- 有栖川有栖 2017/05/22 12:27
黒鳥亭
ほのかーーなミスディレクションが幸せに覆される瞬間が好きよ。ところがそれで全てじゃないってのもほんのり苦くて良いよ。「二十の扉」が絶妙だね。

壺中庵
トリックも物語もつまらんが、、建物の雰囲気はちょっとだけ好み。でもやっぱ俺の好きな物理トリックってのはこういうんじゃなくてなあ、島荘の得意なそれの方なんだなあ、全然違うわ。でも最後の沁みる観念台詞はちょいと好き。やっぱ心理ですよ心理のナニ。

月宮城
このタイミングでの前提変化球はジャストザ立派!と思えば普通水流に素早く呑まれ込み過ぎ。しかし真相はともかく物語の締めは、ダメでしょ。

雪華楼
ミステリ的に深みのない真相にがっくり。物語の雰囲気、その心理劇っぷりはまァ悪くもないが。。どこまでも童貞くさい有栖川よ、いい意味で。

紅南荘
ミソであろうサブ事象の動機が(推理小説として)シケってる。。だがそれを含む事件全体の構図は興味深い。もう一捻り半して長篇にすりゃあ良いものを! そしてラストの本筋動機で一気におじゃん。この青くささは本当どうにかならんのか、いい意味で。 さて、プロローグだが。。。。

絶叫城
変化球は肩透かし。。おぞましい真相にはまずまずの機軸感と感慨有り。
スコット・ロス登場には萌えた!

No.702 6点 夢野久作全集 4- 夢野久作 2017/05/20 00:22
ちくま文庫の全集より。
福岡県福岡市生まれの作者にとって馴染みの深い九州北部地帯を舞台とした作品集。良い意味で統一感無し。


いなか、の、じけん
旧い時代の九州北部に起きた実在の事件に材を取った、何とも田舎風味のおからクッキーみたいな小品集廿篇(にじっぺん)。
言ってみりゃシーラッハの「犯罪」を思いっきりイナたいスリーコードのカントリーソングで唄い直したような。。冗談です。
「一ぷく三杯」のまさかの真相、笑える凄まじさ!
「蟻と蠅」の変なオチ。。アリバイって言葉がその意味って。。アリバイ破りとか(笑)?
個別コメントはわざと中途半端に上記二作と控えさせていただきますが、他にも掌編から短い短篇までたくさんよ。てか小説以前感満載のメモ書き風も結構ありますが。。昔の田舎の空気が吸えて良いです。

巡査辞職
良い意味でビットが粗い風太郎みてえな結末披瀝。探偵小説と犯罪実話のアイの子の様な。。
ラジオで三晩続けて探偵小説の講話ですって!!! ← 萌える
‘泣きの涙のまま永患いの床に。。’ ‘お蔭で青空が広くなった。。’

笑う唖女
本格色の強い時代イヤミス(昭和初期)。

眼を開く
泣ける日常のサスペンス、時代篇(昭和初期)。

空(くう)を飛ぶパラソル
なんザこれァ 前半本格、後半無惨実話?? ええっッ。。。

山羊髯編輯長(女箱師/両切煙草の謎/真実百%の与太)
二方の探偵役というか化かし役(?)のスッとぼけた関係性も愉しいショート連作。暗く小汚いムウドの第一作冒頭から徐々に明るく快活に推移、これがイイ。新聞見出しの趣向もスンバラシイ。まるで下品になった山田風太郎の様な味わい。

斜坑
旧い時代の炭鉱を舞台に、二人の男の、奇妙に緩い対立を巡る趣き深い物語。
最後の、幻想に支配された一連のシーンとその現実照射の結末は。。

骸骨の黒穂
フランク・ザッパの様に偽悪的な差別の拡大再現に勤しんだのか、それとも本気の差別意識発露なのか。。問題作として大の物議を醸した一品。田舎の居酒屋風景が愉しい導入から、意外にうねる展開と、激しく揺さぶる反転、そしてその後に。。。。。。。。。

女坑主
しようが無えなあ、凄いなあ
最後にもう一落とし無いのが却って怖い。

名君忠之
いいねえ、これぞ豪快。 エンディングが最高に沁み渡ります。


息子さんがあとがき書いてます(上記の「問題作」についても切々と)。 ファンは必読ってやつですか。
全体通すと、ミステリファンてよりは旧い小説好きな人向けですかね。

No.701 8点 五瓣の椿- 山本周五郎 2017/05/17 21:15
「あたしに力を貸してください。。」

この小説は構成が上手いです。目くらましが仄めかしを僅差で凌駕する「序章」のエネルギーは磨耗を知りません、自ら勢いを落として着地する最終章まで。。
舞台は江戸の天保期。「両親と共に火事で死んだ筈の商家の娘」らしき若い女が繰り広げる「父の仇たち」への連続復讐劇です。

緊迫の序章、重く鮮烈な抒情に摑まれる第一章滑り出しを経て、第一のクライマックスをスピンアウト形成する数ページ、起伏の三段跳びには思い切り呑み込まれました。。この激しさはそのまま、物語の終結を容易に見透かさせない煙幕でもあり。。
中盤より、攻めまくりと追い詰められの折半予見も却っていじらしいほどの水際立ち。悍(おぞ)ましいようでいて凛々たるクライマックスには瞠目、探偵役のシャッキリした格好良さも印象に残ります。

読中、ジャプリゾ「殺意の夏」と東野「白夜行」を少しずつ思い浮かべるようなところもあり、、などと余計な仄めかしを最後にしておきます。 この如何にも渋そうな時代作品に、少しでも皆さまの興味を惹くことを期待し。

No.700 9点 招かれざる客たちのビュッフェ- クリスチアナ・ブランド 2017/05/12 00:30
事件のあとに
劇団員間の犯罪を、劇中劇応用篇の趣向を微かに混ぜこみ展開。最後は「反転の逆転」で一瞬わからない方角へぶん投げられる。こんな分厚い悲劇のミルフィーユをよくもここまであっさりと! そして後からじんわりどんわり。 8.5点

血兄弟
サイコ双生児のイヤミス小噺が何故、これほど心に響く! 7.6点

婚姻飛翔
しっかしコッキーのスッとぼけテクニシャン風情にはヤラレる。今季ガンバからフロンターレに来てくれたアベちゃんもコッキーの様ないやらしさ満開でいてくれん事を!! 大瀧詠一さんの最期をも思い出させてくれちゃって、少しだけしんみりも出来ましたよ。ありがとう。イヤーな感じの導入、動きの豊かな中盤から最後はきれいなドタバタ劇(?)へ。。 原題を見れば当然、HORNETさんを思い出さずにいられない、人気の一品。 8.8点

カップの中の毒
イヤミス的爽快復讐成功劇から、すれ違い証言のユーモラスな悲喜劇へ。シャーリー・ジャクスンがたまには本格でキメてみたかのような不思議な意欲作。最後の「一言」は、それ自体がオチってんでなく、それまで●●てた、てのがオチというか、キレだけでなく分厚さでも同時に勝負のツイストってヤツなんでしょうなあ。 9.2点

ジェミニー・クリケット事件
謎の密室殺人!! 閂がどうしたとか!! おまけに如何にもMO(ミステリオタク)受けしそうな構成の魅力じゃないか!!? 蹴球ワールドカップ絡みの重要エピソード、それも英国内の話、こりゃ萌える。 込み入った真相とシンプルな真相をこんな形で噛み合わせられたら最高の破壊力。参った。 10点!

スケープゴート
エモーションとロジックの対自核スピード有り気な鬩ぎ合い最高! フラーティな気まぐれと、一変して活字体のロジカルな言説、この二者間の間のエロティックにして精妙過ぎる推移マジック。。 マーゲリートの存在感が途中から増し増しソフト緊迫状態になるのも最高。 そして、、 少年よ。。。
「動機が欲しいんだろ?」
真相暴露で一瞬にしてイヤミス爆心地へ。。。 8.5点

もう山査子摘みもおしまい
のどかな風景に癒されながらも暗黒地帯。証言たちの凭(もた)れ掛かり合いの構図は興味深し。この骨格でシャラい作者に書かれても5.5点行きゃいいとこかも知らんが、ブランドの魔手に包まれたが最後、、 8.2点

スコットランドの姪
時にはフレドリック・ブラウン風のダッパーな小品でも物したかと思えば。。 いえ、梗概だけ掠り取れば確かにそんな作りなんだが。。 8.3点

ジャケット
こんな思慮も導線も投げ捨てたような屁みなたいなチャンチャン掌編が、何故、胸を。。。。 理由は分かってまシュけどねマシュケナーダ。 たしかにプチフールの幕開けに相応しかろ。 7.6点

メリーゴーラウンド
ルイーザ? これも毒の染みたプチフール。嗚呼、底意よ。。。。 分かってくれますか、この煌びやかな澱の存在。 8.3点

目撃
美味しいパンの耳砂糖菓子のようなライトグレイッシュファンタジー どこか習作っぽい蒼い剃り跡が見えたかも。 7.2点

バルコニーからの眺め
破滅と救いと孤独が微妙なアンバランスで支え合い、微かに虹色の風が吹くエンディング。 ただのオチ見えサイコ話じャアないのヨ、ワかってヨ。。 7.5点

この家に祝福あれ
静かなる絶句。。。。。。。。 8.9点
ネタバラシに近い蛇足を言うと、○○○は決して●●を持っていなった、という、、「ドンデン返し」の寸前で微妙に減速した「ドンデ返し」みたいな趣向がアルからこそ、たまらナイのヨ。劇薬匙加減だね。。

ごくふつうの男
まさかのノン・ミステリ(犯罪絡み)登場。ごく短いが胸に残るものは大きい。 8.3点

囁き
心理の機微に軸足置いた論理演算漆黒絵巻。重ねてこの溢れ出る、構成の美ならざる、万感の、されど一触れのたくらみ。。。いろんな意味でファック野郎どもの跳躍する道幅の消失点は。。結局、俺の心は揺さぶられ潰され一気に再生させられた。。。。。。。 10点を大きく超えたのは嬉しき珍事だがここでリミッターが働き10点留りさ、ハハハ 嗚呼、俺はこの小説かJBのセクスマシンかどちらかと最期は爆死したい、なんて思っちまいそうだ。 こんだけ余韻周波数のリーチが遠大百年計画の短篇、来世の終わりまで響き続けるんでないか???????? 危なすぎて心の発禁本確定だぜ。久しぶりに生(キ)のボンベイサファイアでキメたくなる小説。君は読むな。。

神の御業
逆イヤミス(と呼ぶのは許されるのか!?)! 8.2点。

No.699 7点 妖婦の宿- 高木彬光 2017/05/09 01:05
卑怯と思わせない圧倒の詐欺力!! それは名高い表題作!! 
他はどれも、旧い昭和を偲ぶに良いノンビリ作品たち。

殺人シーン本番/紫の恐怖/鏡の部屋/妖婦の宿
(角川文庫)

それにしても、日本探偵作家クラブの正月恒例「犯人当てゲーム」って、、そのテキスト朗読の風景を想像したらもうたまりません。タイムスリップ出来たら是非、居合わせてみたい場所、吸ってみたい空気と、煙草の煙。。

No.698 7点 人間動物園- 連城三紀彦 2017/05/05 21:31
誘拐、とは何か。。。 所々凝った表現など在るが、大きく見れば連城ならではの文学深淵に遠く届かず。それでもこの複雑系イヤミス活劇は、道尾秀介っぽい展開混じりの磐石の面白さで問題無し! とか言っといて実は微妙に、やはり文学要素故のブレーキが掛かる所があんだよな、折角の娯楽活劇に。 とは言えあの衝撃の『構造反転』を浴びせられた後に振り返ればこの中途半端な文芸臭さも実は意味ある叙述装飾のうち、、と見えて来る。 誘拐、とは何か。。 そんな伏線、確かにあったよ堂々と。。と納得させられるまさかのインフレ高騰○○○真相! 表題の意味が明確に叩きつけられるラスト近くの一節がある種の反転含みで清々しい! 微妙にバランス欠いた危うさがチラつくのも魅力のうち。 誘拐、とは何か。。

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斎藤警部さん
ひとこと
昔の創元推理文庫「本格」のマークだった「?おじさん」の横顔ですけど、あれどっちかつうと「本格」より「ハードボイルド」の探偵のイメージでないですか?
好きな作家
鮎川 清張 島荘 東野 クリスチアナ 京太郎 風太郎 連城
採点傾向
平均点: 6.69点   採点数: 1357件
採点の多い作家(TOP10)
東野圭吾(59)
松本清張(54)
鮎川哲也(51)
佐野洋(39)
島田荘司(37)
アガサ・クリスティー(36)
西村京太郎(35)
島田一男(27)
エラリイ・クイーン(26)
F・W・クロフツ(24)