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斎藤警部さん
平均点: 6.69点 書評数: 1408件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.788 7点 ラットマン- 道尾秀介 2018/02/13 12:16
数学的に美し過ぎる物語経緯の構築が、完璧過ぎて却って上滑り(作り物めいて見えたのか)、その造形への感銘はひとかたならぬものがありながら、ミステリとして、及び小説としての感動はそれなりに損なわれた。。
とは言え、あるクルーシャルな台詞の反転返し(!)にはグッと来ましたね。しかも、その台詞が最初に放たれた時、もっと深い意味かと思ったら実は浅い方の意味で、だけど逆にそっちの方がよりズゥンとヤバい、という逆説的趣向が噛んでたもんで、その流れから更にまたノーマル反転に収まりゃしない反転返し(単に二度反転の意味ではない)を見せつけられたのには心底ドッキリ!でした。ところが、その更に上を行く、前述の、あまりに完璧すぎるマセマティカルな構造を見せ付けられると、どういうわけだか。。もはや小説ではない、もはや戦後ではない、って感じたのかしら。あるいは、作者があまりに「出来るだけハッピーエンド寄りの、少しでも救いのある、いい話で終わらせよう」と意識してるのが伝わって、さりげなく鼻についたのかも知れない。とかなんとか言って相当に面白く読ませていただきました!

折角エアロスミスをカヴァするならストーリーに密接な関係のある”WALK THIS WAY”だけでなく”BACK IN THE SADDLE”とか”RAG DOLL(入れ歯の爺ぃ)”とかも演って欲しかったなあ。掲示板で話題の”ヤりたい気持ち”はまあ、演(ヤ)らなくてもいいですけど。

No.787 3点 盲獣- 江戸川乱歩 2018/02/08 01:57
亂步さん、何書いてんですか(笑)!! やり過ぎて滑っちゃったのか、、言うほどエロでもグロでもないですよ、むしろナンセンス小説ではないかと。 悪名高い『鎌倉ハム』(創元推理文庫全集版で復活)の一幕なんぞ、アナタねえ。。 残酷っつったってそりゃ即物的、ヴィジュアル上のモンであって、心理のエグい領域まで抉り込んでないでしょう。 「芋虫」や「踊る一寸法師」とは矢張り違いますよね。 と言ってブラックユーモアで突き抜けるのでもなく。 最後の独り善がり芸術論には辟易です!いい意味で!! んんー、概して詰まんなくはないんですけど、評価は低くしときたいぜ?w

“岩の割れ目に住んでいた一匹の蟹云々。。” ← このあたりの表現だけは良いな

いま映画化するなら、主演は前野健太がいいね。 (ってこの流れで書くとマエケンを貶してるみたいですが、そうじゃないです) ところで前述の創元推理文庫に載ってる当時の雑誌挿絵で見ると、思い出せないんだけど誰だったかディープ・ソウル・シンガーかブルーズマンの顔でそっくりな人がいた気がするんです、盲獣。 だけど思い出せない。。フレディ・キングも微妙に違うし。。 あ、ジョー・テックスか ⁈

No.786 6点 死ぬほどの馬鹿- カトリーヌ・アルレー 2018/02/02 00:42
いかにも叙述●●ックめいた冒頭手記(?)の正体はかなり意外。しかしその謎は結末以前に明かされ、ミステリ的な驚きより物語の感動(社会派要素アリ)に寄与する部分が大きい。

パリ郊外(だったか?)中年夫婦のもとへ、昔馴染みの青年(そう若くもない)が戦争から帰還して来る。やがて彼は近所の若い女を見初め結婚し、ヒッピー気質の彼女は本物のヒッピー旅団と知り合い、そのリーダー格が夫婦と交流を始めかけたが。。ここからの激動展開は見もの。

次々と主人公が切り替わるが、その過程である種「そして誰も●●●●った」を思わす淋しさの加速が見られるのも魅力。かと思えば救いの手も。。

“微妙なニュアンスなどに縁がないだけに、物事の本質をふみ外すことがない。”

やっぱりこの邦題、最高に抉って来るね。 それに較べりゃ中身はちょっと緩いけど、憎めない作品です。

No.785 8点 私という名の変奏曲- 連城三紀彦 2018/01/31 12:00

「明日の朝、わたしがこんな◯◯◯◯◯◯◯◯。。。。」

俺はメロンを螺旋状に削ぎ屠って喰いたい。。。。。。 ムズムズ感を刺激する章立てからしておフランス以上におフランセーズな、如何にもお連城らしい、まるでミルフィーユのような作品。 最後の最後まで謎と違和感を詰め込み攻める心意気にはシビレる。 なんて分厚い盲点群。。。。奇数。。。複数。。(苦笑) 題名にきちんと素晴らしく具体的な意味があったのは良かった。 そしてこの、まさかの進行形エンディング。。

「いざとなれば、みんな殺せば。。。。」 「会ったことすらない。。。」

物理的に不可能、と言うより数学的にあり得ない不可能犯罪は如何に遂行されたか(或いは、本当にされたのか..?)を解き解(ときほぐ)す超絶技巧のきらめきを味わい尽くすために産み出された作品。 ただ連城短篇の場合と違いリアリティの堅牢な幻をドーンと現出させたまま終了とは行かないきらいはある(言葉選びの切れも微妙以上に甘いし)。。 が、そのあたりは長篇本格ミステリのお約束と混沌の混ぜこぜに割り切ってこそ吉でありましょう。 一抹二抹程度の嘘っぽさなら、その連城バランスィングの妙で見事に吹き飛ばしてくれます。 医者って、そういうことか。。

共犯者か。。 砂の城か。。 “真犯人さえ知らないカラクリが。。”
犯人とは何だ。 推理小説における犯人とは、、いったい。。。。

ゲームだよなぁ、とは思いつつ、こういう(ギリ)数学的ギミック乃至トリックを弄する作品は大いに好みです。(とは言え「なんとか術殺人なんとか」みたいなガチ数学トリックとは違い、数学的イメージを喚起しているだけかも知れませんが)



【以下、ネタバレ】



不治の病って、この話の枠組みじゃ、連城期待値なら尚の事、ご都合禁じ手じゃね?
著名作「容疑者なんとかのかんとか」を彷彿とさせなくもない重要ファクターがありましたね。そこちょっとアッサリ通り過ぎ過ぎじゃね? と思うところも共通。ただし本作の場合はそこが物議を醸しはしないんだよね。PCの微妙なところに触れるわけじゃないからか。。
家政婦? パスポート写真撮影? 工場の青年?? 火事? モデルにしては小柄 。。。??  ← ひょっとして大化けする伏線やら何やらかと思ったら、そうでもなかった諸要素。 特に最後のは、こりゃニオウぞと終始疑いつつ読んじゃってました。。もしやミスディレクションだったのか。。


No.784 7点 死者のあやまち- アガサ・クリスティー 2018/01/30 02:52
意外な被害者、そして、失踪。。 外国人。。。。 警察犬。。。? 
失踪人の生死がいつまで経っても明らかにされない、妙にゆったりした進行の内に新たな死人は出るは(これが意外な人物!)、そうこうしていつの間にか終盤数ページに迫っちゃってるわ。。この心地よいズルズル感はいったい、何の企みに担保されているのかしら。。 
そして最後は、深く長く静かな余韻。。。。(アガサ後期作ならではの味わいってやつでしょうか)

【以降ネタバレ含み】
クリスティらしい企画性(祭の殺人ゲームで被害者役が本当に殺される)が真相隠れ蓑のごく取っ掛かりでしかなかったり、物語のスターターであるオリヴァ婦人(ミステリ作家)が最後のほうはさして重要人物じゃなくなってたり、そのへんちょっとアンバランスだが。。結末の強さと素晴らしい余韻に絆されてそんなんどうでもよくなってしまいました。
靄のかかった薄ぼんやりした真犯人像(これがまた独特)よりも、真相の裏側を知っていた非犯人の方がやけにくっきりした人物造形、という人物配列の妙は面白いし、本作の場合は感動につながりますね。「入れ替わり」はありがちな方便だけど、それを取り巻く状況と心理の重なり合いが何とも切ない滋味を醸し出しており、好きな一篇であります。

No.783 8点 第三の時効- 横山秀夫 2018/01/27 23:34
これはなかなかにヤヴァい短編集。連城ファンを警察小説に嵌めるトラップとして激マブ度A+、のブツが六作中三作もあった、それは「沈黙のアリバイ」「第三の時効」「ペルソナの微笑」。中でも最初の二つはキラキラした特別感満載で余裕の8.5越え。他の三つも読み応え充分の良作。それにしてもほんと、連城短篇の「色恋」要素を「警察」に置き換えた(&文章がいい意味で素っ気なくなった)みたいな作品群です。現代人必読(笑)。

No.782 7点 錦絵殺人事件- 島田一男 2018/01/26 01:59
カズオ・シマダ最初期二作ごってり本格の後の方。(先の方は「古墳殺人事件」) ストーリーや舞台装置のベタな本格ミステリ性は量産期諸作とは異質の感がありますが、肉体化され感満載の蘊蓄連射や幅広く豊か過ぎる日本語表現の花束をヒョイヒョイ投げてくるあたりなんざ(探偵役は江戸っ子ファイロ・ヴァンスの趣)後年の軽快かつ人情非情どちらもこってりの会話/地の文キャッチボールに不思議と直結する堪えられない芳醇味がありんす。んで文章は最高に素晴らしいのですけどね、小説のほうは、、神奈川奥地の旧家(天守閣がある!)の主が失踪中だとか、髑髏のずらり並ぶ最上階で不可能殺人だとか、義経伝説見立て連続殺人だとか、まさかの愉しきタペストリー感で展開するちょっとした密室講義の嬉しさや、、とまず魅力充分の古式ゆかしい謎群に較べ、解決篇がちょっくらギスギスドタバタ、、無理感、不自然感の強い物理トリックで折角の大きな(とは言えさほどビックラはこけない)心理トリックの綾を準原色の油絵具で汚く塗り潰しちゃってるみたいなね。。ってまあその辺の人間臭さもご愛嬌で充分許せますけどね。私みたいに雰囲気良けりゃロジック三の次って人以外にはちょィと薦め難いが、シマイチ文学を愛する人でありゃ、是非とも手に取って!

No.781 7点 ジーヴズの事件簿 才気縦横の巻- P・G・ウッドハウス 2018/01/23 12:14
日常の謎でも日常のサスペンスでもなく、日常の問題解決を肴に英国ユーモアの精粋をじんわりと見せ付けるストーリーズ。軽快なる大古典。日常と言っても昔日英国の貴族、ではない有閑階級のそれではあるが、この浮世離れ感もまた心地良からずや。ユーモアミステリとは違うけれど、わざとミステリっぽく言うなら、ハウダニットと思いきやのホワットダニット、ってとこですか。

むかし検索エンジンの名前としても使われた「智識持ちの象徴」である、執事、ではない使用人のジーヴズ。コンピューターが当時より遥かに発展した今なら物語の中の彼の様にむしろ「問題解決能力の象徴」としてある種のAIシステムの名前に適しちゃってたりなんかしちゃったりなんかするのではなかろうか。。

ジーヴズの初仕事/ジーヴズの春/ロヴィルの怪事件/ジーヴズとグロソップ一家/ジーヴズと駆け出し俳優/同志ビンゴ/バーティ君の変心
(文春文庫)  

ビートルズの大ライヴァルにストーンズ、ビーチ・ボーイズ、モータウン一派がいたように、ホームズの大ライヴァルにはルパン、ブラウン神父、そしてジーヴズがいます。

No.780 7点 ブルータスの心臓−完全犯罪殺人リレー- 東野圭吾 2018/01/13 17:16
まるで初期京太郎を思わせる(社会派交じりの)派手で複雑な設定と展開、を更に捻り倒したような、攻めに攻めた倒叙本格こりゃ面白い! 決して、屍体をリレー形式で運んでアリバイ偽造ってだけのクライムノヴェルじゃないんですよ! 初期東野で光文社文庫ってワケで何となくペラめの話を想像させがちかも知れませんが。。読者も、主役も、警察も謎の全容が分からない、果たして全て分かっている黒幕は誰だ。。という中心興味に次々と予想外の太い枝葉が絡まり続けるうち大きな謎を抱えたままとうとう最終コーナーへ突入!! こりゃ初期京太郎的とは言え、その悪癖である緩いアンチクライマックスとは無縁の作品だな、、と思ってたら最後の数ページで急角度に墜ちた。。確かに人間ドラマとしては最高の沸騰シーンを迎えるんですけどね、えっ!?犯人!?何!?あの人やあの人の役割は!?主人公の。。!? ってなもんでいきなりのミステリ的尻すぼみには驚きました(結末だけ警察小説風かよ、みたいな?)。でも意味ありげな出だしから分厚い中盤、ラストシーン直前ギリギリまで本当に充実してて面白い。最後の最後だけがなあ。。タイトルの意味が中途半端に明かされるインパクトの弱さも含めて、実に惜しい! それでも7点キープ!(7.2くらい)

No.779 6点 ワイルダー一家の失踪- ハーバート・ブリーン 2018/01/11 13:39
失踪だけの話じゃないのよ。。。。。。。 な~んだか古臭いし、古典と呼びたいほど輝いてないし、ロマンスはチャチぃし、みなさんこの本は読まなくていいですよ~~ 私自身は好きだけど~~ と思いながら読んでたら、忘れた頃に急襲と洒落込みやァがる犯人意外性と悪夢的全体像!! 一見つまらないメインの消失トリックも俯瞰図の中で眺めればあら不思議いきいきと輝き出す(但しそれは小説全体のメイントリックではない)。ただふざけているだけに見えたチャラいロメンス逸話さえ、まさかの。。 どうでもいい後出し要素もあるけれど、やっぱ全体的に緩い(し古臭い)んだけど、それでも最後だけはしっかり落とし前を付けられました。 あの、何故だか堪らないリリシズムを感じる湖畔の失踪(とその再現)シーンは胸中に最高の風景画を残したよ。。 終結近く、プレイナードと、それに続くイーザンのシビれる决め台詞! でも一番最後、主人公の洒落たつもりの台詞は不発! 全体通して『手際の悪いブラウン神父譚(短篇に纏められませんでした)』とでも言った体。
ところで、かの伝説の(?)推理クイズ集「トリック・ゲーム」でも本作の消失トリックは引かれておりましたな。あの美しく不気味な点描の挿絵は良かった。。 それとHPB巻末、乱歩さんの公平無私にして傍若無人な酷評には笑いました。時代だねえ。

No.778 3点 推理小説を科学する―ポーから松本清張まで - 評論・エッセイ 2018/01/08 17:41
コンセプトがぼやけてるなァ。。タイトルで大見得切ってげな割に重箱の隅をつついてばかり。「陰獣」の●●●●を科学的に検証するって一体何。。? でも別に「検証してみたら科学的に間違ってたからこの作品はダメ」なんてバカなスタンスは取ってないのでそこは好感触。

No.777 6点 パリから来た紳士- ジョン・ディクスン・カー 2018/01/06 10:41
パリから来た紳士 / 見えぬ手の殺人 / ことわざ殺人事件 / とりちがえた問題 / 外交官的な、あまりにも外交官的な / ウィリアム・ウィルソンの職業 / 空部屋 / 黒いキャビネット / 奇蹟を解く男
(創元推理文庫)

小説的には大ネタ遣いであろう表題作も含み、小味で愉しい短篇集。 傑作撰てガラじゃぁないが、カーを愛おしむ人なら読んで全く損は無がっぺ。

No.776 4点 霧越邸殺人事件- 綾辻行人 2018/01/05 17:59
嗚呼、こんな緩くて馬鹿馬鹿しい連続殺人ファンタジーもたまには最高だ。とは言え時に反撃して来るそれなりのスリルもまた良し。と思えばそれなりプラスαの再反撃も時を置いて腹を打つ。こりゃひょっとして、まさかの核心大逆転、読者側に向けた逆々トリック趣向では。。なァどと淡い期待を奔走させたが最後に解明された真相は厚み有る割に肩透かし。もうひとひねり半を期待しても無駄だったナ。。何と言うか悪い意味で『意外と』化けなかった何人かの登場人物の在り方に不満が。。よく構築された推理小説とは思うが、私個人の趣向として面白さの点では詰めが甘過ぎ。精妙なものですね、ガラス細工の様な本格ミステリのバランスって。クラヴサンで「月光」第一楽章ってシーンはちょっと印象的だ。初期の綾パンは青臭い文章がどんなに好みでなくとも内容に圧倒されて大好きな作品が多いのだが、本作は、誠に残念ながら!!

No.775 6点 伊豆・河津七滝に消えた女- 西村京太郎 2018/01/01 18:32
「河津七滝に消えた女」「鬼怒川心中事件」「伊豆下田で消えた友へ」
(光文社文庫)

ヤマハスタジアムに磐田川崎戦を観に行った際、折角だからと新横浜のKIOSKで買った一冊。 ま同じ静岡ったって遠江と伊豆じゃ「國」が全然違いますけどね(おまけに間に駿河は挟まるし。。鬼怒川に至っては静岡でさえない)、いんですよ、これがそん時の店先でいちばんご当地に近い京太郎だったから。言ってみりゃ、浅草観光に行こうとしたついでに吉原まで足を伸ばす米国人のジョニー(仮名、26歳男性)みたいなものですか。んで試合はたしか前半2-0でジュビロ磐田がリードし、後半で2-4と川崎フロンターレの絵に描いたような大逆転勝利でした。本の内容は、いつもながらシュアーです。

No.774 6点 謎と殺意の田沢湖線- 西村京太郎 2018/01/01 14:26
「謎と殺意の田沢湖線」「謎と憎悪の陸羽東線」「謎と幻想の根室本線」「謎と絶望の東北本線」
(新潮文庫)

北国特集。肌寒い感触が素敵。やはり京太郎は旅情が書ける作家。
内容を特筆はしませんが、弛緩の無い、スリルを備えた安定感は流石です。

No.773 7点 満願- 米澤穂信 2017/12/29 12:09
夜警   
某神父の或る原理を精魂こめて変型増幅し、警察心理小説の肉付けも立派な一篇。 困り者の部下を抱えた警官が、暴力亭主の現場に来てみれば。。。 これは良作。 8点強。

死人宿
失踪人とその経緯捜しに絡めたフーダニットならぬフードゥーイット、これから自殺するのは誰だという変形犯人捜しの末、妄想考え落ちの余韻を残して終わるのはニクい。 6点

柘榴
今一歩の腹落ちが欲しかった。。折角のドロドロ家族ドラマが。。惜しい反転!全体のバランスもちょっとグラグラで、結末のインパクトを直に左右するリアリティってやつが微妙に不足。でも面白い。 5点強 ・・・ いや、え⁉︎ まさかこのエンディング、実は⚫️が一枚上手って言う考え落ち!? だとしたら... 仮に作者がそこまで考えてなかったとしても妄想炸裂で一気に 8点 へジャンプアップ!!

万灯
“新技術の話はいつでも胸躍る”いい言葉だ。
厚みが魅力の南アジア経済サスペンスの末に、まさかのクイーンばりロジック攻め尽くしで振り出しに戻る(?)趣向。結末呆気なさのアンバランスは確かに在るが、、、目をつぶろう。読後しばらーーーーーく冷却の時間を強いられました。 8点

関守
峠の古びた茶屋を舞台に、ミステリ濃度は薄いがなかなかの犯罪ホラァ小噺。骨格より肉付けで押し切り。相撲で言えば琴奨菊の様な体型の一篇。 「先輩」の物語的役割がちょっとオチてない気がするが、、 5点

満願
“予感せよ”との強く甘い圧力は絶壁級。むかし下宿で世話になった奥さんは殺人犯となり、弁護士になった「私」と再会する。結末を予想しつつ、なんだそっちだけか、で淋しく終わるって仮説を併走させてもみたが、、、、、 参った、これですよ、これぞ連城スピリットの継承。色恋だけじゃない、っていう色恋の陰画の強さだね。 或る小道具の使いっぷりとそこに至らす伏線にも唸る。 9点弱

No.772 3点 死のクリスマス- アルフレッド・ローレンス 2017/12/25 12:19
アナハイムエンゼルスファンと思しき(本作にエンゼル試合チケットのくだり有り)コロンボは大谷翔平には間に合わなかった。。いや亡くなったのは俳優ピーター・フォークの方、幻想の中のコロンボは老いてまだ健在で、日本から来た若き大男を時々はスタジアムで応援するのかも知れない。

TVで放映されなかった事から「幻の名作」などと喧伝されがちな本作ですが。。ロシアンクラブ(?)の光景や、最後にコロンボへのプレゼントが手渡されるシーン等、クリスマスシーズンらしいキラキラした雰囲気は魅力、もちろんコロンボが魅力的、しかし結論を言うとこりゃ幻の名作って風情ではなく、むしろお蔵入りも納得の幻の失敗作では。トリックもロジックもツイストもサプライズも有りゃしねえ。。そこにコロンボがいるだけで私は好きな本ではあるけれど、高く評価は出来ませんね。そこそこの評価も無理。デパートで働くデザイン方面の才能が集まって、そこに昔馴染みが一人加わって、問題は発生した。。社員の殺害と、守衛のサボリーと、ファボリート、デスパシート、チアシード。。そんなお話。

No.771 7点 黒い福音- 松本清張 2017/12/23 11:02
斎藤警部なる人物が一瞬登場。坂口良子氏と、Roxanne(ポリースの歌でおなじみ)らしき人物も登場、特に後者は重要人物。新聞記者佐野はまさか洋チャンの事ではあるまいか。
時折神視点の作者目線が闖入する上、読者目線での憶測主役が不規則に入り乱れるドキュメンタリ風の造りがスリルを齎(もたら)している(元より実話ベースの作品ですが)。本格の味もほんの微(かす)かに掠(かす)るけどこれはやっぱり冷気吹き荒れるドサスペンス押しの一品。舞台はキリスト教某一派日本拠点。「われわれの歴史は迫害の歴史だ」ですってよ。。。作者の被害者意識も高く、告発に撓(たわ)み無しのストレートな社会派ですが、下ネタユーモア溢れる傍流逆伏線エピソードには微笑ませてもらいました。

No.770 10点 カラマーゾフの兄弟- フョードル・ドストエフスキー 2017/12/22 00:35
「陽気にやってらっしゃい、泣くんじゃないのよ」「明日は修道院に入る身でも、今日は踊りましょう」「あたしたちは汚れた身でもこの世は素敵だわ」「一人のろくでなしだけでポーランドが成り立ってるわけじゃないんだ」「今すぐ、カラマーゾフ流の強引さで、みんなのために。。。」

冒頭数十行で10点超えが確定しました。奇蹟のハイパーテンション持続の底には悪魔の吹き込んだ命が跳躍しています。夥しい数の面倒臭い人々が跋扈する極太の大河イヤミスであり、言うまでもなく推理小説枠に収まり切らない大怪物ではありますが、と言うかもちろん推理小説のつもりで書いたのではないのだろうし、だが結果的に大ミステリと呼びたくて仕方のない作品に仕上がっているわけで..「罪と罰」をミステリとするのは牽強付会に感じますが、本作は充分にミステリと呼べるブツでしょう.. 日常の心理トリック拗(こじ)らせ玉虫模様は襲来するわ、手記の壮大すぎる配置の妙に舐め尽されるわ、長い長い伏線の妙味に搦め取られるわ、ある種の叙述欺瞞のインスパイア元になってそうな気配が点在するわ、もちろん、これは多岐に渉る犯罪的人間関係の紛糾と、ギラギラとモニュメンタルな或る殺人事件の謎とその解明を巡る物語であり、、、、、、、

「二つの深淵をいっぺんに見つめることができるのです!」「それは、父親を殺さなかったからなのです!」「話している時の様子が変ですよ」「ところでトルコ人は甘いものが好きだそうだ」「頭の中で考えて、憶えてしまったんだ」「もう一度言っておくが、すべては大洋にひとしい」「これもまた小説ではないでしょうか!?」「これでもキリスト教徒ですからね」「そんなのはローマです!」 

かの『大審問官』の暴虐馬鹿力もさる事ながら、ミステリとして延々と濃密過ぎる裁判シーン。。。。しかもその章の名が「誤審」と来た!(ここで観られる論告合戦みたいなサッカーの試合はいいですね)
”総和による暗示”。。。 情緒的可能性の証明。。。 ”永遠の調和の瞬間”。。。。

作者の命が追い付かず実作されなかった続編で明かされる逆転真犯人、がいるのだろうか。。 (まさか、アノひとが。。)
「虚無への供物」が前半だけで乱歩賞に応募されたのは、後半執筆を待たずして作者が逝ったとする本作への、手の込んだオマージュではないのか。。。。
パンの耳。。雀たち。。 たとえ未完にしても、世に出版されたラストシーンは実に鮮烈、哀しくも眩しい希望に輝いているじゃないか!! だけどやっぱり哀しいよ! 全ロシア! 全日本! 全忍耐! 全歳月! 頑張ろう!! 頑張りたいじゃないか!!! ああベートーヴェンが聴きたくなる。

邦題は「カラマーゾフ」と「兄弟」の間に『の』が入るのが断然いいですね。 深みが違います。

No.769 7点 夜よりほかに聴くものもなし- 山田風太郎 2017/12/12 23:05
※短篇集単体です。光文社文庫「傑作選サスペンス篇」の方ではなく。

証言/精神安定剤/法の番人/必要悪/無関係/黒幕/一枚の木の葉/ある組織/敵討ち/安楽死

もしもドストエフスキーが(文章を短く纏める訓練をして)短篇ミステリ集を書いていたら、みたいな、人生思想犯の話がいっぱい。題名から薫って来るうらわびしさやブルージーな苦味は意外と薄く、犯行に至る背景はやるせなさってよりギラギラした狂気をより強く感じる。そこへ来て最後の(地の文含めてちょっと長い)決まり文句に何度も出て来られると不謹慎にも笑っちゃう。だんだんギャグに見えて来て。。

さて本作、重い主題を扱う割にはとても読みやすいブツですね。一篇一篇が短く、結末到着がちょっと早過ぎ、アッサリし過ぎの感さえあります。また光文社の文庫全集では「サスペンス篇」の表題にもなっている本作ですが、さほどサスペンで勝負というガラでもありません。本作の良さは、もう少し柔らかく悩ましいところにあります。

余分なツイスト無しでストレートな動機解明で締める、ようでいて、その動機の肝の所が実は読者が安易に憶測してしまうものより更に一押し、心の内側に釘の頭をねじ伏せた、より切実濃厚なものだった。。という風太郎らしい人間派力炸裂の作品が並びます。より表層近い所に大きなツイストをかませた本格ミステリ押しの作品もいくつかあります。一篇だけ、絵に描いたような本格興味のトリック解明で攻める作品があります。でも結末の動機大暴露はどれもこれも統一感有りの人間派シュプレヒコール慟哭劇。 各話のタイトル並びがデコボコ感満載(あるものは出落ちネタバレ、あるものは仄めかし、あるものは現象)なのは美しさを損ないますが、それはまあよかろう。

読んでる間は意外と軽い感じがしたもんですがね、後からじわじわ浸み込んで来るのですわ、これが。

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斎藤警部さん
ひとこと
昔の創元推理文庫「本格」のマークだった「?おじさん」の横顔ですけど、あれどっちかつうと「本格」より「ハードボイルド」の探偵のイメージでないですか?
好きな作家
鮎川 清張 島荘 東野 クリスチアナ 京太郎 風太郎 連城
採点傾向
平均点: 6.69点   採点数: 1408件
採点の多い作家(TOP10)
東野圭吾(59)
松本清張(56)
鮎川哲也(51)
佐野洋(40)
島田荘司(38)
アガサ・クリスティー(37)
西村京太郎(35)
島田一男(29)
エラリイ・クイーン(26)
F・W・クロフツ(25)