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斎藤警部さん
平均点: 6.68点 書評数: 1246件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.13 10点 張込み- 松本清張 2015/07/03 07:23
世界に誇るこの傑作短篇集だけは10点超を付けたいんですけどね、流石にそれは無理なので10.499点、四捨五入でぎりぎり10点とします。
普通の厚みの本だけど、中に入っている8つの短篇たちがどれもこれも、普通だったら長篇小説に盛り込むような質量の内容を清張氏の怖るべき情念で圧縮された上で備えているため(良い意味で濃淡はある)、一度中身を知ってしまうとあたかもストーリーとサスペンスと悪意と謎と人生でパンッパンに膨らんだこの本が今にも破裂してしまいそうな錯覚を覚えます。

張込み/顔/声/地方紙を買う女/鬼畜/一年半待て/投影/カルネアデスの舟板
(新潮文庫)

ミステリともサスペンスとも言い難い(ややハードボイルド文芸タッチか?)表題作「張込み」からおもむろに幕を開ける。この静かにジワジワくる、読者を引っ張って離さない力と、人情の絡んだ哀切な(そしてやはり静かな)エンディング。。 いきなり一遍の長篇小説を読了した様な酩酊感ないし覚醒感のうちに、比較的軽めの、しかしスピード感と恐怖のエネルギーに圧倒される「顔」と「声」。北島三郎師匠とはまた一味違う「漢字一文字シリーズ」サスペンスは快調だ! 本格ミステリ色の強い二つの犯罪女子物語「地方紙を買う女」「一年半待て」に挟まれるは、無惨極まりない「鬼畜」! 中身の濃密過ぎる地獄絵巻は言うまでも無いが、一番最後に突如話の流れがトップギアに、最高の速度を一瞬出して急に話が切れる! この、余韻と言うにはあまりに巨大で重過ぎる”その後”を、暗示どころか確実に読者それぞれの頭の中に一瞬で刻ませる終わらせ方、最高にシビれました。。(映画では”その後”も残酷に描いています)
最後の二作「投影」「カルネアデスの舟板」がまた白眉中の白眉、最高に爆発しています。 嗚呼、クラクラするぜ。。

No.12 7点 分離の時間- 松本清張 2015/07/03 00:12
タクシー運転手からふと耳にした噂が気になった、一般人の主人公。
何人もの男色家が登場し、権力界のギヴ&テイクと絡み合う。 当然そこには殺人も。。。
毎度の事ながら擦り減ることを知らないサスペンス。流石です。

併載「速力の告発」はミステリーとちょっと違う様相を見せる。 森村誠一を思わすストレートな物言いの演説っぷりは貴重。

No.11 7点 生けるパスカル- 松本清張 2015/07/03 00:01
最後のところ、うっかり夫を応援してしまった。。
清張さんにしては軽いタッチですが、純文学仕込みの文章で書かれた容赦無いサスペンスは格別のエンタテインメント。
心の病持ちとは言え酷い妻だが、夫だって酷い事をする。出口の見えない夫婦のいがみ合い。夫は浮気性の画家だ。。

同じく中篇の併録「六畳の生涯」も老人の暗い心の炎を強烈に描いて秀逸。

No.10 7点 時間の習俗- 松本清張 2015/06/24 17:01
清張中庸の美を放つ良作。 「点と線」の流れを汲む(担当刑事も同じ)社会派興味はほど薄い鮎川哲也風アリバイ崩し本格推理。 トリック自体もさる事ながら、手掛かりが晒されトリックが崩されて行く過程が実に滋味溢れるもの。 程よい旅情あり、或る性風俗(当時の言い方)への言及あり、物語背景のイメージは豊か。昭和30年代の日本がありありと眼前に浮かび上がって来ます。

No.9 9点 ゼロの焦点- 松本清張 2015/06/23 07:08
事件発覚と同時に立ちはだかる謎感、疑惑感が半端でないですね。 設定が不可能犯罪とかでは全く無いのだけど、ありふれた失踪事件なんだけど、清張氏の筆力が冒頭部から『そのうち何事か起こるぞ、ただならぬ事件が起こるぞ。。』と読者を脅し続けるんですね、そこへ来て果たして事件が起こる、途端に心にグサッと来る、目の前が真っ暗になる、とこういう具合。 巨大な謎と疑惑の物凄い圧力に押されながら、ドミノ倒しの様に嫌な予感が畳み掛けて来る感覚は本当に最高。 そんな彼ならではのシビれる良さはこの長篇で余す処なく発揮されていると思います。
物理的アリバイトリックは旧い時代への郷愁を充分に誘い、心の襞に手を伸ばす心理的遺書トリックはそのシンプルな深みと、皮肉ではあるがある種の光を秘めた美しさ故、今でも縷々とバリエーションを喚起し続けているのではないでしょうか。
これほど強烈な中途のサスペンスを抱えながら、それを一手に迎え撃つ「結末圧」の強さも、本作の特筆すべき美点と思います。

No.8 8点 球形の荒野- 松本清張 2015/06/09 05:15
(ネタバレ的)

Aさんはこの世に生きていますが、法的には死んだ事になっています。それは決して覆されません。 Aさんは戸籍を売っていませんし、何らかの間違った死亡診断書を出された事もありません。また、Aさんは自分が生存中である事を近親者や旧い友人にも打ち明けられません。Aさんは監禁されて不自由な身の上というのではありません。 いったいAさんに何があったのでしょう。 

こんなAさんが最重要人物として登場する本作は、最後の最後で涙を誘い、表題の意味を明かします。 歴史の重さが被さる、壮大な社会派サスペンスです。

No.7 8点 眼の壁- 松本清張 2015/06/08 13:00
詐欺、暴力、差別、謀略と残酷なトリックの渦中を疾走するサスペンス、サスペンス、怖いほど強烈なサスペンス、、、にがっちりと抱き留められた本格推理の力作! 人間社会に棲み付く、事件を産み出した諸々の暗黒要素があまりに生々しく息づいているため、人それを社会派と呼ぶのもごもっともで異論無し!! 壮年期とは言え駆け出し時代の筆に拠るせいか、時折蒼い草の匂いが漂うのも素敵だ。

No.6 8点 点と線- 松本清張 2015/06/01 16:09
社会派ムードも演出効果、サプペンス横溢する鮎川風本格ミステリとして(こちらは格段に文学的ですが)じっくり味わうのが良いと思います。

No.5 8点 強き蟻- 松本清張 2015/05/27 10:39
資産家の老夫とその死を願う年増妻(まだ若い)を中心に据え、何人もの男と女が暗躍し騙され復讐する、醜い事この上無い打算と愛欲のサスペンス。 意外と爽やかな読中感覚なのは年増妻の愛人である「若旦那」(若くもない)の飄々としたキャラクターが大きいか。 四つ巴、五つ巴の愛欲愛憎絵巻が際限無く膨れ続けるかと思えた所へ不意に投入される新しい登場人物(老夫の自叙伝速記者)の役割は如何。。 手に汗握るシーンも効果的に挿入され、最初から最後まで急転し通しのストーリー展開に翻弄される。
祖父の遺品で読みました。

No.4 7点 歪んだ複写- 松本清張 2015/05/21 09:50
税務官吏の不正に纏わる(と思われる)連続殺人事件の真相を追う。
「また例の」と言う設定だが、清張ならでは保証付きのじわじわ来るサスペンスは流石に強烈で、ありきたりな感じはまるで無い。終盤に近づくにつれ、結構エグい事やってる様が赤裸々に暴かれ、ゾッとする。
事件の背景として武蔵野が重要な位置を占めており、読んでいると深大寺の蕎麦屋に行きたくなる。
昭和30年代好きには見逃せない、氏がバリバリにブッ飛ばしていた30年代ど真ん中の作品です。

No.3 8点 告訴せず- 松本清張 2015/05/20 10:55
持ち逃げされた黒い選挙資金は小豆相場で躍動。復讐の恐怖に震える男と、彼に近づく女の思惑は。。
横領、投機、ホテル経営、詐欺。 様々な経路を辿る金と男と女の行き着く先は何処?
時折旅情を織り交ぜながら、サスペンスが横溢。 強い悪女と小豆先物市場のヴィヴィッドな描写が怖い。
題名が秀逸。

No.2 7点 絢爛たる流離- 松本清張 2015/04/24 18:56
高価なダイヤモンド指輪の持ち主の変遷を軸とした連作短編集。昭和の戦前から高度成長期まで、時が流れます。
第α話で一応のオチを見せたストーリーに第α+1話で新たな展開が待っていたり、なかなか一筋縄で行かない。
また、それぞれの話のスタイルというか持ち味が、意識的なのか結構ばらけていて、文学性の高いシリアスな犯罪小説で最後まで通すのかと思いきや本格パズラーがひょっこり出て来たりする。びっくりしたのは「これはまさか藤原宰太郎のパロディか?」と思わせる様な清張らしくもない安直な”手掛かり”の登場する話があったこと。「何、○○が××だと!? 分かった!犯人はアイツだ!」みたいな。それよりもっと凄いのが、まさかのバカトリックが出て来る某ストーリーで、その絵面を想像したらもう笑っちゃってしようがない。これ実際にやられたら被害者の苦痛はもう地獄絵図なんだと思うけど、だけどヴィジュアル的にもう反則でしょうってくらいのバカさ加減で、それをよりによって渋いトリック使いの清張が文章化しているというギャップがまた何とも。とは言え、全体を通して見るとやっぱり男女の機微を丁寧に描いた美しい犯罪物語がその中心にある。だけど所々おかしな点も見つかる。文章にしても、清張には稀な”速く読んでると何の事を言ってんのか一瞬分からなくなる”様な言葉運びの下手な文が少し見つかったりする。色んなギャップを含んだ連作集だと思う。

最後の一遍のエンディング、連作全体を締める大オチを一回見せておきながら。。 あの終わり方は”時代が軽くなった”って事を暗示しているのかなあ、分からないや。

No.1 8点 わるいやつら- 松本清張 2015/02/17 12:35
文章の手触りは小粋な短編の様。その調子で二巻分延々と続くのだが話の動きが機敏で全くだれるところ無し。短いインターバルでちょっとずつ違和感や謎を残しながら進む技倆が見事。徐々に主人公の心が狂気じみ、頭が愚かになって行く描写が怖い。「わるいやつら」と言っても決して社会悪や巨悪ではなく、そこそこ金持ちとは言えむしろミミっちい悪党(ワル)どものお話なのだが、それでも大変に迫力のある物語を著者は構築している。

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斎藤警部さん
ひとこと
昔の創元推理文庫「本格」のマークだった「?おじさん」の横顔ですけど、あれどっちかつうと「本格」より「ハードボイルド」の探偵のイメージでないですか?
好きな作家
鮎川 清張 島荘 東野 クリスチアナ 京太郎 風太郎 連城
採点傾向
平均点: 6.68点   採点数: 1246件
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