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斎藤警部さん |
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平均点: 6.69点 | 書評数: 1357件 |
No.817 | 8点 | 変調二人羽織- 連城三紀彦 | 2018/05/31 12:19 |
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変調二人羽織(表題作) おゝ、これぞ文学と不可能殺人の融合(笑)! 処女作からこの反転の抉りの深さ、やばいです。 鶴が一羽、東京の空を舞った夜、引退を控えた悪評芬々の落語家(こちらも鶴の異名あり)が最後に開いた一席にはわずか五名の招待客。 或る捻った趣向のもと、弟子との二人羽織で演じられる高座にて、停電の間隙を突き。。。 事の次第を語るはくたびれ気味の現役刑事と、若くして辞めた後輩との往復書簡。 多重解決によく似た大きな反転を繰り返し、、折原ティックな最終反転は初め蛇足と見えたけど、警察小説的人間ドラマとしてはそこが肝要なわけですね。 8.4点 ある東京の扉 不思議と堅実なリアリティがある、ユーモア自慢の一篇。チンピラ文士(?)の売り込む推理小説ネタをベースに脳内事件話が拡がる。アリバイ破りの焦点は、交通の事情により密室状態の東京都からどうやって埼玉県某市まで行けたか。 走りながら考える、進化する多重解決(!)の味わいは格別。 ラヴェルのあの曲がそんな大胆な盲点トリックの隠喩にねえ。。 私も敬愛する某作家を冒涜する下劣な駄洒落には大笑い。 7.7点 六花の印 冒頭からすぐ、時系列のホッピングが笑うほど凄い。戦中明治の世と戦後昭和の世、時代小道具は違えど相似に満ちた二つの死を待つ短い旅程。。あいつを殺して俺も死ぬ。あの人が死んだら、私も。。。。 違和感の軋む表題に趣を付与するラストシーンは達者な筆の所為か取って付け感まるで無し。 よくも最初期からこんな超絶技巧の銘品を。 参った。 8.8点 メビウスの環 冷たい仲の俳優夫婦は本当に殺し合って(?)いるのか。。 んーー .. 連城期待値のクライテリアでは物語と文章要素は俗に過ぎ、ミステリ要素はヒネリが無さ過ぎで凡作範疇。。。 と思うと最後の思わぬ●●●●●趣向に討たれます。 でもやっぱどこか弱い。 7.2点 依子の日記 復員後、田舎に隠遁して仕事を続ける著名小説家とその妻、そこを訪れる編集者の若い女。 物語は、この女を殺そうと夫婦で決意した日の「妻の日記」から始まる。 女の豹変と過去の重圧、そして嫉妬、事件、新たな苦悩に新たな疑惑、そしてまさかの、新たな、、、、 新たな、、 目視水深を遥かに超えて渦巻く闇の嵩張りに包まれちまう、こりゃあディープな一篇。 9.4点 著者によるあとがき、推理小説を書くきっかけとなった父親の話、風のようにさり気ない筆致が泣けます。 |
No.816 | 6点 | 西南西に進路をとれ- 鮎川哲也 | 2018/05/30 00:14 |
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昭和40年代後半から50年代初頭の準落穂拾い短篇集。
最初の倒叙3篇、つかみは堅実、中盤は実に面白い展開なのだがオチ(どうしてバレたんでしょうか?)でズッこけるというこの頃の鮎川倒叙悪癖典型のような作ばかり。でも最後に行くまではどれも妙に面白いんです。 ワインと版画/MF計画/濡れた花びら/猪喰った報い/地階ボイラー室/水難の相あり/西南西に進路をとれ (集英社文庫) 後半順叙篇の方が、物語の面白さはまた別として、ミステリとしての締まり具合はぐっと上。とは言えやはり何処か気を張り通せなかったよな緩みのちらつく作品が目立つ。そんな中でも相対的に際立って見えるのが「水難の相あり」。昭和のスキー場をメイン舞台とした謎多き魅力的な犯罪物語だが、それにしてもラスト近くまで不可解なタイトル(スキー場で水難とな?)の意味が明かされるシーンにはアリバイ偽装暴露の創意が光り、感動します。。 惜しむらくは最後の表題作、「本当はA地点までドライブしたのをB地点までと錯覚させる」のが肝なのですが、こりゃひょっとして鮎川三十年代黄金短篇群に匹敵する大きな心理的アリバイトリックに蹂躙されるブツではなかりしかと、ごくうすぅーく期待もしてみましたが、、まさかそんなチャチい小物理トリックがネタとはな!!(やってる事自体は結構壮大なんですけどね) でもトリックが明かされる工程にゃ妙にスリルがあった。 そうさ、短篇集にリアルタイムで収められなかったブツを後年集めた本だそうだが、どの作も決して詰まらなくは無いのさ。 |
No.815 | 4点 | 三重露出- 都筑道夫 | 2018/05/26 19:20 |
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こりゃ期待しますよ、作中作趣向は普通のナニとして、その作中作ってのが現実世界の探偵役(翻訳家)が絶賛翻訳進行中(!!)の忍術スパイ小説で、そん中に探偵役の昔の知り合い(謎の死ないし失踪?を遂げた女)らしき人物が登場、翻訳を進めるうち現実の事件を解く鍵が見つかるんでないかと翻訳家は気を張り眼を凝らしつつ、現実世界でもワトソン役(事件当時から友人)の助力を得て当時の状況に追想と推理を巡らす、、という素敵な複雑構造。 そりゃあ、期待しないわけが無いでしょう。。 無いでしょう。。。 無いでしょう。。。。 ‘61のシボレーインパラが登場するのは良かった。 ラストはまさか某奇書を意識しているのか?? |
No.814 | 7点 | ノア・P・シングルトンの告白- エリザベス・L・シルヴァー | 2018/05/25 23:08 |
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こりゃスッキリしないですよ。 モヤモヤし過ぎであるが故に、これ言ってもひょっとして事実上ネタバレにならんのかも知れんけど、或る弁護士が或る事をズルズル延ばし続けた理由は或る事(物語の核心)の或る種共犯関係を確認したくないような、したいような、告白したいような、そんなスッキリしない気持ちに支配されていたから、なのでしょうか? またもう一人の弁護士の役割は、前述の共犯関係の暴露に近づきかけた挙句、用心のため排除されてしまった脅威的存在ってこと? 主人公の父は、その経緯すら気づかなかった哀れさの象徴か?? 〝あの瞬間、わたしはたくさんのことを悔やんだ〝。。
死刑の日取りが半年後に迫った独房の主人公(ノア・P、35歳女性)は、牢獄生活ですっかり錆びれた頭脳で(昔は優等生だった。。)、なお色彩豊かにおかしな比喩でいっぱいのモノローグを紡ぎ続ける。彼女の助命に奔走するのが、彼女が殺害した女性(同じ大学に通っていた)の実の母親という不可解。。。。 「父親になりたいのなら、とっくになってたはずでしょう。」 出だし数頁から叙述足取りの揺らぎは本当に惑わせる。 叙述遊興でも、きっと叙述欺瞞でもない(かどうか。。。)叙述の揺さ振りによる真相プロービング、 それも初期も初期から飛ばし過ぎやでえ。。。 目次の無い事が暫時、気になって仕方が無いんだぜ。 やっぱり、 こいつ(主人公)が、結局執(や)られるのか否か、或いは別の成り行きで死ぬのか、もしくは。。 ああー、もう言わねえよいちいち。 え、何故そこで、被害者の名が。。 “パットスミス”なる造語(いや、アダ名)には笑ったが、そのパットスミスの踏み行かねばならなかった、運命の茨道よ。。 原題は’THE EXECUTION OF NOA P. SINGLETON(ノア P. シングルトンの処刑)’。ただ英語の’EXECUTION’は際どい所で必ずしも’処刑’を意味するとは限らない。 ノアが何らかを’執行’しただけかも知れない。そのあたりの微妙さを活かした邦題’~~の告白’はGOOD JOB。 のあぴーの収監番号”10271978”は、 奇しくも藤原道長没年とサザンオールスターズ音盤デビュー年を並べてくっつけた数字の並びです。これには心底驚きますが、本作のエンディングにはあまり大きな驚きを持てない人が多いかもしれません。または別の意味でびっくり、と来るかも。 ま、人それぞれさ。 住んでる国の違いもあるかも知れないサ。 現代米国ミステリ。 |
No.813 | 7点 | 不安な産声- 土屋隆夫 | 2018/05/24 05:59 |
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こりゃのめり込むよねえ。。。。 出だし’告白開始の合図’からもう、期待感という名の巨大な絶壁が目の前に立ちはだかりますよ。あせらなくていいから、ゆっくりじっくり崩壊に向かってくれ、絶壁よ。。
人工授精の業績で名を馳せる大学教授は何故、出遭ったばかりの女性を し、更には、、、、のみならず、、、、、、、、 ところが、、、 一見平凡のような章立て「過去の章」「現在の章」「犯罪の章」「未来の章」もよくよく練り込まれています。 若い女性の殺害を認めつつ、“千草姉さんに申し訳が立たない”と何度も悔やみつつ、偶然同じ名の千草検事には事件の核心を隠し続ける教授。 遠い過去、亡くなった姉さんの復讐を動機に、或る非道極まりない行為を犯した教授。 更に過去、ラジオ番組に出演して人工授精を取り巻く諸々について一席ぶち、一躍セレブリティ(有名人)の座に躍り出た教授。。 もしも本作を、常道の本格推理形式に再構築したらどうだろう、とか、読了前から早くも妄想炸裂気味になっていました。それだけ内容重厚で魅力溢れる中盤の展開だった、というわけです。 そうそう、アリバイ崩し基調の本格要素がどっどどどどうと雪崩れ込んで来る「犯罪の章」、そこに見えるトリックこそ小粒ではありますが、それまでの心理ミステリー風横顔から急展開ならではの味わいが思いのほか深く、小説全体に一層の彫りの深みを与えていました。粋だ。 さてここからはっきり【【ネタバレ】】になりますが 謎の核心である「初対面の人物を殺害した背景」が成功確信犯ではなく事故(人違い。。)だったなんて。。。(しっかり伏線が張ってあったのが逆になんとも)ここで、動機の堅牢無比な筈の意外さが、断崖絶壁の幻想からせいぜい工事現場の立入禁止フェンスへと一気に萎んでしまう口惜しさや! せっかく中盤でグイグイ引っ張っといて、結末で不意に手を離された、昔のスキー場のロープトウ(ご存知の方は?)電気系統がブレイクダウンしやがったみたいな気分です。 ま例えば、てっきり千草姉さんとこそ何かあったんでないかと冒頭から仄かに匂わせるのは純粋にミスディレクションとして成功してるのかも知れないが、、もちろんそこだけじゃないんだが、、うむむ。。。 おまけに、追い討ちを掛ける、あまりに見え透いた最後のオチ。。 結末にたどり着くまでの非凡なる面白さを勘案し、献上する得点はそれなりです。 |
No.812 | 6点 | せどり男爵数奇譚- 梶山季之 | 2018/05/19 10:37 |
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おいら、人様の病膏肓(やまいコーコー)趣味話をうかがうのが好きでしてねえ。自分は絶対そこまでしねえよ、と呆れつつ、その道の専門家様が滔々と語り紡いでくれる魅惑のストーリーにはついウットリ聴き入ってしまうのでございます。。なわけで、ハイエンド古本売買の魍魎世界に材を取り、薄ッすらミステリ香漂う本書は私にとってマグネット効果覿面のちょっとしたB級グルメはしごツアーなのでございました。
色模様一気通貫/半狂乱三色同順/春朧夜嶺上開花/桜満開十三不塔/五月晴九連宝燈/水無月十三么九 本書、前述した如く、探偵小説要素は霞のようにうすら淡い短篇が主体ではありますがその淡さこそ、えも言われる魅力の大事なバランサー要素でございますね。そんな中で突出してミステリ領域に喰い入って来るのが「十三不塔」。これは異色作ですが、一般娯楽小説に近い他の作品群と連環してみなそれぞれの読み応えがあります。 尚、全作とも麻雀の上がり役に因んだ表題が付けられており、それぞれのストーリーを暗示しておるわけで。。。(みんな、もっと麻雀しようよ!) 清張譚との接点が何気なく連発するのも魅力です。 近年「ビブリア古書堂」で言及され、知名度が回復しました。 |
No.811 | 7点 | ガラスの鍵- ダシール・ハメット | 2018/05/06 23:28 |
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高名な拷問~逃走のくだりに差し掛かる予兆のあたりから物語の内燃機関躍動が露わに。ネタは上院議員選挙区の内幕。滋味溢れる犯罪真相追及の道筋にはハードボイルドミステリなる肩書への裏切り一分も無し。表題の由来が、本作の最も頑強な柱である「或る友情」とは別方向にあったのはスカされた気分だが、その別要素と不可分のエモーショナルなラストシークエンスは胸に残る。 |
No.810 | 4点 | 殺人のスポットライト- 森村誠一 | 2018/05/05 20:08 |
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新宿のホームレス達が知恵を出し合い、自分たちが棄てた筈の’社会’で起こる事件に解決の光を当てる連作短篇。森誠の筆でこの設定にしては社会派要素は抑制されている。が本格推理としても薄味。妙に記憶には残る。
題名が何だかホームレスと直接無関係で中途半端なのは、作者のアンチ逆差別的な心に依っているのかも知れないが、まあ確かに「宿無し探偵の事件簿」なんてのよりはずっと読む気にさせる(私の場合は、ですが)。 |
No.809 | 8点 | 百舌の叫ぶ夜- 逢坂剛 | 2018/05/04 21:14 |
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露骨極まりない叙述ギミック! そこで殺すんかい。。。(これかてちょっとした叙述ギミックやで) 時系列の揺さぶり、半端ねえ。。。。。 骨格も豊かな●●欺瞞があっさり暴露されたかと思えば、その隠された位置エネルギーを遥かに上回る甚大な謎また謎をひっくり返す運動エネルギーにどこまで押し寄せられるのか分かりゃえしねえ。。。。 “生き物のようにうねる●の●”。。。
ラストシークエンス、小説的多幸感に直結しそうな”多主人公感”に苦笑する瞬間があるも、一蹴。 とは言え後に思えばやはり主人公トゥーマッチな感はあるが。。やはり面白さの力で完全凌駕。 最高の冒険本格ミステリにして、痛切の社会派ダークファンタジー、傑作でございます。 集英社文庫の作者後記に露骨なトリックネタバレとささやかな粗筋ネタバレとが配備されてある故、幸せであるべき全ての初読者諸氏におかれては是非とも各其注意深さを発揮し、時ならぬ不運に襲われる痛恨なきことを! |
No.808 | 6点 | メグレ罠を張る- ジョルジュ・シムノン | 2018/05/03 11:37 |
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冒頭、メグレが洒落たことをする。 謎解きの展開もある種洒落ており、、途中で早くも大味な真犯人決め打ちで終了フラグかと思いきや、応用編フーダニット(●●殺人●●●●●●真犯人●●●●●●●●●誰か?)の二段階ヒューマンドラマ興味が読者に追い付いて来た。。。 だが最終局面、追い詰める畳み掛け、あからさま過ぎること詰め将棋の如しで味わいの深さを少しだけ損なったな。。 もっとモヤっとしてもいいのに。。 なんてね、そりゃ多作家の自由だよな。
‘マゼ’って名前の奴がどうにも’MOD’S HAIR’を思わせてクスリしました。「半ライスおかわり」みたいなシーンにはちょっと笑った。途中から”あの人物”が、オリラジ藤森が演じてるイメージにはまって仕方無かったな。。 |
No.807 | 6点 | 愚行録- 貫井徳郎 | 2018/05/02 08:46 |
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個人的にイヤミスってのはスカッと爽快になりたい時に(80年代のヤングが山下達郎を聴く感じで)読みたいもんなんですが、本作はあまりに文芸として優れているせいか(?)中途半端に嫌な気持ちを沈殿させたままで終わるのか。。と思いきや最後に、嫌悪よりも哀しみの方角に大きく舵が切られ、おかげで読者の気持ちは美しく締まった。。。。ってそりゃなんて理不尽な感動だ!! 被害者夫婦の裏の顔みたいなものは、おぞましいとは言えないレベルではないかな(ストーカー撃退の件は若干エグかったですが)、その割に、結果として引き起こされた犯罪の限り無い重篤さ。。。その根本原因は被害者よりも犯人側の育ったあまりに悲劇的環境の方に大きく比重が偏っていますよね。そこに、ミステリとしては一抹の不満が。。 さて本作、真犯人が現在おかれている状況に一ひねり+αあるのが推理小説としての美点ですね。●●●●●●臭さを感じさせない、格調ある物語構成も良し。 |
No.806 | 7点 | 博士の愛した数式- 小川洋子 | 2018/04/30 10:13 |
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Viva特殊設定! 日常のちょっとした謎に、結構なサスペンスと、大きな感動。いかにも最後は泣かせげなストーリー振る舞いのくせに、無意識に流れる心のBGMは何故か明るい。素敵だ。素数だ。友愛数だ。。。。作者ならではの独特な’痛さ’や、ごく一般人の筈の主人公が作者自身並に頭の良過ぎる言動を晒すバランスのおかしさは見え隠れするが、それすらサスペンスの控えめな醸造に貢献。まるで逆イヤミスの様だ! 不謹慎のフの字も出ない障碍者ユーモアがこの世の中の愛おしい素晴らしい側面を描写する。作者らしい、羅列で心を揺らすテクニークもわざとらしく無さ全開で披露。中途には思いがけぬ大転回も!! 。。。。結末はブライトエンド過ぎて’ミステリファン受けする一般小説’とはイメージが直接絡み合わないかも知れないが、私にとっては、ミステリの原色虹色を吸いきった絵筆をひたす洗い水の必要善の如し。この味わいは私に必須の癒しエレメントに違いない。8時間で記憶が消える数学者とその家政婦とその息子、そして●●●の●●の物語。 我が老父も阪神ファンであることを思わずにいられない小説でもある。 |
No.805 | 6点 | 本命- ディック・フランシス | 2018/04/29 21:41 |
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第12章ラストシーンのヘンリイ(ガイシャの息子)には泣けた。
黒幕が挙がっておしまいかと思いきや、むしろその手下級暴露で二重底の謎がやっと解決というヒネリある構成。 その手下の方、たしかに強烈に意外な犯人だったが、まさか犯人ではないと思い込ませる技倆は大したものだが、、ちょっとイヤだったな、そいつが真犯ってのは。。。。 でもラストショットの友情発揮は良かったよ。明るい冒険ミステリをありがとう。オールドソウルファンとしてはL.C.クックを思い出す名前の会社が妙に心に残る。 |
No.804 | 7点 | おやすみラフマニノフ- 中山七里 | 2018/04/28 10:12 |
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【ネタバレだね】
真犯人は見え見えかとプチ落胆しつつ。。動機も結局ナニかと。。 ところがだ、大胆無双に響き渡っていた社会伏線に実は包囲されていた大いなる動機と全体像。。。やられた! と思った矢先に、まさか無かろうと警戒心が弛緩しきっていた●●トリック炸裂!! こひゃまひった!!! 妙~に甘軽かった前半の筆致もそういう伏線だったのか。。。。 そのうち「抱いてくれスクリャービン 」とか「ふざけるなプロコフィエフ」もお願いします。 |
No.803 | 5点 | 密会の宿- 佐野洋 | 2018/04/27 00:45 |
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ご内聞に/乱れた末に/残念ながら/お手をどうぞ/知らぬが仏/論より証拠/虚栄の果て
(徳間文庫) 昭和の’TSUREKOMI’を舞台にした短篇シリーズ第一弾。日常の謎もどきからささやかな犯罪、警察沙汰の顛末まで、時には人も死ぬ(まあこの手の場所には付き物)。 主人公は宿のおかみ(ワトソン+α)と同居する男(ホームズ+少しジーヴズ)、決して個性が際立っちゃいない二人の造形はなかなか温かい。思わず膝を打つような瞠目の展開や真相は見当たらないが、意外な所で変化球を見せるなどして単調さを緩和。が、やはりファン向け、且つ読み捨て上等かな。それでいい。 |
No.802 | 8点 | 黒猫・アッシャー家の崩壊 -ポー短編集Ⅰ ゴシック編-- エドガー・アラン・ポー | 2018/04/25 18:22 |
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黒猫/赤き死の仮面/ライジーア/落とし穴と振り子/ウィリアム・ウィルソン/アッシャー家の崩壊
(新潮文庫) 普通に世界文学名作撰の様相だが、割と気安く読めます。 私はやはり、二つの数学的ファクターが(一つは鮮やかに、一つは地味に)抜群のサスペンスと結託した某作が一番ですかね。 しかしまあ、モルグ街等のミステリ系統作品でなくとも、ミステリとその近隣文学に圧倒的影響をもたらしているんだっちゃなあ、とつくづく思いますね~~ |
No.801 | 8点 | ウは宇宙船のウ- レイ・ブラッドベリ | 2018/04/23 12:30 |
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読み返せば幸せになる本。 著者みずから青少年枠で過去短篇集から編んだアンソロジーですが、大人が鼻白むようなジュヴナイル臭などありません。責任ある年長者の立場から子供目線~青年目線~大人目線を尊重し、家族の絆や支え合いを基調とする、著者の真骨頂たるユビキタスな詩情でキラキラした一冊。
「ウ」は宇宙船の略号さ/初期の終わり/霧笛/宇宙船/宇宙船乗組員/太陽の金色(こんじき)のりんご/雷のとどろくような声/長雨/亡命した人々/この地には虎数匹おれり/いちご色の窓/竜/おくりもの/霜と炎/タイム・マシン/駆けまわる夏の足音 空間中を満たす、父と息子、そして家族の哀感あふれる慈しみ合い。。やさしき致死量曲線が直線としか見えなくなる悪魔の時間。。時空を超える仲間たちへの進行形ノスタルジー。。 抒情や、時にしっとりした怖さを誘う宇宙系の物語も魅力だが、タイムトラベル系作品の放つクリスピィなユーモアはリズミカルな別の詩情を伴って現れる。 ハードSF風某作では寿命に関する特殊設定が切なさをキリキリさせる。実生活で切なさに襲われるのは確かに、特殊な前提に囲まれた時だ。エンディングは希望を伴う難解の心地良き。。 某作に登場する「カミナリ予知の音」、俺も好きだぜ。(音楽の中にこれと通じるヴァイブを感知したら最高にシビレるぜ) 待ってて、今ぼくもそこに行くからね! と大きく手を振りたくなる素敵なファンタジーの数々。 どこを切っても、とは言わずとも全体的に本当にキラキラしてる。逆松本清張と呼んでも過言ではない。 邦題ですが、これは結果論かも知れませんが「ロはロケットのロ(R Is for Rocket)」「ウは宇宙のウ(S Is for Space←後年の短篇集)」だったらそのまま過ぎて微妙に詩情が醸されませんよね。やっぱり「ウは宇宙船のウ」「スはスペース(宇宙)のス」がブラッドベリ的に正解でありましょう。 |
No.800 | 4点 | 失踪者- 折原一 | 2018/04/05 19:44 |
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優等生の叙述トリック。社会派サスペンスとして割とスリリングに読めたけど、最後その勘所は予想以上にひっくり返された。(生身の人間共が急に記号だらけに化けちゃって) 社会派上等のまま叙述マジックを完遂させてくれたら数段上の好みだった。でもいいさ。にしても「少年A」などというソーシャルイシュー感丸出しの呼称そのものが叙Tにゃうってつけの小道具なんだよな。「ユダ」だの何だの言う署名も然り。おまけに、少年犯罪が時代を越えて繰り返すという義憤直結構造まで。。
小説として確かに長過ぎる(まだまだまだ凝縮出来る)感はあるけれど、叙述欺瞞の心理的側面として必要なんでしょうね、この冗長さが。(でもスタスタ読み易い) 振り返れば、イマイチ。 |
No.799 | 8点 | 兄の殺人者- D・M・ディヴァイン | 2018/03/30 12:30 |
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真相究明ロジック披瀝、その丁寧な仕事の心意気に打たれ、犯人カンで当たっちゃった怨みもふっ飛びました。 真犯人意外性よりも真相の意外性、その全貌の思いのほかの深さ。 また一見大味な大小トリックと緻密なロジックとの連関も極めてクレバー且つ感動的。 道具立てを見りゃ時代物のアリバイ工作も、推理小説での使い方の勘所は古びてない。 大胆伏線の繊細な置き場所が、読み返せば初夏の海の様にキラキラ輝いています。 ラストシーン、ご都合っぽいけど素敵。
【ここより強いネタバレ】 原題(My Brother's Killer)、邦題ともなんだかダブルミーニング的微妙な表現な気がするんですが、これもミスディレクションなのかしら、無意識にどこかで「主人公=語り手=被害者の弟が真犯人では。。」と疑わせてかなり強力な目くらましに。 それと、紛れもなく重要な登場人物が中盤からやっと登場し、”十戒”厳守だったらこれは真犯人ではないなと感じつつ、いつの間にかそれ(途中出場の人物が犯人)も全然アリそうな展開に自然となっていたりとか。。 クリスティ技の伝統を処女作から強力に引き継いでいたわけですね。女史が絶賛したのも納得です。 |
No.798 | 6点 | 脱税者- 佐賀潜 | 2018/03/27 12:17 |
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昭和三十年代も終盤、戦前から因縁たっぷりの裏金融大物二人が政界巻き込み鎬(しのぎ)を削る物語。金融の専門用語使い熟(こな)しがまるで武器やクルマを語る言葉の如き魅力で飛び交う様は快し。
主人公紹介を兼ねたトリッキーな尾行シーンからスピーディーな序盤展開、中盤はメンタルな格闘シーンと呼びたい頭脳プレーの応酬に恋愛模様の機微が彩を成し、どうにも物語全体の違和感が噴出し始める頃にはもはや手の打ちようが無い断崖絶壁の最終コースへ。。。 ラストシーン、或る決意を内に固めての引きは刺激有りだが、、同じく往年の社会派推理人気作家でも在野に徹する清張とは異なり、体制側出身ならでは(?)の、清張なら迷わず抉るか衝くであろう奥まった部分は無暗に匂わせず無難に幕引く筆さばきをこそ見事と読むか、或いは物足りないとするか。 |