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名探偵ジャパンさん
平均点: 6.21点 書評数: 370件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.250 4点 アンデッドガール・マーダーファルス2- 青崎有吾 2019/02/01 21:47
刊行以来、長らく登録されていなかったのですが、やっぱり内容が問題だったのでしょうか。
前作において異彩を放っていた「特殊世界でのミステリ」という要素は綺麗さっぱり消え去っていました。ミステリっぽい部分は、ルパン対ホームズのお宝をめぐっての戦い(頭脳戦)のみ。後半は特殊能力を持つ超人同士の戦い(物理)という、ラノベみたいな展開になってしまいます。
続刊以降どうなるのか分かりませんが、本巻だけを取り出せば、「SF/ファンタジー」というジャンルにカテゴライズせざるを得ません。

No.249 4点 ラガド 煉獄の教室- 両角長彦 2019/01/31 20:31
「いったい、どこに着地するつもりなのだろう……?」と興味を持ってページをめくっていたら、どこにも着地せずに、はるかかなたまで飛び去って見えなくなってしまった。そんな感じでした。……何を読まされたんだろう(笑)。

読んでいる最中は、それなりに楽しませてもらっていたので、5点(まぁ楽しめた)にするか迷ったのですが、やっぱり、仮にも「ミステリー」と名のつく賞の受賞作としてはどうだろう? という思いが勝ってしまったため、この採点となりました。

No.248 6点 六とん2- 蘇部健一 2019/01/23 23:37
これが初出した時代は、きっとみんなピリピリしていたんだと思います。

前作『六枚のとんかつ』を読んだときも思ったのですが、今の時代、これらに収録された「バカトリック」を思いついた作家がいたとしたら、短編から中編の(しかも、大真面目な!)ミステリに仕立て上げて平気な顔をしている人、大勢いると思います。
本作の作者は、これらが「バカトリック」だと自認して、ショートショートレベルの紙幅に収めているから良心的ですよ。
そんな中でも「読めない局面」なんか、かなりいい線いってると思います。作者自身、あとがきで「伏線がない」とセルフ突っ込みをしていますが、些細な問題だと思います。

三部構成の中で、ミステリ色が最も薄い「グループC」に傑作が多いというのは、SF(?)こそが、この作家の真骨頂ということなのでしょうか。特に「叶わぬ想い」のオチが凄すぎます。

話は変わりますが、かつて、ミスター高橋の「八百長本」や、ガチの戦い(とされている)総合格闘技の台頭により、2000年代前半頃から絶滅寸前まで追い込まれていたプロレスですが、今や完全に復活して、その人気は全盛期といわれた80~90年代を凌ぐ勢いだそうです。
本作の出版もそれと重なる2005年。当時は、あらゆる曖昧さを許さない、「ガチでなければ存在意義がない」という感覚に支配されていた時代だったように思います。前作のときにも書きましたが、やはり「生まれた時代が悪かった」のではないでしょうか。

No.247 6点 使用人探偵シズカ 横濱異人館殺人事件- 月原渉 2019/01/19 23:51
読み始めてすぐに「綾辻行人のあの作品みたいだな。○○の人も出てくるし」と思っていたら、「その○○の人が実は○○で」という、ある意味お約束まで踏襲していてびっくり。これはオマージュと言っていいのでしょうか?

舞台設定や雰囲気からして、もっと紙幅を使った大作向きだったのではないかと思うのですが(もしかしたら作者はそのつもりでも、編集から「もっと短くして」と言われた可能性も)、割とあっさりめに終わってしまいました。
しかしながら、このトリックでこれ以上長くされても、とも思いますので、この量で正解だったのでしょう。
とはいえ、作者の「王道本格を書く」という気持ちは伝わってきました。シリーズ続編も読んでみようと思わせます。

No.246 7点 交換殺人はいかが? - 深木章子 2019/01/16 14:11
単行本の「いかにも子供だまし」みたいなイラストに反して(私が読んだものは文庫版でしたが)、なかなかに本格的なミステリでした。
中でも表題作がやはり一番の出来で、もっと膨らませて中編くらいにしても耐えうるネタです。
孫が次々に出してくるお題(?)に、しっかりと答え、事件の詳細から関係者の名前まで、全て記憶しているこのお爺さん、ただ者ではありませんし、口頭での説明だけでは小学生には理解が難しいのでは? と思えるような入り組んだ話にも、しっかりと食らいついて別解を出してくる孫も相当な大物です。

正直、第一話のバカミストリックを見たときは、このまま読み進めてもいいのか不安になりましたけど(笑)

No.245 6点 襲名犯- 竹吉優輔 2019/01/16 13:56
地の文の文体や性格描写、過去の体験などから、主人公は相当なハードボイルド系探偵をイメージしましたが、実際は図書館司書で、迷子になった幼い子供に絵本の読み聞かせまでしてあげるという、このギャップに萌えました(笑)
サスペンス的に盛り上がるストーリー展開でしたが、犯人の犯行動機は取って付けた感ありありで意味不明。「それをやることで誰がどう得をするのか」と問い詰めたいこところですが、「だってサイコパスなんだもん」と返されて終わりでしょう。ミステリでなくサスペンスなので、こういう逃げも許されるので別にいいのですが。
読者にはほぼ推理不可能ですが、一応、意外な犯人や叙述トリックのミステリ的要素もあります。
もっと短くまとめられれば、疾走感のある傑作たり得たかもしれません。惜しいです。

No.244 7点 Killer X- クイーン兄弟 2019/01/08 20:30
漫才コンビみたいな名前ですが、現在この名前は使われておらず、光文社文庫版では黒田研二と二階堂黎人の合作名義になっていますね。

内容は、色々な意味で凄いです。
まず、作者二人の「読者を騙すぞ!」という鼻息の荒さが凄い。私自身は、あまり「騙し騙され」に特化しすぎたミステリは胃もたれしてしまうほうなのですが、ここまでの執念を見せられたら素直に感服します。
次に、叙述が凄い。もう途中から「これ叙述トリック使ってんな」というのが見え見えなのですが、その使われどころが凄い。一応、トリックのための叙述ではなく、叙述トリックが使われる理由が作中で説明されるのですが、だとしたら、こんな叙述トリックにうってつけな舞台が(作中の現実に)整ったことが奇跡的に凄いですよ。
最後に、バカミスとして凄い。叙述トリックのネタが割れたあとに読み返すと、これは言い逃れ不可能なバカミスになりました。シゲルちゃん(笑)。「うあああ……」(笑)。思い出しただけで笑えます。

黒田研二のぶっとび加減に二階堂黎人が説得力を与えて、二階堂黎人のアクの強さを黒田研二が抑えています。この二人、まさかのベストマッチだったようですね。

No.243 6点 ナナフシの恋- 黒田研二 2019/01/04 15:08
黒田研二の魅力は、いい意味で虚構然としたトリックと内容にあるのですが、今回ばかりはそれが悪い方向に作用してしまった感じです。
特にメインの殺害トリック(?)なんて、文章だからさらっと読み流してしまいがちですが、その場面(○○を持ち上げて……からの一連の流れ)を想像したら、もうこれは言い逃れ不可避なバカミスです。もし実写化したら爆笑間違いなしです。その持ち上げた(持ち上げられた)理由も、ほとんどSFかオカルトの領域。

ストーリーも最後、無理矢理いい話的にまとめようとしていましたが、あの荒くれ生徒を好意的に捉えることは普通の読者には不可能です(「自分から飛び降りたから、俺的には無問題」って、そうなった原因は間違いなくあなたにあるでしょ)。

全体的に読者の興味を引くトリックや仕掛けはいい線いっているのですが、作品の中核をなす「人間ドラマ」がめちゃくちゃです。こういうものが「有識者」の目に留まると、またぞろ「ほれみろ、だからミステリなんてものは人間が描けていない云々……」

No.242 5点 探偵は教室にいない- 川澄浩平 2018/12/16 16:41
ジオン脅威のメカニズム、量産型ザクの如く、どんどん大量生産され続ける「高校生と日常の謎」ものミステリ。
今年の鮎川哲也賞受賞作は悪い意味で予想外でした。

キャラクターも謎も文章も、全てが「60点前後」の非常に手堅い作品です。これを商業出版するとして、まず、反対する編集者はいないでしょう。確実に一定の支持、売上げを見込める出来映えだからです。既存のプロ作家が本命作の構想を練っている間に、糊口を凌ぐ意味で書いたものであれば、すこぶる納得できる作品です。
ですが、天下の「鮎川哲也賞」ですよ。「新人賞」です。

かつて同賞の審査員も務めたことのある有栖川有栖は、「新人賞に求めているのは、まず『斬新さ』」であると言い、その理由として、「普通に『上手い』ミステリを書く作家など、プロに掃いて捨てるほどいるから」と「プロが審査したうえで『これは新しい』と唸らせるものでなければ、出版社が経費と時間をかけて新人を発掘する意味がないから」という趣旨の発言をしています。
それを鑑みたうえで本作を読んでみると、どうでしょう?

私は「鮎川哲也賞」は数あるミステリ新人賞の中でも、特に(唯一?)ストイックな賞だと思っていました。普通、出版社としては、こういった賞レースにおいて、話題作りの(と、賞にかけた経費を無駄にしない)ために、なるべくなら「受賞作なし」を避けたいはずです。ですが、過去を振り返ってみれば、鮎川哲也賞は結構な割合で「受賞作なし」を出してきていました。それゆえ「ストイックだなあ」と感じていたのですが。昨今の出版不況の折り、東京創元社も、そんな悠長なことを言っていられなくなったのでしょうか? 数年前であれば、今回の鮎川哲也賞は「受賞作なし」で終わっていたのではないでしょうか。

誤解を招くといけないので最後に書いておきますと、私は本作を決して「つまらない」と感じたわけではありません。ただひとつだけ、「鮎川哲也賞」という看板を背負うに足る作品(ミステリ)なのか? に疑問を呈したいだけです。

No.241 7点 ウェディング・ドレス- 黒田研二 2018/12/01 22:13
二人の主人公それぞれの視点で物語が進行していくのだが、徐々に「同じ場面」を描写しているはずなのに齟齬が生じてきて……。
こういう展開はまさに往年の「メフィスト賞」っぽくて好きです。読者だけでなく、作中の人物も「きちんと騙されている」という仕掛けはうまく考えてあると思います。
とてもいい感じで真相まで進んでいくのですが……密室トリックでやってしまいました。「うわー、やっちまったなー」と読みながら叫んでしまいました。比較的リアルな世界の中に、いきなりあんなトンデモトリックを出されても……。「機動戦士ガンダム」の敵メカに「マジンガーZ」の機械獣が出てきたようで、違和感がすごいです。
あらゆる謎を成り立たせるためのご都合主義(個人的にはこれくらいなら許容範囲でした)よりも、こっちのほうが気になって仕方がありませんでした。

No.240 7点 大癋見警部の事件簿- 深水黎一郎 2018/11/24 22:49
好きか嫌いかで答えろと言われたら、私は好きですね。
ただの「クズトリックのバーゲンセール」で終わらず、登場人物たちのドタバタ、特にメタ発言などで笑いを交えながらの展開に、「それ(バーゲンセール)だけでは読者に申し訳ない」という作者の矜持が見えます。
本格ミステリを知っている読者は笑え、本格ミステリ初心者も各話に出てくるミステリ用語の勉強になる(?)、隙のない作りになっています。

※以下「CHAPTER3 現場の見取り図」についてのネタバレがあります!



ただひとつ、「CHAPTER3 現場の見取り図」だけはいただけません。犯人だけ姓名ともに記載しているというのはアンフェアなのではないでしょうか。であれば他の人物も姓名揃えて表記するべきです。

No.239 7点 検察側の罪人- 雫井脩介 2018/11/13 09:27
納得がいきません。
最初こそ取っつきにくくて読むのを億劫に感じていたのですが、事件が動き出してからはほぼ一気読みさせられました。
それだけ没頭し、二人の主人公どちらにも感情移入して読んでいただけに、ラストはどうしても許容しがたいものでした。
こういう形のエンタテインメントもあるということは十分理解しているつもりですが、私自身の肌に合わないというか、乱暴で頭の悪い言い方を許してもらえるなら「生理的に無理」です。こういう作品をうまく自分自身の中に落とし込み、楽しめるのが大人の読書家というものなのかと思います。私はやっぱり、「絶海の孤島に建つ怪しい洋館で密室殺人が起こり、偶然居合わせた素人探偵が謎を解く」みたいな荒唐無稽なミステリのほうが性に合っていると感じました。
とはいえ個人的な感情はともかく、低い点数を付けるべきではない、力のある作品であることくらいは私にも分かりますので、ギリギリ譲歩して7点とさせていただきました。

No.238 7点 臨床真実士ユイカの論理 ABX殺人事件- 古野まほろ 2018/10/30 14:21
この作家の作品は、もう何年も前に『群衆リドル』を読んで、「なんじゃこりゃぁ!」と呆れたことがあり(猿って……)、その後『天帝のなんちゃら』という分厚い本を手にとったのですが、そのあまりの読みにくさに数十ページで投げ、それ以来距離を置いていたのですが、きっかけがあって本作を読んでみました。
これは面白いし、しかも読みやすいです(『天帝なんちゃら』と同じ作者だとは信じられない)。主人公が持つ特殊能力ありきな内容ですが、それを踏まえたうえで十分ミステリとして楽しめました(この能力、主人公が関係者に片っ端から「あなたが犯人ですか?」と聞いて回ればすぐに事件解決するんじゃないですかね?)。
タイトルからも察せられるとおり、クリスティの永遠の名作『ABC殺人事件』をフォローしていながら、作者独自のスタイルを取り込み昇華させています。ラストのラストまで気が抜けない返し技の連続も現代ミステリっぽくて、幅広い読者層に受け入れられそうです。ライトノベルレーベルで出ているのがもったいない傑作だと思います。
ただ、私も主人公の、いかにもオタク好きする口調、口癖にはイラッときましたけど(笑)。

No.237 4点 聖女の毒杯- 井上真偽 2018/10/30 09:01
こういう作品に対する評価って、とても難しいのではないかと思います。(これを絶賛しないとバカだと思われるのでは……)そんな感情を抜きに(特にプロの作家は)本作を批評できるでしょうか。

前作に引き続き、とてもよく考えられています。まことに理路整然としていて、お見事という他はありません。でも、それがミステリ、さらには「小説」としての面白さに繋がってくるかというと……。
当然作者はそこのところの問題など「すでに考え」ていて、それを緩和するためのエキセントリックなキャラクターたちと、彼ら、彼女らのやりとりです。前作からこのスタンスが一切変わっていないということは、「このシリーズはこれで行くんだ」という作者の意思表明に他なりません。作者は二作目にして早くも読者をふるいに掛けたといってもいいでしょう。「ついてこられるやつだけついてこい!」と。

毒殺のトリック(捨てトリックも含めて)には、「これは」と思わせるものもあるため、作者はもっと、まっとうな(?)ミステリを書いても十分通用するのではないかと思います。

No.236 6点 その可能性はすでに考えた- 井上真偽 2018/10/25 22:37
文章の端々から高尚な感じが滲み出てきていまして、プロフィールを見たらやはり、作者は東大卒だったのですね。

キャラクターのアクの強さ、装飾過多な文章、後半にいくに従っての内容の複雑さと、作品としての癖が凄いです。特にキャラクターの造形と、一視点三人称で必要以上に迂遠な言い回しを多用した文体は、内容の複雑さを緩和させるために、ラノベ的柔らかさを出そうとしたのかもしれませんが、完全に逆効果です。カルピスの原液をハチミツで割った飲料を飲まされている感じでした。
ただ、内容についてはさすがの一言で、頭良くなければ書けない系、プラス、一周回って「バカミス」の領域にまで片脚突っ込むサービス精神の旺盛さ。これはこれで十分楽しめました。

それにしても、我が国の最高学府を卒業した英才に「バカミス」を書かせてしまうとは。改めて本格ミステリというジャンルの底知れぬ魅力に気付かされました。

No.235 6点 QJKJQ- 佐藤究 2018/10/20 12:18
いかにも一般の読者よりもプロ作家のほうが喜びそう、絶賛しそうな作品だなと思いました。
これは有栖川がよく言っていることですが、「公募作品にはとにかく斬新さを求める。普通にできの良いミステリを書くプロ作家など掃いて捨てるほどいるから」この言葉に照らし合わせてみれば、本作は、どストライクといえます。公募賞(江戸川乱歩賞)受賞も納得の出来映えです。
ただ、それはあくまでプロ作家の目を通してのことであって、ごく普通のミステリファンの私としては、「何だかうまいこと煙に巻かれたなぁ」という印象だけが残りました。
主人公の一人称記述でこういうことをやられると、「そりゃ何でもありでしょ」となってしまいます。どんな不可解、不可能に思える状況、事件も(とりあえずは)成立してしまいます。ちょっとズルイ。
とはいえ、6点付けたということは私自身、本作を「楽しめた」というのも事実で、たまにはこういうのもありかなと思ったりするのです。毎回だと勘弁して欲しいですけれど。

No.234 6点 新参者- 東野圭吾 2018/10/19 08:21
ドラマ化もされて有名になり、今さら多くを語る必要のない作品です。
確かにミステリとしては物足りず、とくに「本格ミステリの鬼」と呼ばれるほどのマニアな人たちからは敬遠されがちな作品です。ですが、たまにはこういうものもいいじゃないか、という気持ちにさせられます。
いわゆるマニア受けする本格ミステリが「着色料や添加物でギトギトのジャンクフード」だとしたら、この作品は「大衆食堂の定食」です。とんでもない安定感と安心感があります。

No.233 6点 22年目の告白-私が殺人犯です-- 浜口倫太郎 2018/10/17 20:03
興味深い設定と展開に引き込まれて、ほぼ一気読みしました。
映画が原作ということもあるのでしょうが、リアリティよりは盛り上げを優先したようなやりすぎな場面はありましたが、許容範囲です。
ただ、作者の本業が放送作家のためか、シリアスで重いテーマを扱っている割には、文章に軽さや拙さが見られる部分があったのも事実です。人物視点がころころ変わったりして少し混乱しました。プロの作家に書いてもらったほうがよかったのではないでしょうか(薬丸岳とか、テーマ的にもよいのではないかと)。

最後は一応、ハッピーエンドに落ち着いてはいるのですが、ひとつ言いたいことがあります。

※以下ネタバレがあります!



途中で主人公に愛想を尽かした元友人たちが、最後に戻って来る場面があるのですが、そこで「誤解が解けた」という意味のことが書かれているのはおかしい。
友人たちが主人公に愛想を尽かしたのは、「主人公が殺人犯が書いた手記を臆面もなく出版しようとした(そして実際にした)」からであって、その行動については完全に主人公の意思によるものでした(編集長に言いくるめられたのだとしても、最後に決定したのは自分の責任においてです)。
「誤解していた」のは主人公が殺人犯に対してであって、主人公と友人たちとの間には、そういった誤解は一切生じていなかったはずです。
言ってみれば、本気で殺すつもりでナイフを手にとって刺したけれど、そのナイフが実はおもちゃだったと分かったようなものです。この状況で刺された側が刺した側を「誤解だったね」と許すでしょうか?
ご都合主義にもなっていません。この友人たちはまるで、ハッピーエンドのために記憶を改竄されたかのようです。こういうのを「人間が描けていない」というのではないでしょうか。

No.232 6点 レミングスの夏- 竹吉優輔 2018/10/04 11:17
ミステリというよりは、少年少女たちのひと夏の冒険譚(と言うほど健康的なものではありませんが。がっつり犯罪を犯していますから)といった趣の作品です。

主人公たちが秘密の計画を遂行する理由が、最初は伏せられたまま物語が進行していくのですが、これは別に伏せておく必要はなかったのではないかと思います。逆に目的が伏せられているため「ここにミステリ的な大仕掛けがしてあるのか?」と無用の期待を抱いてしまいました。
主人公たちは、「計画遂行には犯罪を犯す必要があるため、人生を捨てる覚悟がある」と再三覚悟を決めたことを確認しておきながら、被害者の理解によって罪の意識が薄れ、最終的に無罪放免に近い形になってしまう展開は肩すかしです。こういうのをご都合主義と言います。

とはいえ、まだ中学生の主人公たちが限られた力だけで大人と戦い、計画を遂行していく様は見ていて(読んでいて)胸打たれるものがあります。なんだかんだあってもハッピーエンドに落ち着くところも、結果的に読んでいて救われた形になってよかったのかなと思います。

No.231 7点 虚像のアラベスク - 深水黎一郎 2018/09/30 20:00
公演を控えた名門バレエ団に「公演を中止しなければどんでもないことが起こる」という意味の脅迫状が届けられる。欧州から来る要人もその公演を鑑賞する予定であることから、警視庁の海埜警部補が警備の担当に当たることになって……

二編の中編で構成された一冊です。二編にストーリーのうえで繋がりはないのですが、必ず一本目の「ドンキホーテ・アラベスク」から先に読んで下さい(ちなみにラストに「史上最低のホワイダニット」というタイトルで別項が設けられていますが、これは二本目の「グラン・パ・ド・ドゥ」の続きですので、決して先に読んでしまわれないようご注意下さい)。
一本目の冒頭から、バレエに関する専門用語とその解説が執拗に書かれます。正直退屈なため読み飛ばしたくなるのですが、面倒くさがらずに、これらの用語(とそれらが意味するバレエ特有の動作)をしっかり憶えておくと、二本目がより楽しめます。その意味からも、絶対に一本目から順に読むことを強くお勧めします。

深水黎一郎の代表シリーズ「芸術探偵シリーズ」で、しかも発行から半年以上も経っているというのに、まだ書評がなかったのですね。ぜひこの感動を多くの人たちで分かち合いましょう。

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名探偵ジャパンさん
ひとこと
絶対に解かなければいけない事件が、そこにはある。
好きな作家
有栖川有栖 綾辻行人 エラリー・クイーン
採点傾向
平均点: 6.21点   採点数: 370件
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