皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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tider-tigerさん |
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平均点: 6.71点 | 書評数: 369件 |
No.7 | 8点 | 悪党パーカー/殺戮の月- リチャード・スターク | 2023/09/16 01:10 |
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『あんたらしくもないぜ、パーカー』by ハンディ・マッケイ
~二年前にアラン・グロフィールドと組んだヤマ。獲物の7万ドルはまだれいの遊園地(悪党パーカー/殺人遊園地参照)に隠したままだ。グロフィールドに声をかけて回収に行ったところ、金は消えていた。もちろん最寄りの警察署に届けられてはいない。街を牛耳るアル・ロジーニがネコババしたのに違いなかった。 1974年アメリカ。悪党パーカーシリーズの16作目。次作『エンジェル』(未読)の出版まで約20年待たされることとなるため、本作はシリーズの最初のピリオドともいえる。頁数といい内容といいシリーズの集大成に相応しく、エンタメとしてもシリーズ最高峰の作品。 7万ドルもの金を二年も遊園地に隠したままにしておくなんて……もっと早く取りに行けよと。それはさておき、本作は初期作『犯罪組織』の拡大再生産の趣あって、構成、敵方の造型、美味しさの秘訣などは通じるものがある。ただ『犯罪組織』はあくまで犯罪小説であったが、本作は冒険小説の色が濃い。 実は本作には少し違和感がある。悪党パーカーシリーズの傑作の一つであることは認めるものの、パーカーに緩みを感じなくもない。 厳格な規律を冷徹に守り抜く信念に揺らぎを感じるのだ。 冒頭に挙げたハンディ・マッケイのセリフのとおり。パーカーはマッケイのこのセリフに対して色々と言い返す。だが、冷徹なパーカーに狼狽の色が読み取れてしまうのは気のせいだろうか。そして、作者にも。 パーカーの緩みは何度か感じたことがある。それらは常にクレアかアラン・グロフィールドが絡んでいるときである。 ※『襲撃』の書評で雪さんがグロフィールドに苦言?を呈されていたが、自分もまったく同感。 クレアとアラン・グロフィールドはシリーズに彩りを添えた。だが、同時に緩みももたらしてしまった。世界を豊かにしつつ世界を破壊してしまうどうにも悩ましい存在だと思う。 ※クレアはまあどうでもいいが、アラン・グロフィールドは自分も好きなキャラではある。 『悪党パーカー/掠奪作戦』を読了。シリーズのパートⅠ全16作読破(パートⅡは『悪党パーカー/ダーゲット』のみ読了)したので総評を。 駄作なしの非常に優れたシリーズだった。 1~4はいわばパーカーの復讐劇。5~8は犯罪プランナーとしてのパーカーが確立されていく。9~12はいわゆるヤマを中心に据えたゲーム性の高い4作。13~16はいまいち一貫性がないが、変わらず質は高い作品群といった感じだろうか。 1悪党パーカー/人狩り 2悪党パーカー/逃亡の顔 3悪党パーカー/犯罪組織 4悪党パーカー/弔いの像 5悪党パーカー/襲撃 6悪党パーカー/死者の遺産 7汚れた7人 8カジノ島壊滅作戦 9悪党パーカー/裏切りのコイン 10悪党パーカー/標的はイーグル 11悪党パーカー/漆黒のダイヤ 12悪党パーカー/怒りの追跡 13悪党パーカー/死神が見ている 14悪党パーカー/殺人遊園地 15悪党パーカー/掠奪作戦 16悪党パーカー/殺戮の月 水準には達しているが、少し落ちるかなと感じたのは二作目『逃亡の顔』と、この前読んだばかりのラス前『掠奪作戦』の二作か。 好きな作品を個別に挙げるのは難しいが、時期としては5~8の作品群の雰囲気がもっとも好み。 ちなみに客観評価では今回書評した『殺戮の月』はベスト3には確実に入る。 |
No.6 | 5点 | 悪党パーカー/裏切りのコイン- リチャード・スターク | 2022/10/10 23:15 |
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~コインの収集家ビリーがコインの展示会場から200万ドル相当のコインを盗み出そうなどと画策していた。レンケは乗り気だったが、パーカーは下りた。レンケは刑務所ボケのせいかかつてのキレがない。言い出しっぺのビリーは素人以前に根っからのボンクラだ。おまけにビリーが惚れているクレアとかいう女の存在がどうにも気に入らない。
1967年アメリカ。悪党パーカーシリーズの9作目にして、出版社を変えて発行されたスコアシリーズ最初の作品(タイトルの末尾にすべてscoreとつく)。 原題『The Rare coin score』からは希少価値の高い1枚のコインを狙う話のように思えるが、大量のコインをガッポガッポとかっぱらおうとする話である。 本作はパーカー自身の大きな転換点となる。 『死神が見ている』の書評でパーカーの変容について触れたが、なるほど、ここからはじまったことなのね。 話自体はなかなか面白い。特に序盤はかなりいい。ただ、中盤でのクレア絡みのエピソードに個人的にはガッカリ。仕事仲間の憎悪を掻き立てるようなことするなよ。こういうところは見方によっては良い部分でもあるわけだが、なんかどうも好きになれない。 終盤ではやはりパーカーだなと思わせる冷徹非情な面を見せる。××を始末する必要性について言及している。だが、これさえも作者が帳尻合わせをしたように感じられてしまった。 同じく終盤で、パーカーらしい規律というか彼なりの仁義を見せる場面はよかった。 リーダビリティは高く、展開も悪くない。ただ、パーカーの内面描写がやや多く、そのことによってパーカーらしさが少し薄まってしまうという困った問題がある。パーカーはなにを考えているのかよくわからないくらいが丁度いい。 エンタメとしてはまあまあよい作品で客観的には6~7点だが、好みの問題で採点は5点。 パーカーを冷徹非情だとは思うが、冷酷非情だとは思っていない。なにが違うのか。辞書的にはほぼ変わらぬ概念ではないのか。 自分が悪党パーカーシリーズを好むのはパーカーには厳格な規律があるから。そして、冷徹と規律とはよく馴染むが、冷酷と規律はあまり馴染まないような気がする。 悪党の世界に厳格な規律を持ち込んだことも悪党パーカーシリーズの大きな功績かも。 悪党パーカーの未読はあと4冊となった(『殺戮の月』よりあとの作品はカウントせず)。どことなく秋の気配が漂ってきたようで少し寂しい気がしている。 |
No.5 | 7点 | 悪党パーカー/犯罪組織- リチャード・スターク | 2022/09/25 16:15 |
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~組織がよこしたケチな殺し屋をどうにか捻ってやったが、こんなことの繰り返しはゴメンだ。組織が二度と手を出してこないようにする必要がある。パーカーは組織に攻撃をかける決断をした。
1963年アメリカ。悪党パーカーシリーズの3作目にして初期の秀作。原題は『The Outfit』本作に登場する組織(Outfit)とやらは言うまでもなくマフィアだろう。全米各地にチェーン店のある巨大組織を敵に回してのパーカーのプランが小気味よく成功していくさまは非常に痛快。エンタメとしては第一作目の『人狩り』よりもこちらの方が面白いと思う。 いつもながらのスピーディーな筋運びに緊張感ある会話もいい。整形後のパーカーに戸惑う旧知の悪党たちの戸惑いぶりも面白い。 本作はパーカー不在の第三部の出来が特にいい。小粒ながらもさまざまなアイデアが惜しみなく注ぎ込まれている。スタークもノリノリだったんだろうなあ。本作の完成度の高さはこの第三部の出来が証明している。 また敵方の間で交わされる犯罪組織の在り方に関する議論がなかなか興味深い。現在の日本の防衛論にも応用できそうな話だ。 マフィアの残虐性、執念深さ、狡猾さなどを聞きかじった身としては、本作を読んでマフィアはこんなに甘くないだろうとは思った。特にラスボスが……ブロンソンという名前のわりには『邪魔する奴は指先ひとつでダウンさ』というわけにはいかなかったようで。 マフィアの存在が公になったのは1950年代半ば以降らしい。それまでは口にするのも憚られたという。1963年の本作出版当時はどんな感じだったのだろうか。 日本では『北朝鮮拉致』なんかが近い扱いだっただろうか。うちの母親は1980年代からしばしば北朝鮮拉致に言及していたが、まさかそんなことあるわけないと思っていた。 |
No.4 | 6点 | 汚れた7人- リチャード・スターク | 2021/05/09 18:39 |
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~前作ですべてを失ったパーカー。『なにもかもなくした いまのぼくにできること』は六人の仲間とスタジアムからフットボールの売上金をかっさらうことだった。仕事は上出来でパーカーはひとまず金をすべて預かって、仲間の一人が当てがってくれた女の家に数日滞在する。ところが、ちょっと煙草を買いに外に出たのが運の尽き。ほんの十分かそこいらの間に女はベッドに串刺しにされて死んでいた。強奪した金も消えていた。~
1966年アメリカ。『死者の遺産』の次に発表されたシリーズ七作目で原題も『The Seventh』パーカーは相変わらずの冷徹非情。数日間同衾していた女を無残に殺されてもその点についてはまるで感情を動かされない。誰の仕業なのか、そもそも目的はなんだったのか。パーカーの頭にはこうしたことしかない。 序盤はテンポも展開もかなりいい。ただ、仕事が終わったら七人でさっさと金を分けて解散でよかったのではなかろうか。パーカーがひとまず金を預かって後日配分とした理由がよくわからない。中盤ではパーカーが安全よりも金を優先して致命的な失態をやらかす。犯罪に関してはトウシロの自分でさえ「これはないない」と思ったものである。終盤のアクションはさすがの面白さで安心?して読める。『顔を雷雲みたいに黒くして』怒っているネイグリは笑える。 本作のパーカーは冷徹非情ではあったが、けっこうな抜け作だし、察しも悪すぎる。もう少し他人の気持ちを理解しようよ――他人のことを尊重し配慮する悪党パーカーというのは調子狂うが――。お陰でいろいろと後味の悪さが残るものの、それでもやっぱり面白い。 ※本作の昭和46年(1971年)に角川文庫から出版されたものを所有しております。こちらはamazonに登録ないようです。定価180円です。もっと古い版もあるのかもしれませんが、参考までに。 |
No.3 | 7点 | 悪党パーカー/死者の遺産- リチャード・スターク | 2016/10/05 20:24 |
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引退した金庫破りジョー・シアーからパーカーの元へ助けを求める手紙が来た。厄介なことに巻き込まれたらしい。ジョーは知りすぎている。しかも昔の奴ではなく、ただの弱気な年寄りに成り下がっている。やばいことになりそうだ。ジョーが、ではなくパーカー自身がだ。パーカーはジョーを始末する必要があるか見極めるために彼の元へ向かうが、ジョーはすでに死んでいた。葬式は明日の朝だという。いったいなにが起こっている? そんな時、パーカーの前に顔見知りのケチな悪党が現れ、俺と組まないかと誘いをかけてくる。なんのために組むのかよくわからないが、とりあえずパンチをお見舞いするパーカーだった。
昔の仕事仲間から助けを求められて、そいつを始末すべきかどうかを真っ先に考える。いやあ、パーカーですな。 本作では犯罪者の裏の顔(本業)ではなく表の顔(私生活)にスポットを当ててみました。攻めではなく守りの話です。悪党の危機管理(常套手段は殺し)から始まり、タイトル通り「遺産」を巡って思わぬ方向にプロットは展開していきます。今回は仕事はないので派手さに欠けますが、本作でのパーカーの非情さは際立っています。また、ジョーの身に起きていたこと、追い込まれていく過程がかなりえぐい。他にも種々の隠蔽工作や悪徳警官、模範警官それぞれとパーカーのつばぜり合いなど地味ながらも読みどころはけっこうあります。ラストの潔さもある意味かっこいい。パーカーってけっこうポカもするんですよね。 パーカーシリーズの裏名作だと思います。かなり好きな作品です。 こういう異色作は歓迎。 ただ、kanamoriさんの書評を拝読してふと思ったのですが、マンネリとよく言われる本シリーズ、実は異色作がけっこうある? 未読作品がまだまだあるもので。 最後にタイトル(邦題)について 『死者の遺産』ってなんか違和感ありませんか。飛ぶ飛行機みたいなもんでしょ。ちなみに原題はThe Jugger 金庫破りのことらしいです。こっちもちょっと本質からずれているタイトルな気がします。 |
No.2 | 5点 | 悪党パーカー/死神が見ている- リチャード・スターク | 2016/10/03 18:00 |
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ロックコンサートの売り上げをかっさらったパーカーと仲間たち。だが、解散後、仲間の一人キーガンが切羽詰まった様子でパーカーを探しはじめた。気になることあってパーカーは彼を訪ねたが、彼は壁に磔にされて死んでいた。この後も今回のヤマに関わった仲間が次々と殺されていく。どこのどいつだ? どうしてなんだ? パーカーにも順番が回って来ることは確実だった。奴らがクレア(愛人)を一人残した家にやって来るかもしれない。避難を命じるパーカーだが、クレアは家から離れたくないと駄々をこねる。
シリーズ十三作目にして異色作の一つ。 緊迫感があり、アクションも冴えている。要はいつも通り。今回の敵は愚かで凶暴性ありな男と用心深く小狡い男。かなりステレオタイプな連中でこちらも新味はない。 コンサート会場を襲う、その仲間たちが何者かによって次々に消される、パーカーの反撃、と単純なプロットではあるが、ここに新たな要素が持ち込まれる。家と女である。 パーカーの優先事項は一に自分の安全であり、二に金である。仲間はあくまで道具であり、自分の身に脅威が及ぶことなければ、彼らがどうなろうと無関心である。女にしても人格など認めていないようなところがあった。 このような非情さを徹底したところがこのシリーズの特異な点であり秀逸な点である。 ところが、今回のパーカーは女と家によって非情に徹し切れなくなっている。 「わたしはこの家を離れたくない。犬とライフルを買うから大丈夫」というクレアの主張に負けてしまう体たらく。 これはパーカーが堕落したわけではなく、彼にも守る家が出来たのだとかなんだとか小鷹さんがあとがきで必死に弁護していたが、悪党パーカーにマイホーム……どうも調子が狂う。日曜日の朝は庭で洗車をしたりするのだろうか。 シリーズ六作目の『死者の遺産』と並ぶ異色作の一つであり、ファンの間でも賛否両論となりそうな作品。私はどちらかといえば否定派。採点は面白さでは6~7点といったところだが、マイナスして5点。 シリーズも後半に差し掛かり、マンネリ回避のために新機軸を打ち出したのかもしれないが、パーカーの軸がぶれてしまうのは感心できなかった。また、クレアがあの状況で逃げずに家に残ると主張するのは非常に不自然。どう考えても誰であろうとも逃げるはず。 ただ、納得度は低いが面白さはいつもとそんなに変わらない。 |
No.1 | 7点 | 悪党パーカー/襲撃- リチャード・スターク | 2016/05/01 11:21 |
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エドワーズという男がパーカーに仕事の話を持ち込んだ。
山間のどんづまりにある小さな町、出入り口を封鎖して警察署や電話局を押さえてしまえば銀行に宝石店、全てをかっさらうことができると。 与太話だ。パーカーはこの話に乗るつもりはなかった。ところが、ものは試しと仲間たちと計画を詰めていくうちに話は現実味を帯びていった。 それでもパーカーはエドワーズについて一抹の不安を感じていた。 悪党がかっこよく見えてくる極めて不健全なシリーズの五作目です。 エドワーズをもう少しうまく使えなかったかなと思いました。彼がなにかやらかすことはわかっていましたが、ちょっと単純過ぎる。彼が●●だったことをもっと活かして面白くできたように思えます。もっとも複雑なプロットを楽しむタイプの作品ではないんですけどね。 それから、町を封鎖、うまいこと考えたものだと思いますが、この町には一つ規則があって、その規則があればこそこの犯罪も成立し得る。無茶な規則ではありませんが、ちょっとご都合主義かな。でも、この壮大な計画には浪漫を感じます。通信手段が発達した現代では不可能な話なんで。 プロットは単純過ぎると感じるかもしれません。現代の読者からすると捻りが足りないと。ですが、このシリーズの読みどころはパーカーの人物造型と単純明快痛快なプロットであり、その二つにさらに勢いを与えるきびきびした文体だと考えます。 無口で冷徹なパーカーにピッタリの文体。そうはいっても三人称多視点の小説なんですが、なぜか私は文章のあらゆる部分からパーカーの影を感じ取ってしまうのです。 |