皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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アイス・コーヒーさん |
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平均点: 6.50点 | 書評数: 162件 |
No.6 | 6点 | 遠まわりする雛- 米澤穂信 | 2014/12/16 17:37 |
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シリーズ第四作の本作は連作短編集。前三作のストーリーを補完して微妙に軌道修正をはかりっているようだ。奉太郎以外のキャラクターのことも段々と分かってきた気がする。
「やるべきことなら手短に」は表題作へとつながる壮大な伏線ともいえる。「大罪を犯す」は典型的な日常の謎でやや面白みに欠けた。「正体見たり」は合宿でのちょっとした階段だが、米澤作品らしい結末があって中々面白かった。幽霊のシーンがちょっと想像できないが。 九マイル系の「心当たりのある者は」は独創的な工夫に欠く劣化版コピーに感じたが、よく出来ているとは思う。「あきましておめでとう」は初詣でえると奉太郎が閉じ込められてしまう話だが、これはイベント的要素が強い。「手作りチョコレート事件」は「毒チョコ」を思わせる題名の通り多重解決的な内容。ここで「クドリャフカの順番」に引き続き里志が再びクローズアップされる。短編らしく巧くまとまっていた。 表題作はあまり面白い謎も推理もないが、今後の展開に深く関わってきそうだ。結局のところ古典部の四人にはそれぞれ悩みがあって、彼らはそれを「保留」し続けているのだろう。 相変わらず著者は学園ミステリの上手さに感服させられるが、若干自分の好みに合わないのが残念だ。 |
No.5 | 6点 | クドリャフカの順番- 米澤穂信 | 2014/12/12 14:34 |
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文化祭での古典部の奔走を描くシリーズ第三作。前回は多重解決がテーマとなっていたが、今作ではクリスティの某有名作をテーマにした連続盗難事件が発生する。
ただ、ミステリとしての構成はやや強引で納得のいかない部分はあるし、物足りないと感じる読者も多いだろう。犯人の動機もかった。 一方でストーリーは面白く、古典部メンバーの意外な内面を見ることができてよかった。学園ミステリならではの魅力がある 中でも奉太郎の才能に「期待」する里志の姿は新鮮。今後の展開につながる重要な部分だ。登場人物たちそれぞれの悩みや苦悩がクローズアップされるというのも文化祭らしい演出で中々楽しめた。 「氷菓」の頃は奉太郎の一人称文体が鼻についたが、私的には一作ごとに読みやすくなってきているように感じる。 |
No.4 | 7点 | 満願- 米澤穂信 | 2014/11/19 19:02 |
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山本周五郎賞を受賞したノンシリーズ短編集。強引に共通点を挙げるならば、どの作品も人間の願いと、それに付随する闇が描かれている。
殉職した部下に思いをはせる交番警官を描いた「夜警」は伏線が素晴らしい。部下を死なせた彼も、結局警官に向いていなかったのだろうか。思いのほか警察小説らしい内容でもあった。 「死人宿」はよく出来ていると思ったが、他人の自殺を止めることが正しいか否かという問題に言及していないのが残念。話題が話題なだけにもう少し掘り下げてほしかった。 美人の母親と、その美しい二人の娘。彼らを巻き込み離婚騒動を描いた「柘榴」は著者の持ち味が出ている。特にラストのインパクトは大きい。タイトルの柘榴が何の象徴となっているのか気になるが…。 バングラデシュを舞台にした「万灯」は結末の皮肉が効いている。ただ、舞台設定をもう少し活かしてほしかった。 「関守」は定番の展開ではあったが、著者の技術のかいもあり面白い一作だった。あの「動機」が明かされる戦慄はなんともいえない。 表題作はストーリーの雰囲気と真相のギャップで攻めてくる。ミスディレクションやロジックが見事に機能して、最後まで予測できない内容とだった。 私的には「夜警」と「柘榴」がベスト。安定の完成度を楽しめた。 |
No.3 | 6点 | 愚者のエンドロール- 米澤穂信 | 2014/09/21 09:37 |
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古典部シリーズ第二作。未完のミステリー映画の真相を求めて、折木や千反田たち、古典部が奔走する。
前作「氷菓」に比べると格段に面白くなっている印象を受ける。「毒チョコ」を題材にした多重解決や、その末にある結末も工夫がなされ、ついでに文体の拒否反応も起きなくなった。 登場する密室トリックはすべて前例があるものだが、オリジナルの改変があったうえ、登場人物たちがそれを推理していく過程が面白かったため特に気にならなかった。無論のことフェアプレーの精神も貫かれ、複線の配置も巧い。 ただ、映画中の事件現場における環視状況や、アリバイの有無が分かりにくかった。図表も見取り図だけで、もう少し細かく描写して欲しいところだが…。 物語としては、折木の探偵としての苦悩を中心に据えているようだ。古典部入部以来、「省エネ」の信条に反しながらも千反田にせがまれて謎解きをやってきた折木の葛藤が描かれている点が最大の見どころだろう。 それにしてもサブタイトルの「Why didn't she ask EBA?」は…。 |
No.2 | 5点 | 氷菓- 米澤穂信 | 2014/09/13 18:26 |
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アニメ化された古典部シリーズの第一作にして著者処女作。省エネで灰色の学園生活を送る折木奉太郎や、好奇心旺盛なお嬢様の千反田えるなど、個性的なキャラクターの登場する学園ミステリだ。
内容は日常の謎が中心でトリックや推理、真相も意外性はない。物語後半からは部誌の「氷菓」を巡ったメインの事件が起こる。「氷菓」誕生の秘密とその題名の意味に関わる謎が提示されるのだが…無難なところに収着した。 この手の話で生命線となる伏線の張り方は所々ぎこちないが、ミステリとしてはとりあえず成立している。また、省エネを気取るキャラクターとか新人らしい文体とかは少し鼻につくものの、ラノベだけに軽く読める一冊だった。 個人的にはガチガチの本格ミステリ「折れた竜骨」の衝撃が大きかっただけに少し残念ではあるが、もう少しシリーズを読みすすめるのも面白そうだ。 |
No.1 | 8点 | 折れた竜骨- 米澤穂信 | 2013/10/02 18:41 |
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欧州の北の海に浮かぶソロン諸島、その島を舞台に魔法や騎士が登場する十字軍の時代を描いた作品。日本推理作家協会賞受賞作。
魔法を使って奇抜なトリックを登場させ、もう一つの中世ヨーロッパを描いている。当時ありえなかった高度な鑑識捜査を魔法によって実現させたのは凄い。時代の雰囲気も面白かった。 最後の「儀式」と呼ばれる謎解きは見事に伏線を回収して、驚きの結末に持っていった。終わり方も良かったと思う。 個人的には、「呪われたデーン人」に関する解説がもう少し欲しかったと思う。そもそもデンマークとどう関係しているのか、最後に出てくる○○は一体何なのか、など。一部の謎は終章でさらりと語られていて納得。 |