皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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ボンボンさん |
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平均点: 6.51点 | 書評数: 185件 |
No.39 | 7点 | カナダ金貨の謎- 有栖川有栖 | 2019/10/06 13:32 |
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国名シリーズ第10弾。インド倶楽部以降、表紙に国旗は描かなくなったのか。
『船長が死んだ夜』 事件発生当初に現場に入り、次々と聞き込みをして犯人を当てるタイプの話。楽しくは読めるが、こういう「なぞなぞ」やクイズのようなネタは好みではないので、少し残念。 『エア・キャット』 ちょっとしたお楽しみ短編だが、意外に謎解きがぴかりと光る。 『カナダ金貨の謎』 作者が他の作品のあとがきで、「誰も思いもつかなかった物語」より、「これまで誰かが書きそうで書かなかった物語」を書きたいと言っていたとおり、本作も発想の隙間を狙ってくるような作品ではないか。ありがちな事件のようでいて、型が少し外れているのが面白い。 『あるトリックの蹉跌』 この題名は、「蹉跌」といえば「青春の」という遊びなのかな。 『トロッコの行方』 「この集り屋!」の一言の強烈なブーメラン。これは読み応えがあった! |
No.38 | 7点 | こうして誰もいなくなった- 有栖川有栖 | 2019/03/19 00:12 |
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デビュー30周年を飾る<有栖川小説の見本市>と銘打った作品集。その名のとおりファンタジーから本格まで自由自在な有栖川ワールドを端から端まで楽しめる。
前半は2011年から2018年まで様々な注文を受けて書いてきた14の短編・掌編で、パロディものあり、ホラー風味のものあり、たった2ページにほんの二言三言を綴っただけの詩的なミステリあり。概してファンタジー色が強いかな。 後半は2019年に入って雑誌に載ったばかりの中編である表題作。題名のとおりクリスティの「そして誰もいなくなった」を下敷きに舞台を今の日本に置き換え、名探偵を登場させるなど大胆な挑戦をした作品だ。 普通、8年のも年月の中でバラバラに書いてきたものを集めたら、いかにも寄せ集めの在庫一掃セールのようになりがちだが、編集が大変良く綺麗にまとまっている。空想の世界にずっと浸っているような感覚がいい。 |
No.37 | 7点 | インド倶楽部の謎- 有栖川有栖 | 2018/09/17 11:22 |
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火村と作家アリスの長編で、久しぶりの国名シリーズ。舞台は、異国情緒をたっぷりデコレートされた神戸だ。
基本中の基本といえる、火村とアリスが警察の捜査に乗っかりながら刑事のように走り回るタイプの作品で、前半などは、ほとんど兵庫県警祭りの勢いでガミさんや遠藤刑事が活躍するのが楽しい。 犯人の絞り込みは、丁寧な捜査の中で行われ、謎解きもきちんとされているが、今回は珍しくアリスではなく火村による動機の心理の解明に力点が置かれているようだ。醜悪な犯罪を厳しく糾弾する、というのではなく、「ふわふわした妄想」の中を泳いで答えを探すような変わった味わいの捜査となり、常識外れの解答を手にする。まさにインドのお香に酔う感じ。 アリスに「過去に囚われた心を自由にする」悟りが衝撃的に訪れる場面が感動的だった。これだから有栖川有栖はやめられない。 余談だが、火村とアリスが確実に見えない年齢を重ねているのをはっきりと感じる。若々しい躍動感は見えなくなり、どんどん老成していく。それはそれで全く悪くないし当たり前なのだが、不安げで心細いようなダメさ加減も好きだったので、少し焦る。過去の作品を総ざらいで振り返ったり、火村とアリスのテーマにも整理がついてきたりするものだから、途中で、まさか!最終回?などと心配してしまったが、あとがきにちゃんと「これからも」とあったので、ひと安心。 |
No.36 | 7点 | 孤島パズル- 有栖川有栖 | 2018/09/09 23:04 |
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こんなにキレイで甘酸っぱい青春ものだったとは、少し驚いた。そこはそれで大変良いのだが、すばらしい作品なのに、自分があまりのめり込めなかったのはなぜかと考えると、グッとくる闇や毒が足りないからかなあ。見本のような舞台に、よくある人間関係。誰もそんなに悪くない。
しかし、ミステリとしては完璧で、切れた論理展開に大満足だ。こんなにやる気の出る「読者への挑戦」はなかなか無いし、こんなに納得と感動のある「密室」も見たことがない。名探偵江神さんの思考の深さ、あたたかな姿勢には頭が下がる。 |
No.35 | 7点 | 月光ゲーム- 有栖川有栖 | 2018/01/14 00:19 |
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もったいなくて、敢えてずっと読まないでいた学生アリス。ついに手をつけてしまった。やはり面白い。
懐かしくも、ちょい恥ずかしい学生時代。登場人物は多いけれど、これはこれで、結構使い分けできているように思えたが。この人数を一つのステージ上で色々な組み合わせにして出し入れすることが、推理上の大事なひとネタになっているわけで。また、まさかの火山も、御嶽山の映像を視ている今となっては、唐突感はなく怖かった。 ただ、ダイイングメッセージ、そしてこのタイプの動機は元々好みではないので残念。江神さんもアリスも、まだまだ薄い感じだったので、これから次作を読み進めるのが楽しみだ。 |
No.34 | 7点 | 虹果て村の秘密- 有栖川有栖 | 2017/10/14 18:14 |
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楽しかったなあ。疲れてしぼんだ大人の心にも夏休みが来てくれた。
しかし、普通にジュブナイルなだけなのかと思っていたら、はっきりそれと判る『本格ミステリ入門』仕様だったので、少し驚く。 しかも道徳の教科書に載るレベルで心に響く子ども応援メッセージ満載。あとがきの「わたしが子どもだったころ」も含め、有栖川名言集っぷりに正座しそうになる。 また、主人公の秀介くんが、2人でガラ空きの列車に乗り込んだ時の席の取り方を気にしたり、よその家におよばれした夕食を食べきれないことを申し訳なく思ったりする、「気にしい」あるあるに共感してしまう。 ミステリ的には、ピアノの練習の音によるアリバイ証明のくだりがストンと落ちて一番好きだった。 |
No.33 | 6点 | 濱地健三郎の霊なる事件簿- 有栖川有栖 | 2017/08/12 12:40 |
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有栖川有栖の新たな探偵「濱地健三郎」がついに単行本デビュー。濱地は「心霊探偵」だが、著者曰く、これは特殊設定ものの本格ミステリではなく、ミステリの発想を移植した怪談であるとのこと。
ということで探偵による事件捜査がメインだが、その手法は霊視。ただし、超自然的なもので都合よく片付けるだけの話である訳もなく、見どころは、大岡裁き的事態収拾に向けた濱地の大人な仕事ぶりだろう。 探偵ものとしての面白さをしっかり支えているのが、今回のワトソン役、探偵の助手である志摩ユリエだ。若く美しい女性らしいのだが、その辺の魅力はほとんど活かされず、地頭の良さを感じさせつつも、前向きに突っ込んでいく少年のようにぴんぴんとした元気と無力と実直さで読者目線を代表してくれる。 そして、さすがは有栖川有栖と嬉しくなるのが、心霊現象をあくまで科学や哲学の延長上で受け止めることをベースとし、たとえ幽霊が出ようと論理の筋を通すところ。 本書は、やっと作品世界の紹介が済んだというあたりで終わっている感じがするので、今後このシリーズがたっぷりした展開を見せてくれることを望む。 |
No.32 | 7点 | ジュリエットの悲鳴- 有栖川有栖 | 2017/06/28 00:25 |
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素直に面白かった。すっかり気に入ってしまった。
かなり幅広く、バラエティに富んだ短編集だが、やはりどうしても「作家もの」がちらほら、そして「鉄」分も結構高め。相当に馬鹿らしいものも含め、何とも言えないそれぞれの良さがあり、全編通して大変読み易い。 『登竜門が多すぎる』は、徹底的にふざけきっていて、ある意味豪華絢爛な作品だ。 『夜汽車は走る』の情感たっぷりの雰囲気は、確かにノン・シリーズでなければ出せないものだろう。 『ジュリエットの悲鳴』は怖かった。人物も展開も、強烈に印象に残った。 そんな良作が並ぶ中、すっとぼけたショートショート『遠い出張』が何故かツボった。 新しく出た実業之日本社文庫で読んだが、何度かの引っ越しを経て、作者のあとがきも3編(と言うのか?)になっており、結構たっぷりしていて得した感じ。 |
No.31 | 8点 | 幻想運河- 有栖川有栖 | 2017/06/04 13:44 |
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巧い。これは寓話的に描かれた社会派なのだろうか。なんて恐ろしい。ひどく哀しい物語だ。この若い人たちは、なんでここまで自壊してしまったのか。哲学を語り、芸術を楽しんで、自由に暮らしているように見えるのに、いやに乾いた感じの不安感や人恋しさのようなものが全編を覆っている。オウム真理教の事件の影響を受けていると作者があとがきに書いているが、なるほどなあ。
さて、ミステリとしては、出だしから終わりまで、誰と誰が誰をどうしてしまうのか、色々な組み合わせを考えながら追いかける面白さがまず一つ。 そして、バラバラ殺人の本質とは何かについて、考えさせられた。これは目から鱗。 作中作については、暗示的な効果を出すのが役割なのかと思いきや、本編とそれほど関係せず。(バラバラ殺人関連のせっかくの発想を、本筋と全く関係なくてもいいから無駄なく使いたかったのかな。)しかし、わざと拙く綴った昭和の幻想怪奇小説的な魅力たっぷりで、嫌いじゃない。 新しい文庫の表紙も「肉色の薔薇」。薔薇、薔薇とバラバラ殺人て、ダジャレってことでいいの・・・? |
No.30 | 6点 | 赤い月、廃駅の上に- 有栖川有栖 | 2017/02/24 23:31 |
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鉄道と怪談話。関係なさそうでいて、実は相性ピッタリではないだろうか。駅や踏切は小説でも現実でも事件や事故の舞台になるし、列車は人生にも喩えられ、銀河鉄道の夜のようにあの世につながるイメージもあるし。通勤通学の日常がふと狂う怖さや遠い旅先での不安感等々。
しかし、この短編集では、そんな素人考えを軽く飛び越えた、相当に奇抜なお話も楽しめる。 この著者は、一つのお題を定めた短編集を作るのが本当に巧いと思う。 |
No.29 | 8点 | 狩人の悪夢- 有栖川有栖 | 2017/02/10 23:19 |
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これはすごい、お見事。純度100%の有栖川有栖ではないか。前作「鍵の掛かった男」が物語重視のずっしりした作品だったのに対し、本作はまどろっこしいほどの火村的推理、背理法やら消去法やら、犯人との緊迫の対決が際立つ。私には、本格とかミステリの技法について語る知識はないが、古式に則った美しい推理小説なのだと思う。
これまでの火村シリーズの長編のような、印象的な舞台設定や動きの大きな展開はない。ミステリとして、特に珍しくない材料で出来ているのだが、そのことによって一層推理の凄みが増して見える。勝負に出た、という感じだ。 ただ、せっかくだから、もう少し「悪夢」を使い込んでほしかった。アリスのまあまあ嫌な感じの夢もとても良かったが、メインテーマのナイトメア感が足りないかな。 といっても、当たり前だが、読ませる巧さは変わりなく、本筋以外のところも相変わらず面白いので、これから読む方には、その点安心して楽しんでいただきたい。 |
No.28 | 7点 | 幽霊刑事- 有栖川有栖 | 2016/12/04 14:44 |
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登場人物がみんな怪しく何かしらを隠し持っているのに加え、途中、大小の別事件が絡んできて盛り上がり続けるという、たっぷりした長編だが、基本的に軽めの雰囲気で、一気読みできる。
最も切なく素敵であるべき恋人とのシーンが霞むほど、相棒との息が合ったり合わなかったりのやり取りのほうが面白く、恋愛よりお笑いが勝っている感じ。厳しく絶望的な設定を、どこまでも間抜けな呑気さを通して読ませていくのが巧い。 幽霊なのにというか、幽霊だからこそ何一つできない幽霊刑事が、本当にふらふらするだけで、結局ちっとも捜査なんてできないところが妙に現実的で哀れ。 また、効果的に挟まれる幻想シーンの詩的な表現が有栖川氏らしくて好きだ。こういうところは、論理の人とされる著者の密かな得意技だと思っている。 余談だが自分は最後の最後まで誰も信用できなさ過ぎて、まだまだ何か捻りがあるのではないかとページを捲っていたら、真相に十分心落ち着く前にラストを迎えてしまった。そのせいで、しんみりと終わりを堪能できなかったのが残念。ゆっくり読み直そうかと思う。 |
No.27 | 7点 | 山伏地蔵坊の放浪- 有栖川有栖 | 2016/11/17 21:29 |
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トリックは、まぁ普通に楽しめるとして、何といってもその外枠が面白かった。法螺話の可能性大である謎解き話を本当に法螺貝を脇に着けた山伏に語らせる冗談。それを分かりながらノリノリで付き合う聞き手たちの大人のお遊び。短編集だが、最終話でシリーズ終結を飾る納め方がちょっと素敵だ。
ちなみに戸川安宣氏の解説が超大作。 |
No.26 | 9点 | マジックミラー- 有栖川有栖 | 2016/11/08 15:15 |
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「乗り鉄」有栖川有栖氏の傑作。鉄道だけでも十二分なのに、扱いにくそうな双子ネタにさらに色々絡めて、これでもかこれでもかと波状攻撃でトリックを仕掛けてくる。この複雑さ、たっぷり過ぎて勿体ないほどの豪華さに圧倒された。
作品世界としては、珀友社の編集者片桐さんが登場したり、承認欲求がスルーされる傷心がポイントになったりと、作家アリス前夜といった趣だ。読後に振り返って表題「マジックミラー」の切なさを噛みしめることになる。 途中挟まれるアリバイ講義にはあまり惹かれなかったが、推理作家空知に語らせる「ミステリとは何か」の論を面白く読んだ。 |
No.25 | 8点 | 鍵の掛かった男- 有栖川有栖 | 2016/09/30 23:58 |
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派手な舞台設定や奇抜な出来事など一切なしで、実に丁寧に慎重に編み込まれた作品だ。途轍もなく地味ながら、退屈する隙を与えず、しずしずと地道に怒涛の展開を見せる。火村シリーズの長編で、ひとつの「玉に瑕」も「残念な勿体なさ」も感じずに読み通せたのは初めてかもしれない。
後半の火村のひらりひらりとキレる推理の安定感は勿論良し。前半のアリスの辛抱強い捜査の部分が「長い」ところだが、不思議にじわじわと引っ張られ目が離せなかった。 終盤で「人の世は、何と危うく残酷で、なんと出鱈目で得体が知れないのでしょうか」と総括するセリフがある。たしかに悲劇ではあるが、作品全体としては、登場するすべての人にまっすぐな目が向けられていて、読後感は温かく優しい。 |
No.24 | 7点 | 怪しい店- 有栖川有栖 | 2016/09/09 00:02 |
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軽妙洒脱というのだろうか。スマートで巧みな筆さばきに磨きがかかり、どんどん軽やかに、透明になっていくような。このままいくと二人は34歳にして老成しきってしまうのではないかと多少心配になる。
(ネタバレあり) 『古物の魔』:地味だけれど、小事の隙を突いて見たことのない結論に至る火村らしい推理。最後の解決の段は、静かな緊迫感があり、魅せられる。 『燈火堂の奇禍』:楽しい展開。平和な日常の謎。 『ショーウィンドウを砕く』:犯人視点。腹の奥底に激しい怒りを持った人が哀しい壊れ方をする話。子供時代、強烈に辛い感情に蓋をして、一見無感情になっているが、無自覚な怒りの衝動を持っている。完全犯罪をしっかりやっているつもりなのに、ボロボロと取りこぼしている様子が、狂ったロボットのようで凄く怖い。そんな犯人の目には火村の「闇」が映る。 『潮騒理髪店』:火村が聞かせてくれる旅先での話を、アリスが良質な日本映画の小品のイメージで「勝手に色々と潤色」して脳内上映するため、ところどころ過剰に素敵な気分になっているのが可笑しい。実は結構な毒が含まれているが、それをスルーしてしまう、とてもいい話。 『怪しい店』:火村とアリスの深淵にコマチさんがサクサクと切り込んでいくので、シリーズのファンは必読。 |
No.23 | 6点 | 作家小説- 有栖川有栖 | 2016/09/03 14:43 |
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ブラック。そしてクレイジー。黒有栖川氏の笑いが堪能できる。
作者は、「ミステリでもホラーでも冒険小説でもなく、SFでもファンタジーでも漫才(?)でもない」とおっしゃっているが、うまいな、確かに「作家小説」という新分野のような短編が8つ。 とはいえ、各話にちゃんと謎と種明かしが揃っていて、単に本格推理ではないというだけのこと。気軽に広い意味でのミステリとして楽しんでもいいのでは? (かすかにネタバレ) うち数編で殺人が行なわれている(らしい)のだが、その提示のされ方が妙に怖くてよかった。「作家あるある」をデフォルメした笑い話だと思っていると、ちょっと精神の調子を崩した感じの作家さんたちが、ふいにポーンと怖いものを投げつけてくる。警察や探偵の正義が読者を守ってくれることはないので、心おきなくゾッとできる。 そういう意味では、『殺しにくるもの』、『サイン会の憂鬱』、『書かないでくれます?』が面白い。 そして、有栖川さんがついにやってしまった、当然オール会話形式の『作家漫才』もお見逃しなく。 |
No.22 | 7点 | 幻坂- 有栖川有栖 | 2016/08/06 00:02 |
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天王寺七坂を舞台にした美しい怪談9話。この七坂は、火村シリーズの作家アリスが住んでいることでお馴染み(?)の大阪の夕陽丘に実在する。
短い物語のどれにも坂にまつわる風物や歴史などが丁寧に織り込まれ、ギュッと胸を絞られる良作ばかり。漫画っぽいものから重厚な歴史ものまで、一話一話趣向が見事に違っている。 (ネタバレあり) 抒情的な物語が進むなかで一瞬だけぴりっと異界を感じる話。あからさまにベッタリと怖い化け物話。死にゆくこと生きていくことを考えさせるもの。 そしてなんと、のちに心霊探偵シリーズになる濱地健三郎探偵が活躍する話が2話入っている。ちょっとだけ「本格」っぽいことを言ってみたりするので可笑しい。 また、火村シリーズの『朱色の研究』に出てくる「日想観」も歴史的背景として重要な要素に。 一話挙げると、芥川龍之介の『枯野抄』の裏バージョンである『枯野』がいい(賛否が分かれた作者の某作品への返し技が効いていて溜飲が下がる)。 |
No.21 | 5点 | ペルシャ猫の謎- 有栖川有栖 | 2016/08/01 15:56 |
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火村シリーズの中の劇中劇のようなファンタジックな作品を集めた短編集。
いずれもどこかルナティックで、ソワソワと落ち着かない気分にさせられるところがいい。 ようするに、シリーズ本編から外れたお楽しみ読本なのだが、堂々と国名シリーズに入ってしまっているところがよろしくないのでは? 一番普通そうな「赤い帽子」は、リアル大阪府警のために書かれた森下刑事主演のスピンオフ作品。警察小説と言っていい設定なのに、そこは有栖川有栖、横山秀夫や高村薫のような感じになるはずもなく、「雨-雨-雨-」が印象に残る詩的な出来上がりに。 ミステリではないが、「悲劇的」は、悲痛な叫びと軽いギャグ、冷静な熱さが火村らしい。 「ペルシャ猫の謎」は、火村が怪異を前にしても偏見なく、論理的姿勢を崩さずに自然の事象として理解するところが、私は好きだ。今を生きる探偵として正しいと思う。 |
No.20 | 6点 | 英国庭園の謎- 有栖川有栖 | 2016/07/27 13:51 |
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意外に粒揃いの短編集ではないか。暗号や言葉遊び、文字に関するあれこれがふんわりと本書の共通項になっている。事件現場における捜査のパターンを少し外し、広い意味での暗号解きに興じるお遊び感がこれはこれで楽しい。小説の形態も各話趣向が凝らされていて退屈させない。
その中で『ジャバウォッキー』は、本当に単なる言葉遊びに終始するのに、なぜか独特の緊迫感や危なっかしさがあって魅力的だった。ジャバウォッキーが火村とアリスに向ける気持ちがポイント。これを核にもっともっと膨らませれば、深い長編が書けた可能性も・・・あったか・・? |