皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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いいちこさん |
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平均点: 5.67点 | 書評数: 541件 |
No.221 | 6点 | 祈りの幕が下りる時- 東野圭吾 | 2015/12/22 18:02 |
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既読感の強いプロット・トリックで目新しさに乏しく、本格ミステリとしても食い足りなさを覚える。
一方、偶然をご都合主義と感じさせない伏線・心理描写の妙、読者の共感を呼ぶ筆力の高さ(下世話な表現をすれば「お涙頂戴」)は例によって際立っている。 タイトルのネーミングの拙劣さは相変わらずで、ストーリーテリングがやや劣化している印象を受けたのは気になった。 昨今の軽量コンパクト路線の象徴的な作品とも言え、畢生の本格大作が待望されるところ |
No.220 | 6点 | 天帝のみぎわなる鳳翔- 古野まほろ | 2015/12/18 14:39 |
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強烈な不可解性を秘めた謎の提示、巧緻極まる叙述、繊細と迫力を兼備した筆致、堅牢なロジックなど、引き続き極めて高い水準にあり、かつ作品を重ねるごとに前進が感じられるのはお見事。
しかし一方で、やはり前作と同様に犯行のフィージビリティと真相解明のプロセスに違和感が残り、納得感は弱い。 トリック自体は至って脆弱であるところ、あのように困難な犯行を完結できるだろうか。 いずれの探偵も、あれほど些細な手掛かりから見事に真相に到達し得るであろうか。 本格の高みを極めんとするチャレンジスピリットは大いに認めるものの、そのプロットに綱渡り的な危うさも感じてこの評価 |
No.219 | 6点 | 新世界崩壊- 倉阪鬼一郎 | 2015/12/10 19:21 |
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作者の作品は初読だが、バカミスと認識したうえで手に取った。
異様に焦点のぼやけた描写や、あからさまに怪しい童話など、仕掛けがあることは歴然としていたが、それでも舞台設定にかかる真相は強烈。 あらかじめ登場人物の性格付けが提示されているとしても、地の文は明らかにアンフェアであるし、裏表紙のあらすじさえも活用するアイデアには脱帽しつつも、その記載内容はやはり明らかにアンフェアであるのだが、それでも非現実的な「トンミス」に陥ることなく、現実的な「バスミス」の枠に留まりつつ、比類ない驚愕と失笑を演出している真相は圧巻。 そのうえで、上下段同時進行という前例のない趣向と、それを活かしたグラフィックデザイン上の仕掛けは、論理性は皆無であるものの強い説得力があり絶妙。 ただ、この2つの仕掛けがあまりに素晴らしいだけに、この2点にフォーカスすべきであった。 作者のサービス精神は理解するものの、童話はじめ他の仕掛けや丁寧すぎてやや下世話な解説は不要だし、犯行動機はもう少し現実的な線で料理してほしかった。 以上、変化球が来るとわかっていても打ち取られてしまう奇想と熱意は手放しで認めるだけに、ややもったいなさを感じる作品 |
No.218 | 5点 | 歪笑小説- 東野圭吾 | 2015/12/10 19:19 |
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最も手堅く笑いが取れる文筆界の楽屋ネタに絞り込んだことで、大きなハズレはなく、水準を超える2~3編も存在。
その結果、「黒笑小説」はもちろん、「怪笑小説」もわずかに超えたものの、強烈な毒のある作品は見当たらず、やや単調さも感じてこの評価 |
No.217 | 6点 | 幻惑の死と使途- 森博嗣 | 2015/12/08 16:58 |
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「堂々たる変化球宣言からの変化球連投、最後にストレートで一閃と見せかけて、再び変化球」という組み立ては教科書的な美しさでお見事。
作品の主題と密接に関連したタイトルのネーミングにもさすがの冴えを見せている。 一方、マジシャンであることを差し引いてもトリックのフィージビリティが疑問である点、2番目の殺人事件にほとんど何らの工夫も見られない点、第一の真相はともかく第二の真相は論理的に解明できないであろう点などを勘案してこの評価。 全体として演出やミスディレクションの手際には長けているが、プロットの骨格は脆弱な印象 |
No.216 | 4点 | 黄金を抱いて翔べ- 高村薫 | 2015/12/07 16:44 |
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「リヴィエラを撃て」と同様に、各局面における描写が非常に詳細な反面、登場する組織・人物の背景・意図が明示的に語られない。
こうした点はプロットを追うに従って徐々に浮かび上がってくるのだが、それが読み難さに繋がっているのも間違いない。 また、本作がミステリではなく、犯行計画の立案・実行を通じた人間模様を描くことが主眼であるとしても、犯行は計画の緻密さとは裏腹に、極めてあっけないものでやや不満が残る印象 |
No.215 | 7点 | 悪の教典- 貴志祐介 | 2015/12/01 19:11 |
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作品を通じて抜群のリーダビリティとサスペンスを維持しており、筆力の高さは疑い得ない。
一方、「天才サイコキラーが学校内で大量連続殺人に及ぶ」というプロットありきの作品であるが、緻密な取材と伏線の妙に苦心の跡が伺われるにもかかわらず、プロットに明らかに無理が感じられるのが残念なところ。 「アメリカ名門大学卒業後に金融界で活躍したエリート」という経歴は、天才サイコキラーの人物造形には不可欠であるが、そうした人物が日本の高校教師の地位に留まり、しかもその地位を保全・補強するためだけに、ここまでの犯罪を犯すのか。 犯行露見の危険性が明らかに増すことを知りながら、自分が担任するクラスの女子生徒と関係を持ち、さらには校内で密会する等といった軽率な行動を取るだろうか。 また、多くの方がご指摘のとおり、作品後半では大味な犯行と軽率な判断が散見。 皆殺しを達成するまでは何を置いても銃弾をセーブしなければならず、また生徒に犯行の進捗が露見することを防いで警戒心を殺ぎ、周辺家屋からの通報の可能性を低減させる意味でも、可能な限り銃声の発生を避けるべき局面で、体力面で勝る女子高生相手に1対1の接近戦で発砲するだろうか。 とりわけ大量殺人に追い込まれる引き金となった校内2人目の殺人は、天才には考えられないボーンヘッド。 また、その時点でも皆殺し以外のよりスマートな解決手段が模索できたであろうし、あの隠蔽工作で警察の捜査から完全に逃れられると考えていたのか。 ある殺人を隠蔽するために、次の殺人を犯さざるを得ないというプロットは「青の炎」と同様。 スケールやサスペンスでは本作が勝っても、犯行の緻密さと合理性、読後感等の点から総合評価では「青の炎」に軍配 |
No.214 | 3点 | ステップファザー・ステップ- 宮部みゆき | 2015/11/25 16:51 |
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本作は一言で言えば「キャラ小説」であり、本サイトでの高評価をミステリとして高水準であると誤認したことが失敗。
登場人物の特殊な人間関係に鋭く斬り込むアプローチがないため、舞台設定がほとんど活かされておらず、連作短編集的な捻りも見られなかった。 各話に対するミステリ的な味付けも非常に強引な付属品の印象が強い。 ミステリとしてはこの評価が妥当と考えるが、作者の執筆意図に照らせばそれほど批判的スタンスに立つべき作品でもない |
No.213 | 4点 | 匣の中の失楽- 竹本健治 | 2015/11/25 16:50 |
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現実と虚構が高度に錯綜したプロットと、多すぎる登場人物の書き分けの不徹底が、読者を強烈な眩惑に陥れているところ、作品の大半が推理合戦に費やされるのは、いかがなものか。
推理合戦は、推理の前提たる事実関係が厳格に限定されてこそ効果を挙げられる。 その点、本作は前提事実が曖昧であるため、提示される推理の妥当性・合理性が検証できないまま、推理とは異なる現実が次々と明らかになっていく。 いわば「暗黙のうちに外れと予見される推理」を延々と読まされ続けるプロットとなっている。 また、読者によって様々な読み方を許容する柔軟構造としての着地は、それに意味がないとは断じて言わないが、当方の理解力不足・努力不足を差し引いても執筆意図としては弱い。 結果、読者を眩惑すること自体を目的とした作品と映り、それが読物としての面白さには繋がってこなかった |
No.212 | 6点 | 準急ながら- 鮎川哲也 | 2015/11/17 19:26 |
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地理的に遠く離れた一見無関係と思われる2つの事件が、警察の地道な捜査を経て、その密接な関係が浮かび上がってくる興味深いプロット。
メイントリックにはややチープさも感じられるところ、仮説の構築を繰り返す真相解明プロセス、とりわけ「なぜ遠方の写真店に現像を依頼したのか」というささやかな謎から解明に至る手際は実に見事。 人物造形やストーリーテリングは味わいに乏しく、一見して無味乾燥した印象を与えるものの、無駄のない筋肉質な構成はパズラーのお手本であり、一読の価値ある佳作と評価 |
No.211 | 6点 | 悪霊の館- 二階堂黎人 | 2015/11/16 19:28 |
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例によってコテコテのコード型本格。
提示された謎の不可解性は評価するし、その解決は網羅的ではあるものの、表層的で推理の飛躍も散見される印象。 すべての謎に一応の説明は付けられているものの、探偵は論理的に真相に辿り着いておらず、かつ犯人がこれほどまでに複雑かつ難度の高い犯行プロセスを選択したことの必要性・合理性を説明しているとも言えず、鮮やかさには欠ける。 ストーリーテリングも上手いとは言えない。 意欲作ではあるものの、ブレイクスルーにはいま一歩 |
No.210 | 4点 | 黒笑小説- 東野圭吾 | 2015/11/11 18:39 |
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文壇の裏話やミステリ作家の悲哀を描いた冒頭の4編はまずまず。
残る9編はオチのユーモアも毒も目新しさとインパクトに乏しい |
No.209 | 6点 | ドグラ・マグラ- 夢野久作 | 2015/11/10 18:50 |
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脳髄と細胞の本質、後天的な感情の遺伝、胎児の夢など、作品を彩る衒学の数々は、奇妙奇天烈ではあるものの、論旨は平易で読み応えがある。
作中作、ループ構造、複数解釈を成立させる柔軟構造など、後世に残るテクニカルなプロットを採用した先進性も評価。 一方、ミステリとしての骨格は脆弱で、(私の推測が正しいとの保証はどこにもないものの)真相のサプライズも弱い。 扇情的なカバーや、あまりにも有名な世評が読者を遠ざけているが、理解・読破不能というレベルの作品ではなく、世評ほどの奇書だとは思わない |
No.208 | 6点 | 誘拐- 高木彬光 | 2015/11/05 20:46 |
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身代金の受け渡しという誘拐の急所を華麗にクリアしたプロットは流石の一語。
一方、真相のサプライズが弱い点、犯人特定のプロセスが完全に論理的ではなく反則スレスレの手段に及んでいる点が難。 犯人を待ち受けていた法律の落とし穴は初歩的なもので、驚くには至らない。 リーダビリティとサスペンスにも良さを感じさせるものの、総合すれば小粒な印象は否めない |
No.207 | 3点 | 消失!- 中西智明 | 2015/11/02 14:27 |
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ストーリーテリングの拙劣さは特筆すべきレベルだが、サプライズの演出に徹したミステリパズルと考えれば、棚上げにしてもよい。
問題は3つのトリックとプロット。 1つ目のトリックは、不自然極まりない叙述により読者によっては序盤で看破できるレベルであるし、一部にアンフェアな叙述も散見されるが、その恐るべき奇想の副産物として目を瞑れなくもない。 問題は2つ目のトリック。トリック自体がご都合主義の極みと言うべき偶然の産物である点もさることながら、本トリックにより犯行プロセス全体が著しく合理性を欠き、かつ探偵が論理的に解明できない真相となり、プロットを完全に破綻させているように思う。 3つ目のトリックは、上記問題のうち3点目を解消するために導入されたものと推測するが、1点目・2点目の問題点は何ら解消されていない。プロット全体を真犯人が自らの犯行を隠蔽するために取った行動と考えても、その必要性や合理性は大いに疑問と言わざるを得ない。 以上、読者を驚かせるために無理に無理を重ねたプロットとの印象が強く、到底褒められるデキとは言えない |
No.206 | 6点 | 天帝の愛でたまう孤島- 古野まほろ | 2015/10/29 19:40 |
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レトリックの限りを尽くしたルビ塗れの個性的な文体は、3作目を迎えてこなれてきたのか、読む側が慣れてきたのか、違和感はほぼ解消しており、これまでの3作でリーダビリティは最も高まっている。
論理的な解明プロセスと真相の鮮やかさは一定の評価。 一方、犯行計画の難易度が極めて高くノーミスで遂行するのが相当に難しいと思われるうえ、犯行が繰り返される中、探偵が一貫してミスリードされるとは到底考え難く、フィージビリティには強く無理を感じる。 サプライズを演出するために無理を押したプロットの印象が否めない |
No.205 | 5点 | むかし僕が死んだ家- 東野圭吾 | 2015/10/26 16:21 |
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制約条件の多い舞台設定(移動なし、登場人物2名のみ、失われた記憶の復元にのみ焦点)である点を割り引いても、想定の範囲内でしか勝負できていない。
巷間よく指摘されるタイトルの是非については、もともとタイトルだけは上手くない作者であるところ、本作は勇み足気味でアンフェアとの指摘も甘受せざるを得ない印象。 作品としては破綻を見せずキレイに着地してはいるものの、明かされた真相の衝撃度からしても軽量コンパクトと言わざるを得ない |
No.204 | 6点 | 鉄鼠の檻- 京極夏彦 | 2015/10/26 16:20 |
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禅に関する薀蓄の面白さはシリーズ随一とも言えるレベルにあり、読物としてはさすがのデキ映え。
一方、こうした衒学とプロット、とりわけ犯行の態様と動機にあまりにもストレートに直結していて、作品としての奥行きには欠けている。 舞台設定自体がご都合主義の産物というより現実味に乏しい点、犯行のフィージビリティがほぼ無視されている点、振袖の少女はじめ解明されない謎が存在する点など、本格ミステリとしては不満の残る仕上がり |
No.203 | 9点 | クライマーズ・ハイ- 横山秀夫 | 2015/10/15 17:19 |
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新聞編集の現場にかかる描写のリアリティ・臨場感については、作者自身の実体験に由来するもので、もとより申し分ない。
そのうえで本作では、事件の舞台として御巣鷹山ではなく一地方新聞社を選択しながら、全く無駄のない磨きあげられた、それでいて情熱がほとばしるような筆致で、凄惨な事故とその影響を克明に描き切っている。 そもそも作者の筆力の高さについては疑う余地のないところ、本作は他作よりさらに一段以上高いレベルの出来栄えと言っていい。 その中で、「報道とは何か」「命の重さとは何か」というテーマを掲げ、組織の論理に翻弄される個人の葛藤、スクープと遺族への共感の間で揺れ動く個人の葛藤を抉り出した。 一方、本作への批判点として、主に以下の2点が挙げられるのではないかと思われる。 まず、主人公の人柄(傲慢な態度、判断のブレが大きい、感情に流されやすい、私情優先等)に感情移入しづらいという点については、本作の主人公として公私にわたって隙のないエリート記者ではなく、暗い過去や人格上の欠点をたくさん抱え込んだ等身大の一記者という人物造形を求めたのだと解したい。 次に、本作の落とし処が安易であるという点については、20年近い会社人生を陽のあたる社会部記者として過ごし、臨時待遇とはいえデスクまで勤めあげた人間にとって、残る会社人生20年にわたる過疎地勤務を受け入れるのは、ある意味では退職するよりも過酷な判断であり、安易なハッピーエンドとは受け取っていない。 以上、瑕疵が皆無とは言わないものの、本格ミステリ以外の広義のミステリとしては満点に近い評価を献上したい |
No.202 | 5点 | 誰が龍馬を殺したか- 三好徹 | 2015/10/14 11:17 |
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緻密な考証と蓋然性の高い真相の双方で良質な歴史ミステリと評価するが、蓋然性の高さゆえにミステリとしての意外性には乏しいと言わざるを得ないのが難点 |