皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
いいちこさん |
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平均点: 5.67点 | 書評数: 557件 |
No.237 | 5点 | チョコレートゲーム- 岡嶋二人 | 2016/02/15 13:51 |
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親子の断絶による家族の崩壊と、それが招いた中学生の暴走を描き出す社会派的プロット。
本格ミステリとしての仕掛け・トリックは平凡で、食い足りなさが残る印象 |
No.236 | 6点 | ウルチモ・トルッコ 犯人はあなただ!- 深水黎一郎 | 2016/02/12 19:19 |
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改稿・改題版の「最後のトリック」を読了。
作品の性格上、ネタバレにつながる詳細な論評は避けたい。 まず、「犯人=読者」という比類なき奇想を一定程度実現していることは確かであり、その実現にあたって施したさまざまな工夫は、イロモノの印象に反して、堅実で緻密な構成力を感じさせる。 しかし、結果としてプロバビリティの犯罪に止まっており、「読者」の解釈によっては破綻する等、一定の限界を抱えている点は大きく減点。 ただ、本格ミステリ読みを自認する人には一読を薦めたい意欲作であることは間違いない |
No.235 | 6点 | ホワイトアウト- 真保裕一 | 2016/02/12 19:17 |
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アイデアの面白さと構想力、文庫本で600ページを超えるボリュームにもかかわらず、一気読みさせるリーダビリティとサスペンスは評価。
一方、完全装備のテロリスト集団に対して、一介のダムの運転員たる主人公がただ1人で立ち向かうとするならば、ダムの構造や周辺の地理関係に精通している点を活かして、クレバーに対処するのが現実的。 その点、本作では主人公が燃えあがるような気迫をもって、何の装備もなしに2,000m級の雪山や極寒の河川を踏破し、テロリストから強奪した銃でテロリストを打ち負かす等、往年の週刊少年ジャンプを思わせる空想的な超人ぶりを発揮。 その他、犯人集団に潜伏した笠原という異分子が活かされないままに終わるなど、プロットの完成度には明確に難がある。 克明な場面描写とは裏腹に各登場人物の心理描写も浅く、ミステリとしての仕掛けも想定の範囲内 |
No.234 | 5点 | 建築屍材- 門前典之 | 2016/02/08 20:22 |
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(あらかじめ承知しているものの)拙劣な叙述、淡泊な人物造形は減点材料。
そのうえで、プロットの大宗を占める物理トリックの乱打については、全般にトリックの内容が非常にわかりづらく、犯行のフィージビリティにも問題が散見される点が残念。 ただし、死体消失にかかるメイントリックは、特殊な舞台設定を活かし切り、かつ死体切断の理由に納得感がある点で鮮やかであり、主人公のパンツの傷の手がかりも見事 |
No.233 | 7点 | 絡新婦の理- 京極夏彦 | 2016/02/04 12:05 |
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作者に本格ミステリを執筆する意図がないのは前提として理解しているが、真犯人があまりにもわかりやすく、犯行のフィージビリティがほぼ皆無である点で、本格読みとしては高い評価は付けられない。
本作の要諦は犯行の構造にあり、それを活かすために複雑極まるプロットが組み立てられているのだが、その構造が作品中盤に明らかになってしまうなど、プロットの完成度の点でも疑問。 作品の持つ力作感や1個の読物としての面白さを最大限評価してこの評価 |
No.232 | 6点 | 我らが隣人の犯罪- 宮部みゆき | 2016/01/25 15:09 |
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作者の作品としては本格度が高く、無駄を削ぎ落とした筋肉質な構成。
テクニックの高さを感じさせる反面、総じて軽量コンパクトでパンチ力に欠ける印象。 ただ、好感の持てる作風で、人によっては高い評価となるのも頷ける |
No.231 | 5点 | 11枚のとらんぷ- 泡坂妻夫 | 2016/01/25 15:08 |
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1個の作品として独立可能な11編のショート・ショートを作中作として組み込んだ長編本格ミステリ。
作中作には、やや強引な箇所もあるものの、容疑者を限定する材料がさりげなく散りばめられている点が巧妙。 一方、犯人が「11枚のとらんぷ」を利用した動機は、それによって容疑者が限定されるという致命的なデメリットを考えれば、やや不可解と言わざるを得ない。 また、ミステリ・パズルのような乾燥したストーリーテリングは、キーとなる登場人物が多く、かつ視覚的なイメージが重要である本作のプロットとの親和性は至って低い。 以上、プロットの組み立てに巧妙さ・斬新さが感じられるものの、作品の完成度としては今一つの印象 |
No.230 | 7点 | 龍神の雨- 道尾秀介 | 2016/01/21 20:39 |
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二組の兄弟の偶発的すぎる接触、「雨」や「龍」のこじつけめいたメタファー、読者に対するミスリード(特に脅迫状等)のあざとさ等には難を感じるし、真相は美談にまとめすぎてやや安易な印象を受ける。
ただ、登場人物ごとの虚実を微妙にずらした巧妙なプロットと、それを活かしたミスリードの手際はさすが。 例によって少年を描き出す手腕には卓越したものがあり、圭介の母と兄を想う切ない気持ちは心を強く打つものがあった。 ラジオニュースを活用して作品に余白を持たせる手際も洗練されており、作者の余裕すら感じる |
No.229 | 5点 | 化石少女- 麻耶雄嵩 | 2016/01/19 18:09 |
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推理の無謬性を保証するのは、推理そのものの合理性・論理性ではなく、探偵存在の絶対性であるとの認識に立ち、その探偵を「神様」→「赤点女子高生」→「あぶない叔父さん」と遷移させてきた昨今の試みの一環。
ミステリの本質的構造・脆弱性に斬り込む企みとしては面白い。 探偵が生徒会メンバーを犯人とする恣意的な前提に立ち、与えられた手掛かりからその前提を満たす解決を構築する手順は、受容性こそ全く相違しているものの、基本的には「さよなら神様」と同工異曲。 したがって、同作と同様に、蓋然性を無視した推理が乱発されるものの、推理の反証は存在しない。 この点は連作短編集としての仕掛けには不可欠であるものの、それ故に真相が予測しやすく、衝撃を大幅に減じている点は否めない。 著者ならではの先鋭的な問題認識が読物としての面白さにダイレクトにつながっておらず、昨今の軽量コンパクト路線は脱していない |
No.228 | 5点 | 切り裂きジャック・百年の孤独- 島田荘司 | 2016/01/13 17:02 |
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(以下ネタバレあります)
1世紀の時を隔てたロンドンとベルリンを往復しながら、真相を解明するプロットは、傑作「写楽 閉じた国の幻」を想起させるが、真相の衝撃度や合理性、犯行のフィージビリティの点などで遠く及んでいない。 本件原因を猟奇殺人以外に求める立場であれば、5人の連続殺人が立て続けに発生し、それで殺人がストップしたことから、「怨恨」に辿り着くのはそう困難なことではない。 次に、5人もの娼婦が殺害され、性的暴行の痕跡が皆無であるとしたら、犯人が女性であることは当然想定される真相であり、警察がそれを全く顧慮しなかったとは考え難い(「ハサミ男」と同様)。 死体が切開されている理由も、猟奇殺人でないのであれば、現実の犯罪ではともかく、ミステリの世界では真っ先に疑うべき真相である。 こうした意外性に乏しい真相に対し、一方では意外性を演出するため平々凡々とした犯人像を選択したため、その動機の納得性や犯行経緯の合理性に疑問が残り、手際の異様な洗練とのギャップも激しい。 死体によって損壊の度合いが大きく相違する点も、単に犯行が露見しそうだったためという褒められない結論。 一方で、犯行動機や犯人の人物像に対する掘り下げも弱く、サスペンスとしての盛り上がりもいま一つ。 題材の選択や目の付け所が興味深く、5点の評価としたが、ワンアイデアに賭けた作品でありながら、そのアイデアが弱く、これ以上の評価は付けられない |
No.227 | 6点 | 砂の城- 鮎川哲也 | 2016/01/13 16:58 |
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時刻表の盲点を突いたアリバイトリックは、非常に古典的なもので、現代の読者にとっては、いささか古さを感じさせる印象。
しかも、犯行に利用された経路以上に合理的な経路が存在することが判明し、後日加筆・修正されているのだが、相当に苦しいエクスキューズとなっている。 サブトリックも含めて、論理性・合理性・フィージビリティには見るべき点もあるのだが、トリックの難易度が低く、衝撃を演出できていない。 |
No.226 | 7点 | 猫丸先輩の推測- 倉知淳 | 2016/01/08 20:09 |
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まず「推測」というアプローチ自体が強烈な奇想。
一見、作者の開き直りや稚気であるように見えて、後期クイーン問題「作中で探偵が提示した解決が真の解決であるか、作中では証明できないこと」に関する秀逸な回答とも言える。 猫丸先輩の推測には高い納得性があり、推測される真相がもたらす衝撃も十分。 本作のプロットは、真相が飛躍しすぎていると納得性に欠け、真相の飛躍が足りないと面白みに欠けるが、実に絶妙なバランスを保持しており、作者の力量の高さは疑い得ない。 ほのぼのとしたユーモアあふれる作風は、長編では軽量さが目に付くところ、短編では軽妙さと斬れ味が相まって完全にフィット。 登場人物に悪人が皆無で、爽やかな読後感も素晴らしい。 短編、しかも日常の謎系としては満点に近い評価 |
No.225 | 4点 | 高層の死角- 森村誠一 | 2016/01/05 17:26 |
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密室トリックは添え物程度の扱いで、メインはアリバイトリック。
移動経路のトリックは、ただ複雑なだけで警察が地道に捜査すれば必ず真相が判明するだけに、本質的には単なる眼くらましでありトリックとは言い難い。 チェックインのトリックは、ディテールに巧緻さが感じられるものの、その構造上必ず共犯が必要である点、それが第二の殺人の動機と矛盾しているように感じられる点等が非常に難点。 刑事・被害者女性・犯人の歪んだ三角関係をより深く抉り出せば、違った展開も見えたように思うものの、その方向には展開しなかった。 以上、力作感はあるものの、本格ミステリとしては構造的に極めて脆弱であり、評価としては4点の最上位クラス |
No.224 | 6点 | 太陽黒点- 山田風太郎 | 2015/12/29 12:56 |
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犯行計画の成立性をはじめ、本格ミステリとしての色彩は淡泊だが、序盤に大胆な伏線を仕込みつつ、一風変わった恋愛小説のようなプロットで、読者を煙に巻く手際は鮮やか。
古典的ミステリとは一線を画す仕上がりは、その時代性を考えれば、著者の高い先見性を窺わせる |
No.223 | 6点 | 動機- 横山秀夫 | 2015/12/25 16:56 |
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4作とも水準を超えるデキであることは間違いない。
無駄のない硬質な文体ながら、各登場人物の心理を抉り出すような描写が冴えている。 ただ各話における反転の構図にやや一本調子さも感じてこの評価 |
No.222 | 6点 | 白昼の死角- 高木彬光 | 2015/12/25 16:55 |
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天才的犯罪者との触れ込みにもかかわらず、手形詐欺の手口がチープでリスキーであり、説得力に乏しい。
力作であることは認めるものの、時間の経過とともに陳腐化した印象を禁じ得ない |
No.221 | 6点 | 祈りの幕が下りる時- 東野圭吾 | 2015/12/22 18:02 |
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既読感の強いプロット・トリックで目新しさに乏しく、本格ミステリとしても食い足りなさを覚える。
一方、偶然をご都合主義と感じさせない伏線・心理描写の妙、読者の共感を呼ぶ筆力の高さ(下世話な表現をすれば「お涙頂戴」)は例によって際立っている。 タイトルのネーミングの拙劣さは相変わらずで、ストーリーテリングがやや劣化している印象を受けたのは気になった。 昨今の軽量コンパクト路線の象徴的な作品とも言え、畢生の本格大作が待望されるところ |
No.220 | 6点 | 天帝のみぎわなる鳳翔- 古野まほろ | 2015/12/18 14:39 |
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強烈な不可解性を秘めた謎の提示、巧緻極まる叙述、繊細と迫力を兼備した筆致、堅牢なロジックなど、引き続き極めて高い水準にあり、かつ作品を重ねるごとに前進が感じられるのはお見事。
しかし一方で、やはり前作と同様に犯行のフィージビリティと真相解明のプロセスに違和感が残り、納得感は弱い。 トリック自体は至って脆弱であるところ、あのように困難な犯行を完結できるだろうか。 いずれの探偵も、あれほど些細な手掛かりから見事に真相に到達し得るであろうか。 本格の高みを極めんとするチャレンジスピリットは大いに認めるものの、そのプロットに綱渡り的な危うさも感じてこの評価 |
No.219 | 6点 | 新世界崩壊- 倉阪鬼一郎 | 2015/12/10 19:21 |
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作者の作品は初読だが、バカミスと認識したうえで手に取った。
異様に焦点のぼやけた描写や、あからさまに怪しい童話など、仕掛けがあることは歴然としていたが、それでも舞台設定にかかる真相は強烈。 あらかじめ登場人物の性格付けが提示されているとしても、地の文は明らかにアンフェアであるし、裏表紙のあらすじさえも活用するアイデアには脱帽しつつも、その記載内容はやはり明らかにアンフェアであるのだが、それでも非現実的な「トンミス」に陥ることなく、現実的な「バスミス」の枠に留まりつつ、比類ない驚愕と失笑を演出している真相は圧巻。 そのうえで、上下段同時進行という前例のない趣向と、それを活かしたグラフィックデザイン上の仕掛けは、論理性は皆無であるものの強い説得力があり絶妙。 ただ、この2つの仕掛けがあまりに素晴らしいだけに、この2点にフォーカスすべきであった。 作者のサービス精神は理解するものの、童話はじめ他の仕掛けや丁寧すぎてやや下世話な解説は不要だし、犯行動機はもう少し現実的な線で料理してほしかった。 以上、変化球が来るとわかっていても打ち取られてしまう奇想と熱意は手放しで認めるだけに、ややもったいなさを感じる作品 |
No.218 | 5点 | 歪笑小説- 東野圭吾 | 2015/12/10 19:19 |
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最も手堅く笑いが取れる文筆界の楽屋ネタに絞り込んだことで、大きなハズレはなく、水準を超える2~3編も存在。
その結果、「黒笑小説」はもちろん、「怪笑小説」もわずかに超えたものの、強烈な毒のある作品は見当たらず、やや単調さも感じてこの評価 |