皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
HORNETさん |
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平均点: 6.32点 | 書評数: 1148件 |
No.168 | 5点 | 謎解きはディナーのあとで- 東川篤哉 | 2011/12/03 21:44 |
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1作目「殺人現場では靴をお脱ぎください」が、推理の筋書きとしても、この作品の売りの宝生と執事の関係を知る驚きからも一番。2作目以降は、設定が分かった以上、パターンは分かるので、あとはトリック、謎解きの面白さにかかるわけだが・・・。まぁ1作目以上のものはなかった。でもそこそこは面白かった。 |
No.167 | 6点 | 出雲伝説7/8の殺人- 島田荘司 | 2011/09/18 22:08 |
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吉敷竹史シリーズ。山陰地方を走る6つのローカル線と大阪駅に、流れ着いた女性のバラバラ死体が。なぜか首はついに発見されなかった・・・。
犯人は作中でほぼ確定し、路線・時刻のトリックを解明するハウダニット。とはいえ、時刻表のややこしさを単純化する配慮が要所になされ、割とややこしくて面倒臭いという感じはなく読み進められた。 「天才肌の名探偵」御手洗潔と対照的な、地道で泥臭い吉敷竹史のキャラクターがよく出ている。よって、ストーリーの展開もまさに地道な捜査をそのままなぞるようだが、それが分かりやすい。トリックの妙もさることながら、犯人をあぶり出す最後の過程も趣向が凝らされていて、メイン以外にも謎解きが楽しめる作品と言える。 |
No.166 | 9点 | 人形はなぜ殺される- 高木彬光 | 2011/09/18 21:56 |
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このサイトで非常に評価が高いので中古で購入して読んだ。期待にたがわず、人形が殺されるという舞台設定、首なしや轢断死といった事件の陰惨さ、これぞ本格という雰囲気が存分に楽しめた。
「推理を楽しむ」タイプのミステリ愛好家の大好物、「読者への挑戦状」もあり、そういう点でも楽しめたが、その挑戦状が親切すぎたのか、タイトルが親切すぎたのか、「好きな割には推理音痴」の私がほとんど真相を看破できた。そういう意味で、読者の思惑をはるかに凌駕する「参りました!」という爽快感ではなく、「神津恭一郎の推理に肉薄できた」という自分への満足感で読後感もよかった。 それもすべて、精緻なプロットと、後出しなどのないフェアな作品展開によるものだと感じる。氏の他の作品も、是非読みたいと思えた。 |
No.165 | 5点 | フランス白粉の秘密- エラリイ・クイーン | 2011/09/18 21:34 |
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国名シリーズ第2作。百貨店社長サイラス・フレンチの妻、ウィニフレッドが,衆人注視のデパートのウィンドウで死体となって出てきた。事件当日から姿を消しているウィにフレッドの娘・カーモディ,明らかになるその素行,アパートに残された統一性のない書籍,ブックエンドの白い粉・・・さまざまな要素をつないで推理を組み立てるエラリイ―。
劇場型的な事件の幕開けに本格志向の期待が高まったが、その後の展開は正直そこそこ。些細な異変に目を向け、そこから推理を組み立てるエラリイの知見には圧巻だが、物証から人物の限定へと進む過程に大味さを感じる(つまり「このことができるのはこの人しか・・・」の部分が完全に物理的ではない気がする)が、時代を考えればいたしかたないかも。 少なくとも本格黄金期を飾った作者の名には恥じない、よく組み立てられた話であったことは間違いない。 |
No.164 | 8点 | 離れた家―山沢晴雄傑作集- 山沢晴雄 | 2011/09/18 21:20 |
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砧順之介の事件簿として「砧最初の事件」「銀知恵の輪」「死の黙劇」「金知恵の輪」、短編「扉」「神技」「厄日」「罠」「宋歩忌」「時計」、中編「離れた家」。アリバイトリック等をメインにした、基本に忠実というか、飾り気や無駄な伏線のない、リアリズム描写による質実剛健な作品群。作者の愛好家振りが表れた、将棋を題材にした「銀知恵の輪」「金知恵の輪」、二話が照応している「神技」「厄日」など、シリーズ的な趣向も面白いが、人間消失・瞬間移動のトリックを扱った表題作「離れた家」がやはり一番よかった。 |
No.163 | 7点 | 秋期限定栗きんとん事件- 米澤穂信 | 2011/09/18 21:18 |
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互恵関係を終わらせた小鳩君、小山内さんの煮え切らなさにやきもきするが、そっちのほうも、本筋の事件のほうも、ラストにすっと胸がすく。学園ものというライトな設定、事件も本格のような重さはないが、伏線もよく考えられ、下手な本格よりミステリ的にも面白かった。 |
No.162 | 5点 | こめぐら- 倉知淳 | 2011/09/18 21:01 |
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「Aカップの男たち」ブラ愛好家たちのおばかで大真面目なやりとり、「さむらい探偵血風録 風雲立志編」いちいちカメラをにらむ主人公の侍が最高。バカミスの面白さを堪能。ミステリ的には・・・かもしれないが、つまみ食いのように読書するにはオススメの一冊。 |
No.161 | 5点 | なぎなた- 倉知淳 | 2011/09/18 20:55 |
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それぞれに趣向の違った仕掛けがあって、楽しめる。アンソロジーなどでお目にかかった作品もあったが、読んでいるうちに「何か覚えがあるなあ」と思い出した。「ナイフの三」「闇ニ笑フ」がよかった。 |
No.160 | 6点 | ミミズクとオリーブ- 芦原すなお | 2011/05/05 16:50 |
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このサイトでの評価から,どんなものか読んでみたいと思い読んだが,それぞれの方の評価に納得がいった。とにかく「面白い!」。主人公と奥さん,そして河田のとぼけた会話が最高。事件に対する奥さんの推理は,推測やときには勘に基づくものであるため,ミステリの書評サイトとして採点は抑え目にしたが,文句なく気に入った作品となった。同シリーズの他作品も必ず読みたい。 |
No.159 | 7点 | アリアドネの弾丸- 海堂尊 | 2011/05/05 16:16 |
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「本シリーズ(海堂作品)はミステリではなく,医療エンターテイメント」という評判を覆す快作。ロジカルモンスター・白鳥が,隙のないロジックで真犯人を追い詰めていくくだりは痛快であり,往年の探偵小説の解決編のようであった。各登場人物のキャラクターを描く腕は流石で,それぞれの個性が生かされ,うまくストーリーに絡んでいる。
一つ目の事件の謎解きが少し突飛で雑な感じがしたが,なんといってもメインの事件の謎解きは,医療現場(というかMRI)の特質に基づいた納得のロジックで,現役医師である作者ならではの筋書きと感じた。シリーズを読み進めてきた読者はもちろん,「もうバチスタ・シリーズはいいかな」と感じ始めていた人にも,この作品は勧めるに値する。 |
No.158 | 8点 | マリアビートル- 伊坂幸太郎 | 2011/04/24 18:15 |
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裏稼業の人物たちのコミカルなニックネーム(「蜜柑」「檸檬」「天道虫」・・・),ありえない偶然の重なり,など,現実離れしたストーリーと設定だが,エンタテイメントと割り切って読めば非常に楽しい。前作に登場した「槿(あさがお)」が登場し,クールに仕事をこなす姿も胸がすく。
人生,人間理解について達観したような極悪中学生「王子」の言動に非常にストレスがたまるが,作者のことだから最後にどんでん返しをしてくれるだろう・・・という期待のみで読み続け,まぁその期待は裏切られなかった。数々の「ありえない偶然」も,逆にここまで全体の仕組みを考えた作者の腕に脱帽する。個人的には,前作「グラスホッパー」よりこちらのほうがさらによかった。 |
No.157 | 7点 | 午前零時のサンドリヨン- 相沢沙呼 | 2011/04/24 17:56 |
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学校では無口で人を寄せ付けない美少女,酉野初は実は凄腕マジシャン。一目惚れした須川くんの周りに起こる学園内の不思議な出来事を,初が見事に解決していく。
他愛もないラブコメのように見えて,それぞれの場面での言動があとになって意味をもってくる。事件解決を前面に打ち出して物語が進行する本格推理物と違って,わざとらしさがないため,そうした手がかりや伏線がうまく物語にもぐりこんでいて余計に面白い。最後の,物語のメインとなる謎についても同様に,上手にそれまでに手がかりが散りばめられていて感心した。ただ,コンピュータ,ネットにかかわる知識が絡んできたのは少し難解だった。 個人的には八反丸芹華がキャラ的にも,人間的にも好き。作品としても,受賞の名に恥じない名作だと感じた。 |
No.156 | 6点 | アルバトロスは羽ばたかない- 七河迦南 | 2011/04/24 17:40 |
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児童養護施設「七海学園」の保育士,北沢春菜が施設の子どもとかかわる中で,いろんな謎を解いていく。一方,施設の子が通う七海西高校で起きた転落事件の真相解明に取り組む主人公。自殺として処理しようとする警察に対し,「自殺ではない」と信じ,自分なりに捜査をしていくが・・・。真相には確かに驚かされる。まぁうまいにはうまいけど・・・騙された感もぬぐえない(腑に落ちないほうで)。
上記の謎のみを追究する一編ではなく,過去の施設で起きたさまざまな謎解きが回想として描かれ,それぞれに楽しめる短編のようになっているのがよかった。物語メインの謎は自分としては「・・・・・・・」だったが,そうした点で面白かったのでこの評価とした。 |
No.155 | 6点 | 死ねばいいのに- 京極夏彦 | 2011/04/24 17:32 |
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「アサミ」という女性の死について,渡来という礼儀も何もわきまえない,いかにも今時の若者が,関係者に話を聞いて回る。「自分は頭悪いすから・・・」といいながら,関係者たちの心に入り込む言葉を投げつけ,それぞれの人生を否定(?)する。
そのやりとりや,過程を楽しむのがメインになる。フーダニットの体をとっているとはいえ,事実・手がかりをもとに解明されるわけではないのでその要素は薄い。が,それぞれの関係者からどのような過去や内面が暴かれるのか,と楽しんで読むことが出来た。 |
No.154 | 7点 | 初陣- 今野敏 | 2011/04/24 17:22 |
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「隠蔽捜査」シリーズの伊丹俊太郎を主役とした,スピンオフ短編集。もともと伊丹は好きだったので,とても面白く読めた。刑事部長として判断に迷うとき,竜崎にアドバイスを求め,問題を解決していく過程に,相変わらずの竜崎らしさを垣間見る。一方的に親友と思っている伊丹と,なんだかんだいってかかわりを断ち切れない竜崎との,微妙な関係も好感が持てる。 |
No.153 | 7点 | 隻眼の少女- 麻耶雄嵩 | 2011/04/03 20:44 |
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水干姿の隻眼の女探偵,御陵みかげが二代に渡って活躍する物語。琴折家の女性は代々に渡って不思議な力を受け継ぐとされ,そのうちの一人が「スガル様」という神としてあがめられる。因習が色濃く残る村で,「スガル様」候補の少女が次々と殺されていく・・・といった,横溝正史や三津田信三のような設定,それでいて重苦しすぎないタッチ,一度は解決されたと思われた事件が二転三転する様相,と,雰囲気的にも筋書き的にも十分楽しめた。
が,残りのページ数や2部からの構成などにより,解決に向かうように見せかけられた部分はそれは「見せかけ」と分かってしまったり,1部のラストなどはどう考えても違和感を感じてしまうところがあり,純粋に騙されきれなかった。登場人物の一覧や家系図がなぜか2部にはなかったり,屋敷の見取り図がなかったりなどの点も,そうした違和感を助長してしまった。 |
No.152 | 6点 | 水魑の如き沈むもの- 三津田信三 | 2011/04/03 20:13 |
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三津田作品を読むのはこれで三作目だが,土俗的な雰囲気や因習はびこる山村という,現代離れした設定に自分の目が慣れてきたためか,はじめに読んだ「首なし」よりも読みやすかった。それは「水魑様」をあがめ,「増儀」「減儀」などの儀式によりその統治を願うという仕組みが複雑でなく分かりやすかったということもあるかもしれない。
しかし,読みやすいということは翻れば緻密さに欠けるということかもしれず,確かに「首なし」のような,ドミノが倒れていくように今までの謎が解決されていく怒涛の勢いは感じられなかった。結末がロジックとして完全とは言い切れない感じがあったこともその一因。 とはいえ,多くの登場人物を出しながら,どの人物にも極端な軽重をつけず,誰が真犯人となっても反則な感じがしないのは作者らしいフェアな感じを受ける。本格ミステリとしての名に恥じない,良作であることは間違いない。 |
No.151 | 6点 | 密室の如き籠るもの- 三津田信三 | 2011/04/03 19:54 |
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短編3本と,表題作の中編1本の,刀城言耶シリーズ作品集。緻密に練られたロジックと舞台設定で重厚に読ませるこれまでの長編もよいが,このくらいの作品では,登場人物の数が限られているがゆえに推理を楽しみやすく,気軽に楽しめるというよさがある。「首切の如き裂くもの」の袋小路のトリックや,「隙魔の如き覗くもの」の学校を舞台にしトリックは面白かった。また,こうした短編や中編でも,因習や伝承などを必ず絡め,作者らしさを決して失っていないのもさすが。 |
No.150 | 5点 | ST 警視庁科学特捜班 為朝伝説殺人ファイル- 今野敏 | 2011/04/03 19:42 |
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STシリーズが再開されたことは嬉しいが,今回の話はSTメンバーの卓越した才能が生かされたとは言い難い内容に感じた。それぞれのキャラクターがもっと生かされ,引き出されれば・・・。文章は相変わらず読みやすく面白かったので,読んで損はないが,シリーズ作の中ではそこそこ。 |
No.149 | 10点 | 写楽 閉じた国の幻- 島田荘司 | 2011/03/20 15:31 |
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久しぶりの10点満点。
寛政6年に彗星のごとく現れ,その年の内に姿を消した謎の浮世絵師,東洲斎写楽。その正体についてはこれまで多くの研究者が諸説を唱えてきたが,それらとは全く異なった推理が本書で展開される。 氏としても初の長編歴史ミステリであったと思うが,私自身も読むのは初めてだった。しかも江戸時代の浮世絵文化という,ほとんど自分には知識のないジャンルが舞台とされているので,はじめは及び腰でもあったが,読み進めるうちに謎にどんどん引き込まれていった。作品で,写楽や歌麿の描き方について説明されているくだりがあるが,実際に見てみたいと,図書館で浮世絵や写楽の本まで借りて,夢中で読んだ。 述べたように,浮世絵文化や研究史に知識はないので,この島田氏の推理しか知らないわけで,これまでの諸説と比較することは出来ないが,少なくとも史実や文献に基づいた推理は非常に説得力を感じさせるとともに,見事なまでに一本につながっていくさまは,何か背筋が震える感じさえした。 虚構ではない,史実の謎を追う楽しみと,自分の見聞が広がっていく楽しみを存分に味わえた。 |