皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
HORNETさん |
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平均点: 6.32点 | 書評数: 1159件 |
No.239 | 8点 | ABC殺人事件- アガサ・クリスティー | 2013/02/16 12:04 |
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中学時代に読んでいたが、今回再読してみた。今や「ABCパターン」とまでいわれる有名トリックであり、現代においては新鮮味は確かにない。が、なにせ読んだのが中学時代だったので、その真相にいたく感銘した。クリスティは多くのトリックや設定で同じことがいえるが、「はじめにそれをやった人」つまり先駆者である点はやはり評価すべきだと思う。
こう書くとそういう点でのみの評価のように感じさせてしまうが、物語性、リーダビリティ共に今読んでも十分耐えうるものである。多くの複線が絡み合うような複雑さもないので、分かりやすくもある。懐かしさと純粋な面白さで、十分楽しめた。 |
No.238 | 5点 | 川に死体のある風景- アンソロジー(出版社編) | 2013/02/16 10:44 |
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「水底の連鎖」が、ありえないと思うが発想が秀逸。「捜索者」は山岳が舞台となり、「川」がテーマになった作品という色があまり感じられないが、謎解きとしては一番面白かった。「悪霊憑き」は綾辻行人らしい短編。「この世で一番珍しい水死人」佳多山大地、「桜川のオフィーリア」有栖川有栖は別の短編集に収録されていたので既読だった。 |
No.237 | 10点 | 64(ロクヨン)- 横山秀夫 | 2013/01/04 19:57 |
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待ちに待った横山秀夫の新作。相変わらずの力強い筆致、読ませる文章。刑事部畑でやってきた自負をもちながら、広報官という職務にあたる主人公の葛藤、行方不明の娘を抱える夫婦の苦悩、刑事部と警務部の水面下での綱引き、そして表題でもある昭和64年に起きた未解決誘拐殺人事件「64」の真相・・・多くのストーリーが複線的に進行しながら、それらが見事につながっていく大仕掛けは「さすが」としかいいようがない。警察ドラマのように物語は進行していきながら、全てが謎解きへと向かっている。それがわかったときの背筋の震え、読後の満足感は太鼓判。やっぱり横山秀夫はすごいとただただ感嘆する作品。 |
No.236 | 6点 | 江神二郎の洞察- 有栖川有栖 | 2013/01/04 19:35 |
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学生アリスシリーズが好きだから、それだけで自分の中で評価はよい。他の方が書いているように、「4分間では・・・」は面白かった。「蕩尽に関する一考察」もよくできた作品だと感じた。あとは、学生アリスシリーズを呼んでいるだけに、「月光ゲーム」からマリアが入部するまでの過程が見られるのはうれしい。やっぱり部長・江神二郎はかっこいい。 |
No.235 | 3点 | 幽女の如き怨むもの- 三津田信三 | 2013/01/04 19:30 |
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これまでの「~の如き~もの」シリーズから期待して読むと外すと思う。三津田氏の本シリーズの、何を魅力としているかによると思うが。私は、超常現象的にみえる不可解な出来事が、現実的に解釈される推理に胸のすく思いを感じるタイプ。もちろん、横溝正史を彷彿とさせるホラー要素も大きな魅力だが、それが最後には明快に読み解かれるからこそおもしろいと感じている。そういう観点からしてこの作品は非常に消化不良。次作は今までどおりのパターンを期待したい。 |
No.234 | 9点 | 東西ミステリーベスト100(死ぬまで使えるブックガイド)- 事典・ガイド | 2012/12/23 19:47 |
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自分の評価と重なり共感したり、相容れずに物申したくなったりと、そういうこと自体が面白い。また未読作品もまだまだあり、特に作家自体未読の場合は参考になる。
諸々の要素を含めて、ミステリファンなら手にしていて損はない一冊。 宮部みゆき某作品の、映画化されたものについての酷評が笑えた。ランクインしている以上、基本的に肯定的に推す感の書評が多い中、異色だった(もちろん書評自体はマル、私も大好き)。 |
No.233 | 4点 | アルカトラズ幻想- 島田荘司 | 2012/12/23 19:14 |
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猟奇的な事件から始まり、冒頭の章はかなり引き込まれたが、それは裏を返せばこの事件に関しての真相解明を期待してのこと。2章、3章と物語がまったく別の方向に行くことに、不安とわずかな期待をこめて読み進めたが・・・という感じ。
確かに、本編とは直接関係がないけれども第2章の論文は普通に面白かった。しかし、「写楽」ではそれが謎解きの核心にかかわるものであったのに対し、本作品ではそれはただの薀蓄だった。もっといえば、題名から見ても3章、4章&エピローグだけで十分一物語として成立する。逆に言えば、1・2章は不要。というより、1章を読んで読み進める以上、まるで関係ない方向に話が展開している3章・4章も、最後はそこ(1章)に立ち戻るという期待を込めて読んでしまう。それが見事に裏切られた。3・4章だけであったらそれなりに満足ができたかもしれないが、1章から読んでいると非常に消化不良な読後感であった。 |
No.232 | 7点 | キングを探せ- 法月綸太郎 | 2012/12/23 19:03 |
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(ネタバレ気味)
読者の先入観からの序盤のミスリードは秀逸。ニックネームを使いながら倒叙法と謎解きの両面からうまく構成された作品だと思う。長編の割には会話文を主体としておりテンポよく読め、ものの一日で読めてしまうのも好ましい。 メインである謎解き・推理も、叙述的なトリックも併せて上手く仕組まれている。物語的に肉付けをすればもっと長い話になっていたかもしれないが、自分にとってはそれは余分で、こうした展開の方がむしろ分かりやすくて好ましかった。 |
No.231 | 6点 | 第二の銃声- アントニイ・バークリー | 2012/12/23 18:41 |
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読み進めるにあたっては面白かった。主人公(書き手)に感情移入しやすい書き方がその大きな要因。殺された男に対する不快感を共感的に受け入れられる点も大きい。
が、発表年次を見ても、二番煎じという感は否めない。「毒入り」の方が新鮮味があった。人間が描けているという点ではこちらの方が部があるが・・・。前例があるだけに結末の衝撃度も落ちた。 ただ、氏の作品で最も自分が面白く、他にない秀逸さを感じるのは、作中の探偵を「名探偵」として終わらせないことにいささかの躊躇も感じない構えである。 |
No.230 | 4点 | 吹雪の山荘-赤い死の影の下に- リレー長編 | 2012/12/23 17:48 |
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前書きにこれまでのリレー小説の轍は踏まない、というようなことが書かれていたけど、それでこの出来ならやはりリレー小説というのは企画自体の面白さ以外に魅力はないと感じる。むしろ、こうした企画で当該作家に初めて出会う人は、その力量を見誤ってしまうのではないか。
・・・・・・というように、結果として読み損。どんなにがんばっても、最後を担当する作家に皺寄せが来てしまうのは避けようがない。しかも、各作家が複数の作品を通して創り上げてきた名物探偵を、他作家が書くとキャラクターがうまく書ききれない。 さらに、本作品で謎解きの核となる存在である機密団体の話は、論理が飛躍していてまったく納得できない。トリックから動機から、あまりに突飛過ぎて共感できない(というか理解ができない)。私は別に現実主義に則った社会派ミステリ支持者ではなく、どちらかというと本格ミステリ嗜好者であるが、だからこそロジックの蓋然性が低い突飛なものは好まない。 ただ、最後を担当した巽氏には本当にお疲れ様と伝えたい。ある意味氏に対しての好感度が増した。 |
No.229 | 8点 | ロードサイド・クロス- ジェフリー・ディーヴァー | 2012/12/23 17:35 |
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(ネタバレ気味だがこの作者の作品読者なら折込済み)
キャサリン・ダンス主役の2作目(?)。ネットいじめにあった少年が犯人とされる殺人事件で、その少年の行方を追う中で明らかになってくる真相。「ネットいじめ」という世相を反映したテーマがまずよかった。国や人種が違っても、いきつく問題は同じなのだと思うと、結局人間の本質は同じなのだとつくづく感じた。氏お決まりの終盤のどんでん返しも、「お決まり」だけに予想もできたし、しかも指し示す犯人もそうだったが、作品の魅力がそこに終始しているわけではないのでOK。主人公ダンスの捜査・思考の過程と、母親との微妙な距離感の複線が作品の真骨頂。リンカーン・ライムシリーズ(と言うのかこれは?)の中でも自分は屈指の名作だと感じた。 |
No.228 | 4点 | このミステリーがすごい!2013年版- 雑誌、年間ベスト、定期刊行物 | 2012/12/10 20:19 |
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小学生のころ江戸川乱歩の少年探偵団シリーズを読み漁っていたとはいえ、本格的にミステリにはまり出したのはここ数年。そのきっかけとなったのがこの年刊誌で、毎年出るのが非常に楽しみだった。が・・・。ここ最近、手に取ったときの高揚感が当時ほどではないのは、はまってきたから故なのか?
ミステリにはまるほど、遡るように過去の名作を読みたい欲求に駆られるため、どうしても最新作、トレンドから遠ざかっていく(両方を追い求めていけるほどの読書家ではないから)。よって最近の本書の私にとっての意義は、ミステリの現在の潮流を知ったり、そこから新たなお気に入り作家を開拓していくことにある。といいながら、未知・未読の作家が並ぶと、それら全てに手を出すエネルギーも時間もないため、かえって撤退ムードにとらわれてしまう。 そんな自分自身の変容があるためか、各作品解説から魅力を感じるものが少ない。「これは面白そうだ。絶対読む!」という意欲にまでいたるものが。趣旨はもちろんそうなのだろうが、ホントに単なるランキング本になってしまっている感じが年々強くなっている。 自分のお気に入りは「読書のプロが選ぶ!私のベスト6」。それぞれの立場の人がそれぞれの嗜好で選んでいるのを見るのはなぜか面白い。 いろいろ書いたが、なんだかんだできっと毎年買い続けてしまうような気がする・・・・・・ |
No.227 | 6点 | 本格ミステリの王国- 評論・エッセイ | 2012/12/01 18:18 |
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有栖川有栖の各所でかかれたエッセイをまとめたもの。過去の偉大な推理作家について一考する文章や、ミステリについての薀蓄、著者の構えなどが書かれている。
自分はファンだから面白い。氏が学生時代にミステリサークルで披露した、「学生アリスシリーズ」の原型などはうれしかった。綾辻行人、歌野昌午あたりの新本格ファンであれば皆それなりに楽しく読めるのではと思う。 |
No.226 | 5点 | チャイナ蜜柑の秘密- エラリイ・クイーン | 2012/12/01 18:11 |
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被害者の衣服の向きから部屋の家具の向きまで、すべてが反対にされた謎の「あべこべ殺人」。謎の魅力としては十分だったのだが・・・。その後の展開は、その謎から少なくとも私が期待した展開ではなかった。何がそう感じさせるのだろう・・・と考えた末行き着いた、本作品での一番のネックはおそらく「文化や感覚の相違」だと思う。
まず、「全てがあべこべ」という状況が「中国を示唆している」というとらえ?論理?が全く分からない。これは私が同じアジア人だからか?とも思ったが、私たちが欧米を見たときに「全てがあべこべ」という感覚はない。まぁ、当時はノックスの十戒からも分かるように、東洋に対する理解がかなり偏っていたというか、歪んでいた感じもあるから、少なくとも向こうの読者はすんなり共感できたのかもしれないが・・・。 もう一つは、「あべこべにした」動機にかかわる文化。これについてはそんなこと知らないから(私が浅学なだけなのだが)、「読者への挑戦」を受けていくらうなっても、真相を見たときに「そりゃ分からんわ」と思わざるを得ない。というか、真相を聞いても結局あまりイメージできない。あべこべにした理由ついての論理はわりと納得したが。 トリックについては、文章の説明で理解するのが非常に難しかったというか、わずらわしかった。一応丁寧に読んだが、本当に理解しているか自分でも自信がない。しかも、分かったところで感嘆する気は起こらない。 変な話、一番面白かったのは、「読者への挑戦」を挿入し忘れたという話だった。 |
No.225 | 7点 | わが身世にふる、じじわかし- 芦原すなお | 2012/12/01 17:42 |
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相変わらず主人公と警官河田の道を外れていくやり取りと、それをとりなす奥さんの姿が面白い。読んでいて一人でも笑いが漏れてしまう。
1作目からだんだんと事件が殺人など本格的なものになっていき、物語の雰囲気にそぐわない感もあるが、逆にミステリとしての面白さが増している。 一つ目の、「ト・アペイロン」、ほんわかした雰囲気が生かされた暗号解読ものの表題作「わが身世にふる、じじわかし 」がよかった。 |
No.224 | 5点 | 曲った蝶番- ジョン・ディクスン・カー | 2012/12/01 17:39 |
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読み進めている間は楽しめたが、読み終えて満足感というか納得した感じはあまり得られない。これが率直な感想。
准男爵である良家の真の後継者を判定するという始まりは話に引き込まれる。その真贋が見極められる最中に起こる殺人。展開としては申し分ない。が、その後に付加されていく様々な要素、悪魔崇拝や機械人形など・・・確かに怪奇要素が盛り込まれることによって物語に面白みは増してくる(だからこそ「読み進めている間は楽しめた」)が、読了してみると結局それだけのものだった気がする。つまり、極端な言い方をすると不要、いやむしろ推理という点から言えば惑わせる要素になっていただけと感じる。 誤解があるといけないので、私は別に物語性を廃した純粋なパズラー至高主義ではない(嫌いではないが)。無駄な恋愛要素を除いては、怪奇的な雰囲気、背筋が冷たくなるような恐怖感はむしろ好きである。ただ、本作の場合は、そうした要素を追求していく場面にかなり力点が置かれているにもかかわらず、真相とのつながりが希薄すぎた感が否めない(悪魔崇拝がやや関わっていたが、それもそうでなくともいけると思う)からだ。だから決して面白くなかったわけではないが、この評価とした。 そう思うと、「三つの棺」こそが、両者が融合した傑作だと私は感じる。 |
No.223 | 6点 | 人形はライブハウスで推理する- 我孫子武丸 | 2012/12/01 17:09 |
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腹話術の人形を通した他人格が優れた推理力を発揮する腹話術師・朝永、幼稚園教諭の妹尾睦月の2人が活躍する人形シリーズ。好意を寄せ合いながらなかなか煮え切らない2人の関係も話の複線として楽しめる、ユーモア・ミステリ的な雰囲気も感じる作品。そうした雰囲気が生かされた意味で面白かったのは、園児が行方不明になる「人形は楽屋で推理する」。ミステリのトリックとしてよかったのは「腹話術師志願」。ラスト「夏の記憶」は一発ネタを情緒的な要素も絡めて上手く短くまとめてある。というように、後半3作品がよかった。 |
No.222 | 8点 | ハサミ男- 殊能将之 | 2012/12/01 16:54 |
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スリリングで退屈しない展開が真相解明に向かう結末でさらに畳み掛けるように加速し、しかも気持ちよく騙される。事件は猟奇的な内容でありながら、そうした色で引っ張るのではなく、視点人物を入れ替えながら非常にうまく事件の様相や背景を明らかにしていく構成に魅せられる。結末の衝撃度は◎で、しかも納得(内容や必然というよりはこれまでの伏線が回収されていくさまに)してしまう。
氏の作品はこれしか読んでいないが、クオリティーの非常に高い作品だと感じた。 |
No.221 | 5点 | アヒルと鴨のコインロッカー- 伊坂幸太郎 | 2012/10/14 22:23 |
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現在と2年前のストーリーが交互に章立てされ,物語の終末に向けて両者が結びついていくという仕立て。主人公の周りで現在起きている「河崎」という隣人がかかわるいろんな事象の意味が,2年前のストーリーが明らかにされるにつれ段々と分かってくる。じわじわと事の真相が明らかになっていくその過程は,読みやすさもあって楽しめた。
なんといっても登場人物のキャラクターに魅せられる。氏の作品に共通して言える特徴だが,常識から見れば変人に近いふるまいをする各人物の小気味のいいやりとりは,カッコよく魅力的に映る。一見ニヒルに見える所作の裏に人としての熱さがある様子は,ベタでクサいかもしれないが,読んでいてやはり快い。 ただ,この手の展開で行くならば,予想を裏切ってハッピーエンドであったほうがよかった。明らかになった過去は,予想される悲しさがそのままだったのが残念。 |
No.220 | 7点 | 悪意- 東野圭吾 | 2012/10/14 22:05 |
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人気作家の殺人で幕を開ける本編は,典型的なフーダニットミステリの導入でありながら,そこからハウダニット,ホワイダニットへと転じていくその展開そのものに驚きと奥深さがあり,非常に面白かった。相変わらず無駄な展開や描写がなく,といって味気ないわけでもなく,登場人物の手記によって視点人物が変わる構成でありながら非常に読みやすい。些細な違和感を掘り下げて真相へと迫っていく加賀恭一郎の推理も変わらず見応えがある。
※以下ネタバレ 登場人物の手記で始まる本編は,クリスティの某有名作品を知る読者なら,はじめから疑いはもつだろう。気付いてからはその記述にもはや信憑性はなく,加賀が視点人物として語る部分のみが客観的な材料となる。だが些細な不審を端緒に真相に迫ろうとする加賀の推理も,実は犯人によるミスリードであることさえ,物語が後半に至るにつれなんとなく分かってくる。が,分かってくるとなおさら真相解明の欲求が高まり,全てが分かったときに「やられた」感が大きくなるという仕組みである。 犯人にも同情の余地あり,という前半のミスリードが,真相が分かったときの脱帽感と,ある意味反省にも似たような感情をもたらしてくれる。 |