海外/国内ミステリ小説の投稿型書評サイト
皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止 していません。ご注意を!

HORNETさん
平均点: 6.30点 書評数: 1069件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.269 8点 代官山コールドケース- 佐々木譲 2013/11/11 20:13
 17年前に起きた代官山アパート女性殺害事件。当時被害者の恋人であった男が水死体で発見され、被疑者死亡で解決されたことになっていた。しかし、時を経て起きた強姦殺人で、この代官山事件の被害者の部屋に残っていたDNAと同じDNAが検出された。17年前の捜査は誤りだったのか?解決したとして処理されているこの事件を公的に再捜査することはできず、極秘指令として捜査を命ぜられる水戸部。当時の関係者に聞き込みを進めていくうちに、被害者の新たな人間関係が見えてくる―。
 関係者を順に聞き込み、そこから探り出した人間関係をしらみつぶしにあたっていく。新たに明らかになる事実と、再検証する証拠を照らし合わせて組み立てられていく推理。主人公水戸部と組むことになった女性捜査官朝香、親友の科捜研中島らの有能ぶりにも快哉。派手さはないが、地に足の着いた推理が進んでいく様子は、十分に読みごたえがあり、非常に佐々木譲らしい作品である。

No.268 6点 水族館の殺人- 青崎有吾 2013/11/11 19:58
 キャラ立てされた登場人物によるコミカルな展開の中に、しっかりとしたロジックが組み込まれている内容は健在。殺人のシーンは非常に残酷・劇場的で、一時の海外古典のような事件の幕開けもよかった。
 ただ精緻なロジックが氏の真骨頂なのは間違いないが、個人的にはここまでなくてもいい。現場の状況や些細な違和感を一つ一つ解決していく、裏染天馬の推理の克明な描写が軸となっているのだが、その長さの割には真相に意外性がない。一つの事件を解決するプロセスなら、もうすこし精選して短編、中編ぐらいでもいいと思う。このシリーズの短編とか出てほしい。

No.267 5点 堕天使拷問刑- 飛鳥部勝則 2013/11/11 19:39
 衝撃的・劇場的な冒頭で惹きつけられ、矢継ぎ早に繰り出される謎でずっと引っ張られる。そんな感じだった。オカルトな要素が、「まさか『Another』みたいな感じ?」と疑わせたが、そうではなかったのでまぁよかった。現実と虚構が入り混じったような不思議な雰囲気だったが、たまにはこういうのも悪くはないかな。ただ、トリックはちょっと無理がありすぎという感想。

No.266 5点 教場- 長岡弘樹 2013/11/11 19:26
 数年前に読んだ「傍聞き」がとても印象に残っていたので期待して読んだ。警察学校を舞台としたシリーズ短編。さまざまな思惑が交錯する警察学校生同士の関わり、駆け引き。その中で一喜一憂し、生き残りのために格闘する学校生たちだが、最後にそのすべてを見透かしていた風間教官に気づかされる―。
 こうした設定やシリーズ短編集という形が、柳広司の「ジョーカーゲーム」とイメージが重なる。だから知らず知らずのうちに比較してしまう。たぶん人間としてはこっちの風間教官のほうが好き。でも、突き抜けた超人ぶりや、舌を巻く仕掛けという点ではもう少しという印象だった。

No.265 8点 ある閉ざされた雪の山荘で- 東野圭吾 2013/11/11 19:12
 個人的にはこのころの東野作品は大好き。ヒューマンドラマの要素も色濃く入ってくる最近の作風もそれはそれで好きだが、ミステリ的な挑戦色の濃いこうした作品は本格ミステリファンの嗜好にぴったりだと思う。
 タイトルからしてそそりますね。そしてその期待通り。中途半端に現実的になるより、思い切った虚構でミステリの面白さを追求しているところがいい。またこういう作品書いてくれないかなぁ。

No.264 8点 死神の浮力- 伊坂幸太郎 2013/11/11 18:13
(ネタバレというか結果示唆的要素アリ)
 伊坂作品の中でも人に一番勧めたのが「死神の精度」。その続編、しかも長編が出るとは・・・
 人間の死にクールな態度で接する死神・千葉。のはずなのだが、結果的にとっても温かい処置を施しているという前作からのスタイルは健在。「グラスホッパー」「マリアビートル」のように、基本勧善懲悪のスタンスの小気味よさ、痛快さにもその千葉のキャラが大いに寄与している。
 娘を殺した憎き犯人に復讐を企てる夫婦に関与する千葉。人情のかけらもない、サイコパスともいえる犯人の、狡猾で余裕たっぷりの態度にイラつくストレスを、最後に完膚なきまでにすっきりさせてくれる。
 シリーズとして続けてくれることを望む。

No.263 6点 論理爆弾- 有栖川有栖 2013/11/11 18:05
 ミステリというよりはサスペンスの要素が強いという各方面の書評通り。もともとロジカルなフーダニットに作者の魅力を感じてファンになったので、新境地の開拓よりももともとの路線を望んでしまう。
 ただ、基本平易な文体なのでリーダビリティは高く、楽しく読めるのは確か。犯人が明らかになった時には少し背筋がゾクッとした(予想はできていたが)。まぁ、基本ファンなのでなんだかんだいってもいい。

No.262 4点 セカンド・ラブ- 乾くるみ 2013/08/30 20:50
 一作目は「ただの恋愛小説としか思えない展開」の中で、ラストで「実は仕掛けが施されていたこと」自体が衝撃で、その仕掛けの内容や巧みさは二次的なものだったと思うので、2作目にあたる本作では、もう読み手として「そういうことが起こる」ことを予想してしまっている以上、どれだけその仕掛けを手の込んだものにしても前作は越えられないと思う。そして、やはりその通りだった。
 けど、もしこのシリーズ(?)っぽい3作目が出たとしたら、たぶんやっぱり何かを期待して読んでしまうと思う(笑)

No.261 4点 完全なる首長竜の日- 乾緑郎 2013/08/30 20:34
 着想は確かに面白い。だが、物語の前半で仕掛けが分かると、要は「あとはどこまでこれが続くか」、逆に言えば「どこで切られるか」だけの話。そもそも弟の自殺未遂の真相が作中で明らかにされない時点で、そのへんの真相は何となく見当がついていた。正確に推理できていたとはいえないが、真相がわかっても「ああ、やっぱりそういうことね」という感があったことは否めない。
 ただ、センシングなどの虚構の近未来設定はよく考えてあったと思う。まぁそいういう意味でもSF要素が濃い作品。

No.260 8点 葬式組曲- 天祢涼 2013/08/30 20:21
 「〇〇の葬式」と題された各章で、視点人物が入れ替わっていく構成が、真相に関わっていくその仕組みが秀逸。スゴイ。葬式という形態が否定された近未来の日本という設定も面白く、各章単品でも楽しめるが、やはりこれは一冊を通して一作品となっている面白さこそ肝。作者の構成力、考えられた仕掛けに舌を巻いた。

No.259 7点 厭魅の如き憑くもの - 三津田信三 2013/08/30 20:08
 本シリーズの後続を読んでから、第1弾の本作を読んだ。刀城言耶初登場がこれか・・・と思って読むとそういう点でなかなか面白い。今よりさらに遠慮がち、自信なさげな感じがするのは気のせいか。どちらにせよ、頭脳がキレるのに謙虚な態度は変わらず好感がもてる。
 何かの書評で初期は土俗的・民俗学的要素が濃いと評されていたが、自分はあまりそういう感じはしなかった。神々櫛村、谺呀治家と神櫛家、神隠し、「カカシ様」などの、ムラ社会、呪術的文化は確かに「濃い」が、決して難解な感じはしなかった。むしろ(あたりまえであるが)本作の大きな魅力である。巻頭に村の見取り図があって内容理解の一助として大いに役立った。
 このシリーズは全部読みたい。

No.258 6点 体育館の殺人- 青崎有吾 2013/08/30 19:56
 赤川次郎のような(そこまでではないか)、ユーモアも交えた軽快なテンポで、いかにも新人らしいフレッシュな感じが好感をもてる。とはいえ、真相解明に至るまでのロジックは非常にしっかりとしていて、本格ミステリに憧れをもった若者の渾身の作というのがよく伝わってくる。ラストの真相も、ある程度予想の範疇だったが、これによって作品の深みも一段増している。
 今後の活躍に期待がもてる新人の登場。

No.257 7点 禁断の魔術- 東野圭吾 2013/08/30 19:47
 単なる謎解き・トリックだけではなく、そこに人間の悲哀や感動を絡める点で、非常に秀逸な存在だと感じる作品集だった。一章「透視す」は、義母に育てられたホステスの、二章「曲球る」は戦力外になったプロ野球選手の、家族との絆が感じられる感動的な話で、すごくよかった。ラストの「猛射つ」は中編と言っていい長さ。湯川の母校の後輩の、これまた悲哀の感じられる秀作だった。

No.256 6点 虚像の道化師- 東野圭吾 2013/08/30 19:39
 平均的にクオリティが高く、まずハズれないのはさすが。ただ、自身が推理して読むタイプの読者(私もそう)は、ガリレオが物理学者ということで、トリック・真相が科学的なことに帰結するのは仕方ないのだが、そういうものははじめから推理を放棄してしまう。だから、本作品でいえば後半の「偽装(よそお)う」「演技(えんじ)る」のようなタイプの作品が好き。いずれにせよ、ガッツリ長編を読む時間も気力もなく、でも読むなら没頭して読めるものを、というときに最適。

No.255 6点 密室蒐集家- 大山誠一郎 2013/06/30 09:43
「柳の園」「少年と少女の密室」「死者はなぜ落ちる」「理由ありの密室」「佳也子の屋根に雪ふりつむ」の5編。密室殺人事件にあたっている捜査陣の前に表れる「密室蒐集家」と名乗る男。それまでの事情を聞くだけで「わかりました」とずばり真相を当てる。確かに密室トリックに特化した,無駄のない謎解き主体の展開は心地よく,本格好きにはその姿勢からして好感が持てる。しかし,「密室トリックを成立させるため」のあまりにもできすぎた偶然が多い。言い換えれば,「この密室状況を説明するためにはこうするしかつじつまが合わない」というような,「密室状況成立ありき」のスタイルで,その現実離れした状況を密室蒐集家が一足飛びに(論理的ではあるが)言い当てる様にはあまり緻密さを感じない印象も残った。

No.254 7点 スペイン岬の秘密- エラリイ・クイーン 2013/06/30 09:39
 犯人の見当は早々についた。が、全裸の謎、マントの謎など、死体の状況の不審な点を論理的に解明していくことで犯人にたどり着くエラリーのロジックは相変わらずさすが。事件の背景となった人間模様も単純だが面白く、全体的に無駄のないシンプルな謎解きで、国名シリーズの中でも非常に分かりやすい作品ではないかと感じた。

No.253 8点 絡新婦の理- 京極夏彦 2013/06/30 09:33
ここまですごい評価の分かれ方(笑)。その上で高評価をキープしているのもまたすごい。
 ここまでのシリーズ中では一番リーダビリティが高いのでは。宗教に関する薀蓄はあるが、あまり現世離れした舞台でなく、特殊世界という感が薄れている印象や、間断なく次々と起こる殺人により動的な展開が続くことがその要因か。
 人がそう都合よく意図したように動くものか・・・とも思うが、論理よりもからくり重視の作風。そんなふうにつながり、まとめられていくのか、という過程を楽しめる。

No.252 2点 不滅の名作ミステリへの招待- 事典・ガイド 2013/05/06 19:26
 「不滅の」なんだからあたりまえなのかもしれないが、オーソドックスな超有名どころの紹介。その薀蓄に深みがあればまだよいが、いかにも初心者向けの「あらすじ」「作家」紹介。本サイトの投稿者の方にははっきりいって不要。1500円もした。もったいない。

No.251 5点 鉄鼠の檻- 京極夏彦 2013/05/06 19:16
 禅の薀蓄はそれはそれで面白い。著者の博学、多方面に渡る造詣の深さに心から舌を巻く。事件の不可思議性も十分に魅力的なだけに、面白く読み進めたのだが・・・。
 あの長さを経て納得のいく結末とは言い難かった。過程の長さの楽しみはイコールそれを請け負うだけの結末への期待となる。今回でいえば、動機、そして見立て(?)殺人の意味というか必然。それがあまりにも簡単で短絡的であったのが残念。久遠寺翁など懐かしい人物の再登場などはうれしかったり、世に知られていない謎の巨刹という設定は面白かったりしたのだが、シリーズの中では評価の高いほうだけに読後は期待以上のものではなかったという感が強い。

No.250 8点 狂骨の夢- 京極夏彦 2013/05/06 19:06
 「魍魎の匣」の直後だからその反動なのか、このシリーズの中ではあまりパッとしない評価の本書だが、私はシリーズの中でも全く遜色ない作品だと感じた。うまくいえないが前2作があまりにも特異で奇異な世界であったのに対し(それが京極作品の魅力ではあるのだが)、本作はやや現実感も伴うというか、泥臭いというか、横溝作品のような土着的な匂いも感じるような・・・そんな感じで本格的要素を色濃く感じた。それが京極作品らしさを欠くと感じられたのかもしれないが。
 しかし「髑髏」をキーワードとした不可思議な現象の連続、現実と過去とが倒錯する不安定な磁場のような展開は「らしさ」を存分に発揮しており、ワールドは十分堪能できると感じる。トリック・結末も読者の範疇の度を越えているものではなく、そういう意味では本格ミステリとしても楽しめる作品だった。

キーワードから探す
HORNETさん
ひとこと
好きな作家
有栖川有栖,中山七里,今野敏,エラリイ・クイーン
採点傾向
平均点: 6.30点   採点数: 1069件
採点の多い作家(TOP10)
今野敏(48)
有栖川有栖(44)
中山七里(40)
東野圭吾(34)
エラリイ・クイーン(34)
米澤穂信(20)
アンソロジー(出版社編)(19)
島田荘司(18)
柚月裕子(16)
佐々木譲(16)