皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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HORNETさん |
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平均点: 6.32点 | 書評数: 1153件 |
No.533 | 6点 | 真実の檻- 下村敦史 | 2018/07/09 20:53 |
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大学生の石黒洋平は亡くなった母の遺品を整理中、隠されていた手紙から、自分は今の父の子ではないことを知る。本当の父親は、母が結婚前につきあっていた別の男性。それだけでも十分ショッキングだが、なんとその本当の父親は、母の両親、つまり洋平の祖父母を殺害した罪で収監されている死刑囚だった―
事実を受け入れられない洋平は、実父が無実であることを信じ、冤罪を晴らすべく調査を始める。 上記のような怒涛の展開で、飽くことなく読み進められることは間違いない。物語の面白さは、我々も含めた世間が根拠なく信奉している日本の裁判制度、というか裁判官の正義。しかし物語を読み進めるに、裁判官もいち人間であり、司法の世界も所詮「人間社会」であるという当たり前のことに気づかされる。そういう点で面白い。 真犯人は早々に推測できたし、見事その通りだった。それを裏切るもう一枚があってもミステリとしては面白かったのでは、と思う。 |
No.532 | 6点 | ワルツを踊ろう- 中山七里 | 2018/06/30 09:53 |
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題名から中身が想像しにくい(笑)。中山氏のことだから、音楽関係のエンタメかとも思ってしまうが、ちゃんとミステリです。
職を失い、20年ぶりに溝端了衛が帰った故郷は、7世帯9人の限界集落。静かな田舎での、村民と触れ合いながらの生活に期待を寄せていた了衛だったが、閉鎖的で曲者ぞろいの住民たちを相手にその期待は崩れる。それでも地域に溶け込もうと奮闘する了衛の身辺で、不審な出来事が次々と起こりはじめる。 一連の出来事の黒幕は早々に想像がついた。それにしてもこの作品は、絵的には「津山三十人殺し」をイメージしているのではないかな。 |
No.531 | 6点 | ネメシスの使者- 中山七里 | 2018/06/30 09:24 |
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この作品のメインテーマである「死刑制度の是非」や「犯罪者の更正を主眼にした現在の刑罰」といったことは、しばしば氏の作品内で論じられる。少なくとも中山氏は罪に応じた厳罰を科すべきという考えを持っているように感じる。
残酷な殺人を犯しながら、死刑を回避して懲役囚となり、刑務所に収監されている囚人の家族が相次いで殺害された。現場には血文字で「ネメシス」と書かれたメッセージが。渡瀬警部は、過去の事件の関係者を洗うとともに、その事件の判決に関わった法曹関係者にも目を向ける。すると、「ネメシス」の標的になった過去の殺人事件は、「温情判事」と名を馳せた渋沢判事が判決を下しているという共通点が見つかった。そして、一つの事件では検事側に岬検事の名も。 家族を殺された被害者による復讐か、それとも義憤を謳う第三者の犯行か。現行司法制度への反逆とも言える犯行に、渡瀬らは警察の威信をかけて捜査にあたる。 捜査過程で描かれる被害者遺族の慟哭と、渡瀬の煩悶と矜持が作品の柱。一応フーダニットではあるが、読者が手がかりを追って推理をする余地はほとんどなく、真相の意外性という点で楽しむタイプのもの。 個人的には、渋沢判事が最後に言った「死刑は極刑などではない」という論調にはうなずける部分があった。 |
No.530 | 8点 | 闘う君の唄を- 中山七里 | 2018/06/10 12:04 |
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喜多嶋凜は、新任幼稚園教諭として埼玉県の神室幼稚園に赴任した。
子どもを愛し、理想とする教育の実践に意気込む凜だが、その壁として立ちはだかったのは保護者会の存在だった。エゴイスティックな我が子愛から、教育の理念とはかけ離れた要求を園にしてくる保護者たち。強い反発を感じる凜だが、何故か園長の京塚はそれらの要求を全て受け入れる。たまりかねた凜が園長を問いただすと、神室幼稚園では15年前、送迎バスの運転手が3人の園児を殺すという大事件があり、それ以来保護者会には頭が上がらない状況が続いているとのことだった― 物語の後半には、15年前の事件の真相解明という、ミステリ要素も入っては来るが、基本的に物語の幹は、新任幼稚園教諭の対保護者奮闘記。「全員主役の劇」「競争のない運動会」など、世の中でも話題になった歪な教育観とまっこうから闘い、子どもたちと心を通じ合わせていく話は胸がすき、心温まる。 物語後半には読者も驚く背景が明らかにされ、ストーリーは急展開する。そこで描かれる人間模様も読みごたえがあり、ホントにこの人は何でも書けるなぁと感動する。 出版レーベルがメジャーじゃないのでシチリストもあまり知らないかもしれないが、読んだらまず満足できると思う。 |
No.529 | 7点 | ご用命とあらば、ゆりかごからお墓まで- 真梨幸子 | 2018/06/10 11:34 |
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大塚佐恵子は、万両百貨店外商部のトップコンシェルジュ。顧客に呼ばれればすぐに行き、「いついつまでに何々を用意してほしい」という注文に、たとえそれが難題であっても必ず応えることで絶大な信頼を得ている。注文は商品購入にとどまらず、「何々を調べてほしい」「誰誰を説得してほしい」など、もはや何でも屋の域に達するときもあるが、大事な顧客のため、可能な限りそれらにも応える。そうした外商部の顧客対応の奇譚を集めた連作短編集。
作者の作品はこれまでも読んだが、どちらかというとホラーテイストで劇場的な作品が主だったので、このようなパターンは意外な感じがしたが、一つ一つの話のオチと、それらを絡ませて全体でまとめ上げる術は非常に巧みで、とてもよかった。 最初はデパート外商を舞台とした「日常の謎」のような雰囲気だったのだが、最後まで読むとさすが真梨幸子、それだけでは終わらなかった。 面白かった。 |
No.528 | 4点 | 侵入者 自称小説家- 折原一 | 2018/06/10 10:57 |
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「自称小説家の書く作品」と「現実」とが交互に描かれる構成なのだが、その入れ替わりがあまりにもめまぐるしいのと、「百舌の早にえ」とか「ピエロ」とか「電動車椅子の老人」とかの思わせぶりな伏線をあまりにこまめに散りばめているのとで、非常に分かりにくく、読みにくかった。
また、そういう大枠としての仕掛け重視の印象が強く、各場面での登場人物による推理や会話などの描写は非常に短絡的で軽く感じたり、「百舌の早にえ」や「ピエロ」などの不気味さを脚色するアイテムもどこかチープな感じがしたりして、あまり気持ちが入らなかった。 事件の真相と、自称小説家の真の目論見が明かされる最後はそれなりに面白さを感じることができた。 |
No.527 | 5点 | 仮面同窓会- 雫井脩介 | 2018/06/03 18:30 |
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高校時代に何度も、前時代的な感覚で生徒指導という名の「折檻」をしてきた元体育教師に仕返しをしようと企んだ洋輔たち悪友4人。
ランニング中の元体育教師・樫村を拉致し、目隠しをしていたぶり、その場に放置して去った。離れる時樫村は、自力で縛りを解き、逃げ出せる状態だったはず。ところが翌日、その樫村が離れた場所の池で溺死しているのが発見される。どういうことか分からない洋輔たちは、仲間内で次第に疑心暗鬼になっていく。 なかなか引き込まれる始まりと、テンポのいい小気味のいい文体でサクサク読める。一人の部屋で誰かと会話をしている洋輔の様子や、何か胡散臭い女・美郷の存在など、謎らしい要素も多く、いろいろ推理や考えを巡らせて読むことができた。 惜しむらくは、「一人の部屋で誰かと会話している洋輔」の真相は面白かったものの、肝心の本事件の犯人があまりにもあっさりと暴露され、結構勢いみたいな感じだったことかな。 |
No.526 | 4点 | 追悼者- 折原一 | 2018/06/03 18:06 |
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一言で言えば、「分かりにくい」。
丸の内OL殺害事件を追うノンフィクションライターが、関係者に取材をしていき、そのコメントで物語を構成していく方法なのだが、まず登場人物が多すぎる。その多い登場人物が、入れ替わり立ち代り何度も出てきて話をするもんだから、誰が誰だったのかいちいち前を確認して読み進めなくてはいけなかった。 それでも何とか読み進めていったのだが…提示された真相はあまりしっくりこなかった。 こういうパターンでよく感じることなのだが、真相解明の段になって、それまで形作られた人物像やキャラクターがひっくり返され、「実はこういう一面もあった」みたいになるのはなんとなくアンフェアな気がする。本作では、大河内奈美は善意の被害者であったはずで、度重なる取材でもその人物像はあまり崩れなかったのに、最後の真相解明で急に陰湿な人間像に変えられている感じがしてしまう。少なくともそれまでの取材過程で、そうした一面があることが描かれていないと、「どんでん返しのための隠し玉」という感じがしてなんだかすっきりしない。 |
No.525 | 7点 | 13階段 - 高野和明 | 2018/06/03 17:57 |
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なかなかいいどんでん返しで、面白かった。特に、後半の一旦真相とは違う方向に振ったうえでの真相解明はよかった。現実的な目で見れば確かに粗はあるが、読者を楽しませる仕掛けと思えばさして気にならない。何よりも「ホントのところはどうなんだ!?」と、作者の仕掛けに完全に乗せられてページを繰ってしまう力はあった。
ミステリとしての面白さの一方で、死刑制度に関する問題提起的な要素も多分にあり、素人ながら考えさせられる面白さもあった。 |
No.524 | 9点 | 悪徳の輪舞曲- 中山七里 | 2018/05/26 18:37 |
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少年犯罪委の過去を持つ、弁護士御子柴礼司シリーズ第4作。
今回は初めて、御子柴の家族が出てくる。お刑務所に収監されて以来音信不通、関係を断絶していた御子柴の母が、殺人事件の容疑者となり、御子柴の妹が御子柴に弁護を依頼。もちろん進んで御子柴に依頼してきたのではなく(他の弁護士が誰も依頼を受けてくれなかった)、御子柴のことを蛇蝎のごとく嫌っている。 このシリーズの新作を心待ちにしている人は多いだろうが、今回もその期待に十分に応えてくれると思う。まぁファンとなってしまっている以上、その色眼鏡は外せない感じになってはいるが…ただ「うーん、今回はイマイチだな」とか、「やっぱり一番最初が一番よかったな」とか思うことは他ではよくあるが、このシリーズについてはそれはないと思う。 最初に母親の夫殺しのシーンから始まるのだが…途中からそれがどういうことかは気付いた。ただそれでも真相には私は看破できなかった思惑があり、ミステリとしても十分面白かった。 ただその謎だけでは引っ張れない。根本的に異色の弁護士、御子柴礼司の物語という下敷きがあるから、とことん面白い。 続けて欲しいな、このシリーズ。 |
No.523 | 5点 | さまよう刃- 東野圭吾 | 2018/05/13 17:53 |
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少年犯罪被害者の応報感情と刑事罰のアンバランスさ、というテーマは今や社会問題として定着している感があり、それをストレートに描いている本作品はオーソドックスで標準的という印象。複雑な仕掛けもないので、500ページほどある作品だが半日で読める。
被害者心理を強く代弁する作風だが、(当然倫理的なこともあって)その復讐心を完遂させることを肯定する訳にはいかず、被害者のみならず捜査にあたる警察も含めた「無念」を「無念のまま」描いた終わりにどうしてもなってしまう。おそらく読者としては被害者(であり被疑者)である長峰に共感して読むことが多いと思うが、そうなればなるほどラストは虚しいものに感じるだろう。 あと、鮎村も長峰と同じく極悪非道な行為により娘の命を奪われた立場なのに、なぜかこちらは「空気を読めない哀れな人」「厄介者」のように描かれているのはちょっと可哀想な気がした・・・ |
No.522 | 5点 | 高原のフーダニット- 有栖川有栖 | 2018/05/12 20:13 |
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基本的に、本格路線の純粋なミステリを書き続ける氏のファンなので、余程のことがない限り4点以下にはならないし、本作品も普通によかった。
「ミステリ夢十夜」は、思いついた小ネタを集めたショートショート集のようなものだが、なかなか楽しめた。「こんなアリバイ証明拒否はイヤだ!」「こんなクローズド・サークルはイヤだ!」みたいなヤツがあって、笑えたし、結構「なるほどな」とも思えた。 表題作は、ちょっと火村の犯人特定の過程に飛びがある気がして、すっきり来ない部分もあったが、王道のフーダニットという点で推理を巡らせる楽しさはあった。 |
No.521 | 5点 | 心霊特捜- 今野敏 | 2018/05/12 19:49 |
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神奈川県警心霊特捜班―通称「R特捜班」は、霊能力のある数馬史郎、鹿毛睦丸、比謝聡美の3人を、ノーマルの番匠班長が束ねている。岩切大吾はそのR特捜班と県警の連絡役。岩切を主人公として、霊能力を駆使して事件を解決していくシリーズで、雰囲気・設定としては{ST」シリーズに似ている。
霊能力と聞いてはじめは「そりゃさすがにちょっと…」と思いながら読み始めたが、そこはさすが今野氏、私のような非現実的オカルトに否定的な人間でも抵抗なく楽しめてしまうストーリーテラーぶりだった。 最終的にはやはり「隠蔽捜査」シリーズのような武骨なストーリーが好みなのでこの点数だが、面白く読めるのは確か。 |
No.520 | 5点 | ミステリークロック- 貴志祐介 | 2018/05/04 18:35 |
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本職・泥棒の榎本径が探偵役を務めるシリーズの、4本の中短編を集めた一冊だが、全体的な印象としてはよく言えば緻密、悪く言えばやり過ぎの複雑な機械仕掛けトリックで固められている。
「ゆるやかな自殺」・・・4作品の中では一番分かりやすい。ミステリらしい、周到に計画された犯罪計画・トリック。こんなことまで頭が回るのであれば、このヤクザは相当「使える」組員だと思うのだが・・・ 「鏡の国の殺人」・・・榎本が忍び込んだ美術館で、館長が殺されていた。美術館では先鋭の現代アーティストが「鏡の国のアリス」をテーマとした作品の展示準備に追われている最中で、複雑な鏡の迷路を用いたトリックが仕掛けられていた。図面付きで細かな説明なくては(あっても)理解が難しい複雑さである上に、科学技術まで絡んできてなんだか・・・ 「ミステリークロック」・・・「そこまでやるか?」感が一番強かった、非常に手の込んだ複雑トリック。上に書いた印象が一番強かったのがこの表題作。 「コロッサスの鉤爪」・・・人間模様の描写は面白かった。200m、300mの深海を潜る「飽和潜水」のダイバーたちの間で起きた海上の殺人。これも科学技術が多分に絡んできて、真相(トリック)に思い切り関係していた。 |
No.519 | 6点 | 犯人のいない殺人の夜- 東野圭吾 | 2018/05/01 21:50 |
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ヒューマンドラマ絡みの最近の作品も好きだけど、私は氏の初期のミステリミステリした作品がそれはそれで好き(「仮面山荘」とか「ある閉ざされた…」とか)。だから基本的にこの短編集も好き。
ただまぁ、「目からウロコ」のような秀逸なひっくり返しが揃った作品集というわけでもない。最後の表題作以外は全て途中で犯人の見当がつく。真相うんぬん以上に着眼点として面白かったのは「白い凶器」。表題作「犯人のいない殺人の夜」はよく考えたものだ、とは思うけど読み返さないとなかなかホントのところが分からない分かりにくさがあった。 |
No.518 | 6点 | 罪の声- 塩田武士 | 2018/05/01 21:32 |
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面白かったが、思ったほどリーダビリティは高くなかった。事件につながる人間関係がやや複雑なうえに、纏わる登場人物が平凡な名前だから記憶に残りにくく、「誰が誰だったっけ?」と何度か戻ってページを繰ることになった。
未解決となった昭和の大事件の「犯行テープ」が自分の声だった、という衝撃は想像を絶するものがあり、その意味では「つかみはOK」だった。各場面の描写も冗長にならない程度に上手く、好感の持てる文章だった。 ただ、TVの特集番組で発見した齟齬から「初めて明らかになった事実」が見えてくるところがこの話のある意味「サビ」だと思うのだが、その発想自体は面白かったものの、それが「迷宮入りの原因」となったわけではないところが……惜しかった気がする。「こうやって世間、警察を欺いた」ということがメインのハウダニットだったら(そしてそれが唸るものだったら)もっと点数は上がったかも。 |
No.517 | 7点 | クドリャフカの順番- 米澤穂信 | 2018/04/15 17:48 |
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「氷菓」「愚者のエンドロール」と、神山高校文化祭、通称「カンヤ祭」の準備に纏わるストーリーで続いてきたが、本作はその本番、カンヤ祭当日の話。これほど間を置かず、連続した時期を描く連作モノも珍しいのではないかと思うが、幸い現在立て続けに本シリーズを読破中なので非常にそれが功を奏した。
メンバーのミスで予定より大幅に多い冊数を印刷してしまった、古典部の文集「氷菓」。果たしてカンヤ祭中に売り切れるのかが最大の悩みの古典部だったが、そんな中、学内で奇妙な連続盗難事件が起こる。いくつかの部活から、碁石、タロットカード1枚、ペットボトルドリンク1本など、それぞれは他愛もないものが盗まれ、そこに犯行声明文と思しきメッセージと、カンヤ祭のしおりが―。 いつもながら省エネ生活を身上とする奉太郎は関わるつもりはなかったのが、古典部文集を売るために、重い腰を上げることになる。 摩耶花の漫画研究会のストーリーや、奉太郎の「わらしべプロトコル」などの伏線の絡みも上手く、冗長でない程度に高校の文化祭風景も描かれていて楽しい。何だか懐かしくなった。 一つだけ、結局「クドリャフカの順番」はクリスティのどの作品をひねったものだったの?わかってないの私だけ??(途中で私は、「十文字事件」の様相から「ヒッコリーロードの殺人」かと思ってた(笑)) |
No.516 | 7点 | 愚者のエンドロール- 米澤穂信 | 2018/04/15 17:26 |
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前作でも書いたが、こんな小粋な高校生がいるわけないとは思うものの、学園モノかつ日常の謎モノでここまで作りこまれる作品はなかなかない。作者の腕を感じる。
神山高校祭、通称「カンヤ祭」にビデオ映画を出品することになっていた2年F組だったが、その脚本家が倒れて入院してしまい、制作は宙ぶらりんの状態に。その作品が「ミステリー」だったことから、真相は脚本家である生徒しかわからず、これまで撮影した映像からそれを推理することに。未完成のビデオ映画を見せられた古典部の面々は、千反田えるの「私、気になります」の一言でその謎を解くハメに。あとは例によって例のごとく、奉太郎の推理によってその真相が明かされていく。 今回は、一旦決着がついたかのような件のあとの、本当の「真相」解明の部分が秀逸だった。F組の「女帝」入須冬実(これも、こんな女子高生いたらヤダ、ってレベル(笑))の風格あるキャラもよい。 ミステリとしてもストーリーとしても、前作よりよかった。 |
No.515 | 6点 | 氷菓- 米澤穂信 | 2018/04/07 21:40 |
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神山高校生、折木奉太郎が探偵役となり、千反田えるが「私、気になります」と持ち込む謎を解いていく「古典部」シリーズの最初の作品にして米澤穂信のデビュー作。太刀洗万智シリーズや本格ミステリ「インシテミル」、異世界ものの「折れた竜骨」など、幅広い作風で今や超売れっ子作家である氏のスタートの作品と思うと興味深い。本作品は「小市民シリーズ」に似た雰囲気があるね。
ラノベ、アニメのテイストも感じるような特異なキャラクターの高校生4人で、甘ったるいと感じる人はいるだろう。こんな高尚な語彙での粋なやりとりをする高校生がいるとは思えないしね。それぞれに謎について調べてきて、真相を検討する集まりなんかは、なんというか…ヘンな4人にしか見えない(笑) まぁでも学校を舞台とした「日常の謎」モノとしては飽きなく読めるし、こういうミステリがあってもいいと思う。このあと本シリーズを全部読もうと思う。 |
No.514 | 7点 | 夜明けの街で- 東野圭吾 | 2018/04/07 18:58 |
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昨今の週刊誌記事でのすっぱ抜き攻勢を鑑みると、ある意味旬のテーマ(笑)
ミステリの質を求め、しかも不倫モノは読んでいて不快という人には確かに評価が低いかも。自分は、「ミステリの質は求めるが、俗的な話もそれはそれで嫌いではない」ので、なかなか面白かった。 妻に気付かれていやしないか常にビクビクしながら、それでも無茶をしてしまう不倫男性の心理が筆者の筆力でうまく描かれていると思う。もちろん不倫を肯定する気はないが、よくないとわかっていながら欲望に抗えない人の弱さがよく表れている。 ミステリとしてはトリックうんぬんではないが、ヒロイン秋葉の行動動機などの真相が明らかになるくだりはなかなか面白かった。 |